魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第24話『魔王城』

◇キーク

 

 手のひらの上でカチャカチャと勝手に回るルービックキューブを浮かべ、魔法少女キークはひとり、隔絶された電脳の空間に浮かんでいた。

 

「スノーホワイト、怒ってたなあ」

 

 独り言だ。先日、スノーホワイトを己の城に招き入れた。キークの企てた選別計画に、彼女なら賛同してくれると思っていた。だが彼女はあの『音楽家殺し』がゲームに参加させられていると知った時、キークの胸ぐらを掴み、今にも手を出しそうな空気になった。

 彼女は彼女なりに『音楽家殺し』を英雄視しているのだろうか。世間的、というかキーク的には、不殺を貫いたスノーホワイトの方がかっこいい。音楽家殺しはただ偶然トドメを刺せただけで、クラムベリーの亡霊と戦っているのはスノーホワイトの方だ。

 

「まあいいや。次回からはもっとゲームをアップデートしとかないとね。イベントの種類も増やして……っと」

 

 ゲームの様子を確認する。……図書館エリアが突破されている。しかも犠牲者なしだ。迷宮がありえないほど速攻で終わり、密林もかかった時間は大したことなく、図書館も想定より速い。つまりキークが思うよりずっとあっさりクリアに近づいている。

 

「うーん……バランス調整ミスったかな」

 

 簡単すぎるようにした覚えはない。むしろ改修の結果、戦闘に比重を置いて、難しくしたつもりだった。だというのに、結果はこれだ。『子供達』には血の気が多く、野蛮だということを失念していた。これも反省点だ。次は没にした反射持ちエネミーや即死火力を持つドラゴンなんかを復活させようか。

 

「でもPvPはしてくれてないし。せっかく人型の敵多くしたのにさ」

 

 過去の魔法少女データベース、とりわけ最後のクラムベリーの試験から大量にデータを組み込んでやった。その目的は、主に音楽家殺しへの嫌がらせだったが。

 

「まあ、いいや。ここからクライマックスだよ。さあて……どうするのかな? 『音楽家殺し』」

 

 そう、本番はこれからだ。本当のゲームはここから始まる。

 

 ◇たま

 

「本当に大丈夫ですか?」

「う、うん。もう平気……だよ」

 

 最後のエリアである魔王城には、4チーム13名の全員が合流し、足並みを揃えて突入することになっていた。これは誰が言い出したわけでもなく、自然と皆が集まって、こうなったのである。それだけ、密林エリアでの出来事は大きかった。謎解きをこなしてくれたらしいディティック・ベルとラズリーヌ、カプ・チーノが最後に合流して、少し小休止を挟み、最後のエリアへと挑むこととなる。

 

 そしてモンスター図鑑の残る項目は2つ。ミナエルとユナエル、そしてハードゴア・アリス型のモンスターは図書館エリアにて出現した。あの試験にいた中で残っているのは……スイムスイムとクラムベリーだけ。

 

「えっと、魔王のこと、なんだけど……なんとなく、心当たりというか、あって」

 

 たまの知る魔法少女たちをモデルにしたモンスターが多数出現しており、その中でも魔王になるだろうと思われる存在がいる、と伝えると、皆は耳を傾けてくれた。リオネッタにはなにか言われるかもしれないと思っていたが、かえって緊張が走る。

 

「森の音楽家……って、知ってるかな」

 

 呼吸を整え、意を決して切り出した。が、たまが想定していたような反応を示した者はいなかった。少ししてから、ラズリーヌがこぼした。

 

「その音楽家ってのが、魔王なんすか?」

「う、うん、たぶん……」

 

 ここまでクラムベリーの存在が知られていないとは思わなかった。そこで、たまは彼女の魔法が音を操るものだと解説する必要に駆られた。

 

「なるほどっす。魔法の耳栓とか、あったらよかったんすけどね」

「耳栓だけでなんとかなる相手とは思えませんけど」

 

 たまのまったく不確定な話を聞き入れてくれるのも、この一致団結の雰囲気があってこそだ。たま自身も覚悟の上……万が一スイムスイムが現れても戦えるように、呼吸を整えてから、魔王城エリアへ続く門を開く。

 

「みんな、準備はいい?」

 

 ワンダーの号令に、皆一様に頷いた。

 

「行こう!」

 

 そして門を開く。視界が光に包まれ、新たなエリアへと移動する時の感覚がする。これまでの埃っぽい空気から、済んだ空気に変わり、お姫様エリアにも似た、大理石の廊下に出た。大量のモンスターと遭遇することを想定して身構え、陣形を崩さぬように進んでいく。

 

「……何もいないっすね」

 

 ラズリーヌの言う通りだった。たまの鼻にも、何の匂いも引っかかりやしない。各々、盾を構えたり武器を構えたりし、驚くほど何もないまま、長い廊下を歩いていく。

 

「磨かれすぎですわね。スカートの中身が映ってしまいますわ」

「ドールのドロワーズなんて見せてナンボデース」

 

 次第に緊張が緩み、リオネッタは大理石の床にそんな感想を漏らした。マジカルデイジーなんかはそれとなくスカートを押さえたり、那子は軽口で返す。油断した頃に襲ってくるのでは、と思い気を引き締める。

 ──それでも、何も起きなかった。

 

「……何か、着いちゃった」

 

 カプ・チーノの呟いた通り、目の前には大袈裟な扉。禍々しく悪趣味で、余計な装飾がこれでもかとつけてある。どう見てもこの先が魔王の部屋だ。今度こそ、絶対に戦いになると、皆に緊張が走る。まずは直感力のあるラズリーヌが先に進み、扉を調べた。鍵やトラップの類はないと、合図に両手で大きなマルが作られた。

 魔法少女たちは陣形を整えた。戦闘力のあるワンダーやラズリーヌが前につき、必殺の一撃を持つデイジーを最後方に。たまは中央前方でリオネッタやシャドウゲールと並び、また呼吸を整え、クラムベリーとの接敵の瞬間を頭の中で思い返し、とにかく後悔を取り返そうと決意する。

 

「開けるっすよ」

 

 彼女が扉に手をつき、告げた。ある者は盾を握り直し、ある者は唾を飲み、ある者はいつものまま、そして扉が開かれた。魔法少女たちは一斉に動き、構える。またしても、なにもない。

 

「……ラズリーヌ! たま! ここ、何かいる?」

「いや、ないっす」

「匂いは……ないよ」

 

 正直に答えた。部屋の中には豪華な椅子が中央にあるだけで、モンスターの気配は全くない。じゃあ、残る2枠とはなんだったのか。そもそも、魔王はどこなのか。不可解な目の前の事象に、何名かは武器や防具よりも端末を触り始めた。地図アプリではここが最奥。戻っても、分岐する部屋はショップのそれだけ。エリアミッションの項目には何も書かれていない。メッセージアプリ。変化なし。他の機能は起動できないまま。色々試してみて最後に、しばらく使ってもいなかったヘルプコマンドに、すがりつく思いで触れた。

 すると現れたウィンドウには唯一変化があって、玉座を調べよう、となっていた。

 

「玉座を……?」

 

 同じものを見たであろう@娘々が、御札を投げつけ、中から何やら動く髪の毛のようなものを出してクリアリングを行った。罠はない。ただ、その後ろの部分に何かが書いてある。翻訳アプリを起動し、解読する。

 

「なになに……『魔王は留守です。13人の魔法少女と、勇者に狙われて逃げ回っています』……」

「……へ?」

 

 わけもわからず力が抜け、たまはふいに玉座に触れた。すると全員の端末が一斉に着信音を鳴らした。

 

『魔王の玉座に到達し、記憶の解放条件を満たしました。これにより、主の危険に魔王の腹心が駆けつけます。どこかのエリアに新モンスターが登場しました』

 

 画面を見て、メッセージに目を通し、魔王の所在に触れられていないことを認識し、消した。改めて玉座を見る。空だ。この部屋には魔法少女たちの匂いしかない。つまり、魔王はここにはいない。どこにもいない。

 

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