魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第10話『ランキングイベント』

 ◇ディティック・ベル

 

 端末が鳴り、新たにお知らせとして通知されたのはランキングイベントだった。モンスター討伐数をパーティで競い合う、というもので、期間はまる2日。つまり次回ログアウト直前までだ。イベント終了時に次回エリアが解放されているという仕様で、ランキングイベントの1位パーティがエリアクリア報酬の賞金とキャンディを受け取る。つまり、お金を目指すなら誰よりも討伐を重ねるほかないわけだ。

 対象はサイバーエリアということになっており、出現モンスターはモンスター図鑑アプリの項目にイベント獲得ポイントが併記されるらしく、通常の地獄の道化は1000ポイントと書かれている。

 

「おおっ! ランキングイベント! 燃えるっすね、こういうの。地獄サバイバルを思い出すっす」

「なに、その物騒な名前のイベント」

「カプっち知らないっすか? あの魔王塾のイベントっすよ」

 

 今度は真っ向からの実力勝負。ディティック・ベルの出る幕はないと感じる。それに、今回に限っては本当にじっとしていても次のエリアが解放されるのだ。命を賭ける意味は……。

 

「ベルっちは、休んでてくださいっす。名探偵の出番はここじゃねーっすから」

 

 戦えないディティック・ベルに居場所はない。ラズリーヌの優しささえそう聞こえてしまい、歯噛みして、地面を殴った。

 

「独りにするのは危険でしょ。メルヴィルもいるし」

「確かにっす。じゃああたしの近くで休んでてっす!」

「それならまあ……?」

「ほら、ベルっち。あたしが守るっすよ」

 

 ラズリーヌが差し伸べた手に、ディティック・ベルは恐る恐る手を重ねた。彼女の力を借りて立ち上がる。ラズリーヌに頼ってばかりでいいのだろうか。……ラズリーヌはどう思っているのだろう。死ぬのは、怖くないのだろうか。立ち上がっても、無意味に彼女のことばかりを考えていて、危うく置いていかれかけた。

 

「あ、魔法の端末がアップデートされてる。ランキングイベントのポイントが見られるようになってるみたい」

 

 カプ・チーノの端末を皆で覗き込む。わざわざ覗く必要もないが、ラズリーヌにつられて覗いていた。画面の中では、パーティメンバーの名前の並びと、数字が常に変動し続けている。現状1位となっているのは、ペチカたちが率いるチームだ。既に数十体もの討伐数であろうポイントを誇り、追い上げるには相当の努力が必要に違いない。

 

「よぉし、燃えてきたっすね!」

「そう? まあ付き合うけど。ベル、背負おうか?」

「……いや。歩ける」

 

 荒野エリアからお姫様エリア。お姫様エリアからサイバーエリアへ。先に進むことを再び選んで、どうにか自分の足で歩き出す。ディティック・ベルが求めるべき真実が何かもわからないまま、ゲームの奥の方へ。

 

 ◇たま

 

「このスコア、間違いなく何かあるね」

 

 トップを走り、今なお得点を稼ぎ続けるペチカチーム。たまのいるプフレチームだって頑張ってはいる。地獄の道化からドロップしたジャンクパーツをシャドウゲールが改造したことで光線銃が完成し、上空の敵へ彼女が狙撃手の役割を持てるようになった。プフレが索敵し、マスクド・ワンダーが切り込み、シャドウゲールが撃ち落とし、たまがトドメを刺す。最も多いのはその流れだ。だが半ばルーチン化していっても、ペチカチームのスコアは短時間で一気に増える。ペースには波があり、ぴたりと止まったかと思うが、またしばらくすると突然一気に加算される。結果として差は開いていき、2位か3位を争う形になっていた。

 同様にマジカルデイジーチームの追い上げも激しいものだったが、そちらはまだ常識的なペースだと言える。ライバルの範疇だ。……逆に言えば、ペチカチームの側には仕掛けがあるとプフレは判断した。

 

「私の目で見てくるよ」

 

 これまでもプフレは単独で別れ、情報収集を繰り返してきた。それ自体は不思議じゃないが──。引き止めるべきか、ふと手が伸び、プフレに振り向かれた。

 

「メルヴィルの件かな?」

「……はい」

 

 彼女はすぐまた襲ってくる。もしかしたら今すぐにでも、という思いが離れない。あの音楽家を思い出してしまうからか。プフレは表情の一つも変えず、絵画のような微笑みだけで答えた。

 

「彼女の狙いは君だ。あれだけ言って、あの目を君だけに向けていた。プレイヤーキルのつもりでさえない、私怨の類と見た方がいい」

「そう、なんでしょうか」

「何にせよ、警戒するに越したことはないがね。不安なら私と来るかい?」

「え、でも」

「君の爪なら掴まっていられるんじゃないか」

 

 たまは思わず自分の肉球手袋と、プフレの車椅子を交互に見た。あの速度で振り落とされるなということ。車椅子が二人乗りになるわけがないので、たまは仕方なく頷き、車椅子後方の持ち手に掴まった。

 

「というわけだ。行ってくるよ」

「どういうわけですか」

「ここは任せて!」

「返事が気持ちよすぎる……!?」

 

 説明のないプフレにあっさり納得するマスクド・ワンダー。いつものことながら仕方なく、道化狩りの方に集中するシャドウゲール。みんな振り回されっぱなしだが、彼女らが作業に戻るなり、車椅子はその魔法動力をロケットスタートさせる。あまりに急な加速に吹っ飛ばされそうになり、必死でしがみつく。荒野エリアでそうしたように、サイバーエリアの端から端へ……とまではいかないが、一気に探る。途中でモンスターと遭遇するのを振り切り、他のパーティを探す。先にデイジーの方と出くわすかと思っていたが、それほど遠くへ行かないうちに、大きな破壊音がして、大規模な戦闘の形跡と建物の破壊を辿った先を察する。この先だ。ここからは速度よりも隠密を選び、たまはようやく風圧から解放された。

 

「こっちの方だね」

「……!? あ、あれは……?」

 

 周辺のビルが切断され、倒壊の轟音が再び鳴り響く。誰か──恐らくはあの巫女服の魔法少女、御世方那子の歓声がさらに聴こえて、ほぼ確定だ。瓦礫の物陰に隠れて覗いて見ると、戦闘はひと段落したところらしく、ペチカ、リオネッタ、御世方那子と、もうひとつ、無視できない巨大な影が並んでいた。

 

「あれは……」

「乙女竜ラ・ピュセル・ドラゴン……か。多数の地獄の道化を一気に狩り続けているのはあれを味方につけているから、ということだね」

 

 ラ・ピュセル──これもまた、クラムベリー最後の試験にいた魔法少女だ。言われてみれば確かに面影がある。アイシャドウや瞳孔、胸部の膨らみもそのままだ。決め手は尻尾だ。ラ・ピュセルが持っていた剣が先についており、伸縮自在なのも継承している。ラ・ピュセルには一撃でのされた経験がある……が、このラ・ピュセル相手だとそれではすまないと直感する。

 

「……1億ポイントか」

「えっ?」

「ラ・ピュセル・ドラゴン討伐のポイントだ。これを使って逆転しろ、と言わんばかりだね」

 

 モンスター図鑑には確かに、ラ・ピュセル・ドラゴンの情報のほとんどが伏せられているにもかかわらず、ランキングポイントが非常に高いことを記していた。

 

「君の穴を掘る魔法で鱗を剥ぎ、マスクド・ワンダーがとどめを刺す……という形なら勝てそうかな?」

「えっと……そ、それは危ない、かも」

「だね。よし、それは最終手段として」

 

 プフレはくるんと、器用にも車椅子をその場で回転させる。

 

「車庫を探そう」

 

 車庫? いきなりの発言に首を傾げ、前回のねむりんスロットの報酬アイテムが車庫の鍵だったことを思い出した。そして、こちらはペチカチームに見つからないうちに動くため、再び、車椅子移動とは思えぬジェットコースターにより帰還することになる。吹っ飛ばされそうな思いをして、犬耳フードが脱げて髪の毛がぼさぼさになりながら、2人の下へ。すごい前髪ね、と評され、たまは慌てて肉球で整えた。

 

「たまには伝えたが、地道な討伐はやめだ。車庫を探す」

「確かに……あ、アイテム図鑑にはこのエリアだってありますけど。でもいいんですか? ランキングイベント」

「その逆転のための賭けさ」

 

 いきなりチームの方針が変わるのは何度目か。ただ、プフレの提案が役に立たないことはこれまでになく、たまとしてもなんとなく従うべきものだと嗅覚が言っている。ちらりとマスクド・ワンダーの方を見ると、彼女もちょうどこちらを見て、苦笑した。

 

「だんだん慣れてくるわね。シャドウゲールはいつもこんな感じの気分なのかしら」

「勘弁して欲しいんですけどね」

 

 探すものがモンスターの群れから車庫に変わった。そして、探すこと数時間。派手にドラゴンが建物を壊していたことを思い出して、壊されていてくれるなよと願い始めたところで、見つかった。見るからにガレージ。普通の車庫よりは大きめのものだ。発見の感動というより、本当にあるんだ、という感覚が強く、呆然としている間にシャドウゲールが鍵を使う。パーティ全員の視界がぐにゃりと歪み、ワープという形で、隠しエリアへと飛ばされた。

 

 そしてその先にあったものとは。

 

「……デコトラですね」

「デコトラだね」

「デコトラね」

「……で、デコトラ? なのかな?」

 

 派手な電飾と『魔法少女』の文字が目立つ、魔法のトラックであった。 

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