魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第22話『消えない穴』

 ◇たま

 

 街のパトロールの終わりに、誰とも会わないように立ち寄る夜の廃寺。ここには思い出とトラウマだけが残り、たまの他には誰もいない。それでもふらりと、いつも来てしまう。魔法少女としての最初の居場所だから、離れられないでいる。

 

「やっと、会えた」

 

 そこにふわりと降り立つ白い影。振り向くと、立っていたのはスノーホワイトだった。フルダイブの『魔法少女育成計画』に参加させられてから、たまは恐らく音信不通になっていたのだろう。魔法の端末がゲーム外の全てに対して通じなかったため、スノーホワイトの動向もなにも知らなかったのだ。そんな彼女との久しぶりの遭遇は、スノーホワイトが駆け寄ってきて、驚きながら始まった。

 

「たまちゃん、大丈夫? 怪我はない?」

「え……う、うん、大丈夫だよ」

 

 スノーホワイトがたまの手を取る。ファルの説明通り、ゲーム内の怪我は現実に影響していない。ダメージは何度も負ってきたが、ここにいるたまは平気だ。

 

「ど、どうしたの……?」

 

 いきなりスノーホワイトが会いに来るのもだが、こんな焦った様子だとは思わなかった。

 

「……ゲームのこと。ごめんね、私のせいで巻き込んじゃって」

 

 驚いた。スノーホワイトには、もうゲームのことは知られているのか。しかもスノーホワイトのせいだって、意味が読み取れずに困惑する。

 

「スノーホワイトのせい? なんでそうなるの? 違うよ、スノーホワイトは……」

「……私のせい。私みたいに正しい魔法少女かどうか試すって、言ってたんだ」

「え、誰が」

「あいつ、ゲームマスターが」

「え……」

 

 スノーホワイトはゲームマスターの存在を知っている。ゲームの中からでは決して手の届かない相手だ。曰く、スノーホワイトには特例で面会を許したらしく、たまにはまず会ってくれないだろうという。それでも、スノーホワイトが外からどうにかしようとしてくれている、それは嬉しかった。

 

「ごめんね。もう少しだけ……もう少しだけ、待っていて。なんとしてでも、助けてみせるから」

「っ……! で、でも、私たちだって、もうすぐゲームはクリアみたいだし……」

 

 嬉しいとともに、スノーホワイトには無理はさせたくなかった。なんとなく、相当に無理をしているように見えた。互いに顔を見合って、互いに疲れた顔をしていることに気づいて、ふいに笑ってしまった。

 

「あ、その」

「……? たまちゃん?」

「リップルさんは……元気?」

 

 何気なく、ゲームの話から逸らそうとした。

 

「うん。たまちゃんは……リップルとは」

「……その。気まずい、っていうか、トップスピードさんのことが……あるから」

「そっか。リップルだって、わかってくれてると思う」

「だと、いいけど」

 

 それでも怖いものは怖い。もしメルヴィルのような敵意の切っ先が向けられたら、たまは抵抗できるだろうか。もういないスイムスイムの罪は、本当に彼女だけの罪なのだろうか。

 

「無理はしないでね」

「す、スノーホワイトも……!」

 

 夜は明けていく。即ち、メンテナンス期間の終わりが近づいていく。

 

 

 スノーホワイトと会ってから、まる1日が経った。

 再びゲームの中に突入する時、たまはいつも最大限の警戒心と戦闘態勢を作って臨む。そうしなければならないのは、狙われているのをわかっているからだ。ちょうど3日、その時間が来る時、息を整えて視界が変わるのを待つ。

 

「──っ!」

 

 ログインと同時に、待ち構えていたであろう銛が顔の横を通り抜ける。首を倒していなければ貫かれていた。ただ、メルヴィル自身はこれを仕掛けた後にどこへ行っているのか、いつも残り香しかない。残されているのはトラバサミやら落とし穴やら、獣を捕るための罠の数々。かつて何度も山の中を走り回って穴を掘っていた魔法少女であるたまには通用しない。土や葉でカモフラージュされたそれらを匂いで看破して壊しながら、合流を目指す。

 

「やあ。今回も無事で何よりだ」

「ごめんなさい、いつも救援に向かえなくて」

「い、いえ、なんとかなって、ますから」

 

 再ログインが行われると、魔法少女たちのダメージは現実基準にリセットされる。つまり戻ってきたその時、プフレとシャドウゲールは包帯もなにもなく無傷で、たまは大いに安心した。自分がメルヴィルの襲撃で心配される側だという意識はマスクド・ワンダーに謝られるまでなく、はっとして大丈夫を伝える。それから、プフレの行こうかという一言で、一行は最新エリアに向けて歩き出す。

 

「……あの」

 

 ふいにシャドウゲールが口を開いた。

 

「本当に大丈夫……なんですか」

「その、ゲームをクリアしちゃえばいいと思う、から」

 

 彼女の矛先がたまだけに向いている限り、たまから何かしようとは思わない。……頭の中にこびりついた、あの音楽家の撒き散らした赤色に、怯えているせいだ。友達が死んでしまうのはもっと見たくない……けど。あの日から何度も考えてばかりのことに、また行き当たって、歩みが鈍る。

 

「気に病むことはない。その魔法に私たちは何度も助けられている。それに、正しいことのために力を振るうのは当然の行いだ。だろう?」

「えぇ。まさに必殺の魔法よね。頼りにしてるわ!」

 

 何かを察したプフレと、それに続いたマスクド・ワンダーに声をかけてもらえて、考えるのはやめた。

 

 新たに解放された図書館エリアに踏み入ると、そこは本当に本棚でびっしりだった。

 プフレはそれを見るなり喜び勇んで本を手に取り、表紙しかないことを知ると興味をなくし、何事もなかったかのように元の場所に戻した。ここはハリボテの本がたくさんと、硬そうな椅子なんかがあるだけで埃っぽく、密林とはまたうってかわって過ごしにくい。こんなのばっかりだ。くしゅん、と大きめのくしゃみが出る。

 

「なんだか戦いにくい場所ね」

 

 荒野、お姫様、サイバー、迷宮、密林、図書館……どれもまったく統一性がないどころか、荒野からお姫様の時点で統一性などあったものではないが、今までより障害物が多い。モンスターの気配もないので、探索が主になるエリアだろうと、プフレがまずは本棚を調べようと方針を示す。4人それぞれで、逸れないようになるべく近くで、本を抜いたり並べ替えたりしてみる。肉球だと素手より大変な作業だ。

 

「うーん……」

 

 相変わらずなにも起きない。飽きてふと魔法の端末を見る。エリアミッションは表示されていない。はぁ、とため息をつき、本を戻して、ふらっと近くにあった椅子に座ろうとした。

 

 ──その時である。

 

「! 危ない!」

 

 シャドウゲールがたまの手を引いた。座っていた椅子がぐにゃりと歪み、剣となって襲いかかってくる。モンスターだ。飛び込んできたマスクド・ワンダーの一撃で剣は吹っ飛び、対岸の本棚にぶつかる。そして剣が再び歪んだかと思うと、次の姿は片翼の小さな天使のような姿だった。

 

「あ……」

 

 見た瞬間、その元となった魔法少女がわかってしまう。友達だった、あの。

 たまの中に記憶が溢れ出した時、天使はまたしても姿を変える。今度は槍型だ。一直線に飛び込んできて、マスクド・ワンダーの魔法で受け止められる。そして彼女が再び本棚に向かって吹っ飛ばし、さらにキックを決めたことで槍が叩き折られ、それを以て撃破されたらしく天使の形に戻る。柄を、つまり胴体を折られたままで。

 

「っ……!」

 

 すぐに消滅した遺骸に、思い出してしまうあの時。なにもできなかった日々。無生物に変身できる天使の魔法少女、ミナエルの死は、あの何度も見た悪夢の、クラムベリーとの殺し合いでの出来事だ。

 

「変身するモンスターかしら。警戒しなきゃいけなさそうね」

「あぁ。モンスター図鑑によると対になる種類もいるようだ。出現場所は決まっているというから、地図アプリへの記録もした方が──」

 

 だんだん聴こえる話し声さえ遠くなっていく。ふらふらする。

 

「っ、大丈夫ですか」

「ごめん、なさい……ちょっと、その、気分が……ごめんなさい……嫌なこと、思い出しちゃって……だから……うっ……」

 

 シャドウゲールの肩を借りて、なんとか倒れずに済んだ。このエリアでは、戦えそうにもなく、貢献できそうにない。無力なのは、あの日々と同じ。ユナエルが死んだ時とも、ミナエルが死にスイムスイムが死んだ時とも、同じだった。

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