オール・フォー・ワンを完全に沈黙させたのちに……要救助者や重傷者を搬送する手筈を整えているとインカムから緊急通信が入る。
『焦凍に確保された荼毘ッ‼︎ 拘束を振り切って展開されたワープゲートにてエンデヴァー他多数のプロヒーローの下へと襲来‼︎ あと5秒で襲来します‼︎ 荼毘は身体の内に熱を溜め込んだままです‼︎ 算定結果、半径150kmが跡形も無く焦土になる程の熱エネルギーを溜め込んでいます‼︎ 範囲内にはまだ停止してしまっている避難ブロックが多数あります‼︎ 起爆までの計算結果が出た‼︎ 溜め込んだ熱の起爆まで残り69秒‼︎ 各員‼︎ 即座に対応を‼︎』
その緊急通信の内容に皆が戦慄する。
それを聞いたプロヒーロー達は残存戦力を集めるが数も何もかもが圧倒的に足りない。
荼毘が襲来してきた、溜め込んだ熱が肉を焼き焦がして体外へと少しずつ溢れ出ており人間爆弾と形容するべきだろう、今の荼毘は。
もうこの戦域には戦える程5体満足な者達はほぼいない。
エンデヴァーも、ホークスも、ベストジーニストも、ダイナマイトも、デクも……他のプロヒーロー達もオール・フォー・ワンによって半死半生の怪我を負っており簡単には動けない。
エンデヴァーは両方の肺と四肢を念入りに砕かれており特に左腕は神経が辛うじて繋がっているだけで取れかかっている、ホークスはその羽根を2度と飛べないレベルにまでズタズタに切り刻まれており、ベストジーニストは四肢と骨盤を砕かれ、ダイナマイトも右腕と脇腹を大きく捻じ曲げられて脊椎を一部損傷しており、デクもその両手を動かせない様に念入りに砕かれた挙句に脊椎を損傷して絶対安静の状態になっており……皆がもう簡単には動けない程の怪我を負っていた。
荼毘と戦闘を行っていた焦凍と飯田天哉が遷音速という馬鹿げた速度でここまで来ようとしているがここに来れたとて残り40秒と少し、例え起爆までに間に合ったとして、溜め込んだ熱の起爆に対応できる程の時間はないだろう。
しかし、しかし……誰1人として諦めてはいない。
だが……感情の話しは置いておいて、現実の話しを、現実を見よう。
あと2秒も経たずに荼毘が襲来し、それからおよそ1分と少し経つ頃には荼毘諸共150kmという超広範囲が焦土と化す、地上はダメだ地下を避難ブロックが通っており熱線の被害こそ受けないが爆風の衝撃で避難ブロックが動かなくなり生き埋めになりかねない、このままでは最小で、どんなに希望的観測をしても数千人単位での犠牲になる。
だから……唯一、現状で唯一動ける私が、凡ゆる場所が戦闘可能領域になる私が……その役目を負うべきだろう。
黄金の糸を通してネックレスとしている桔梗のブレスレットを握り締めて覚悟を決める。
そして……首から下げているブレスレットを外してアウルムは隣に居るクリエティの首にゆっくりと桔梗のブレスレットをかけながらゆっくりと語りかける。
「…………ねぇ八百万さん、もしも……
そして、残された時間……残り39秒ほどだろうか、その内の5秒ほどを使い、アウルムはゆっくりと八百万百へのハグをする。
まるで、最期であるかの様に、まるで逡巡を断ち切るかの様に。
それを聞いた八百万百は全てを察して茫然自失になりそうになりながら涙を流して叫ぶ。
「アウルム・ミダスティア‼︎ 貴女‼︎ その様な言葉は自分で伝えてこそ意味があるのですよ‼︎ 何故……何故そんな‼︎ ふざけないでください‼︎ ご自分でお伝えください‼︎ 嫌です‼︎ 私はそんな‼︎ そんな事をさせる為に死力を尽くして貴女を助けた訳じゃない‼︎ なんでまた‼︎ そんな……そんな‼︎」
八百万百にハグをしたままアウルムはゆっくりと語る。
「生きていたら……また……この馬鹿な私を叱って下さい、殴り飛ばして下さい、雄英に入るまではただただひたすらに、ただひたすらに真っ暗闇を歩いている人生でした、空虚で虚無で何をするでもなくただひたすら虚ろに生きていただけでした、雄英に入るまでは良い事など何一つない暗く冷たい灰色の人生でしたが……雄英高校に入って皆と出会えてからは……燦然と輝く黄金に色づいた最高の人生でした、貴女やクラスメイトのお陰で……私の人生には色が戻ったんです、とても良い、とても楽しい時間を過ごす事ができました……ありがとうございます……Hasta la vista」
アウルムはもはや度重なる酷使と戦闘による怪我により遂に神経が捩じ切れた為に『治癒』を施さない事には、もう動かなくなった両腕を見てそう告げると騎乗したコンキスタドールを生み出して命令を付与する。
すなわち、荼毘と共に私を天高く誰もいない地域へと、被害の及ばない空まで運べと。
溜め込んだ異常な程の熱を以って地面を融解させる荼毘をコンキスタドールが掴んで450km/hの速度で中間圏まで到達させ荼毘を相手取る。
「……ここまできても熱が収まらない……やはりダメですか、しかし……中間圏ギリギリの99kmまで来たのです……-100 °Cのこの極寒の世界、爆発はもはや免れませんが……熱も当初よりは下がりましたね、これで地上への被害は可能な限り抑えられます……さて、と……」
ゆっくりと下を見て……恐らく最後となる景色を、眼下に見える大海原を見ながらゆっくり告げる。
「良い景色……あぁやっぱり……私は最低な女ですね……でも……」
最後の言葉は語られる事なく爆発による爆風と閃光と衝撃がアウルムを包み込んで……。
アウルム・ミダスティアの意識はそこで途絶えた。