魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第15話『持つべきものは』

 ◇たま

 

「いったた……」

 

 極道獣の群れとの戦闘中、大規模な爆発が発生。たまも含め、多くの魔法少女が巻き込まれた。空を飛ぶモンスターが自爆覚悟の特攻をしてきたらしく、モンスター図鑑を確認すると確かに自爆をするモンスター『高速の狂鳥』が登録されていた。しかも群れで行動するらしく、爆発の規模が大きかったのはそのせいのようだ。吹き飛ばされてここまで来たんだろう、背中が痛い。

 パーティメンバーは無事だろうか。不安が過ぎる。マスクド・ワンダーは心配いらないとしても、車椅子のプフレ……は、彼女ならうまくやっていそうだ。心配するべきはシャドウゲールかもしれない。まずは魔法の端末から地図を開き、パーティメンバーの居場所が表示されるように祈った。マスクド・ワンダー、プフレ、シャドウゲール、皆バラバラでここからはかなり遠くにいる。加えてこのエリアの特性なのか、道の詳細がわからない。マップ内に木々の壁が書かれておらず、誰かのところに行こうと地図を見ながら歩いて、思いっきり壁に激突した。そして歩き魔法の端末はやめようと決意。再度確認をして、唯一の手がかりとして、シャドウゲールが何かの建物の内部にいるらしいことを認識した。

 皆から離れていたたまは、木々の群れの中を探して回ろうと、ひたすら鼻を幹や地面に近づける。木々の匂いの中に混じる魔法少女の体臭を辿るのである。例えばマスクド・ワンダーならわかりやすくゴムや汗の匂いがするし、シャドウゲールは機械や薬品のような匂いがする。するといっても、嗅覚に長けた魔法少女でなければ気にも留めない残り香だが。

 

「……あ」

 

 見つけた。アンティークな木材に香水をかけたような匂い。追って駆けて、口論が聴こえるようになり、やがて声と匂いの主を見つけた。

 

「ですから! 早くペチカさんを探しに行かなければ……!」

「そのために! 足になるモンスターを手に入れるべきデース!」

「回り道している暇などありまして!?」

「急がば回れって言葉もありマース! ガムシャラに探し回って見つかるなら苦労はしマセーン!」

 

 どう見ても話に割って入れる状況ではない。どうしようと右往左往し、見つからないよう縮こまり、ふいに喧嘩中の那子に見つかった。

 

「オー! たまちゃん! こっちおいで〜!」

 

 普段なら喜んで駆け寄りそうなところ、躊躇いながら歩み寄った。リオネッタは一瞬ハッとしたような顔をしたが、また焦りの表情に戻ってしまった。そうだ、彼女らのパーティのうち、ペチカだけ姿がない。地図アプリを使い場所を確認したはいいが、そちらに向かえる道がない、と那子が言った。聳え立つ木々は入り組んだ壁となっており、上空にはあの自爆する鳥も飛んでいる。逆側に遠回りし続けてここに来たとか。

 

「あ、あの、じゃあ……」

 

 恐る恐る手を挙げた。

 

「私の穴を掘る魔法なら、なんとかなりませんか?」

 

 リオネッタと那子が顔を合わせ、双方揃って目を輝かせた。左右から同時に手をとられ、驚く間もなく頼みが浴びせられる。

 

「ナーイス! さすがたまちゃんデース!」

「えっ、あ、はい」

「早速お願いできますこと、一刻を争いますわ」

 

 勢いに流されるがまま頷いた。もちろん元々助けるつもりで、それでも想像以上に焦っていたらしい。那子にワシワシと撫で回されながら先導され、近くの木の幹に連れていかれた。この木々は迷宮エリアの壁ほど頑丈ではないはずだ。爪を振りかぶり、振り抜いた。がり、と表面が少し削れたことにより、たまの魔法が発動する。魔法少女が通れる広さの穴が一瞬にして、小さな傷が広がって出現し、その向こうに光が見えた。そうして木の中を抜け、地図アプリの反応を頼りに歩き出す。

 

「いやー、たまちゃんがいてくれて助かりマシタ! いい子いい子、偉いデスネェ〜!」

「え、えへへ……」

 

 那子は動物好きで、元々ペットを飼っている。その中にハムスターの『たまちゃん』がいるらしく、名前が同じことからか、やたら可愛がられている気がする。……撫でられるのは嬉しい。こんなに直球で褒められたのはいつぶりか、思わず手放しで喜んでしまう。サイバーエリアで初めてまともに話した時も、ランキングイベントの結果発表の時も、こんな感じだった。なんというか、散歩の途中で出会った犬好きの人、みたいな?

 そんなたまと那子の傍らで歩くリオネッタ。はじめ喧嘩しているところを見ていたぶんには、この那子とのやり取りをどれほど白い目で見るかと思っていたが、そちらは眼中にもない様子だ。ペチカのことを考えるのでいっぱいいっぱい、ということかもしれない。前を見ているようで見ていない、そんな様子でどんどん前に進んでいくリオネッタに、那子の撫でを受けながらついていった。

 

「ア」

 

 小さく声を上げ、那子はリオネッタを無理やり引き止めた。リオネッタは一瞬眉を顰めたが、止まってくれる。そして那子が指した先には、太めの枝に留まり、竹箒を幹に立てかけて休憩している狂鳥だった。

 

「あれを調伏しマス」

「壁を越えたんですもの、飛んで抜ける必要はなくなりましたわ」

「この後のエリアでも使えそうじゃないデスカ!」

 

 それよりも早くペチカをと言いたげなリオネッタだが、次チャンスがあるかわからないと押し切られ、静観に。

 

「いよし、それじゃあこいつで……!」

「えっ、武器投げるだけって、それで大丈夫なんですか?」

「ワタシの魔法は勝負に勝つのが動物をお友達にする条件なのデース」

 

 本来はモンスターを従えていく予定が、これまでのモンスターは全然動物型ではなかった上、迷宮エリアは一瞬でクリアされてしまったため、ここでようやく本領発揮できる、というかそろそろしたいということだった。先制して自爆されては従えられない。

 そんな那子にできることはないかと、たまは自分の手、肉球グローブを見て考える。

 

「だったらその、木登りは得意なので……連れてきます!」

「いいんデスカ!? 持つべきものはたまちゃんデース!」

 

 穴掘りほどじゃないが木登りもできる。犬の特技とはちょっと違うとはいえ、引っ掛けられる爪があるのは大きな利点だ。那子の期待を一身に背負い、気づかれないように立ち位置を調整。あとはゆっくり、そっと木を登り始める。木の表面はでこぼこしていて、掴んだりひっかけたりは容易だ。あとは鳥にバレないように動かないと。ひとつ、またひとつと慎重に登り、あと二手。ここで思いっきり、加速して飛び出す!

 枝の下から突然飛び出してきた魔法少女に、狂鳥は飛び立てず、さらにたまが枝の方に一撃。根本に穴を掘ることで枝を折り、鳥を落とす。そして空中で捕まえようと飛び込み、しかし向こうもそう怯んでばかりではない。翼をばたばた動かして、どうにか揚力を得ようともがいているのだ。自爆の原因である箒とそのエンジンからは引き離せている。あとは本体だけだ。空中で体勢を整え、へし折られて自由落下する枝を無理やり蹴り、ほんの少しながら推進力を得た。そしてギリギリ、両手で片翼を挟んで掴み、引っ張りこんで首を押さえた。やった、捕った。これで那子の期待は裏切らずに済んだ。

 

「……あっ」

 

 捕ったのはいいが、その後のことは考えていなかった。そのまま重力に身を任せ──着地寸前でふわりと受け止められる。受け止めたのはリオネッタで、暴れていた鳥はすぐさま那子が掴み、急に因縁をつけて幣で何度か殴ると、魔法の対象になったらしく大人しくなった。

 

「あ、えっと、ありがとうございます」

 

 返事はない。むしろ、気まずいような表情で顔を逸らされる。どうしたのだろう? リオネッタの態度に首を傾げる間もなく、彼女の腕の中から下ろされると同時に那子に笑顔を向けられた。

 

「いやぁ〜、またまた助かりマシタ。この子もありがとうと言ってマス」

 

 那子の隣でお辞儀をする狂鳥。それはさすがに嘘だと思う。ただ、これを見るに、とにかく那子の魔法は効いているらしい。

 

「では気を取り直して! ペチカさんたちを探しに行きマショー!」

 

 斥候に狂鳥を先頭として、即席パーティはまた歩き出す。もはや樹木の壁はたまの穴掘りで関係ない。あとは地図を頼りに真っ直ぐ行くだけだった。

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