魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第36話『リスタートエクストラⅡ 探偵と青のゆく道』

 ◇ディティック・ベル

 

「ここに来るのは久しぶりっすね! 2年ぶりくらいっすかね?」

「そ、そうなんだ」

「いやー、あの時はすごかったっすよ! ホントに!」

 

 ディティック・ベルは人事部門なんかにお世話になったことはない。曰く、ラズリーヌがラズリーヌではなかった頃の話だというが、聞けばテロリストとやりあったとか、不穏な言葉が出てくる。ついでに後ろをついてくるテプセケメイが時折「〜とは?」と言葉の意味を聞いてくるのだが、日本語の勉強中なのだろうか。ラズリーヌから学習するのはちょっと違う気がするが、大雑把な説明を交えつつ、ラズリーヌのエピソードトークは止まらない。止められるのはラズリーヌ自身だけだった。

 

「で、その時にななっちが……あっ! あの子! おーい!」

「? あの子が?」

「んや、あの子はななっちじゃないっすよ。でも2年前に会ったことあるっす」

 

 通りがかりに見かけた青系の魔法少女に、ラズリーヌは反応した。人事部門の友人らしい『ななっち』を見つけたのかと思いきや、違うらしい。恐らくは警備の見回りか何かだったのだろう。寄り道は避けてほしかったが、止める間もなく行ってしまう。ついていくしかない。

 

「どもっす! あれ、今は警備の仕事してるんすか?」

「えっ? っ!? くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」

 

 声にならない悲鳴を噴出させ、話しかけられた魔法少女は気絶して倒れそうになった。慌てて支え、目を覚ましてもらう。

 

「えっ、あ、いや、あの、えっ」

「あの時! 人事部門の受付にいた子っすよね。77っちに会いに来たんすけど」

「!? わ、私のこと、覚えてくださってるんですか!?」

 

 魔法少女は感極まって泣きそうになっている。

 

「え、えと、あれから、魔王塾サバイバルのDVDとか買ってっ、あ、あの……ぶっ、ブルーコメットさんっ! さっ、サインください……!」

「サインっすか? いいっすよ〜」

「……!!! な、なににしてもらおうっ、ちょっと待ってください!」

 

 少女は慌ててどこかへ走り去っていく。色紙か、そのDVDでも取りに行ったんだろう。あの熱烈なファン具合、ラズリーヌにそんな憧れている子がいたとは。……気持ちは、ディティック・ベルにもわからなくもない。

 

「ブルーコメット?」

「あぁ、あたしのことっすよ。師匠からラズリーヌを継ぐ前の名前っす」

 

 テプセケメイが挟み込んだ疑問符で初めて、あの少女がラズリーヌをそう呼んでいたことに気がついた。思えば、1年も一緒にいて、彼女の──特に『ブルーコメット』のことは何も知らない。先程話していた人事部門でのエピソードで初めて触れたくらいだ。

 

「あのさ」

 

 ラズリーヌが振り向いて、可愛らしく首を傾げた。

 

「話、もっと聞かせてよ。私の知らないあんたの」

「……! はいっす! じゃあ、まずはブルーコメットのオリジンから……」

「あーいやいやちょっと待って、今じゃなくていいから!」

 

 やがて戻ってきたあの子は魔王塾サバイバルなるイベントのDVDを2組持参し、それぞれに『ブルーコメット』のサインと『ラピス・ラズリーヌ』のサインを別々に書いてもらっていた。彼女はその両方を大事に抱え、笑顔を見せてくれる。とにかく彼女が嬉しそうならいいんだろう。

 

「え、えっと、そのっ! ブルーコメットさん……今はラズリーヌさんですけど、に! 憧れて、警備の仕事に転職したんです。あの時の……戦場に舞う煌めきが、忘れられなくって」

「えへへ、すっごく嬉しい話っす……あ! あたしもこのベルっちに憧れて、探偵助手始めたんすよ!」

 

 いきなりラズリーヌが肩に手を乗せてきて、身構えていなかったディティック・ベルは目を丸くした。お世辞にも格好のついた面ではなかったと思う。

 

「だから、あたしも同じっす! 一緒に新天地で、頑張らなきゃ、っすね!」

 

 ラズリーヌが笑顔とともに差し出した手を、少女は強く握り、笑顔を返した。強く交わされた握手は、きっと彼女の中に残り続けるんだろう。誰かの夢になれるほど嬉しいことはない、と思う。その夢を見てくれたのが、他でもないラズリーヌなんだけど。

 

「……あれ? あの、最初にいたあのアラビアンな子は……?」

「えっ?」

 

 2人のやり取りを微笑ましく後方から見守っていたら、テプセケメイのことを忘れていた。どころか、彼女はどこかに行ってしまった。……まずい。初仕事で護送対象に何かがあったら、とんでもなくまずい。

 

「ごめん、ラズリーヌ! 先行ってるから!」

 

 ディティック・ベルは大慌てで駆け出した。駆け出して、知らない建物の中を探し回り、意外と複雑な構造に自分がどこにいるのかわからなくなり、清掃員の魔法少女に道を聞き、「あっちに行きましたよぉ〜」とテプセケメイの目撃情報を得て、さらに自身の魔法で建物そのものからも話を聞き、体力の大半を持っていかれながらその場所に到着した。人事部門のうち、とある部署。扉を急ぎゆえに乱暴に開き、中を見る。いた。テプセケメイだ。

 

「探偵」

「はぁ、はぁ……どこ、行ってたの……!?」

「ここはメイの知らないものでたくさん」

「そりゃ、そう、でしょうけどっ……あっ、ご、ごめんなさい! 本当!」

「あ、い、いえ……!」

 

 近くにいたゴーグルを着けた魔法少女にとにかく謝る。

 

「おっ! さすがっすね、ベルっち」

「ラズリーヌっ……」

 

 後からやってきたラズリーヌは、例の青い彼女にここまで案内してもらったらしく、特に急いでいる様子はなかった。悪びれるということすら知らなさそうなテプセケメイと合わせ、ディティック・ベルは今日1番のため息が出る。

 

「お! 77っち! おひさしぶりっす!」

「あっ!?」

 

 そしてこのゴーグルの魔法少女とラズリーヌは知り合いらしい。というか、この人が用事のある『77っち』らしい。彼女の方は本当に来るの、という顔をしていたが、友人、でいいのだろうか。

 

「紹介するっすね。前あたしが改名の色々の時にお世話になった、ななっちっす」

「あっ、初めまして……これと一緒に探偵事務所してます、ディティック・ベルです」

「ご丁寧にどうも、7753です」

 

 名刺を差し出すと、7753はデスクの中から慌てて引っ張り出した自身の名刺と交換する。ラズベリー探偵事務所の名が記されたものが初めて誰かの手に渡った。

 にしてもなんというか、この7753という魔法少女、ディティック・ベルとなんとなく同じ匂いがする。体臭ではなく、振り回され体質……というか。

 

「その、それで、この子は……?」

 

 そうだった。テプセケメイと依頼のことを説明しなければ。改めて今回彼女を訪ねた理由について話そうとして、部屋の扉が開き、何気なく後ろを向いた。

 ──見知った顔が立っていた、否、座っていた。車椅子の上、まさに深窓の令嬢という雰囲気を漂わせながら、やあ、とこちらに小さく手を振った。

 

 どうして彼女、プフレがここにいるのか。疑問が湧いてくるが、そこに7753の控えめな「お疲れ様です」を始め、いくつかの挨拶が聞こえ、何割か察する。これらは上司に向けてする挨拶に違いない。今挨拶の対象に成りうるのは、そもそもプフレしかいない。

 

「1年ぶりかな? ディティック・ベル、ラピス・ラズリーヌ。聞けば探偵事務所を開業したそうじゃないか。今後は仕事の付き合いにもなってくるだろうね」

「おおーっ!」

「えっ? ちょ、え?」

 

 プフレの手を取りぶんぶん振っているラズリーヌは置いておくとして、7753の方に目を向けた。彼女はゆっくり頷く。つまりこの部署にいる魔法少女より、プフレの立場が上、ということが確定する。

 

「7753。こちらの彼女……未登録魔法少女、テプセケメイの保護を頼むよ。仔細は追って送ろう」

「えっ」

「探偵諸君とは別の話をしたい。別室に移動しよう」

 

 プフレの登場以前からそうだったが、2人して困惑の中に囚われて出てこられないままだ。そんな中、無表情のテプセケメイと置いてけぼりの7753を本当に置いてけぼりにして、プフレはディティック・ベルとラピス・ラズリーヌを別室に連れ出してくる。その別室というのが、部門長室だというからまた驚いた。ここを使えるって、つまり。

 

「さて。話の続きをしようか。未登録魔法少女の護送依頼、ご苦労だった。確かに確認したよ。彼女のことは7753に任せていいだろう」

「え、いいんですか?」

「広報部門の介入で話が拗れたが、そちらは君たちに依頼することはないね」

「広報部門の……」

 

 脳裏に浮かぶ、前回の依頼人であるキューティーオルカの顔。というか、話のスケールが大きくなってきて、処理が追いつきそうにない。

 

「ここから先は極秘の依頼だ。まだ詳しくは言えないが、主な内容は……とある魔法少女の身柄の確保。受けてくれるかな」

「……あたしにはなんにもわかんねっすけど、どうするっすか?」

 

 助手の目線もこちらに向く。相手は顔見知りだが、部門長。そしてそこからの極秘依頼。開業してからすぐだっていうのに、もっと大きな何かに巻き込まれていこうとしている。だがその現状に、探偵として、探偵に憧れる者として、高鳴っている自分もいる。

 

「受けるよ」

 

 ──この選択で、ラズベリー探偵事務所は更なる運命のうねりの孔に吸い込まれていく。ディティック・ベルは少しだけ、ラピス・ラズリーヌは大いに、その予感を抱いていたことだろう。

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