「ステータス、オープン!」
緒山まひろは路地裏で、こっそりと声を張った。
だが なにも おきなかった !
仰々しく天に掲げた、幼女ボディのお手々が空しく震える。
よしんば自分のステを閲覧するにしても、彼女(彼?)は天に行き先を掲げて、それは果たして見え易かったであろうか。
其処は誰にも分らない。
ただひとつ、わかっていることといえば、その場面を目撃してしまった見知らぬ幼女の呆気にとられた視線がやけに痛々しいモノを見るように憐れみが溢れてきている点であろう。
羞恥に塗れたまひろは見る見るうちに顔を朱へと染めて往く。
「あ、あのぉ、そういうのはギルドで精査してもらえるそうです、よ…?」
距離の遠い幼女の、恐々とした指摘が猶も羞恥をなぞり上げる。
まひろは顔を覆った。
イミフな科白ならばいざ知らず、周知されている情報であったことが殊更に恥に値する。
チーズ蒸しパンになりたい欲求が、自室へ戻って布団に包まって安らかにおねむしたい欲求が、得てして盛大に顔を覗かせた。
助けてヒーロー!
しかし誰も来なかった。
もうおしまいだよもう!
「い、いっしょにいきましょう…? おねがいしたら、たすけてもらえますから…」
天使だった。
ただ情けない限りだが、幼女ボディに変質してしまったとはいえ成人男性であった己の醜態を笑いもせず、救いの手を差し伸べてくれた彼女に手を引かれて、まひろは路地裏からよちよちと連れていかれる。
青めの髪が目元を覆った、ブルーなアーカイブに居そうな幼女の姿に似ている彼女と、どっこいな背丈で果たして成人と思われていないであろうことは明白な事実だが。
ただひとつ、まひろはわかったことがある。
二度目だが。
「…とりあえず、『ステータス』を最初に見れるなろうは駄作だ、ってのは回避できたな」
「はい…?」
呟かれた科白の意味は、今度は理解されなかったらしい。
何よりの成果だ。
■
目を覚ませばRPGみたいな世界観に遭遇していた。
察するに居場所は路地裏で、なんちゃって中世ヨーロッパみたいな恰好の粗野な人々が、武器を携えたりしながら人混みを行き交って過ぎ去って征く。
どうやら異世界へ転生してしまったようですね。
「おやまぁ!」
「(緒山だけに、なーんちゃって…)」と幼女はオヤジなギャグを心中で吐露。
半引き籠りで失格人間の烙印を妹より捺されていた元成人男性は、そのコミュニケーションブレイクなルナティックネガティヴスピリットに反して、あまりにも真面目みに物事を思考できない。
怠惰な人間性は「これからどうしよう…」と判断するには未だに及ばない。
【危機感】は開店休業状態で維持させられたままであった。そもそも品揃えが侘しい。
「いや、でもこれって、やっぱり俺の秘められた何かが目覚めるプロローグ、みたいな…?」
ほうらみろ。
wktkしながら思考に耽る、フリをする幼女。
その実は昨今に粗造乱設を繰り返された創作媒体に、毒された少年ハートを奮起させるだけの推考足らず。
パターンを網羅している! と見せかけだけのオマージュの森で草生えますわ~(お嬢様。
「こうなったら、いっちょ、やっちゃう? やっちゃいますか…!」
そして、
クソみたいに恥ずかしい場面を幼女に目撃されて、【冒険者ギルド】へ手を引かれる幼女の姿が其処に在った。
とても、微笑ましい絵面ですね!
「あらイノリちゃん、その子は?」
受付カウンターで対応してくれた、これまたテンプレな美人のお姉さんが優しく出迎えてくれた。
路地裏から見かけた粗野な戦闘職っぽい人たちも、屋内のそこかしこでテーブルを囲んで飲み物片手に顔を突き合わせていたりする。
とても、なろう小説っぽい、異世界な風景だった。
親の貌より見た情景。
「すぐそこで、会ったんです。えと、冒険者になりたい? みたいな子で…」
「ウチは託児所じゃないんだけどなー」
困った子供を相手にするみたいに、朗らかに。
しかし中々にシビアな内容の科白を発する受付のお姉さん。
対応としては、まあ妥当で当然なところでもある。
「あ、あのっ、ステータスだけ見てもらえることって、できますか? それだけわかれば、今日は…」
まひろはMMOで培った対応力で己の要求を明かしていた。
口にするうちに、今日は…? と漸く眠っていた危機感が顔を覗かせる。
明日は?
そもそも今日、この後でどうするべきかを決めていないし、身の振り様も無い。
電源を落とせば終われるモノでも無い、現実でまひろには今、帰る場所が無いのではないのか…?
「…ぁっ」
「ふぅん? まあ今は暇だし、それくらいなら良いわよ。簡易型精査で良いんならねー」
漸く顔を覗かせた危機感に青くなったまひろに、イノリと呼ばれていた幼女は疑問符を浮かべた。
「どうしました?」
「ど、どうしよう、俺、このあと、どうすればいいのか…」
ハロワに連れられた引き籠りみたいなリアルな体感に、まひろは足元がふわつくような不安に苛まれていた。
何もかもが遅すぎるのだが、はわわあわわとテンパったまひろの挙動不審を前にしても、彼女は平然としていた。
「そういえば、お名前をきいていませんでしたね。わたしはイノリといいます。あなたのお名前をおしえてもらえますか?」
「え、ぇと、おや、ま、まひろ、まひろ、です」
「マヒロちゃん。よき、お名前ですね」
苗字を出すのは違うのでは、と咄嗟にドもったまひろに、イノリは聞き取れた部分をリピートする。
手を取られながら、落ち着かせるように、彼女はまひろと向かい合っていた。
こっそりと、屋内の粗野な男共が『イイ…』『トオトイ…』と生暖かい目を向けていた。彼女たちは気づかない。
「じつは、わたしも
きゅ、と力の足りないようにしか思えない手がまひろの手を包む。
こんな幼い身で、粗野な男共に匹敵するはずはない。
そして、それは力の足りない己ですら奮起させる理由足り得る。
「い、イノリちゃん! 俺も、冒険者になるよ! いっしょにがんばろう!」
「こーら、勝手に決めんじゃないわよー。名乗るのは勝手でもランク査定はちゃんと取り締まるからねー」
ぎゅうっ、と握り返したまひろの頭部に、もふすこ、と紙の束が被せられた。
いやなにこの擬音、と獣臭い紙束にキメの場面を茶化されたまひろは顔をもにらせていた。
「スクロール、名前を書いて、血を一滴。小さな傷くらいホイミしてあげるから、ナイフでずぱっとやっちゃいなー」
ホイミ? あれ? 此処ってドラクエ?
思った以上の情報量に、半ば呆然としつつも、まひろは謂われるがままに云われたことを実行に移して――、
「――うげぇ…」
「え、なに、その、なに…?」
クッッッッッッソ苦々しく顔を歪めたお姉さんの対応に、酷く困惑した。
「…あー、イノリちゃんもそうだけど、これまた珍妙な子が来たなー…、どうすっかなー…」
「えぇ…、堂々と言わないでよ…、本人目の前…」
心なしか心の距離が遠い彼女に、まひろは初対面にも関わらず苦言を呈する。
お姉さんの対応力の賜物とも思える。
「んー、とりあえず、見てみ、これがキミの簡易精査だよー」
【name:マヒロ
job:
skill:すばやさアップ3 ザキガード ねむりガード】
「…え、これだけ?」
【ニート】と書かれないだけ、スクロールさんの優しみかもしれない。
「簡易だからねー。つうか防衛力だけ万全って、キミはどこのお嬢様だっつーの」
「え、そういうイメージが出る組み合わせなの? コレ?」
「むかーしにやってきた家出箱入りお嬢様とか、こんな感じのスキル配列してたわー。即死呪文や睡眠呪文への耐性が高いけどー、戦闘用スキルが無いのー。冒険者は向いてないなー」
「ええぇぇぇ…」
ビルドした覚えのないスキルツリーにまひろは呻き声を上げる。
先の決心が、奮起の心が鈍る鈍る。
心なしか、粗野な方々も『あちゃー』という感じの眼差しを向けていた。
そんなギルド内に次いで響いたのは、荒々しい怒鳴り声であった。
「何処だクソガキぃ! 出てこいやァアアア!!!」
追ってたオリジナルドラクエ転位モノいつの間にか消えてるやんけェ!
って俺が泣き崩れたので俺が書くしかねぇって思ったんだ!
追ってた奴とは一切関係の無いオリジナル笑顔溢れる本作だ!
プロット建ててみたら真島フェアリーテイルみたいな少年漫画風に換わって困惑してるぜ!
応援して、くれよな!