【完結】黄金郷のヒーローアカデミア   作:紅葉紫苑

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奇跡

 4日後、全てが終わった。

 コンコンッとドアがノックされて焦凍が入室してくる。

 その手に見舞い用の花を携えて。

 焦凍は手に持った花を花瓶に挿すと椅子に座りながらベッドに横になっているアウルムへと語りかける。

 

「なぁアウルム、今日はさ……前にお前が好きだって言ってた花を買ってきたぜ? 季節がズレてたから中々苦労したけどな、花屋をいくつか巡ってやっと見つけたよ、リュウキンカなんて花があるのをお前との会話で始めて知ったんだぜ? 花言葉もさ、花屋の店員から教えてもらってさ『必ず来る幸福』なんだってな……アウルムらしいっちゃらしいけどな、雄英はあと8日もしたら授業と進級が再開してまた授業やるんだとさ……皆気合い入ってるよ、授業にも着いて行ける様にこの間から八百万が率先して予習会とか復習会開いてさ……アウルムが帰ってきても大丈夫な様にって言ってんだ、だからさ……だから……早く目ぇ覚ましてくれよ」

 

 あの後……ドクターヘリに乗った直後に安定していた筈の容態が突如として急変したと告げられた。

 病院へと急行し医師から聞いた話しだ、あの時、ドクターヘリへと乗る前にバイタルが安定して俺や八百万に眩しい程の笑顔を見せたのは恐らく……最後の最後まで患者(アウルム)が俺達に心配を掛けまいとした結果なのではないだろうかと。

 そういう意味ではある意味で『奇跡』は起きたと言えるだろう。

 だが……『奇跡』は2度は起きなかった。

 

 アウルムの体内の黄金化によって低酸素状態でも脳細胞は一切破壊されなかった為に今も自発呼吸を行っており脳死判定は下されていない。

 しかし昏昏と眠り続けている。

 医師によるといつ意識が戻るかは分からないとの事だ。

 意識が戻るのはもしかしたら1秒後かも知れないし10秒後かも知れない、1日後かも知れないし1年後、10年後かも知れない……絶え間ない不安が焦凍の身体を突き抜ける。

 昏昏と眠り続ける彼女の髪を櫛で梳かしながら焦凍は懐かしそうに語る。

 

「なぁアウルムお前はさ……前に言ってたよな奇跡は願って起こすモノでも縋って起こすモノでも無いって……奇跡は自分達で手繰り寄せて、幾億の壁をぶち抜いてその果てに引き寄せるモノだって、考え得る全てを、その時に取れる凡ゆる手段を、その時に以てる全ての可能性を、その全てを投じて、全ての手段を講じてその上で手繰り寄せた必然を……そうして成し得た、偶然の様な必然を、必然の様な偶然を人は『奇跡』と呼ぶんですって言ってたけどさ……」

 

 頬に流れる涙を拭う事もせずに焦凍は語る。

 

「ならさ……あの時に俺達に見せた『笑顔』がお前の言う『奇跡』だったと言うのか? 俺達を心配させまいと、医師から聞いたぞ? ドクターヘリに乗るまでバイタルが安定してたのに……ヘリが離陸した瞬間に急にバイタルが危険域になったって……」

 

 そう呟くが返事は返ってこない。

 焦凍は涙を拭うと焦凍は病室の隅に置いてある本棚から一冊のアルバムを取り出してページを捲りながら懐かしそうに呟く。

 

「……なぁアウルム、こんなにいっぱいの写真……いつ撮ってたんだ? 俺は全然気づかなかったぞ? ……これか? お前が言ってたのは? ……今度渡す物が、プレゼントがあるって言ってただろう? あぁ最高のプレゼントだよ……だが……だけどなアウルム……まだ全体の半分しか埋まってないこのアルバム、この先のページも埋めるにはお前が居ないとダメなんだぞ? お前が一緒に写っててくれないと……」

 

 其処には初めてのデートの時の写真や、なんて事の無い他愛の無い日常の写真や2人で食事しているシーンの写真、クラスの皆で撮った写真などがぎっしりと収められていた。

 そして……アルバムを閉じて戻そうとした時に……焦凍はある物に気づいた。

 アルバムを取らないと見えないスペースに記録媒体が落ちていた。

 恐らくアルバムを引っ張り出した時に其処に落ちる様に仕掛けられていたのだろう。

 この本棚はアウルムの寮の自室から持ってきた物だ。

 このタイプの記録媒体は手元のスマホでも観れるタイプである為に気になって確認する。

 スマホで読み込むと15分程の動画となっており音漏れを防止する為にイヤホンを挿しながら確認する。

 ちゃんとイヤホンが繋がれたのを確認して動画を再生するとそれはビデオレターであった、日付を確認すると、なんと最後の決戦が始まる前日であった。

 背景から推測するに雄英寮のアウルムの自室であった。

 椅子に座りながら若干照れながらピースサインを繰り返しながらアウルムが喋り出す。

 

『いぇーいぴーすぴーす、ちゃんと撮れてるかな? ……なんだこの出だし、くっそ恥ずかしい……後でカットしておこ……っとカメラ回してるんだった……焦凍へ、これを観てるって事はさ……無断で私の部屋に入ったなぁ? それとも私の部屋の本棚が何処かに移動された? 今度正解を教えてよ、それでさ……こんなビデオレターを撮ってる理由(ワケ)はね……明日……行われる最後の決戦で……私は多分死にはしないけどほぼ確実に死にかけるんだ……ナイトアイにね、凄い凄い無理言って『未来』を視て貰って、教えて貰ったの私の行く末……私の未来……最初は凄い剣幕で怒鳴られて、絶対にダメだって断られたんだけどね、もしも『死』の未来を見てしまったら確定してしまう、未来ある若者の可能性を狭める為の個性じゃないぞって……でもさ……焦凍には言ったと思うけど……奇跡は願って起こすモノでも縋って起こすモノでも無いって……奇跡は自分達で手繰り寄せて、幾億の壁をぶち抜いてその果てに引き寄せるモノだって、考え得る全てを、その時に取れる凡ゆる手段を、その時に以てる全ての可能性を、その全てを投じて、全ての手段を講じてその上で手繰り寄せた必然を……そうして成し得た、偶然の様な必然を、必然の様な偶然を人は『奇跡』と呼ぶんだよって……必ずオール・フォー・ワンと死柄木弔を倒さないといけないんだからさ……どうにかこうにか……バブルガールとセンチピーダーにもお願いしてナイトアイを説得して折れて貰ったの……』

 

「なんだよ、それ……死ぬかも知れないのが分かってて自分から戦地に赴いたってのか……? そんなの……そんなの……自殺と何が違うって言うんだよ……アウルム」

 

 止まる事なく涙を流して映像にそう語りかける焦凍、しかし当然答えは返ってこない。

 

 其処で一度映像が暗転して5秒ほどして再開される。

 其処には変わらず笑みを浮かべながら語り出すアウルムが映った。

 しかしだんだんと涙交じりの声音に変わっていって……。

 

『えへへ……でもさ、本音を言うとね……やっぱり怖いなぁって……ナイトアイが視た未来はね、あくまでも『死にかける』所までだったの……その後の未来は『真っ暗闇』で一切の映像が見えていないんだって……だから、もしかしたら……死んじゃうかもって言われたよ……でもさ、もしも……もしも、私が生きてたらさ……その時は改めて焦凍と……お話しさせて下さい、流石に私が伝えたい、この胸に秘めた想いは、この胸に秘めた言葉は、この大切な言葉はビデオレターよりも、焦凍に、直接伝えたいから……全てが終わった後でまた伝えるね』

 

「聞いてやる、聞いてやるさ……だから……目ぇ覚ましてくれよ……お前が目覚めなきゃ分かんないだろ……何を伝えたかったのか……」

 

 そうして再度画面が暗転して10秒後。

 衣服を着替えたのか付き合いたての頃に2人で出かけた時に絶対に可愛いからとアウルムの勧めで買ったお揃いの『サメちゃん着ぐるみ寝巻きバージョン上下一体型』を着ているアウルムが映って、くるくると見せびらかす様に一回転した後に胸の前で腕を組んでドヤァッとキメ顔をしてピースサインをしながら驚く程のハイテンションで語りだす。

 そして……後半は少し表情が暗くなりながら告げる。

 

『ふふーん、どーぉ? 『サメちゃん着ぐるみ寝巻きバージョン上下一体型』可愛いでしょ‼︎ ほら絶対似合うって言ったでしょコレ‼︎ ほれどーよどーよ‼︎ ちなみに、焦凍もコレ着てもらうよ? お揃いで買ったもんね‼︎ ふふ〜ん‼︎ 拒否権はな〜い‼︎ その時はお揃いのコレを着た写真を撮るのだ‼︎ ……コホン……焦凍、他にもたくさん行きたい所があるんだ、私は焦凍と一緒なら何処に行っても楽しいし、何処で何をしても嬉しいから……何処で何をしても凄い幸せだよ、焦凍はどうかな? 私と一緒に居て……楽しい? 嬉しい? ……幸せ……かな? 私が毎日同じ悪夢(ゆめ)を見て……毎日決まって魘されて……毎日決まって泣き叫びながら飛び起きて……それで何度も何度も焦凍に迷惑をかけてさ……時折自分でも分からなくなっちゃうんだ……あぁ私は……本当に私は焦凍の隣に居ていいのかなっ……てさ」

 

「あぁとても……とても可愛いよ、ははっ……俺もそれを着るのか? 芦戸や上鳴達が面白がるよ、絶対に面白がるさ……同じだよ、俺も……アウルムとなら何処に行っても何処で何をしても楽しいさ……アウルムと居れて幸せだよ、あぁ俺は世界一幸せだって……なんせこの世で1番愛しい彼女が隣にいるんだぜ? 悪夢(ゆめ)を見て魘されたり泣き叫びながら飛び起きた事を迷惑なんて思っちゃいないさ……俺も似た様な感じでいっぱい迷惑かけてるだろ? 隣に居ていいんだよ、恋人同士なんだから……彼氏彼女だろう? 彼氏彼女ってのは互いを支え合っていくもんだろ?」

 

 焦凍はビデオレターに向けて相槌を打つが当然ながら返事は返ってこない。

 止まらない涙を、溢れ続ける涙を拭う事もせずに焦凍はビデオレターを見ていた。

 再々度画面が暗転して10秒。

 サメの着ぐるみを脱いで普通の寝巻き姿になったアウルムが居て……真剣な面持ちで語りかけてくる。

 

『焦凍……私は貴方と出逢えた、この必然の様な偶然は、偶然の様な必然は……紛れも無く私の人生において1番の『奇跡』だよ……貴方と出逢えたから、貴方と一緒になれたから……私は今こうして決意を固めて……明日を迎えられるんだ、明日……もしかしたら2度と焦凍に会えないかも知れない、もしかしたら死んでしまうかもって恐怖は確かにある……けれど……私は何より焦凍を失った未来なんて想像すら出来ないから……だから、戦うね……これを聞いて……これを見て、絶対に焦凍は怒るよね……ごめんね……今までありがとう』

 

 その言葉を最後に満面の笑みを浮かべたアウルムが映り……ビデオレターの再生時間が終了して再生が終わる。

 

 それを聞いて、それを見て焦凍は更に多くの涙を零して叫ぶ。

 ここが病室であるのも忘れて。

 

「あぁ‼︎ 俺もだよ‼︎ 俺もアウルムに出逢えた事を人生で1番の『奇跡』だと思ってるよ‼︎ アウルムが居なくなる未来なんて片時も考えたくない‼︎ お前が目覚めなきゃ‼︎ お前が生きてなきゃ‼︎ これから俺は……俺は‼︎」

 

 大粒の涙を流してスマホを仕舞うと……ベッドから最愛の恋人の声が聞こえて其方へと振り向く。

 

「おはよう……焦凍」

 

 ぎこちない笑顔を浮かべ緩慢な動作でこちらへと向けて手を振るアウルム。

 それを見て……焦凍は堪えきれずに……号泣して抱きついた。

 

 奇跡は起きたのだと、そう思いながら。




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