魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第34話『リスタートエピローグ』

 ◇たま

 

 生死を賭けたゲーム『魔法少女育成計画』は、ペチカの献身と、カプ・チーノの慈悲によって終わりを告げた。気がつけばゲーム空間から弾き出され、体に受けた傷はどこにもなくなっていた。あの日々が嘘だったかのように、3日経ってもまた電脳空間に攫われることはなかった。ただ、口座にお金だけが入っていた。手をつける気にはなれなかった。

 

 それから少しして、スノーホワイトによる連絡があり、間に合わなかったことへの謝罪が繰り返され、犯人がIT部門とやらのトップであったことを伝えられたが、何を答えることもできなかった。ただ、助けてくれようとしていたことには感謝をして、やっぱり助けられてここにいるんだななんて思って、自分の部屋の隅に縮こまった。そうしていたのが、ゲームが終わってから最初のひと月だった。

 

 そして、ゲーム終了から1ヶ月。

 ラズリーヌに教えてもらった連絡先から、たまはずっと接触しようとしていた人物との接触に踏み切った。簡潔で思考の読み取れないやり取りをしているうち、日時と場所が指定され、本題は直接会って聞く、という話になった。

 ひとりでN市から離れ、S市の、しかも町外れにある廃工場にまで赴く。

 人の中に珠として混ざるのはまだ落ち着かず、結局魔法少女として走り回って来ることを選んだため、たまは最初から変身したままだ。

 中に入ると、何も無い。ただの廃工場だ。人の気配もなく、場所を間違えたかと思った。いや、廃墟とは違う匂い、誰かが通った残り香がある。甘い、飴だろうか? それを辿って進むと、地下へ降りる階段があり、そのさらに奥には大きな鉄の扉があった。パスワードや鍵の類は、解除してあるようだ。恐る恐る、手をかけ、開く。中はまさに研究所といった雰囲気で、あまり長居はしたくない閉塞感に満ちている。

 そのどこかにいるであろう目的の人物を探して歩く。人影は意外と入ってすぐの部屋にあり、彼女はこちらに気がつくと、手を振った。青を基調とした魔法少女だ。

 

「はじめまして。たま……ちゃんだよね?」

「はっ、はい」

「私のことは……ブルーベル・キャンディ。ブルーベルって呼んでね」

「ブルーベル、さん」

 

 その名からして、先の甘い残り香が彼女のものだろうと察しつつ、たまはブルーベルの案内を受けた。奥の方にある閉ざされた扉に何やら操作を施し、さらに奥の方へと案内される。何の施設なのか、たまにはまるでわからない。周囲を見回しながらついて歩く。ブルーベルは淡々と歩いていく。なにか話しかけていいのか、わからない。やめておいた方がいいだろうか。

 

「着いたよ」

 

 ブルーベルがまた扉を開けてくれる。今度こそこの先に、たまが会おうとしていた人物がいる。初代ラピス・ラズリーヌ──たまが知っているラズリーヌの、師匠にあたる人物だ。強くなるためにと相談し、紹介してもらったのだ。そっと自分の首輪に触れ、握った。大丈夫。そして踏み出した先、質素なデスクとパイプ椅子に腰掛けていた、彼女と目が合った。

 

「──っ」

 

 全てを見透かされるような青の瞳。それが視線の重なった瞬間に、ぐいと見開かれる。たまの姿に何を見たのだろう。いや、たまの方こそ、彼女の姿になにかを見てしまう。そんなはずがないのに、ふと口をついて出たのは。

 

「おばあ、ちゃん」

 

 無意識に口から出たのに気がついた時、やってしまった、と思った。魔法少女姿ゆえに老齢には全く見えないのだが、なぜか雰囲気のせいでそう思えたのか。自分でも混乱して、慌てて謝ろうという言葉もうまく出せないでいると、彼女は己の膝をぽんぽんと叩いて、微笑んだ。

 

「おいで」

 

 誘われるがまま、そのすぐ前に座り、頭を撫でられた。優しい手つき。犬吠埼珠の心が、祖母を思い出して離れない。少しだけあった警戒や、大きな緊張がどこかに行って、残ったのは牙を抜かれた飼い犬だった。我に返ったのは、なんだこいつら、という顔をするブルーベルが視界に入ってからだ。

 

「……あ、あっ! ご、ごめんなさい、初めましてなのに」

「いえ。構いませんよ」

 

 彼女は変わらず、柔和な笑みでたまを受け入れた。

 

「私はオールド・ブルー。以前よりあなたの噂はお伺いしておりました。『音楽家殺し』……クラムベリー最後の魔法少女試験において、彼女に引導を渡したと」

「そ、そんな大層なものじゃ……ないです。私は、ただ、友達に助けられただけで」

「好機を手にしたのはあなたの力ですよ」

 

 スイムスイムのことを思い出し、下を向いて、ふと視線を戻す。オールド・ブルーの眼には、やはり本来見えないようなものまで見られているような、不思議な感覚がある。どこまで話して、どこから話していないのか、曖昧になるほど。たまが何も言わなくても、話は進んでいった。彼女から名を継いだラズリーヌのことを尋ねられても、何か言う前に「助けていただいたようで」と続けられ、たまは言葉を淀ませてばかりである。

 

「弟子入りの話でしたね。私の門下生と一緒に、という形になりますが、それで良ければ」

「……! はいっ! ありがとうございますっ!」

 

 ちゃんとお礼が言えたのは最後の最後でようやくだった。面と向かっての相談の末、一応、ラズリーヌの妹弟子、ということになったわけだ。

 

「ひとつ、いいでしょうか」

「は、はい……?」

「あなたが強さを求める理由を、教えていただいても?」

「理由……」

 

 ゲームの中で、思ったことがある。ルーラも、ミナエルもユナエルも、スイムスイムも……それだけじゃない、散らされていった皆のためだ。もう奪われないためには、落ちこぼれのままじゃ駄目だ。強くならなくちゃ。

 

「誰かを、助けられるように……なりたい。大切なものができた時……それを、失わないでいられる、そんな人になりたい、です」

 

 オールド・ブルーはなるほどと頷いた。そして、再びぽんとたまの頭に手を乗せた。

 

「一緒に強くなりましょうね」

「……はいっ!」

 

 力のこもった返事が部屋中に響く。詳細は追って伝えると言われ、オールド・ブルーとの面会はここまでになった。

 

「いいの? あの子。青くもないのに」

 

 たまが部屋の扉を閉めた後で、ブルーベルが冗談混じりに呟いたのが聞こえた。それに対し、オールド・ブルーの答えは、

 

「新しいアクセサリーを贈りましょう。例えば……リード、とか」

 

 さすがにリードは貰っても、引きずりながら歩くことになって困る。ラズリーヌ、ブルーベル、オールド・ブルーの顔を順番に思い浮かべて、青系のものが貰えるならリボンとか、可愛いかな……なんて、思い描いたりもした。

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