第六駆逐隊の日常   作:通りすがりの変人

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 なんとなく書いてみたくなったので執筆してみました。
 ネタが浮かんだら書く感じなので不定期更新になると思います(結構期間開くかも?)
 軍事知識皆無なので戦闘の流れに「うん?」となる人もいるかもしれませんが、生温かい目で見守ってくださいな。


ご利用は計画的に

 穏やかな海の上、太陽からの強い日差しが照り付ける洋上を、4人の少女が滑るように高速で移動していた。

 お揃いのセーラー服に身を包んだ、一見すると普通の小学生にも見える彼女たちは、ただの人間ではない。

 暗く深い海の底から、無尽蔵に湧いてくる人類の敵、深海棲艦を打ち倒し、海の平和を取り戻さんと戦う、かつて存在した軍艦の記憶と力を継ぎし乙女達。人呼んで、艦娘。

 そんな彼女達は、今、別の艦娘達によって編成された艦隊との演習のため、単縦陣で航行していた。

 

「そろそろ演習開始予定ポイントに到着するわ! みんな、気合入れていくわよ!」

 

「分かったわ!」

 

「了解なのです!」

 

 暁型駆逐艦のネームシップであり、この第六駆逐隊の旗艦でもある(あかつき)が声を上げると、それに応えるように暁型3番艦の(いかずち)と、同じく4番艦の(いなづま)が元気よく声を上げる。

 そして、

 

「ふぁ……ぁ……了解」

 

 艦隊の最後尾に位置する、暁型2番艦(ひびき)があくびを噛み殺しながら返事をしたことで、先頭を行く暁はずっこけるようにしてバランスを崩した。

 

「姉さん、危ないよ」

 

「誰のせいよ!?」

 

 大きく左にふらついた姉を心配して声をかけた響だが、自分に非があるとは露ほども思っていないので、暁のツッコミには首を傾げるしかない。

 そんなやり取りをする姉2人に挟まれた雷と電は苦笑を浮かべるが、それがどうしたとばかりに暁は言った。

 

「あのね響、これから第十八駆逐隊と演習なのよ? そんな時に何寝ぼけてるのよ」

 

「寝ぼけてるんじゃない、眠いんだ」

 

「どこが違うのよ!」

 

 わざとやってるんじゃないかと言いたくなるボケに暁は頭を抱えるが、これが素でやっていると分かっているだけになお質が悪い。

 ちなみに、現時刻は午前5時28分。響でなくとも、幼い駆逐艦娘にとっては少々辛い時間だ。

 

「はぁ、もういいわ。戦闘に入ったらシャキッとしなさいよね」

 

「分かってるよ」

 

 どこぞの重巡洋艦ほどではないが、響も朝に弱い。しかしいざ戦闘になれば、誰より頼りになることを暁は知っているので、これ以上余計なことは言わない。

 と、そうこうしているうちに、演習開始予定ポイントまで辿り着いた。

 

「雷、時間は?」

 

0529(マルゴーフタキュウ)。後28秒で演習開始よ」

 

 雷に時間を確認した暁は、4人を単縦陣から複縦陣へ移行させた。左側の先頭には暁で、後ろに雷、隣に響、その後ろには電だ。

 

「もうどこから突っ込んでくるか分からないわ。警戒を厳に、こっちが先制するわよ!」

 

 暁の言葉に、今度は全員が揃って「了解」と返す。

 とは言え、これは演習であり、しかも駆逐艦のみのもの。貴重な電探など貸し出されているはずもなく、当然偵察機など飛ばせるわけがないので、索敵は個々の眼に頼らざるを得ない。

 雲一つない晴天な上、艦娘の視力は人間の比ではなく、また相手の主武装もこちらと同じ12.7㎝砲と61㎝四連装魚雷。射程を考えれば奇襲を受けることはまずないと思うが、どうにも不安は尽きなかった。

 

「見つけたのです! 右舷後方、4時の方向!」

 

 しかし暁の不安をよそに、敵発見の報告はあっさりと飛び込んできた。

 ただ、

 

「敵影1、他は見当たらないのです!」

 

「単艦で突っ込んできたの?」

 

 今回の演習相手である第十八駆逐隊は、陽炎、不知火、霞、霰の4人で編成されていたはずだ。

 一人しか見えないということは、恐らくこれは囮で、残り3人が機会を伺って突っ込んでくる気だろう。

 しかし、この一人も、無視は出来ない。

 

「囮だろうが知ったことじゃないわ。全艦、主砲発射用意、面舵10! 一斉発射ですぐに大破判定取るわよ!」

 

 すぐさま右に舵を切り、突っ込んでくる敵影からT字有利を取る。

 こちらも横っ腹を晒すことにはなるが、その分主砲を撃ちやすくなるので短期決戦に持ち込みやすい。

 

「てーっ!!」

 

 暁の号令と共に、全員の主砲が唸りを上げ、敵影に砲弾の雨が降り注ぐ。

 最初の数発は当然の如く外れるが、その弾着位置から狙いを修正することで、徐々に狙いは正確になっていく。

 しかし敵は、そんな砲弾の雨を、一発の被弾もなしに猛然と突っ込んでくる。

 

「当たらない! なんでよ、もう!」

 

「あれは……」

 

 一向に当たらないことに雷が苛立ちの声を上げる中、響は近づいてくる敵影を凝視した。

 そして――ようやく、気付いた。

 

「みんな、あれは雪風(ゆきかぜ)だ!」

 

「ゆ、雪風ぇ!?」

 

 響の言葉に、雷が素っ頓狂な声を上げる。

 陽炎型駆逐艦8番艦、雪風。かつての大戦で主要な海戦のほとんどに参加しながら、そのほぼ全てを無傷で乗り切った神がかり的な幸運艦で、ついたあだ名は『奇跡の駆逐艦』。

 艦娘になってからもその幸運っぷりは健在で、嘘か真か、敵地の偵察に出る潜水艦たちが「もう雪風が一人で行けばいいんじゃない?」と秘書官である大和(やまと)に具申したとかなんとか。

 

「ちょっと待って、今日の演習相手って第十八駆逐隊じゃないの!? 雪風は第十六駆逐隊でしょ!」

 

「私に言われても……」

 

 言い争っているうちも砲撃は継続しているが、雪風もまた一発の砲弾も撃たない代わりに全てを回避している。

 このままでは、砲撃どころか魚雷の射程にまで食い込まれる。

 

「けど、雪風だって無敵じゃないわ! どんどん撃ちこんで回避できるような隙間を無くすのよ!」

 

 暁の言葉通り、雪風にも限界はある。

 降り注ぐ砲弾の雨は近づくごとにその勢いを増し、雪風も最初ほど大胆に近づけなくなってきた。

 そして、既に何十発撃ち込んだか分からなくなって来たころになって、ようやく雪風にも回避する余裕がなくなり、すぐ真横に着弾した。

 

「わぁ!?」

 

「そこよ!!」

 

 すぐ近くの着弾によって上がった水飛沫により、雪風の視界が一瞬塞がる。

 その一瞬の隙をつき、暁が砲弾を撃ち尽くす勢いで次々と放つ。

 今度こそ決まる――そう確信した刹那、

 

「ひゃああああ!!」

 

「嘘!?」

 

 雪風が盛大にすっころび、その場に急停止した。

 結果、雪風の進行予想位置に放たれていた暁の砲弾は全弾雪風の正面に着弾し、外れることになった。

 そして、脅威的な幸運によって直撃を免れた雪風は、ゆっくり起き上がると、一言。

 

 

「あっ! 至近弾です!」

 

「いや違うから! 転んで艤装が破損しただけだから!」

 

 ひとまず小破にはなったようだが、まだ戦闘不能とはいかない。

 続けて砲弾を放とうとするが――暁は、忘れていた。これは1対4ではなく、あくまで4対4の戦いだということを。

 

「姉さん、危ない!!」

 

「え? って、ぴゃあああああ!?」

 

 いち早く響が気付いて警告するが、既に遅かった。

 空から飛来した12.7㎝砲の砲弾が暁の周囲に何発も着弾し、大きな水柱を何本も屹立させた。

 

「暁姉!」

 

「暁お姉ちゃん!」

 

 これは演習なので、怪我をすることはないというのは分かっているが、それとこれとは話は別だ。

 雷と電の2人が心配して駆け寄ると、水柱の中から服をボロボロにした暁が姿を現した。

 

「ああもう、服がボロボロじゃない! 雷、電、響! 私はもう口出しできないけど、頑張りなさいよ!」

 

 演習用の模擬弾なので、怪我はしない。だが、艦娘の服“だけ”にはダメージが入るようになっているため、演習では着ている服の損傷具合を自分の損傷として判断し、大破した者は戦闘から離脱する決まりだった。

 ちなみに、服が破れるのを嫌う艦娘からは「もう少し別の方法はないのか」と文句が出ているのだが、また別の、ほんの一部の艦娘からは、「こっちの方がやる気が出るからこのままで」と匿名で意見が出ていたりするので、鎮守府としては変えるつもりはないらしい。

 

「雷、電の2人は雪風に止めを! 私は砲撃の主を仕留める!」

 

 響の指示が飛ぶ。

 暁がいないときは、第六駆逐隊の指揮は響が執ることになっているので、雷や電に異論があるはずもなく、すぐに雪風の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

(砲撃の主は……あれか)

 

 遠くから、高速で突っ込んでくる敵影を見つけた。

 これだけ離れた位置からあれだけ正確な砲撃が出来るのだから、かなりの練度なのは間違いない。

 

(不知火か、陽炎か……それとも、別の誰か?)

 

 雪風のことを考えると、相手が第十八駆逐隊の誰かだと思い込むのはまずい。

 そして、これだけの遠距離砲撃が可能な駆逐艦娘となると、かなり数は絞られてくる。

 

(時雨、夕立、綾波……それ以外だと……)

 

 考えながら、響は狙いを定める。

 名立たる武勲艦には敵わないが、響もまた終戦まで生き残った歴戦の艦であり、『不死鳥』の異名を持つ。この距離なら、響にも砲撃可能だった。

 

Ура(ウラー)!」

 

 立て続けに、砲弾を放つ。相手が雪風のような超回避力を持っていない限り、確実に捉えられる数だ。

 しかしそのタイミングで、敵影は更に加速した。

 

(速い! 38……いや、40ノット以上!?)

 

 思わぬ加速によって、響の放った砲弾は影の後方に着弾する。

 まだ距離があるのと、敵が航行する際に吹き上げる水飛沫によって未だに姿ははっきり見えないが、この時点で響は、相手が誰かをほぼ確信していた。

 

「くっ……」

 

 魚雷の射程圏内にまで接近されると、響が不利だ。なんとかそれまでに仕留めようと、響の主砲が立て続けに火を噴く。

 が、何分相手が速いため、そう易々とは当たってくれない。

 

(だったら、その速度で行き着く先を予測して撃つだけだ)

 

 速度の緩急、こまめな旋回、不規則な航路。

 ただの軍艦だった時代に比べ小さく、小回りが利くようになった艦娘の体は、より回避がしやすく、当てるのは至難の伎だ。

 しかしそれは艦娘に限った話ではなく、敵である深海棲艦も同じこと。これが出来なければ何も倒せないし、何も守れない。

 

「そこだ!」

 

「オゥッ!?」

 

 響が放った必殺の砲弾が、ついに敵影を捉える。

 やったか――そう思った響だったが

 

「まだ、これからだよ!」

 

 まだ大破には、至っていなかった。

 

「発射ー!!」

 

 水柱を突き破って現れた少女が、腰のあたりから魚雷を撃ち出す。しかも、ただの魚雷ではない。

 

(酸素魚雷……!)

 

 通常の魚雷とは違い、航跡の見えにくいこの魚雷は、特に回避が難しい。

 しかも魚雷は、ただ目の前の敵を狙うのではなく、扇状に放ってより回避し辛くするのが基本なため、下手に動くと自ら魚雷に突撃するハメになりかねない。

 

「だったら……!」

 

 響は、目を閉じた。

 諦めたわけではなく、三式水中探信儀(アクティブソナー)で魚雷の位置を探るためだ。

 ピコーン……と響を中心に水中へと音が広がり、魚雷に当たったそれらが、あっという間に響の元へと返ってくる。

 

(数は5、直撃コースに1、左右に2本ずつ。距離は……)

 

 返ってきた音から、一瞬で情報を読み取る。

 そして即座に、魚雷の現在地と発射された位置から発射角度を算出し、予想航路を割り出すとともに取るべき回避運動を頭の中で組み立てる。

 

「よし」

 

 計算が終わると、すぐにその通りに回避する。動いている最中は、本当にそれで合っているのか不安になるが、いくら酸素魚雷と言えど、艦娘に当てるために海面ギリギリを進んでいるので、近づけばその姿を拝むことが出来る。

 自分の予想通りの位置を魚雷が通過したことにほっと胸を撫で下ろしつつ、響は演習相手を探す。

 

(しまった。どこに……)

 

 ソナーを使うために目を閉じたため、敵の位置を見失ってしまった。

 自分の失態に舌打ちしつつ、響は素早く周囲に視線を走らせる。

 

「おっそーい!!」

 

 と、響が再び捕捉するよりも先に、演習相手の艦娘は響の背後に回り込み、再び5本の魚雷を放った。

 ほぼゼロ距離の雷撃。回避は不可能。

 それを瞬時に理解した響は振り向く暇すら惜しんで、肩の主砲を背後に向ける。

 

「……へ?」

 

 少し間の抜けた声と共に、洋上に2つの水柱が立ち昇った。

 

 

 

 

 

「雪風、覚悟しなさい!」

 

「逃がさないのです!」

 

 雷、電の2人が、雪風を追い回す。

 さすがの回避で雪風は未だ健在だが、陽炎型の速力は35ノットで、暁型を含む特型駆逐艦の速力は38ノット。その差を徐々に詰め、先ほどまではかすりもしなかった砲弾の多くが、至近弾となって雪風の服を破っていく。

 

「ふえ~ん! 陽炎さ~ん、不知火さ~ん、助けてくださ~い!」

 

「あ、やっぱり陽炎と不知火はいるんだ」

 

 逃げながら助けを求めた雪風の叫びで、雷は残る敵戦力を把握した。

 一人は雪風、もう一人は響が相手をしているので、陽炎と不知火を合わせればこれで4人だ。

 叫んだ雪風は「あっ」と言って慌てて口を塞いでいるが、もう遅い。

 

「さぁ雪風! なんであんたが第十八駆逐隊と一緒にこの演習に参加してるのか、陽炎と不知火がどこから私達を狙ってるのか、洗いざらい吐いてもらうわよ!」

 

「だ、ダメです! それを言ったら作戦が台無しになってしまいます!」

 

「作戦ってなによ!」

 

「あっ! ……も、もう雪風はしゃべりませんっ、大人しく雪風についてきてください!」

 

「つまり、雪風ちゃんが私達を引き付けられるだけ引き付けておいて、響お姉ちゃんを3対1で大破させて数的有利を確保するのが狙いなのですね」

 

「へ? なんの話ですか?」

 

「雷お姉ちゃん、どうやらこの先に陽炎さん達が待ち構えていて、電たちを3対2で殲滅するのが狙いみたいなのです。一度引き返して、響お姉ちゃんと合流した方がいいと思うのです」

 

「ふえぇ!?」

 

 話せば話すほどポロポロと情報を漏らす雪風に、これ幸いと雷と電は話しかけ続ける。

 ただ、この場合は2人の対話力より雪風の幸運が上回ったと言うべきか。

 2人の周囲に、水柱が立ち昇る。

 

「っ、電! 無事!?」

 

「平気なのです!」

 

 2人は素早く周囲を見渡す。

 と、雪風の奥から、2人の艦娘がこちらに近づいてきているのが見えた。

 

「ほ~ら不知火、やっぱり雪風ボロボロじゃん、私の思った通りだったね。助けに来て正解だったよ」

 

「そもそも、この作戦を立案したのは陽炎だったと記憶していますが? 不知火は最初から雪風一人に囮役はさすがに荷が重いと言ったはずです」

 

「あれ、そうだっけ? まぁいいじゃん。雪風、ここまでありがとう、後は任せといて」

 

「た、助かりましたっ!」

 

 中破状態の雪風が陽炎たちの背後に回る。

 演習では、小破状態では特に何もないが、中破以上になると武装に使用制限がかかってまともに戦闘が出来なくなる。なので、今の状態は3対2というよりは、実質2対2と言っていい状態だった。

 

「さて……雷、いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、話はこれが終わってからね」

 

「いいわ、望むところよ!」

 

 陽炎が主砲を構えると、雷は艤装の中から錨を取り出し、正面に構えた。

 普通、艦娘は砲や魚雷、あるいは艦載機しか使わない。しかし一部の艦娘は、それだけではなくゼロ距離限定の近接武器を好んで使っており、雷もその一人だった。

 ちなみに、近接武器を使う主な理由は、『弾切れになっても戦えるから』である。射程が売りの戦艦や空母はともかく、長距離航行が当たり前で万が一にも弾切れになるわけにはいかない遠征艦隊の駆逐艦や軽巡洋艦にとっては死活問題なので、地味に重要な能力だったりする。

 

「てぇやあああああ!!」

 

 肩の主砲で牽制しながら、雷が突っ込む。

 しかし、陽炎と不知火も、そう易々と間合いに入らせはしない。息のあった砲撃で、立ち入る隙など全く与えない。

 

「雷お姉ちゃん、肩を借りるのです!」

 

「了解よ!」

 

 雷の影に隠れていた電が、空中へ跳び上がる。不安定な海面では、いくら高い身体能力を持つ艦娘といえどあまり高くは跳べないのだが、電は雷の肩を足場とすることで空高く舞い上がり、雷と同じく錨を構えた。

 洋上を漂う艦娘すら、百発百中とはいかないのだ。それが空を跳んでいるとなれば、更に命中率は落ちる。

 

「電の本気を見るのです!!」

 

「小賢しい……」

 

 しかし不知火は逃げるでも避けるでもなく、自らその着地点へと向かい、主砲を天へ向けて構えた。

 

「沈めッ!!」

 

「なのですっ!!」

 

 電の錨と不知火の主砲が空中で交錯する。同時に、不知火の主砲が火を噴き、2人は黒煙に包まれた。

 

「不知火!」

 

「電!」

 

 いくら演習弾と言えど、ゼロ距離で喰らえば生半可な衝撃ではない。下手をすれば艤装だけでなく、艦娘本人にまでダメージが及ぶ。

 ――はずなのだが、2人はそのまま吹き飛ばされ、海上を転がると、そのまま何事もなかったかのように立ち上がり、同時にため息をついた。

 

「大破しました。電はここまでなのです」

 

「不知火もです。陽炎、あとは任せました」

 

 下手をすれば大怪我をするような無茶をしたにも関わらず、まるでちょっとゲームで失敗しただけのようにあっさり言ってのける2人に、雷と陽炎はしばし呆然としていた。

 が、今はそれどころではないと思い直し、再び得物を構えなおす。

 

「お互い、変わった妹を持ったわね」

 

「全くよ」

 

 それだけ言うと、2人は再び戦闘を再開する。

 聞いていた妹2人の方は、揃って心外だとばかりに顔を歪めるが、既に戦い始めた姉2人にはその表情を見る余裕などない。

 お互い、一歩も譲らない戦い。

 そんな最中、一人の声が響いた。

 

「陽炎さん、援護します!」

 

「ゆ、雪風!?」

 

 2人の戦いに乱入してきたのは、先ほど中破し、4人の戦闘から少し離れていた雪風だった。

 

「あんた何してるのよ! 中破状態じゃまともに戦えな……え?」

 

「何? どうしたの? ……ってあれ?」

 

 陽炎も、そして雷も、迫る雪風の姿を見て、呆然と立ち尽くした。

 なぜなら、直っているのだ。先ほど、雷と電の執拗な追撃で破れた服が、綺麗さっぱり。

 

「え、ちょ、なんで!?」

 

 これにはさすがに、雪風の味方である陽炎も驚かざるを得ない。

 いくらなんでも、演習中にドックに行って直してくるほど雪風は非常識じゃないし、こんな海の上で服を直せるような裁縫スキルなど、雪風は有していない(そもそも、それもルール違反だ)

 ではなぜ――と考える間を、雪風は与えてはくれなかった。

 

「四連装酸素魚雷、一斉射です!!」

 

「ちょ、ちょっと雪風!? この位置関係じゃ私まで巻き込まれ――」

 

 ちゅどーん、と、4本の魚雷が同時に起爆し、1本の巨大な水柱を作ったところで、演習は終了となった。

 第十八駆逐隊、第六駆逐隊、共に壊滅。ドロー。

 それが、この演習の結果だった。

 

 

 

 

 

 

「すみませんでした、陽炎さん。雷さんだけに当てるつもりだったんですけどぉ……」

 

「そう落ち込まないでよ。僚艦の失敗は旗艦の責任なんだから」

 

 演習で疲れた第十八駆逐隊と第六駆逐隊は、甘味処をやっている間宮(まみや)の店で丸テーブルに座ってアイスを食べつつ、反省会を開いていた。

 そして、落ち込む雪風の頭を陽炎が撫でていると、ぶすっとした表情で不知火が苦言を呈する。

 

「陽炎は雪風に甘すぎます。陽炎は旗艦なのですから、もっと厳しく指導してもらわなければ困ります」

 

「不知火は固すぎるのよ。そんなんじゃ息が詰まっちゃうわよ?」

 

 お堅い不知火と、どこか緩い陽炎。一見正反対に見える2人だが、常に一緒に行動しているあたり、なんだかんだ言いつつ気が合うのだろうというのが周りの駆逐艦たちの評価だった。

 しかし、暁達にとっては、そんなことは今はどうでもよかった。

 

「それで、どうして雪風と島風が第十八駆逐隊と一緒に私達と演習したわけ?」

 

「私?」

 

「雪風ですか?」

 

 暁の問いかけに雪風と、響との激闘の末相撃ちとなった島風が首を傾げる。

 そう、2人は本来、第十八駆逐隊所属の駆逐艦ではないのだ。それが、突然第十八駆逐隊として目の前に現れた。

 それで混乱した隙をついて旗艦である暁が大破判定を取られたのだから、当人である暁としては、納得できる理由が欲しいところだった。

 

「ああ、それなら、霰と霞の2人が急な遠征でいなくなっちゃったから、その代わりにって私が頼んだの」

 

「それはまた……」

 

 そして聞いてみれば、納得出来るような出来ないような、微妙な答えが返ってきた。

 いないものはいないのだし、演習の予定を変えるわけにはいかないのだから、代わりに誰かを連れてくるのは当たり前のことだ。

 ただ、その人選になんとなく納得がいかないが。

 

「それにしても、まさかあのタイミングで響ちゃんが砲撃してくるとは思わなかったよー」

 

「調子に乗って『おっそーい』なんて言うからだよ。それで大体の方向が分かったからね」

 

「それで砲撃を当てられるほど正確に分かるのは響くらいのものよ」

 

 響の言葉に、暁が笑いながら賞賛する。

 響が演習中に使った三式水中探信儀は、今のところ、駆逐艦全体で一つしか配備されていない貴重な物だ。

 それを、雪風や島風を差し置いて響が持っているのは、ひとえにその耳の良さ、即ち対潜戦闘能力の高さを評価されてのことだった。

 

「まぁ、反省会はそのくらいにしましょうよ。それより……」

 

 強引に話を切り上げると、雷は神妙な顔をして目の前のアイスに視線を送る。

 続く言葉が紡がれるより先に、雷の視線だけで、その場の全員が彼女の言わんとしていることを察したが、あえて何も言わず、雷の言葉を待った。

 

「今日のこの支払い、どうするの?」

 

 実は駆逐艦娘の間では、演習で負けた駆逐隊が勝った駆逐隊にアイスを奢るのが暗黙のルールとなっていた。

 もちろん駆逐艦以外の艦娘には内緒で、特に空母の加賀(かが)あたりに知れるとどうなるか分かったものではないのだが。

 

「素直に割り勘にすればいいでしょう」

 

「それじゃあ面白くないじゃない」

 

 不知火が至極当然の意見を述べるが、陽炎が即座に切り捨てる。

 結局のところ、これは遊びの一環であって、タダ飯ならぬタダアイスが食べたいわけではないのだ。少なくとも、陽炎にとっては。

 

「じゃーあ、第十八駆逐隊と第六駆逐隊でリレー勝負して、負けた方が全部払うっていうのはー?」

 

「それだと島風が速すぎて勝負にならないわよ」

 

「じゃんけんなんてどうでしょうか!」

 

「雪風、あなた自分の幸運を分かって言ってるのよね?」

 

 島風と雪風の案は、暁によってこれまたバッサリと切り捨てられる。

 するとそれまであまり興味が無さそうにアイスをちまちまとつついていた響が、ニヤリとした笑みを浮かべ、言った。

 

「それじゃあ、姉さんには何かいい案があるのかい?」

 

「え? 私?」

 

 唐突に振られ、暁は困惑する。

 姉が何も考えていないことくらいは、響でなくとも電や雷にも分かっていたので、「考えてない」と素直に言えばいいだけなのだが、ここで響は更なる追い討ちをかける。

 

「一人前のレディである姉さんなら、みんなが納得出来る名案の一つや二つ、簡単に考え付くだろう?」

 

「と、当然よ!」

 

 『一人前のレディ』という単語に、ほとんど条件反射的に反応した暁だったが、当然何も考え付かない。結果、「えーと、あれよ……ほら、その……」と曖昧な言葉を並べるだけで、意味のある言葉は全く紡げなかった。

 しばらくそんな暁の姿を笑顔で見守っていると、響の隣に座る雷が、脇を肘でつついてきた。

 響が顔の向きはそのままに視線だけを向けると、雷が視線で訴えかけていた。

 

(ちょっと響姉、そろそろ暁姉を助けてあげなさいよ)

 

 暁は、響の無茶振りに応えようとするあまり、顔を真っ赤にしながら謎の言語を発し始めており、陽炎も島風も笑いを堪えるのに必死な様子だった。

 確かにそろそろ潮時だな、と判断した響は雷にこれまた視線で「分かった」と返すと、暁の言葉を遮って言った。

 

「ああ、そういえば姉さん。雪風はどうやって演習中に服を直したんだろうね」

 

「……へ?」

 

 いきなりな話題転換についていけず、暁はポカーンとした表情を浮かべる。

 確かに、演習中に自らの損傷を直すなど、一体どんな裏技を使ったのか、とは思っていたが、それが今なんだというのか。

 しかし響は、そんな姉には構わず、雪風の方に向き直った。

 

「雪風も、ルール違反をしたわけじゃないんだろう?」

 

「と、当然です! 雪風はあの時――」

 

「うーん、一体どんな裏技を使ったんだろうね? 私にはさっぱりだよ」

 

 雪風の言葉を遮り、大仰な仕草で分からないことをアピールしながら、暁の方へ向き直る。

 若干わざとらしいが、暁にはこれくらいしないと伝わらない。そんな響の思いは、果たして通じたのか。

 暁は、はっと気付いたように顔を上げると、嬉々とした表情で言った。

 

「そうよ、これよ! みんな、雪風の使った方法、もう分かってる?」

 

 暁の問いかけに、全員が「わからない」と否定の言葉を紡ぐ。

 他はともかく、不知火は恐らく分かってるだろうと響は睨んでいたが、そこはさほど重要ではないのでスルーする。

 

「ここはクイズにしましょう。雪風が使った方法が分かったら、雪風に耳打ちして答え合わせ。制限時間30分以内に正解出来なかったら、その人たち全員で割り勘ね」

 

「雪風はどうするんだい?」

 

「雪風はいいのよ。演習で唯一大破しなかったんだから、最初から勝ち抜けで」

 

「へー、いいじゃない! やりましょ!」

 

 暁が名案だとばかりに話すと、陽炎がノリノリで賛同した。

 こうなると、特に反対する者もなく、クイズ勝負で決めることになった。

 

「さぁ、勝負開始よ!」

 

 意気揚々と、暁が開始を宣言する。

 ちなみにこの後、クイズ勝負を言いだした本人が雪風の使った手を答えられなかったことは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「大和、そんなに唸ってどうしたんだ?」

 

「ああ武蔵(むさし)……それがね、どう計算しても応急修理要員(ダメコン)の数が合わなくて……」

 

「誰かの報告ミスか? まぁ、今ある数で調整し直すしかあるまい。後で出てきたらその時はその時だ」

 

「そうなるわよねぇ……ああ……また一から計算し直しよ……」

 

「まぁなんだ、その……頑張れ、大和」




 うん、思ったより長くなった(汗)
 とりあえず、ひとつだけ言っておきます。

 響(ヴェル)は俺の嫁だ!!(まだ指輪渡せてないけど)
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