魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第27話『乱入ボス確変中!』

 ◇たま

 

 端末に表示された新たな勝利条件。そしてもう1つ、たまだけに届いたメッセージ。それは『あなたは勇者です。魔王を倒して世界を救おう』というものだけ。頭が追いつかずにパニックになりそうだ。魔王が、魔法少女の中にいる。そんな魔王か、たまが死ぬかで、ゲームが終わるのか。端末を開きっぱなしで呆然としていた。するとふいに、プフレから声をかけられる。

 

「……なるほど。君の言っていた音楽家とは……そういうものだったのか」

「えっ?」

「全てを思い出した。それにこの通知。皆、クラムベリーのことを思い出させられたのだろうね。道理で護……シャドウゲールがこうなるわけだ」

 

 記憶が戻った時でも、プフレはいつもと変わらない様子だった。静かに己の思考を整理して、それから、クラムベリーの存在を飲み込み、しきりに頷いていた。一方、シャドウゲールはうずくまり、何度も嘔吐を繰り返していた。再度探索中だった迷宮エリアの石の床に、彼女の吐瀉物がぶちまけられる。最後にワンダーだが、彼女はどこか遠くを見たまま、黙っていた。何を考えていたのかは、わからない。

 

「どうしましょうね、本当に」

 

 いつものワンダーの溌剌とした声色ではない。彼女でさえも落ち込んでいる。シャドウゲールの嘔吐は暫く収まらず、ようやく収まると、プフレは何事もなかったかのように口を開く。

 

「探索を続けよう」

「えっ、い、今、だって」

「迷宮エリアは早期にクリアしてしまったからね。未踏破の場所も多い。そこに魔王の真の住処がある可能性だって捨てきれない」

「そうかも、しれないけど……」

 

 ほんの少しの希望でも縋るしかないのはわかる。けど、皆がこの状況で、探索を続けるというのも酷な話じゃないか。図書館エリアで役に立たなかったたまが言えたことではないかもしれないが。

 

「記憶は記憶だよ。省みるだけで魔王は見つからない」

 

 それも彼女の言う通りだ。想像していた以上に前向きなプフレは、何も言わずに睨むシャドウゲールには一瞥だけをして、パーティを前に進ませようとする。普段の明るさをなくしたワンダーが続き、置いていかれかけたたまは慌ててついていく。

 

 迷宮エリアの敵は動物型だ。蝶やアルマジロ、イノシシのような生物が人間大のスケールで登場する。警戒さえ怠らなければ、今の魔法少女たちなら苦戦はしない。それらよりさらに大型の鹿やら蟷螂の中ボスエネミーは手強い。手強かったはずだ。

 だがマスクド・ワンダーが前に出て、急所を確実に狙い、先手必勝の一撃で勝負を決めていったせいで、それを実感することはなかった。勝利のポーズを決めることすらなく、先を急ぎましょう、と急かされる。

 思えば、彼女なりに何かを感じ取っていたんだろう。たまの鼻にも、届いてはいた。嗅がなかったふりをしたいような、血の匂いが。

 

 ある一角に差しかかろうという時、モンスターの量が急に多くなった。集団相手でもワンダーは強かった。震脚で一斉に怯ませ、その瞬間からちぎっては投げ、その圧倒的な活躍の前にモンスターのうち何割かは逃げていった。戦闘を終え、ワンダーは汗を拭い、モンスターたちが集っていた場所を見下ろす。

 

「……そういうこと」

「えっ……」

 

 たまは咄嗟に口元を押さえる。血の匂いの正体は言うまでもなく血だった。誰のものかは、初めはわからなかったが、コスチュームの残骸でわかってしまう。特撮的なボディスーツと、チャイナドレス。夢の島ジェノサイ子と@娘々だろう。だが、ジェノサイ子は下半身しかなく、@娘々には首がない。

 シャドウゲールが吐き気を堪えている声が聞こえる。ワンダーは自分が血に汚れることも構わず、遺体2つの傷口を確認した。

 

「何かに削られたような断面。こんな傷、このエリアのモンスターで作れるものじゃないわ」

「夢の島ジェノサイ子は自身の魔法を無敵のスーツだと言っていた。いくらなんでも、モンスターと遭遇してそれを使用しないはずはない。モンスターの線は消える」

 

 やけに冷静な2人は犯人探しを始めていた。いや、始まった時点で、もう終わっている。だって、ここにいるべきなのにいない魔法少女なんて、決まっている。夢の島ジェノサイ子と@娘々は、マジカルデイジーとパーティを組んでいたんだから。

 

「……モンスターじゃなかったら、なんなんですか」

「魔法少女だろうね。魔王である可能性もある」

 

 プフレの言葉に淀みはない。だからこそ、シャドウゲールにとっては受け入れ難い。

 魔法少女同士の殺し合いの存在は、きっと記憶によって叩きつけられた。その再演がこうも目の前に現れると、やり場のない思いばかり溢れる。その気持ちは同じだった。たまはきっと、シャドウゲールがいなかったら、彼女のように嘔吐していた。

 

「私が追うわ」

 

 再び訪れた沈黙に、ワンダーの言葉が響いた。

 

「デイジーは私が止める」

「っ、そんな、1人で……」

「私は何も言わない。行ってくるといい。正義のためなんだろう?」

 

 心配を遮ってかけられた問いかけに、ワンダーは深く頷いた。もはやたまにもシャドウゲールにも、彼女を止める言葉は出せなかった。

 血溜まりから伸びていた血痕で出来た足跡を辿り、跳躍し、全速力で遠ざかっていく黒いシルエットを見つめ、呆然とする。

 

「さて。私たちにも来客のようだよ」

 

 そんなショックの抜けきらないうちに、プフレの声で気を取り戻す。彼女が差す背後には、人影がひとつ。白いスクール水着に、ふわりとしたピンク色の髪。漂う塩素の匂い。

 こうなると思っていた。

 

「スイムちゃん……」

 

 長柄の刃を手にして立つのは、魔王の玉座に到達したことで現れた最後の魔法少女型のエネミー。そして同時に、たまの、大事だった友達の姿をした敵だった。

 

 ◇リオネッタ

 

 最序盤のエリアである荒野エリアの探索中、それは訪れた。気分は最悪だ。記憶を取り戻した時、己に嫌悪感が溢れ出してたまらなかった。やってきたこと自体は、試験の外でも変わらない。それでもなお、堪えるものは堪える。

 

「あはは……そうデシタ。ワタシも人殺しデース」

 

 あの那子でさえも、持ち前の明るさがおかしな方向に向いている。そんな様子をペチカに見せたくないと、リオネッタは彼女の頬を張った。

 

「いった……なにするデスカ!」

「貴方が暗くてどうしますの!」

 

 こんな時でも騒いでもらわないと困る。ペチカの方を一瞥する。彼女は混乱した様子で、その傍らに寄り添うカプ・チーノに対して、言葉にならない言葉を何度も繰り返していた。カプ・チーノも平静ではなく、呼吸が荒い。こんな状況で、那子まで暗いなんて考えられない。

 

「そんなこと言われたって……! アンタは何も思わないんデスカ!」

「何も感じないわけないでしょう。だからって、落ち込む理由もありません」

 

 那子に胸ぐらを掴まれる。掴まれる側なのは初めてだった。握る手には、力が籠っている。彼女に何があったのかは知らない。だが恐らくは皆同じ。クラムベリーの試験に参加させられた『子供達』だ。その記憶を、リオネッタのようにただ飲み込めとは言わない。けれど、振り回されてはゲームに勝てない。

 

 リオネッタは勝たなくてはいけない──いや、勝たせなくては。

 

「あーハイハイ、わかりマシター! 魔法少女の中に魔王がいるんデショウ! そんなの絶対、あの音楽家似のエルフに決まってマス! クランテイルさんをやったのもアイツに違いありまセーン!」

 

 見るからに空元気だが、今はこれでいい。これはリオネッタにはできないことだ。勇ましく、荒野を歩き出す。障害物はない。相方の狂鳥を上空からの偵察に向かわせ、目指すはメルヴィルの下だ。最悪の記憶だが、音楽家という手がかりはメルヴィルが魔王の可能性を伝えてくれた。彼女に持ちかけられた取引には、乗らなくて正解だったのだ。

 

「それでこそ貴女でしてよ」

 

 那子の様子に安心していたのは、誰よりもリオネッタだったかもしれない。威勢よく歩き出した彼女についていくべく、ペチカに手を差し出す。躊躇いと逡巡を経て、手を取ってくれる。

 

「貴女もそれでよろしくて?」

「ペチカについていくだけ」

 

 カプ・チーノの答えは素っ気ない。ただ、来てくれる気はある。魔法少女の味方と言うよりは、ペチカの味方だ。リオネッタはペチカを先導して歩き、その後方をカプ・チーノが警戒する。皆の意識はペチカに向いて、那子のことを振り向いたのは、皆の肌に衝撃がびりりと走り、彼女が吹き飛ばされてきてからだった。

 

「カハッ……!?」

「……那子、さん?」

 

 地面に叩きつけられる那子。ドラゴンが襲撃してきた時のように、不意の攻撃だ。凄まじい衝撃を食らったらしい。耳や鼻から垂れているだけでなく、咳き込んで血を吐く。まずい。リオネッタは仕方なくペチカの手を離し、仕舞っていた鉤爪を剥き出しにする。さらにカプ・チーノが先行して攻撃に出た。

 

「お前ぇえ……ッ!」

 

 カプ・チーノが歯を食いしばり、怒りの声を上げるのも仕方がない。那子を攻撃した相手は、薔薇の魔法少女。しかしメルヴィルではなく、記憶の中の悪夢そのものだ。ゲーム内最後のボスモンスター『魔王の左腕』。その正体は再現された、森の音楽家クラムベリーであった。

 

「ペチカさん。そのお馬鹿さんのこと、頼みましたわよ」

 

 瀕死の那子は彼女に任せるしかない。ここで、また折られるわけにいかない。ペチカの手だけは、音楽家であろうと傷つけさせない。

 

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