魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第11話『ドラゴン事変』

 ◇シャドウゲール

 

 ランキングイベントが終わるまでに、発見したデコトラを無敵戦車に改造しろ。プフレから突きつけられたのはそんな無茶ぶりだった。

 車庫の中には目立つデコトラと、それに伴うエンジンキーやカー用品がいくらか、そして一人では持ち運べないほどの超大型盾『ビッグシールダー』があった。本来はこれで大盾を運搬しつつ移動拠点として使ってくださいという構成なんだろうと思えたが、シャドウゲールの魔法は『機械を改造してパワーアップできる』だ。ランキングイベントを途中まで走ってドロップしたジャンクパーツを使えば、素材は豊富にある。レンチとハサミを両手にガレージの中に籠り、主に運転席を中心に改造を続けていった。

 大盾は運べる気がしないので合体させてしまって、前面に取り付け衝角にする。1個では大きすぎるので分割して三本だ。これで攻防一体だ。さらに全体にはできるかぎりのミサイルやガトリング砲を装備。片っ端のパーツにミサイル発射機構を取り付けたせいで見た目がどんどん火薬庫か何かに近づいていったが、電飾を光らせれば逆に馴染む。割り切って、武器は過積載並に積んだ。忘れずに緊急脱出ボタンを設置したら、その色々を操作するコントロールパネルを増設して、表面を頑丈になるように少し手を加え直して完成。

 見た目はおどろおどろしいというか、輝く電飾、前に大きく突き出した恐竜めいた三本角、明らかに大量に装填されたミサイルはそれぞれ威圧感満載で、これが走ってきたら誰でも逃げるレベルのものが誕生していた。

 

「す、すごいじゃない! 名前は……決めているのかしら?」

「え? いや名前は……」

「じゃあシャドウゲール号ね!」

「えっ私の名前……?」

 

 自分で作っておいて自分の名前をつけるのははばかられる無骨さというか、いっそドラゴン絶対蜂の巣号とかの方がいいのではと思う。いやそれもどうかと思うが……。

 

「完成かな?」

「はい」

「お疲れ様。少し外に出よう」

 

 制作時間はほぼ半日。ガレージから出ると、サイバーエリアの灰色の空が真っ暗になっていた。額の汗を拭い、突貫工事だが達成感を味わった。プフレから携帯食料を受け取って、ワイルドに齧る。相変わらず味気ないが、いつもより美味しい気がした。

 

「夜が明けたら出発しよう」

 

 ◇リオネッタ

 

 ドラゴンのお陰でマジカルキャンディは高速で溜まり、おかげでサイバーエリアのショップに並ぶものはほとんど購入できた。なぜかドラゴンが倒したものもペチカの端末にカウントされていたのだ。その中でも翻訳アプリが購入されたことで、断片的ながらドラゴンの咆哮も翻訳できるようになった。内容は意外とキザな台詞が多く、画面の表示は有益そうではないため、リオネッタはそれを見る担当から率先して外れた。翻訳アプリが渡ったのはペチカだが、この得体の知れない竜に頼っている以上、翻意や乱心には警戒しなければならないのには変わらない。臆病な彼女が持っているくらいでちょうどいい。

 

 そう思っていたはずなのに。

 

「そろそろ休憩にしマスカ」

 

 ドラゴンの打ち漏らしをちょっと叩き落とすだけの作業を続け、気がつけばランキングは現在独走状態。現在2位のマジカルデイジーチームとは約24万ポイント差だ。数にして240体、多少手を抜いたとして追いつかれることはないと見ていい。時間的にも、もうほとんどイベントは終了しているわけで、これをひっくり返すモンスターは存在しない。

 ──ただ、ドラゴン自身を除いては、だが。これをいきなり倒せる魔法少女はそうそういまい。

 リオネッタは息をつき、那子に賛成。ペチカにも伝え、彼女がドラゴンに「休憩にするよ」と呼びかけることで彼女も索敵と戦闘を中止し、一旦モンスターの出なかった位置まで移動する。

 

「いやー余裕デスネ、最高デスあの子。クランテイルさんいなくてもなんとかなりそうでよかったデス」

「油断していると斬られますわよ」

「マサカ!」

 

 ペチカの調理を待つ5分間。那子は楽観的だ。いや、自身の動物を従える魔法で操れているわけではないというのに、楽観的すぎると言った方がいい。苦言を呈しても彼女には通じないわけで、言うだけ無駄だ。

 

「で、できました……!」

 

 ペチカは律儀にも、ドラゴンのぶんまで料理を作っていた。こちらには片手で食べられそうなホットサンドを。一方ドラゴンのご飯と言えばということでイメージから、ありがちなマンガ肉が大きくどんと、待機しているドラゴンの目の前に置かれた。喜んでがっつくかと思いきや、無反応。ペチカの料理を供されて無反応とは失礼なやつだ。リオネッタは一足先に舌鼓をうつ那子に続き、上品に、しかし我慢できずにかぶりついた。食事の時間は皆、舌に集中する。おかげで静かだ。その中に、低い唸り声が聴こえた。

 

「ドラゴンさん?」

 

 ペチカは慌てて翻訳アプリを立ち上げた。

 

『次は何をすればいい?』

「えっと……」

『主はこのゲームに勝ちたいのか?』

「か、勝ちたいっていうか……そう、だけど……」

『勝利のためにこの剣を捧げよう』

「……?」

 

 ドラゴンが立ち上がる。こちらへ一歩、二歩と近寄ってくる。なんのつもりだと、咀嚼ついでに顔を上げると、その時すでにドラゴンはその手を振り上げていた。

 

「ッ!!」

 

 リオネッタは突き飛ばされ、代わりに飛び込んだ那子がその一撃を受けた。彼女の体は大きく吹き飛び、近くの建物に叩きつけられ、その壁を突き抜けていった。悲鳴が聴こえるでもなく、那子は戻ってこない。またしても理解を超えた事象が起き、リオネッタは動けなかった。狙いはまだこちらに向いている。今度は尻尾が来る。振り上げたものが巨大化して、周囲を覆うように叩きつけられる。リオネッタは全速力で駆け、先程那子が貫いていった壁の穴をくぐり、中に転がり込む。道のほとんどは剣に潰されたが、建物内は無事だ。そして倒れている那子を見つけ、担ぎ上げる。

 

「なんという無茶を……!」

「体が勝手に……ってやつデス……」

「喋らないでくださいまし! 死にますわよ!」

「ペチカさんは……」

 

 リオネッタとしたことが。ペチカはまだ残されている。ドラゴンが暴走したということは、彼女も身の保障はない。だが荒げられた声が響いてきて、無事だけは確認できる。

 

「なんであんなことしたのっ!!」

 

 返答であろう唸り声を挟んで、彼女の嗚咽混じりの叫びが続いた。

 

「そんなこと望んでない……! 私のためだからって、リオネッタさんも那子さんも……パーティの仲間なのにっ!」

 

 まだペチカと話が通じているのか。今のうちだ。リオネッタはこっそり、ペチカ宛に自分も那子もなんとか無事である旨を告げ、ここは一度離れる。建物の反対側から硝子を割って抜け、まずは離れようとする。と、騒ぎを聞きつけたのかばったりと、他のパーティに出会った。口先の達者な車椅子、プフレとその仲間たちだ。

 

「ど、どうしたんですか」

「……話は後でいたします。とにかく、この女を」

「ちょっと待つデス、リアルドール……ペチカさんなら私も……」

「黙っていなさい! 怪我人なんて足でまといに決まってましてよ!」

 

 呆気に取られた犬耳の魔法少女に那子を押し付け、リオネッタはすぐさまペチカの下へ戻ろうとフリルを翻す。そのスピードに併走して、先のパーティのぴっちり黒スーツがついてくる。

 

「助太刀するわ。正義として見過ごせないもの」

「それはどうも。言っておきますけれど、相手はドラゴンですわよ」

「いいじゃない、ヒーロー番組みたいで」

 

 丁度いい。こいつを囮にしてやる。リオネッタは彼女を先行させた。彼女は軽やかにビルの壁を蹴ってドラゴンの視界へとエントリーすると、同時にドロップキック。純粋なキックとは思えない重い音がして、ドラゴンがひるみ、狙いがそちらに変わった。

 

「我が名はマスクド・ワンダー! 力ある正義の体現者『魔法少女』!」

 

 高らかに名乗りをあげる彼女、マスクド・ワンダー。完全に注意はそちらだ。再び軽やかに、とんとんと振るわれる大剣や爪をかわし、その間を縫ってリオネッタが後方で縮こまるペチカにたどり着いた。

 

「大丈夫かしら、ペチカさん」

「リオネッタさん……あの、なんで、私」

「怪我はなさそうですわね。那子も生きてます。心配しないでくださいまし」

「あ、あの、ドラゴンさん……善意で皆さんを……」

「……ペチカさんに対してあまりにも過保護になった、と?」

「そういう感じのことを言ってたと思い……ます」

 

 まさにモンスターペアレント。なんて例えを思いついて唾棄した。何故そこまでしてペチカの剣だと言うのか。そういう風に作られたモンスターなんだろうか? だとして、なぜペチカだけ? 戦う力のない魔法少女へのハンデのようなものか?

 リオネッタは顔をしかめ、とにかく戦場から離れようと彼女を抱き抱える。

 

「あれは……!」

 

 そしてふとドラゴンの方を見て目に留まったのは──先程シャドウゲールが乗っていた、あの珍妙な乗り物。電飾を輝かせた異様な来訪者が、ドラゴンを前に対峙していた。

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