魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第18話『シャドウゲール奪還作戦』

 ◇たま

 

「ちょっと待ってろ。今、選りすぐりの速度自慢を集めてくるからさ」

 

 トップスピードはそう告げると、数分後、人数分の狂鳥を連れて現れた。皆目がギラついている。いささか不安ではありつつ、乗せてもらうしかないので、それぞれ自然と相方を決め、巣の頂上に出る。箒に跨る鳥人間たちの後ろに乗せてもらい、後ろにディティック・ベルを乗せたトップスピードの合図で、一斉にエンジンがふかされた。

 

「ちゃんと捕まってな! さん……にぃ……いち……ゼロ!」

 

 一斉に地面を蹴り、エンジンが火を噴く。急加速でグンと全身に重力がかかり、吹き飛ばされそうになりながらしがみつく。その必死さから思わず目をつむり、開いた時にはもう下に地面は無い。空の上で、魔法少女たちと鳥たちを乗せた箒が並んでいる。

 

「ワーオ! はやーいデース!!!」

 

 下を見ると景色がすごい勢いで流れていく。プフレの車椅子とどちらが速いだろう。どっちも速すぎて判別不可能だ。ここから落ちたら、なんて考えてしまうのはみんな同じだろうか。恐る恐る視線を前に変え、聳え立つ岸壁、そしてその上に建つ城のような場所の存在を知った。

 あれが極道獣たちの本拠地か。魔法の端末を確認する余裕はないが、シャドウゲールたちがここにいるに違いない。しかし向こうも簡単には上陸させてくれないらしい。岸壁の端には砲台が設置されており、速射砲や大砲が備え付けられ、既に獣が数体搭乗している。

 

「しっかり掴まれよ!」

 

 砲台が火を噴く。トップスピードを先頭に箒は一斉に回避行動をとり、魔法少女たちも振り回される。あまりの急旋回に首がちぎれるかと思うほどだ。その超人的なバレルロールのおかげで弾丸の一発すら貰うことなく、一気に距離を縮めていく。屋上では何やら催事の準備をしているような雰囲気だ。中央には大きな磔台があり、そこに少女が括られている。シャドウゲールだ。彼女はまだこちらに気づいていない。声をかけようと息を吸い、また急旋回で肺が空気に押され、全部声にならずに吐き出してしまった。もう一度シャドウゲールの方を見ようとすると、そこに先程までいなかった人影がもうひとつ。ガンマンスタイルの彼女を、たまは知っている。

 

「こっちはメーター振り切ってるってのに……!」

「あたしに逆らうな……羽虫ども」

 

 鳴り響く破裂音。カラミティ・メアリの弾丸が風を切り、目の前に飛沫が散る。赤い──それを認識した瞬間、たまを乗せてくれていた狂鳥がこちらを突き飛ばし、叩き落とされたと思いきや、トップスピードの乗る箒に拾われる。重なる発砲音で振り向くと、さっきまで乗っていた箒が銃撃を食らい、エンジンから黒煙を吐きながら落ちていくところだった。乗っていたはずの狂鳥は血を流しながら、翼でこちらに向けてサムズアップをして、箒と運命を共にしていった。地上の方からは爆発音が響いても、トップスピードが振り返ることはない。

 

「あ……」

「……あぁ、後は任せな」

 

 侵入を拒み弾丸で迎え撃つ獣たち。城の周囲を高速で旋回する鳥と魔法少女たち。散弾銃を持ち出し、カラミティ・メアリはさらに攻勢を強めた。髪の横を掠め、被弾した箒のパーツが欠け、また翼に食らって血をほとばしらせた個体もいた。それでも彼らは魔法少女を守り切り、トップスピードの「仕掛ける」という号令とともに、一斉に箒が変形。風防が現れ、エンジンがより物々しい見た目となり、吹き出される炎が勢いを増す。それはつまり回避を捨てて一直線に進むということだ。風防は弾丸の雨を受け、さらにカラミティ・メアリからのライフルの1発が貫通。目の前でトップスピードが撃たれ、たまは思わず前に乗るディティック・ベルに抱きついた。

 

「トップスピードさん……っ」

「構うな! 飛び降りる用意だけしとけ!」

 

 さらなる急加速。風圧に目を細めざるを得ず、トップスピードが弾丸をその身に浴びているのがわかる。それでもなお止まらない。そして一気に屋上に近づき、トップスピードが合図した瞬間、たまはディティック・ベルを連れて飛び降りる。彼女と一緒に転がって着地し、すぐさま体勢を整える。後ろではトップスピードに続いた鳥たちの箒からみんなが降りてきているはずだ。あとは、この屋上に集まっている獣たちを蹴散らすだけ。

 たまは真っ先に、シャドウゲールの下へと急ぐ。魔法少女たちが来たと見るや否や、獣たちは磔ごと彼女を連れ去ろうとし始める。一斉に飛び込もうと動くが、階下より飛び出してきた一団が乱射を開始。慌てて物陰に隠れるしかない。

 

「こちらは私たちで引き受けます。お二人はシャドウゲールさんを」

 

 リオネッタはそうとだけ話すと、他のメンバーと共にその場を片付けに向かう。たまはディティック・ベルと顔を合わせ、半ば呆然としたままの彼女の手を取って頷く。頷き返してくれたのを合図に、床に魔法で穴を開け、建物の中へと侵入。直下にいた獣は驚いている間にディティック・ベルがステッキで殴り掛かって昏倒させ、シャドウゲールが連れていかれたであろう道を辿っていく。戦力は屋上の祭壇に集中しているのか、屋内は手薄だった。そしてその道中、血の匂いの濃い部屋を見つけ、堅い扉は穴を掘って突破する。内部にはシャドウゲールと、刃物を手にした獣たち。中でも特に大柄な豹男がリーダーらしく、彼の号令で一斉に襲ってくる。

 

「え、えいっ!」

 

 全力の体当たりで壁に叩きつけた一体を掴んで振り回し、何体か巻き込んで投げ飛ばす。その先で豹男と激突するように狙ったが、彼は片腕で払い除けた。それどころか、ステッキで応戦しようとするディティック・ベルの打撃を受け流し、彼女に強烈な大斧の一撃が突き刺さる。

 

「かは……っ!」

「ベルさんっ!」

 

 飛び込んで彼女の体を受け止めた。幸い刃をまともに受けてはおらず、大きな怪我ではなさそうだ。向こうとて一度手に入れた獲物を手放すつもりはない、ということか。立ち上がったディティック・ベルと肩を並べ、斧を振り回す獣の周囲を駆け回って、なんとか連携をとって隙を狙う。

 たまの一撃さえ通れば、この魔法は──生物にはあまり使いたくないが、必殺だ。ディティック・ベルが仕掛け、注意が彼女の方へ向く。ステッキと斧がぶつかり合い、その度にステッキ側は弾かれよろめき、追い詰められていく。そして止めを刺そうと、油断が生まれる機を待った。この時を待っていた。出来る限りの気配と音を殺して駆け出し、飛びかかる。右手を振りかざし、爪を立てた。そして直後、右手に痛みが走った。

 

「っ……!?」

 

 銃撃だ。たまは攻撃を続行したが、弾丸の介入で予定が狂った。獣にはかわされ、むしろ反撃の斧を食らって壁に叩きつけられる。撃たれた。誰に。振り向いた先には、部屋のぶち破られた扉を塞ぐように立つ増援の姿。最悪のタイミングだ。痛む腕を構え、立て直す。せめてディティック・ベルとシャドウゲールは助けないと。どこからだ。どうすれば──。

 

 その時、廊下から、車輪が床を削り火花を散らす音がした。音の主は圧倒的な速度で近づき、気がついた時には、扉の前に立つ増援が車輪の体当たりに轢かれ、たまの横を通り過ぎてリーダーの獣に激突。飛び込んできたその車体はシャドウゲールの磔の場所にまで飛来し、車輪の回転で縄を焼き切るまでやってみせた。

 

「……! お嬢……!?」

「なかなか手こずったが、間に合ったようだね」

 

 プフレ自身も何度も銃撃を受けたのかボロボロだ。それでも飛ばしてきたのだろう。涼しい顔をして、呼吸は肩でしていた。解放されたシャドウゲールの表情は、自分が捕まっていたことなど忘れて彼女の心配に染まっていた。

 

「……っ、そうだ!」

 

 突然増援がノックアウトされ驚いていたリーダー格の獣が起き上がろうとする。これ以上、皆に無理はさせたくない。その一心で飛びかかって、その顔面を両手で押さえつけ、爪を食い込ませる。空いた穴は瞬く間に大きく広がり、獣の体を引き裂いて押し広げる。上半身が丸々破裂したようになくなった獣は動かなくなり、じきに下半身も消滅した。

 

「これで……シャドウゲールについていた獣は全部、か。はぁぁあ……良かった……」

 

 ディティック・ベルから深いため息が出る。集中の糸が切れたのだろう。シャドウゲールは傷ついたプフレに慌てて包帯を巻き始めており、どっちが助けに来たのかわからない。あとは……みんながどうにか無事に帰れることを祈る、しか。

 

「マスクド・ワンダーの捜索は夢の島ジェノサイ子と@娘々に任せてきた。彼女さえ居れば断崖から飛び降りても問題ない。こちらですべきことは……」

 

 階下から足音と唸り声。もしかして、プフレを追ってきた獣が追いついてきた、とか。

 

「安全な場所まで逃げることになるかな」

 

 さらりと言い放つプフレに、特にディティック・ベルが信じられないものを見る顔をしていた。

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