魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第12話『それいけ!シャドウゲール号』

 ◇シャドウゲール

 

 ギラギラ輝く電飾、その中央には大きく『魔法少女』の文字。その光が3本の角にも鈍く反射し、纏ったミサイルの帷子が見るものを震撼させる。これこそシャドウゲールが作り上げたデコトラ戦車シャドウゲール号だ。やっぱり名前はこれじゃない方がいい。

 だがこうも言ってられないのは、この場が完全に実戦投入の場だからだ。マスクド・ワンダーがまずは戦闘を開始し、時間を稼いでくれていた。よって、彼女が合図とともに離脱したら、そこからはこちらの仕事だ。ハンドルを持つ手が震える。免許はないが、これはゲームの中。ドライブ系のゲームで培った経験でいけるはずだ。

 

「!」

 

 マスクド・ワンダーが幾度目かの回避の後、隙を見て勝利のポーズを決めた。つまり、右手を高く掲げ、左手で胸を押さえた。来た。エンジンのキーを思いっきりひねり、点火。重低音とともに駆動をはじめるトラック。アクセルを踏み込み、発進とともにボタンを押し込む。

 

「目標、ラ・ピュセル・ドラゴン! 発射ぁ!」

 

 本来なら荷台である部分の側面から、次々と発射されていくミサイルの群れ。地獄の道化から剥ぎ取ったものの強化版だ。それが波濤となって押し寄せる。さすがのドラゴンも爆風に目を細め、押され気味だ。反撃に振り下ろされる刃は無理やり曲がって回避。ドラゴンの周囲を旋回しながら連射を続ける。そして撃ち尽くしたミサイル台の奥から、さらに新たな射撃機構が出現。シャドウゲールの操作で火を噴く。

 

「いっけえ! 44式ビームキャノン!」

 

 車両後部から放つ極太のビーム。最初は剣を盾に防御し、そのまま前進して押し返しに来る。だがそこへ叩き込むのは新たな装備だ。ビームキャノンの前方の荷台が変形、中からせり上がってくるのは砲塔。迫撃砲だ!

 ドカンと響く轟音、直後に着弾。ビームの対応に気をとられていたドラゴンの背面に当たり彼女を怯ませる。剣がズレた瞬間に照準を変え、下肢と尾の境にビームとミサイルの集中砲火を食らわした。ドラゴンの装甲には少なからずダメージが入っている。このままいければ……!

 優勢に思わず口元を歪めていたシャドウゲールだが、次の瞬間、不意にドラゴンが突っ込んでくる。長い車体の都合上、急な移動は難しい。ビーム砲を最も邪魔だと認識したのか、真っ先に車体後方が狙われる。腕の一撃が砲台の先を叩き壊し、砕けた鋼が地面に散らばる。さらに迫撃砲も次弾の装填より先にやられ、三段目の機構を隠した場所まで手が伸ばされたところで、苦渋の決断を下す。秘密の一発、切り離しボタンだ。荷台を切り離す。そして──ドラゴンの抱えていた荷台から爆炎が噴き上がる。衝撃にガラスが揺れ、破片が舞う。炎の中でドラゴンがシルエットになってなる。ロケットランチャーのロマンは炎に消えたが、それはそれ。ここからが決戦だ。炎を振り払い、煤と傷で彩られたドラゴンが現れる。シャドウゲール号のフロントガラスに、対峙する竜と魔法少女の顔が重なった。

 

「これで……決める!」

 

 ハンドルを強く握り、再びアクセルを踏み込んだ。三本の衝角を活かす単純な突撃だ。突っ込んでくるのがわかっているなら、ドラゴンだって対応は決まっている。剣の尾を巨大化させ、横に振り抜いてくる。想定済みだ。躱す手段は1つ、ボタンを叩き割る勢いで押し込み、車体下部からバネを解放。車体が思いっきりジャンプして剣を回避し、上空で全エンジンが噴射を始める。横には高速回転、縦には全力噴射による加速。防御力を貫通力へと変えた一撃が、上空からドラゴンへと突き刺さる──!

 

「緊急……脱出ッ!」

 

 接触の瞬間にシャドウゲールが車体から弾き出され、地面に全身を強かに打ちつけた。転がりながら距離を取る。振り返ると、そこには胸元に三本角が突き刺さったドラゴンの姿。そして凄まじい爆発が巻き起こり、思わず顔を腕で覆った。駆け抜けた爆風の熱さがなくなって、ようやく目標の方を見る。やったか……? 半信半疑で見ると、そこにはドラゴンがまだ立っていた。尾剣を杖代わりにして、なんとか、だが。シャドウゲールは腰の光線銃を抜き放つ。しかし、ドラゴンの目線の先は、もはやシャドウゲールではなかった。

 

「ドラゴンさん……」

 

 ぽつりとこぼしたのは、リオネッタの陰に隠れていたペチカだった。そういえばこのドラゴン、好き放題暴れていたが、元は彼女のパーティに協力していたんだったか。彼女からしたら、まだ味方であるかもと思える相手かもしれない。シャドウゲールは銃口をドラゴンへ向けるのを躊躇った。ドラゴンの目線はペチカへ向いている。攻撃の気配はない。

 

「……ペチカさん。貴女のことは私が守りますわ。ですから、あの竜のことは」

 

 クランテイルが──目撃もなにもなく死亡とも言えない──行方不明だとわかった時、不安定になっていたのは彼女、ペチカだった。その不安を、この強大な竜の存在は埋めていたのだろうか。それが後々にして裏切るとは、ゲームマスターも悪趣味なことをするものだ。リオネッタから、ペチカのことは大丈夫だから、というような目線を貰い、シャドウゲールは頷いた。気がつけば震える手だったが、それでも大きな的を外すことはなかった。衝角が突き刺さった痕であろう胸の大きな傷、ひいてはその奥で拍動する彼女の心臓に向かって、引き金を引いた。

 

 細い光線が肉を焼き、貫く。露出していた赤い肉はひときわ大きくどくんと脈を撃つと、そこから鮮やかな紅を溢れさせていった。ドラゴンはそれでも倒れることはなく、ペチカに向かって礼をするような体勢のまま、瞳を閉じた。

 

『ランキングイベントは以上で終了となります。お疲れ様でした』

 

 機械的な通知音声が鳴り、肩の力が抜ける。肩だけじゃない。全身抜けて、へたりこんだ。今になって、緊急脱出の時の痛みがずきずきとやってくる。駆け寄ってきたマスクド・ワンダーに合わせる気力はほとんどなかったが、辛うじて片手をあげ、ハイタッチをした。爽やかな汗が、煙の匂いの中に混じって跳ねた。

 

 ──それから、ランキングイベント結果発表のための強制移動が行われた。視界が一斉に歪み、気がつけば皆が一堂に会している。疲労が残るシャドウゲールはマスクド・ワンダーの肩を借りた。御世方那子も被ダメージが残っているだろうが、彼女の方はたまに絡んでいた。オーヨシヨシ、たまちゃんカワイイカワイイネ〜と明らかな小型犬扱いが聴こえてくるし、なんならたまも遠慮がちながら満更でもなさそうだ。

 ふいに思い出して、周囲を見回す。最も警戒すべきメルヴィルに関しては、他の魔法少女たちから距離を置かれた状態で、ひとりただ立っていた。姿を見せている。事を起こそうという雰囲気はない。一方、やはりと言うべきか、クランテイルは見当たらない。状況に変化はないということだった。

 

「実質エリアボスの討伐、おめでとう」

「……どうも」

「楽しかったかい?」

 

 プフレからの言葉に、頷くのははばかられた。なんとなく、ペチカのことが頭に過ぎったせいだ。彼女自身は平気そうにしているが、よく見ると、その手はリオネッタのケープをぎゅっと握っていた。

 

「結果発表だね」

 

 呟きとともにファルが現れる。丁度3日ぶりといったところだろう。相変わらず浮遊しながら、緊張感もなく話し始める。

 

『結果を発表するぽん。集計の結果……優勝はペチカ・御世方那子・リオネッタですぽん』

 

「……はい?」

 

 耳を疑った。完全に勝った、と思っていたのに。

 

「ちょっとちょっとちょっと、あの、私、ドラゴンとか倒して」

『いやぁ、ラ・ピュセル・ドラゴンの討伐もお見事だったけど、ギリギリ集計期間外になっちゃったぽん』

 

 絶句する。そんなことがあっていいものか。確かに時間はギリギリだったが、通知が来たのはドラゴンを倒してからのはずで……。思わずシャドウゲールは魔法の端末を起動する。皆の視線が注がれているのにも構わず、大急ぎでキャンディ数を確認した。増えている。モンスター図鑑を見る。ラ・ピュセル・ドラゴンの情報が更新されていた。

 

『ラ・ピュセル・ドラゴンは主のためならば、どんなダメージも耐え凌ごうとします。心臓を貫いても何分かは戦い続けるので注意!』

「……んな馬鹿な」

 

 言われてみれば、ドラゴンは礼をして目を閉じただけだ。よく見たら心臓は穴が空いてなお動いていたかもしれない。確認していなかったが、あの瞬間にはキャンディが増えていなかったのかもしれない。倒したその瞬間の安堵よりも思いっきり力が抜けて、シャドウゲールはゲーム始まって以来一番のため息をついた。

 

『え〜っと……まあ3位のプフレチームは残念だったぽん。今回のログアウトイベントはこの結果発表がありましたのでなし。では、残り6時間後にログアウトとさせていただきますぽん。また次回会おうぽん〜』

 

 シャドウゲールは心の中で、間違いなく戦友であったシャドウゲール号に謝ったのであった。

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