第六駆逐隊の日常   作:通りすがりの変人

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言い忘れてましたが、この作品では提督は飾りです。名前は出ても本人は登場しません(今更)

というわけで、今回は暁回です(何が)


暁、レディーへの道!~お料理編~

 誰もいない食堂のキッチン。そこに、こそこそと気配を殺しながら、暁が一人姿を現わした。

 どこからどう見ても、小腹を空かせてつまみ食いに来た子供にしか見えないが、少なくとも本人は恥ずかしがっているだけで、悪いことをしに来たわけではない。

 

「よし」

 

 中に誰もいないことを確認すると、低い体勢のまま目的の鍋の正面まで素早く移動する。

 これが響あたりだと、白い髪が災いしてイマイチ隠密性に欠けるやり方だが、黒髪の暁にとってはまだ薄暗い明け方のこの時間帯はそれなりに適していた。それがどうした、という話ではあるが。

 そうして、無駄に辺りを警戒しながら、暁は鍋の蓋を開け、その中にあるカレーを――自らの作った激甘カレーを見た。

 

「見た目は普通よね。匂いも……雷のとそんなに違わないし」

 

 必死につま先立ちしながら、暁は記憶の中にある雷のカレーと、目の前にあるカレーとを見比べ、あるいは嗅ぎ比べる。

 しかし、やはりそんなことでは何も違いが分からなかった暁は、早々にお玉を取り出すと、中のカレーをすくって一口食べてみる。

 

「うーん……確かに甘いけど、そんなにひどいかしら?」

 

 雷のと比べれば明らかに甘く、電のと比べてもなお甘い。だがそんなに、卒倒するほど激甘だろうかと、暁は首を傾げる。

 

文月(ふみづき)とかには人気だったし」

 

 文月は睦月型駆逐艦の一人で、睦月型に限らず、駆逐艦の中でも特に幼い艦娘だ。雷や電と同じ茶色い髪をポニーテールにした彼女は、その子供っぽい見た目に違わずかなりの甘党なので、暁の甘々なカレーも満面の笑みで平らげていた。

 なので暁も、自分のカレーは少し普通と違うと分かってはいても、そこまで気にはしていなかったのだ。

 その後、響に言われた言葉が無ければ。

 

『まあ姉さんは子供舌だし、仕方ないね』

 

「誰が子供よ!!」

 

 響の言葉が蘇り、暁はうがー! と頭を抱えて天井を仰ぐ。

 何も、響は暁はバカにしたわけではない。それは、暁にも分かっている。

 しかし、だからこそ、暁は納得出来なかった。まるで、事実として自分が子供だと言われているようで。

 

「見てなさいよ響。何が何でも雷より美味しいカレーを作って、ぜーったい見返してやるんだから!!」

 

 びしっ! と、何もない空間へ指を突き付けて宣言すると、暁はそのまま食堂を後にしようと踵を返す。と、頭に血が上っていたためか、すぐそばに段ボール箱が置いてあるのに気付かず、足を引っ掛けてそのまま思いっきり転んでしまった。

 大声でやいやいと一人騒いだ後なだけに、一気に恥ずかしくなって慌てて立ち上がると、誰にも見られていないか辺りを見渡すが、やはり誰もいない。

 ほっと胸を撫で下ろした暁は、自分に恥をかかせた憎き段ボール箱に一蹴り入れると、今度こそ食堂を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 基本的に鎮守府では、演習するにも出撃するにも艤装を付けて訓練するにも外出するにも、また、食材を使って料理をするにも許可がいる。正直なところ面倒で仕方ないが、これも資材の残りや今その瞬間鎮守府にいる艦娘の人数を把握する上で必要なことだと言われれば納得するしかない。

 そんなわけで、食堂を出た暁が真っ先に向かったのは、いつも大和が忙しなく書類仕事に追われている執務室だった。

 もちろんその目的は大和から食材の使用許可を貰うためだったが、

 

「ごめんね暁ちゃん、今はちょっと……」

 

「えぇ!?」

 

 許可が必要ということは、当然それが下りないこともあるわけで。

 暁は大和に事情を説明して早々、床に両手両膝を付いて絶望に暮れることになった。

 

「うぅ……このままじゃいつまでたっても響を見返せないじゃない……このままずっと妹に子供扱いされ続けなきゃならないって言うの……」

 

 重ねて言うが、響は別に暁を子供扱いしたつもりはない。むしろそんな暁を見た大和としては、「そんなこと本気で気にするなんて子供ねぇ」なんて思ったりしたのだが、そこは大人として胸の内で呟くのみに留め、代わりに別の提案をすることで助け船とした。

 

「それじゃあ、別の誰かと一緒にお料理するのはどう?」

 

「誰かと一緒に?」

 

 大和の言っている意味が分からず、暁は頭上に疑問符を浮かべる。

 期待と不安の入り混じった瞳で、小首を傾げながら自分を見上げる暁の様子に、大和はふふっと笑みを零しながら、続く言葉を口にした。

 

「実を言うと、最近お料理の練習をしたいって子が多くてね。これ以上追加で食材の使用許可は出せないんだけど、そういう子達に頼んで一緒にお料理すれば、こうして許可を取りに来る必要もないし、その子に教えてもらうことも出来るでしょ?」

 

 椅子から降り、暁と視線の高さを合わせながら、努めて上からの物言いにならないよう優しく提案する。

 そして、「どうかしら?」と尋ねると、暁は先ほどまでとは打って変わって満面の笑みを浮かべ、

 

「なるほど……分かったわ! ありがとう大和さん!」

 

 言うが早いか、すぐに執務室から飛び出していった。

 そんな暁に、大和はもう一度微笑むと、大きく伸びをしながら「さて、もうひと頑張りしますか」と呟き、書類の山に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「それで、僕のところに?」

 

「そうよ。一生のお願い!」

 

 執務室を飛び出した暁は、食堂で白露(しらつゆ)型駆逐艦の時雨(しぐれ)と会っていた。

 事情を説明し、両手を合わせて懇願する暁に、時雨は困惑するよりも先に、とある疑問に首を傾げた。

 

「別にいいんだけど……なんで僕が料理の練習をしてるなんて知ってるの? 大和さんがそう言ったわけじゃないんだよね?」

 

夕立(ゆうだち)があっちこっちで言いふらしてるわよ? 『時雨が料理の練習しているみたい。今度作ってくれるっぽい!』って」

 

 暁の言葉に、「ああ……夕立はもう……」と時雨は恥ずかしそうに頭を抱える。

 しかし暁としては、そんなことよりも時雨が最初に言った言葉のほうが重要だ。

 

「そんなことより、別にいいってことは私も一緒に料理していいってことよね!」

 

 キラキラした目で、暁はぐいっと時雨に迫る。

 その迫力にやや押され気味になる時雨だったが、笑顔で首を縦に振る。

 

「うん、いいよ。僕も一人でやるより二人でやった方が楽しいし……」

 

「やったぁ!! ありがとう時雨!」

 

「ちょ、暁!?」

 

 感極まってか、暁は時雨にがばっと抱きつく。

 時雨は慌てて離れようとするが、意外と力が強く、全く引きはがせない。

 しかも、暁は体付きこそ完全に子供のそれだが、意外と美容にも気を使っているのか、髪は時雨も羨むほど滑らかで、シャンプーのいい香りが鼻腔をくすぐってくる。さらに、露出がさほど多くないセーラー服に身を包んでいるために気付かなかったが、肌も白くスベスベで、暁が幼い駆逐艦娘だということを忘れさせるほど大人びて見えた。少なくとも、そんな趣味のない時雨が、今の状況に背徳感を覚えるくらいには。

 

「あ、あの、暁? そろそろ離してくれないかな……?」

 

「ん? ああ、ごめんなさい」

 

 ようやく落ち着いたのか、暁は悪びれる様子もなく、笑顔を浮かべたまま時雨から離れる。

 ようやく解放された時雨は、鳴りやまない動悸に胸を押さえていたが、深呼吸をして無理矢理気持ちを落ち着かせると、仕切り直しとばかりに咳払いをし、キッチンに立った。

 

「えっと、それじゃあ、料理していこうか。あ、カレーじゃないけど、それはいいかな?」

 

 そういえば肝心なことを確認し忘れていたと、時雨は暁に尋ねる。

 しかし暁は、「なんだそんなこと」と事もなげに言った。

 

「問題ないわ。要するに、私が料理の出来る立派なレディだって証明出来ればいいんだから」

 

 ふふん、と鼻を鳴らす暁に、時雨は苦笑を浮かべる。

 立派なレディってなんだろうなぁ……などと思う時雨ではあったが、それは暁本人にしか分からないのでこの場では置いておくことにする。

 ともかくこうして、時雨と暁による料理が始まったのだが、それは2人の思っていた以上に難航した。

 というのも、

 

「暁、ちょっと砂糖の量多くないかな?」

 

「え? そうかしら? じゃあこのくらい?」

 

「……ちゃんと計量スプーン使おうよ。それと、塩は?」

 

「それじゃあ塩辛くなっちゃうじゃない」

 

「いや、そんなに言うほど変わらないから……それと、そっち焦げてるよ」

 

「え? ああああああああ!!」

 

 このように、暁の料理はいろいろと問題だらけだったからだ。それも、分からないところは取りあえず感で、というのが暁のポリシーのようで、しかもその場合大体砂糖を突っ込もうとする。

 仕方ないので、途中からはほぼ時雨が付きっきりで料理したのだが……

 

「……甘いね。すごく甘い」

 

 案の定、かなり甘い代物が出来上がってしまった。

 それでいて本人は「おかしいわね。前回よりだいぶ砂糖の量は減らしたはずなんだけど」などと言ってのけるのだから驚きだ。

 

「……もう一回、やってみようか」

 

 こうして、暁の料理修行が始まった。

 

 

 

 

 

 

「…………痛っ!」

 

「暁、大丈夫!?」

 

 包丁で指を切ったらしい暁に、すぐさま時雨が駆け寄る。

 そして、そばに置いてあった救急箱の蓋を開けると、手早く応急処置を始めた。

 

「ありがとう、時雨」

 

「どういたしまして」

 

 指に絆創膏を貼り、手を放すと、暁がお礼の言葉を口にする。

 最初にやらかした時は、「ありがとう……お礼はちゃんと言えるしっ」などと、目も合わさず恥ずかしそうに言っていたのだが、この短い間にもう何度も同じことをやっているので、流石に慣れたのか、今では自然にその言葉を口にすることが出来ていた。

 そう、同じようなことを、何度もやっているのだ。

 包丁で指を切っただとか、油が跳ねて軽く火傷しただとか、そんなことを何度も繰り返すうち、最初は綺麗だった暁の手も、今や絆創膏が貼られていない部分の方が少ないような状態になっていた。

 

「……ねぇ、暁はさ、どうして料理をやろうと思ったの?」

 

「へ?」

 

 そんな暁だったが、それでも弱音も愚痴も言うことなく、時雨の言葉に素直に耳を傾けながら、一心不乱に料理に打ちこんでいた。

 本当のところは、ここまでできないとなるとすぐ諦めるのではと思っていたので、どうしてこうまでして料理をするのか気になった時雨は、そのまま暁に聞いてみることにした。

 

「料理なら、雷だって出来るでしょ? どうしても覚えたいなら、無理に今やらなくても、雷にゆっくり教えてもらえばいいのに」

 

 時雨から見て、暁はどこか焦っているように見えた。単純に料理が上手くなりたいのではなく、今、誰より上手くなければならないとでもいうような。

 

「……笑わない?」

 

「笑わないよ」

 

 少し不安そうに言う暁に、時雨は断言する。

 そんな時雨に、しばらく疑わしそうな視線を向けていた暁だったが、やがて観念したかのように話し始めた。

 

「私が、雷達のお姉ちゃんだから、かしらね」

 

「お姉ちゃん……だから?」

 

 首を傾げる時雨に、暁は頷く。

 

「ほら、響って普段ぐうたらしてるところあるけど、いざ戦闘になったら誰より冷静で、対潜水艦戦なら駆逐艦の誰にも負けないし、雷はちょっと猪突猛進なところあるけど、駆逐艦としては重要な、被弾を恐れずに敵の懐に突っ込む度胸を持ってる。電も、敵を助けたいだとか甘いことばっかり言ってるけど、根が素直だからどんどん成長してて……私なんか、すぐ追い抜いちゃうんでしょうね」

 

 それでも、と、暁は決意を秘めた目で時雨を見る。

 

「私は暁型駆逐艦の一番艦、暁よ。自分勝手かもしれないけど、私はあの子達のお姉ちゃんで、越えられない、けど、いつか越えたいと願う壁でありたいの。戦闘だけじゃない、どんな些細なことでも、姉妹だからこそ、負けたくないの。それが私の、お姉ちゃんとしての意地だから」

 

「お姉ちゃんとしての意地、か……」

 

 時雨には、よく分からなかった。少なくとも、妹の夕立に戦闘では勝てる気がしないが、それを頼もしいとは思うものの、悔しいと思ったことはないからだ。

 けれど――と、時雨は自分の姉、白露のことを思い返す。

 事あるごとに一番一番と主張し、なんでもかんでも、それこそ、戦闘だろうと日常の些細な出来事だろうと、常に姉妹達の先陣を切っていた。

 時雨はいつも、白露が単に目立ちたがりなだけだと思っていたのだが――

 

(白露も、暁と同じなのかな……)

 

「ちょ、時雨! そっち焦げてる焦げてる!」

 

 物思いに耽っていた時雨は、暁の叫び声を聞くと、「あっ!」と声を上げて慌てて火を落とした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかうまくいかないね」

 

「うぅ……」

 

 さらに料理を続けたものの、やはりそう易々と上達するなら苦労はない。今や暁は手だけでなく、腕やら顔やらあちこちに絆創膏を貼っており、知らない人が見れば「どこかの海域に出撃でもしてきたの?」と言われてもおかしくない有様になっていた。

 

「いえまだよ……もう一回! 次こそはやれるわ!」

 

 しかしそれでも、暁は諦めてなるものかと、なおも包丁片手にまな板へ向かう。

 そんな暁に、時雨は言いづらそうにしながらも、なんとか口を開いた。

 

「えっと……もう無理だよ、暁」

 

「えっ、なんでよ!? 私はまだいけるわよ!」

 

 突然の終了勧告に、暁は当然のように噛みつく。

 その必死さに、若干申し訳ないような気持ちになった時雨だが、さすがにどうしようもないことなので、はっきり告げる。

 

「もう無いんだよ。……食材が」

 

「え……えぇ!?」

 

 時雨の言葉に、暁は絶句する。

 食材がないということはつまり、最初に時雨が許可を取ってきた分の食材を使い切ったということだ。そして今まで、ほとんど暁が料理してばかりで、時雨はそれを手伝ってばかりだった。

 それに気づいた暁は、申し訳なさそうにする時雨に向かって、

 

「時雨、ごめんなさい!!」

 

 深々と、頭を下げた。

 

「えっ、あ、ちょっと暁……」

 

 いきなりの事態に時雨は困惑するが、暁は止まらない。泣きそうな顔をしながら、なおも時雨に謝り続ける。

 

「わ、私、調子に乗って、時雨の分とか全く考えてなくって……私、大和さんになんとかならないかお願いしてくる!」

 

 そう言って駆け出す暁の腕を、時雨はギリギリでなんとか掴む。

 

「僕なら大丈夫だよ、暁」

 

「けど……っ」

 

 暁は罪悪感からか、もう目に涙を浮かべ始めている。そんな暁の頭にポンッと手を置くと、時雨は笑顔で言った。

 

「料理の練習は、何も自分でやるだけが全てじゃない、誰かに教えることだっていい練習だよ。それに、暁と一緒に料理出来て、今日は楽しかった。それだけで、僕は十分だよ」

 

 そう言って、優しく暁の頭を撫でる。

 しばらくの間、されるがままにしていた暁だったが、やがてはっと思い出したように時雨の手を振り払うと、顔を真っ赤にしながら距離を置き、ずれた帽子を両手で被り直しながら言った。

 

「あ、頭をなでなでしないでよ! もう子供じゃないんだから!」

 

 けど、と、暁は視線を明後日の方向に向けたまま言う。

 

「ありがとう。……今度、ちゃんとお返しするから」

 

「そう……楽しみにしてるね」

 

 恥ずかしがる暁に、時雨はもう一度にこりと笑う。

 そして、

 

「けどその前に……これ、食べちゃおうか」

 

 テーブルに並べられた料理の数々――暁の甘々料理を見て、若干顔を引き攣らせながら言った。

 

「そうね。けど、最後の方はだいぶ甘くなくなってきてたし、まだ雷ほどじゃないけど、そう食べるのが苦じゃないわよね!」

 

 自信満々に、暁は言う。ちなみに時雨から言わせれば、暁の料理はいつまでたっても甘いままだった。

 

「それじゃ、残さずしっかり食べましょ!」

 

 そう言って、暁はパクパクと料理を食べ始める。

 それを見て、時雨も意を決したのか、一緒になって食べ始めた。

 

(甘い……やっぱり甘い)

 

 調味料は間違ってなかったはずなんだけどなぁ……と思いながら、時雨は暁の料理を食べ続ける。

 ちなみに、後日時雨が夕立に料理を振る舞ったところ、なぜか異様に甘い物が出来上がってしまったという話は、ついに暁の耳に入ることはなかった。




うーん、どうしてこうなった(汗)
やっぱり書いてると、どうにも最初思い描いていた流れとずいぶん変わりますねー。これも作者の文章力不足が原因か……?
ま、そんなものは書いてるうちに上がってくだろう(適当)
というわけで、次回はたぶん雷回……いや電回? それともいい加減第六駆逐隊に出撃してもらうか……どうしよう?(オイ)
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