◇マジカルデイジー
シャドウゲールを人質にとられ、カラミティ・メアリというらしい獣たちのボスによって、デイジーたちは今牢獄の中にいる。牢獄そのものは問題ではない。デイジーもらラズリーヌもワンダーも、脱出だけなら容易である。それよりも、人質のシャドウゲールの生殺与奪を握られていた。だからこそ下手には動けなかったのだが……。
「何か始まったっすね」
城の中が騒がしい。絶え間ない銃声だけでなく、何かが高速で通過する音や、どこかの壁が砕かれる音なんかがしきりに響いてくる。シャドウゲールはどうなったのか。こみあげてきた心配に、いてもたってもいられなくなってくる。それはラズリーヌとワンダーも同じようで、思わず立ち上がったタイミングはほぼ同時だった。
「……うん、行こう」
デイジーが構え、互いに頷く。
「デイジービーム」
檻の隙間から看守役の獣を狙撃する。頭部を消し飛ばされた獣は為す術なく崩れ落ち、続けて檻の鉄柱にもビームを浴びせる。牢獄はサラサラ崩れ落ち、周囲を確認しながら脱獄を開始した。やはりこの騒ぎの方に駆り出されているのか、こちらは手薄だ。不意打ちと先手必勝を繰り返し、城の中の捜索を始める。とにかく騒がしいのは上階だ。ひたすら階段を探して登る。何度か繰り返しているうち、人影に遭遇する。獣かと思い構えるが、声がして違うと気がついた。
「わっ!? ちょ、タンマタンマ! デイジー氏、ストップ! 自分らですって! ジェノサイ子!」
「……え、ジェノサイ子さん? @娘々さんも……!」
「助けに行くつもりだったけど、その必要はなかったみたいアルね」
「あの、シャドウゲールさんは?」
「プフレが先に行ったアル。あのスピードなら今頃は……」
ワンダーの端末から通知音がする。丁度、プフレからシャドウゲールの無事を確認したという連絡があったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。それでも、まだ騒ぎが収まってはいないどころか、銃声と建物の揺れは激しくなりつつある。戦いは終わっていない。端末を確認すると、エリアクリアミッションの『抗争を終わらせる』がクリアされていない。何と何の抗争か知らないが、とにかく獣側のボスは片方には含まれているはずだ。
「行きましょう。私たちは銃声の方に。ジェノサイ子さん達は、プフレさんを追ってくれますか」
これまで人質をとられ、不甲斐なく牢獄でじっとしていたぶんだ。ラズリーヌもワンダーもやる気なわけで、ボスがまだ残っているのなら、皆に切り込み隊を任された者としてやるしかない。デイジー達はジェノサイ子及び@娘々とは分かれ、3人で駆け出した。銃声と爆発音の続く、南側だ。
「派手にやってるっすね」
進むにつれて建物の損壊が酷くなっていく。何かが高速で突っ込んだ跡がいくつもあり、銃撃どころか砲撃で破壊されたらしい跡も多い。一体誰と誰が交戦しているのか。警戒は最大限のまま、抉られた壁の向こう、断崖の上の戦場へと飛び出す。そこには折れかけた箒を手にして膝をつくボロボロの魔女と、彼女に向かって銃口を向けるガンマンの姿があった。
「あれは……カラミティ・メアリ……!?」
「知ってるっすか?」
「いえ……でも見覚えがあるというか……」
頭を押さえるワンダー。その違和感自体には何も反応を示さず、むしろカラミティ・メアリはデイジーたちの乱入に怒りの表情を浮かべた。
「またあたしの邪魔をする気?」
「……またかは知らないけど、悪い人なら戦うよ」
「ハッ! だったら見ときな。今からこの羽虫がどうなるか!」
目の前でトリガーが引かれる。銃口が弾丸を放つ。魔女姿の少女に向かって飛び出す凶弾は真っ直ぐに飛来し、しかしそのすぐ前方を投げられた青い宝石が通り、そして青い輝きが弾道に迸った。デイジーは忘れていた瞬きを一度して、その直後、カランと弾丸が地面に落ちる音がした。魔女を庇い立つのはラズリーヌ。彼女が片脚を振り上げているのは、弾丸を蹴り飛ばしたことの証左であった。
「大丈夫っすか?」
「っ、はは……助けられちまったか。お前ら……ディティック・ベルの仲間だろ?」
「! ベルっちのこと、知ってるっすか」
「あいつらは上だ。あとはコイツさえ……何とかすれば……」
魔女の口から知っている名が出たことで、ラズリーヌは彼女の味方だと決めたようだ。デイジーも異論はない。獣の首領はここで倒す。ラズリーヌの隣に歩み寄り、ワンダーもそれに続いてくれた。
「あなたはここから離れてください。ここは私たちが!」
「……悪ぃな。頼んだ!」
魔女は壊れかけの箒に跨ると、城の上階に向けて飛んでいった。これでこのフロアにいる味方はデイジーたちだけだ。
「ここは私たちが……どうするつもりだい? やれるものならやってみなよ、お嬢ちゃん」
カラミティ・メアリが指を鳴らすと、複数体の獣が物陰から駆けつけ、その手のサブマシンガンを乱射してくる。魔法で強化された弾幕は魔法少女の肉体を破壊できる、そのはずだった。一斉に身構えた魔法少女たちは、受け止め、蹴り払い、消し飛ばす。弾丸は届かない。サブマシンガンが放っていた硝煙が晴れると、そこにはポーズを決める魔法少女たちの姿。
「戦場に舞う青い煌き! ラピス・ラズリーヌ!」
「我が名はマスクド・ワンダー! 力ある正義の体現者『魔法少女』!」
「戦う花のお姫様、マジカルデイジー!」
デイジーは遅れることなく、デイジーポーズからの名乗りに入れたことに満足していた。それによって神経を明らかに逆撫でされているカラミティ・メアリが額に血管を浮かべているのも構わず、ラズリーヌがすぅと息をして、声を張り上げた。
「3人揃って!!!」
「えっ?」
「!?」
ユニット名!? 確かに流れ的にはあってもおかしくないかもしれないけど、一切予定にないというか、そもそもそんな話したことないというか。ワンダーも驚きにラズリーヌを一瞥。やる気の顔で目配せしてくる彼女に、乗るしかないとなる。
「魔法戦隊!」
「ま、マジカル……?」
「プリズム──」
「ワンダー!」
「ジュエル!」
二つ名の後に挟み込もうとしたところに二人から交互に続き、名前が長くなる。長くなってしまったからには、それを通すしかない。2人の視線がデイジーに向いて、締めの決め台詞はこっちで決めるしかない。
「ま、魔法戦隊マジカルプリズムワンダージュエルが揃ったからには、悪は絶対許さない!」
「っす!」
その語尾は正解した時のそれなのか。直後、カラミティ・メアリが黙れと言わんばかりに大砲をぶっぱなし、奇しくも名乗りを終えた感のある爆発が魔法少女たちの後方で発生した。
「……気は済んだかい?」
「来るよ、みんな!」
メアリと獣たちが一斉に攻撃を再開する。マジカルプリズムワンダージュエルは散開し、撃ち込まれる兵器の数々をくぐり抜けていく。閃光弾が破裂する寸前にデイジービームを当てて不発に終わらせ、妨害工作をしてくる取り巻きはラズリーヌが背後を取り一撃。そしてマスクド・ワンダーがその重さを操る魔法と体術によりメアリの放つ弾丸をすり抜け、一気に迫る。メアリも負けじと腰に提げた袋からいくつもの銃器を取り出し応戦する。体術には銃身で受け止め、至近距離での発砲を試みるが、瞬時に銃身が耐えきれないほどの重さとなり引鉄にかけた指がズレてしまう。不意の重力に目を丸くするその隙にまずはアッパーカットが突き刺さり、大きく後方へ。その軌跡を予測して投げられた宝石がラズリーヌを呼び寄せ、腹部への強烈な拳で上空へ飛ばされた。
「がは……っ、この、くそったれが……!!!」
体勢を整えられず、めちゃくちゃに銃を抜き、ただ乱射するカラミティ・メアリ。どうにかしてラズリーヌだけでも撃ち殺そうとしたらしいが、彼女は最低限の、首を傾げるだけでかわしてしまった。銃撃のほとんどは空を切り、デイジーに狙いを定めることを許していた。奥で手をかざすその構えが、必殺にして致命であることを認識出来ていない。
「デイジー、ビィームッ!」
放たれた光は、手を広げた大口径バージョンだ。あれだけの軍勢を率いていたはずのカラミティ・メアリは抵抗も虚しくあっさりと貫かれ、それでもなお銃を抜こうとして、取り落とした。腹部から血を雨のように振らせ、地上に戻ってくることはなかった。落ちてきた銃は衝撃で割れ、それっきりだ。
『エリアクリアおめでとうございます』
「……はぁ。みんな、無事かな」
ぽつりと呟く。ボスを倒した、という喜びは薄い。デイジービームでの決着には手応えがない。名乗って、格闘して、隙を窺うのは楽しかった。呆然と自分の手のひらを見つめ、そのすぐ後に笑顔で駆け寄ってくるワンダーとラズリーヌのハイタッチには応えた。