魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第14話『密林エリアの歓待』

 ◇ディティック・ベル

 

 ──ランキングイベントが終わり、その次のログアウト期間。ディティック・ベルは変身を解き、『氷岡忍』として、ラピス・ラズリーヌの足跡を追った。氷岡忍自身も探偵事務所の下っ端のようなものだが、その仕事を全部休みにして、こちら側に力を注ごうと決めた。ラズリーヌの魔法の端末のアドレスにあった電話帳、その市外局番からおおよその地域を把握し、後は足で稼ぐ。繁華街に揉まれながらこっそりと魔法を使う。建物に話を聞き込み、あれも違う、これも違うと次から次へ建物の壁にこっそり口付けしていく。

 だが三日間では有益な情報は得られなかった。せっかく繁華街に溶け込めるような格好を揃えたのだが。……本職のお姉さま方からすれば薄化粧の地味女に見えるだろうが、忍のできる精一杯だ。そのうえで話しかけてくるナンパや客引き、酔っ払いに阻まれ、捜査は難航したままゲームの中に戻ってきた。ラズリーヌはすぐに、カプ・チーノはそれより少し離れた位置にいるため、2人で迎えに行く形でパーティを合流。そして迷宮エリアの探索に張り切ろうとした。

 

「ベルっち、次のエリア解放されてるみたいっすよ」

「え?」

 

 入って歩いて割とすぐ、ボス部屋らしきものに到着。広場ながらそこに何もいないことを確認した。3人して出遅れたらしい。

 

「名前は密林エリアらしいっす。前のログアウトまでにギリギリ突破してたみたいっすね」

 

 迷宮エリアで何をすることもなく、仕掛けられていた罠も秘宝も全部スルーすることになってしまったようだ。仕方ない。キャンディ効率や武器防具の補正値は後発の方が当然高い。わざわざクリアしたエリアを後から探索する価値は薄い。仮にレアイベントを見つけたら話は別だが……。

 

「一応ショップは覗いた方がいいのでは」

「ベルっち休憩中に見てきたっすけど、このエリア専用の地図とかモンスター避けの鈴とか、あとモンスター倒す時に使うとアイテムが出やすくなる薬があったっす。カプっちと相談して、ちょっとだけ買っておいたっすよ」

 

 いつの間に。この解剖用水溶液……というらしいアイテムはレアドロップでも確実に落とせるあたり使い道はありそうだが、モンスター図鑑とにらめっこし続けなければ使いどころが見い出せなさそうだ。事後承諾だが気にしないことにする。

 

「武器や盾は次のエリアにしよ。出遅れたぶん、追いつかないと」

 

 カプ・チーノの先導で、次のエリアへと移動する。入口に踏み込むといつもの如く視界が歪み、肌に当たる空気が一気に変わる。陰鬱な迷宮の空気から、高温多湿の、また別方向に嫌な環境へと変わって、ディティック・ベルは眉をひそめた。密林エリアという名前の通り、周りには木々が生い茂り、閉塞感は迷宮エリアとさほど変わらない。だが何よりも嫌だったのは、視界が晴れると同時に耳に飛び込んでくるいくつもの銃声。横殴りの衝撃を受け、それがラズリーヌによって銃撃から助けられたのを認識すると、ディティック・ベルも身構えた。

 

「なに、もう始まってるの……!?」

 

 状況を再確認する。撃ってきたのは豹頭人身の獣人モンスターだ。本物の銃器を手にしており、さらにそれが何体もいる。モンスター図鑑を開くと、新たなモンスターが2種登録されていた。うち片方、『極道獣』がこいつらだ。向こうの方では他のチームが同種と戦っているのか、銃声が絶えない。

 

「向こうの方に合流! この数、一緒に戦った方がいい!」

「また物量って……!」

 

 ラズリーヌは何も言わずディティック・ベルを抱えあげ、その場を離脱。カプ・チーノはその背中を狙っていた極道獣にローキックからの首筋への手刀を決めて撃破してから続く。追手はあるが、対処できないほどではない。森の中でツタをかきわけ、突っ込んだ先では既に何人もの魔法少女が交戦状態だ。特に2人、多く敵を引き付けている役がおり、ディティック・ベルは抱えてくれていたラズリーヌの腕の中から降りるとともに頼む。

 

「ラズリーヌ、あっちの手助けをお願い」

「はいっす!」

 

 彼女は猛スピードで戦場に合流。突っ込む飛び蹴りで数体を蹴散らし、両手を顔の横でクロスさせてポーズを決めた。

 

「戦場に舞う青い煌き! ラピス・ラズリーヌ!」

 

 決めポーズは隙があるように見えてその実完全な戦闘態勢である。獣たちは名乗りに引き寄せられていく。その事実を差し引いても形から入っただけかもしれない。しかしそれでは終わらない。先陣を切って戦っていた魔法少女にも伝播する。

 

「我が名はマスクド・ワンダー! 力ある正義の体現者『魔法少女』!」

 

 続いてマスクド・ワンダーも名乗りをあげる。彼女が勝利のポーズを決めた直後にも銃撃や襲撃が相次ぐが、難なく蹴散らし、背中合わせになった彼女らは互いに視線だけを向け、頷き合った。なにか通じあっている。

 そしてその彼女らを取り囲んだ獣たちを、飛来した光芒が焼き尽くした。否、消し飛ばした、という方が正しい。

 

「戦う花のお姫様……マジカルデイジー!」

 

 マジカルデイジーは得意のビームによって周囲の雑魚を払い、流れるようなデイジーポーズ。ラズリーヌとマスクド・ワンダーにわざわざ波長を合わせに行ったらしい。言わなければならないわけでもないのに名乗った彼女にも、極道獣は一斉に集まっていく。その中で、恐らくは夢の島ジェノサイ子が「あれは! 児童誌で1回だけ使われたオリジナル口上!」と感銘を受けていた。

 とにかく、大多数はあちらに任せてもいいだろう。銃弾程度でどうにかなる魔法少女ではない。彼女らの戦いぶりには観せる余裕がある。

 

 ディティック・ベルはラズリーヌたちの戦いぶりにほぼ見惚れていたが、気がつくと隣にカプ・チーノがいなくなっていた。どこへ行ったと姿を探し、すぐに見つかる。フライ返しを振り回していた魔法少女、ペチカが銃弾を慌てて避け、転び、そこへ追撃しようとしていた個体をカプ・チーノがジャブからのキックで助けに入った。ペチカはしばらく呆然としていたが、新手がすぐやってきたのを見て気を取り戻し、フライ返しを再び構えた。そして、突っ込んできた個体を思いっきり打ち、クリーンヒットにより撃破に成功。カプ・チーノの方から手を差し出し、握手を交わす。

 

「やるじゃん、ペチカ」

「え、へへ……あれ? 名前……」

「……あれ? なんで知ってるんだろ。名乗ったっけ?」

「失礼、皆の前でリオネッタが呼んでいたのでは」

 

 割り込む形にはなったが、ディティック・ベルがペチカの名を知ったきっかけを告げる。ペチカもカプ・チーノもああそうか、と反応したものの、どこか違和感があるらしい。ディティック・ベルにはない。

 

「とにかくこの場をなんとかしないと……あぁ、まだまだいる。ペチカ、まだ平気?」

「う、うんっ」

 

 木々の中から飛び出してきた極道獣に皆で反応、身構えてどう仕掛けるかというところで、その背後に忍び寄る人形が鉤爪で首筋を撫で、鮮やかに絶命させた。溢れ出す返り血をひらりとすり抜けながら、こちらにやってくる。リオネッタだ。

 

「ペチカさん! ご無事ですの!?」

「う、うん。チーノのおかげで」

「チーノ?」

 

 リオネッタの顔がカプ・チーノに向いた。それからすう、と吸い込み、いつの間にそんなにお近付きになられたのです、羨ましいですわ、私のこともぜひもっと親しみを込めて呼んでいただいて構いませんことよ──と、ディティック・ベルが聞き取れる限界ギリギリの早口で言葉が連ねられた。ペチカはその押しの強さに半笑いだった。

 

「こちらの方はある程度片付きましたわよ。向こうの方で、巫女と犬が喜び勇んでいるようですが」

「ラズリーヌたちに加勢はむしろ邪魔そうだし、そっちに合流して突破を目指した方がいいんじゃない」

 

 ディティック・ベルも概ね同意見だ。4人並んで、リオネッタが先導する形で歩き出して、獣との戦闘ではないつかの間の一時に汗を拭う。やや暑い。走り回ったせいだろう。帽子を取り、こもった熱を取ろうとし、ふいに上空を見た。いくつもの影がある。鳥だろうか。ディティック・ベルたちの頭上を旋回している。

 ……鳥? これまで、ゲーム内にモンスターと魔法少女以外の生き物は出てこなかったのに? そう思った瞬間、上空の影は一気に加速をつけ──地上に向かって突っ込んでくる。

 

「上から来るっ!」

 

 咄嗟のことでそれしか言えない中、リオネッタのすぐ後ろを歩いていたペチカが振り向いて、彼女を庇おうとリオネッタが前に出て、カプ・チーノも駆け出した。その1秒に満たない時間がスローモーションに思えた。ディティック・ベルは行動できないまま、目の前で突っ込んできたモンスターが地表に激突し、爆炎を噴き上げて炸裂した。

 

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