魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第17話『最速の魔女と災厄の魔女』

 ◇たま

 

 合流した魔法少女たち6人で並び、密林エリア北部へと向かう。主に那子とそのしもべの鳥、たまが先頭で警戒しながら歩き、最後方でカプ・チーノとリオネッタがペチカを隠すように位置どっている。非戦闘員はその間だ。

 北部へと向かうにつれ、上空を旋回する影が増えてくる。突っ込んでこないのは、先行している狂鳥のおかげだろう。狂っていると書くのに仲間の説得が通じるなんて、とディティック・ベルがこぼし、極道獣よりも義理に厚いですわねとリオネッタのつぶやきが重ねられた。

 

「ワオ! これが巣……みたいデスネ」

 

 密林の中に溶け込むように、蔦に絡みつかれて一部と化した廃アパートが存在している。ドアの取り払われた入口には、しきりに鳥たちが出入りし、見張りらしき2羽組が雑談に花を咲かせている。なんというか、人型でないくせにやけに人間臭いというか。モンスターの巣というより、これではヤンキーの溜まり場だ。

 仲間にしてある個体が最初に行き、門番に話しかける。門番同士で顔を合わせて話し合い、片方が中に入っていき、少しすると出てきた。そして両手で頭上に丸を作った。なんと問題なかったらしい。そのまま仲間の鳥に手招きされ、たまたちは顔を見合わせる。

 

「い、行きましょう」

 

 控えめに皆の顔色を見ながら、たまが最初に口を開く。異論は出てこない。相変わらず那子とたまが先行し、草むらから魔法少女たちが一斉にアパートの中へ入っていく。隊列はそのままだ。警戒は怠らない。それでも意外すぎるほど、誰も魔法少女たちに反応を示さない。行き交う鳥たちは常に急ぎ足で忙しない。やがて大きめの扉の前に着くと、中に招かれる。控えている鳥たちの多さからして、この先がボスの部屋か。気を引き締めて、その奥の家具もない無骨な部屋に踏み入った。中央奥でボロ布の上に腰掛け、頬杖をついて魔法少女たちを待ち受けるその存在は、鳥型ではなくほぼ完全に人型だった。しかも、その格好はステレオタイプないわゆる魔女と聞いてイメージするそのままの格好だ。見覚えしかない。

 確かその名は──トップスピード。最後の試練の参加者であり、そして脱落者。ねむりんに始まり、これまでもたまにとって見覚えのある魔法少女ばかりがモチーフに選ばれている。まさかとは思う。クラムベリー最後の試験がこのゲームに取り入れられているとしたら、この先のエリアには──。

 

「俺の力が必要だってのはあんたらか」

 

 たまの思考が嫌な方向に引きずられていくのをリセットするように、声が響いた。

 

「貴方が……狂鳥たちのボス?」

 

 彼女はにやりと笑い、頬杖をついたままで答える。

 

「いかにも。俺が『最速の魔女』トップスピード。やたらと大所帯になっちまってるが、こいつらの親玉には違いない。で、そんな俺に話があんだろ?」

 

 ここは元々チームリーダーだということでディティック・ベルが前に出ていった。狂鳥の自爆によって仲間とはぐれてしまい、はぐれた仲間のうち数名はここから真逆、南の建造物にいると。そう聞かされたトップスピードは腕を組み頷いた。

 

「なるほど確かに、飛べなきゃあそこに入るのは難しい。正面から奴らの要塞に入るのは自殺行為だ。俺を運び屋扱いしたいってのもわかる」

 

 運び屋扱い。その言葉に緊張が走る。交渉へ持ち込むため、ディティック・ベルがリーダーとして前に出て、説得を試みようとした。

 

「……都合がいいのはわかっている。だから交渉に来た。彼らが急いでいる理由──」

「交渉? いいよ。乗せてやるって」

 

 そのはずが、あっさりと了承される。想定外の反応に、ディティック・ベルの言葉は続かなかった。それもそうだ。そもそも彼女自身はともかく、狂鳥たちはモンスター。現に魔法少女たちには自爆覚悟で特攻してくるような存在だ。そのボスがそんなにもあっさり協力を了承するなんて、誰も考えていない。身構えていた魔法少女たちは全員が呆気にとられ、たまはトップスピードが元々そういう性質だったのだと無理やり納得する。彼女のことはよく知らないが、あのリップルと友好的にやれていたというのだから、こういう感じ、なのかな。

 

「アイツとは抗争中だしな。あんたらのお仲間が捕まってるんなら……儀式が始まる。儀式には隙がある。全面戦争には丁度いい」

「抗争中……それに儀式って?」

「生贄、見せしめ……そんなとこだ。アイツはそんなのばっかりなんだよ。『災厄の魔女』カラミティ・メアリは」

 

 ◇シャドウゲール

 

 シャドウゲールは捕まっていた。上空から爆弾が降ってくる中で極道獣の群れと戦っていたはずが、集団に対応しきれず、武器を取り上げられて人質にされたのだ。その瞬間咄嗟に飛び込んでこようとしたプフレがいたものの、彼女は銃弾の雨を受けて負傷し、@娘々と夢の島ジェノサイ子に逃がされていった。その傷口から散っていた血液を受け止められないまませっせとアジトに運び込まれ……気がついたらここにいた。大きな鉄檻の中で、その傍らにはせっせと働く獣たち、そしてそれを眺めて悠々と酒らしき飲料を流し込む女。ゲーム参加者の魔法少女ではない。であれば……デスルーラのようなエリアボス級か。

 

「目ェ覚めたかい。あんたがマヌケで助かったよ。さっさと撃ち殺さなくて良かった」

 

 露出度の高い水着のような格好をした彼女は、パチンと指を鳴らし、獣に合図を出す。獣たちは大慌てで何かタブレットのようなものを持って来て、その画面をこちらに見せてくる。タブレットは2つ。まずは牢獄の中で、機を窺うように待つ3人組。マジカルデイジー、マスクド・ワンダー、ラピス・ラズリーヌ……事実上の最高戦力たちだ。彼女らほどの実力者が捕まり、その状況に甘んじているということは、シャドウゲールが人質にされているから以外の理由が思いつかない。

 そしてもう一方では、車椅子を乗り回し、他の魔法少女2名と主に獣たち相手に大立ち回りをするプフレが映っていた。ジェノサイ子と@娘々は彼女に協力しているらしい。さらに地中の狭い通路のような場所らしく、明らかにやりにくそうだ。それにあの時、プフレは撃たれた。その傷は?

 

「アンタの存在がちらついて、無駄死にしようとしてる奴らさ。反吐が出る」

「っ……!」

 

 脱出する方法がないか、ふいに周囲を見回す。その仕草でさえ気に障ったか、見回すことを禁ずるように、女はわざわざ立ち上がり銃口をこちらに向けた。いつの間にか拳銃を手にしている。

 

「カラミティ・メアリに逆らうな。カラミティ・メアリを煩わせるな。カラミティ・メアリをムカつかせるな。それがこのエリアでのルールさ。オーケイ?」

 

 言い終わるや否や、ズドン、と轟音が響く。弾丸がシャドウゲールの頬を掠め、耳朶の一部を抉る。威嚇射撃のつもりだろうが、耳に走った痛みに声にならない悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちる。気まぐれでこちらを殺してくるだろうという確信がある。下手に声も出せない。

 

「お前たち、儀式の準備を」

 

 獣人たちは命令に対して敬礼し、檻の中のシャドウゲールを引っ張り出す。耳の傷を癒す暇など与えないと言わんばかりに、どこからか持ち出された丸太の担架に頑丈な縄で磔にされてしまう。抵抗できないまま、シャドウゲールはカラミティ・メアリの部屋から運び出されていく。カラミティ・メアリ自身はそれを興味なさそうに、一瞥もせずに飲酒に戻る。既に檻を片付けさせ始めていて、戻す気すらないということもわかる。そして儀式という言葉。真っ先に思い浮かぶのは、シャドウゲールがその生贄だという可能性だった。

 獣たちはせっせとシャドウゲールを運び、どこへ行くかと思えば屋上に祭壇のような空間があり、その中に設置された。大勢の獣たちが儀式のための飾りを運び込んだり、警備のために銃を手に彷徨いたりと、厳重だ。

 シャドウゲールは歯を食いしばり、空を見上げた。青空だ。飛ぶ鳥は、遠くにしか見えない。儀式はじきに始まるだろう。諦めたくはないが、腕の縄が切れないか試す警備の隙はなかった。

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