魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第3話『バージョン2.0.0』

 ◇キーク

 

「どう? 動作は正常そう?」

「今のところは何も……いや、魔法少女選びに不具合があったみたいだぽん」

「あー、そう? いいよ、1人や2人くらい」

「よくないぽん。それにあんな、噂の魔法少女なんて呼び込んで」

「当初の目的まんまだったら元のでもよかったけど、あの子に目ぇ付けずにはいられないって。今回はあの子さえいれば他はなんでもいいし?」

 

 ホログラムに浮遊するファルの隣で、キークはモニターに向かっている。大幅に作り直した『魔法少女育成計画』は特別製。以前使用したデータベースをより深く組み込んで、ルールも変えた点がある。ゲームの製作者としては気になるところだ。だが、ゲームマスターとしてのキークにとって、このシステムには絶対の自信がある。

 

 画面の中ではスノーホワイトが躍動している。躍動というには最小限かもしれない。炎を操る実力者、炎の湖フレイム・フレイミィに対し、表情ひとつ変えず、全ての動きを先読みするかのように薙刀を振るっている。むしろ暴れ狂っているのはフレイミィの方。炎に溶け込み背後を取る不意打ちにもあっさり対応してみせ、炎に潜んで姿を消したフレイミィに対しても平然と、腰の布袋から消火器を引っ張り出し、消火剤の噴霧で悶絶させていた。

 

「スノーホワイトはかっこいいなぁ。悪を許さない! 揺るがない正義、これこそ正しい魔法少女だよ」

 

 動画が終わると、眼鏡のズレを白衣の袖に隠したままの手で直し、画面を切り替える。表示されるのはゲーム画面だ。4人の魔法少女が映っている。1人は遠く、土煙を激しく巻き上げながら車椅子を走らせる異様な状態にあったが、それを横目にスケルトンと交戦しているのが3人。その中でも犬耳フードの魔法少女に照準が合い、彼女に向かってズームインされる。その表情はどうにか、隣で戦うヒーロー姿の魔法少女についていくのが精一杯といったもので、キークの期待していたものとは違う。スノーホワイトの勇姿を思うとため息が出る。

 

「貴方は正しい魔法少女かな? 音楽家殺し」

 

 生き残るためにクラムベリーを殺した。それだけじゃあ正義の魔法少女とは言えない。だがこの『キークの魔法少女育成計画』なら大丈夫。彼女が正しい魔法少女であれば生き残り、そうでなければ──。

 

「あ。遠距離攻撃反射は残した方がよかったかな?」

「そんなの聞かれても知らないぽん」

 

 ◇たま

 

 プフレが車椅子を激走させたことにより、エリアミッションがクリアされ、第二エリアが開放された。らしい。先に進むまでに準備を整えておこうとゲームらしい理屈で、プフレ率いる4人パーティは荒野エリアのショップに赴いた。多数のスケルトンを相手に稼いでおいたマジカルキャンディは50ほど。エリア移動のための通行証に5を使い、回復薬や保存食をいくらか購入すると、エリア移動の門へと向かった。ほとんどの指揮はプフレが取り、異論のないワンダー、そしてとりあえずついていくシャドウゲールとたまで流されるように新しいエリアに進む。門を抜けたその先は、明らかに今までの荒野とは異なる見た目をしていた。

 

 ──広がっていたのは荘厳な城であり、どこかメルヘンな空間だった。まさに王城といった風景と、夢の中のようなぼんやりした空間が入り交じっているという不思議な場所だ。その名も『お姫様エリア』。頭の痛くなる名前だ。普通荒野の次に来るなら草原エリアとかだろう、というのはいっそ飲み込んで、たま達は探索を始めた。大理石の道は2番目のエリアとは思えない豪華さで、まるでゲーム終盤みたいにも思える。

 

「え、かわいい」

 

 その途中、廊下にふわふわと浮かぶ雲型の何かがあった。可愛らしい顔がついており、ふとシャドウゲールが立ち止まる。そして何気なく手を伸ばし──噛まれた。

 

「いったぁ!?」

「グルルルル……!」

 

 意外と鋭い牙を剥き出しにし、襲ってくる雲。ワンダーの一撃でぼんと破裂したかと思うと、彼女のキャンディ数が10増えていた。あの雲はモンスターだったらしい。

 

「だ、大丈夫?」

「……人の家の犬に噛まれた気分です」

 

 シャドウゲールの指は無事だ。ちょっと噛み跡がついているが、回復薬【小】で治癒する程度だった。事前に買っておいてよかったが気をつけてくれよ、とプフレに釘を刺されており、確かにあれより強いモンスターだったと思うとゾッとする。

 

「あそこにもいるわね」

「先程のマスクド・ワンダーの獲得量を見るに、スケルトンよりキャンディの効率が遥かにいい。見つけ次第狩っておこう」

「賛成です。サーチアンドデストロイで」

 

 シャドウゲールの賛同には先程噛まれた恨みが入っているようにしか聞こえなかった。それからというもの、見かける雲には誰かが攻撃しに行き、何種類かあることがわかった。噛むもの、噛まないが雷を撃ってくるもの、そして両方の3種類。噛むし雷も放つ個体はキャンディを最大30も落とし耐久力も変わらないため、そのタイプが湧くと数字は一気に増えていた。やがて城の中にあった、荒野エリアと同じ枯れ噴水広場に辿り着き、一旦休憩をする。

 

「どうやらこのゲームには空腹度があるらしい。今のうちに保存食を胃に入れておこう」

 

 配られた保存食はとても味気なかったが、死にたい時に食べるキャベツサラダよりは美味しい。食事というよりは、作業に感じたけれど。

 

「いらっしゃいませぇ〜」

 

 お姫様エリアのショップは荒野エリアとは違い無人ではなかった。ショップメニューの傍らに、ふわふわ雲に乗って浮かんでいる、パジャマ姿の女の子がいる。クリーム色の髪が長く垂れ下がっており、間延びした可愛らしい声で魔法少女たちを出迎えた。この感じ、知っている。同時にマスクド・ワンダーもなにか見覚えがあるらしく、思い出そうと頭を押さえていた。

 

「待って。確か……そう、なにかで会ったことが……」

「?」

「えっと、ねむりん……だよね?」

「バーチャルねむりんだよ〜」

 

 バーチャル……?

 ねむりんはクラムベリー最後の試験にて『魔法少女育成計画』のチャット内にずっと居着いていた魔法少女だ。あの試験の初週に脱落し、試験の脱落はつまり死だった。ねむりんもまたその犠牲になっているはず。本人がプレイヤーなのではなく、それをモチーフにしたゲームキャラクター……なのだろうか?

 

「荒野エリアのショップとはラインナップがかなり違うね」

 

 ねむりんと縁のないプフレはそこに関しては一切なにもなかったかのように商品リストと睨めっこしている。

 

「私のおすすめはこのモンスター図鑑だよ〜、出会ったモンスターが自動的に記録されていくっていうハイテクなアプリだよ」

「どこかで聞いた事のある説明ですね」

「エリアボス対策にもおすすめだよぉ」

「いくつか聞いてもいいかな?」

 

 エリアボス──バーチャルねむりんの口から出たその言葉にプフレが反応し、これ幸いと質問攻めが始まった。会話を隣で聞いていて伝わってくる情報だけでいうと、この先のエリアにはボスキャラが配置されており、それを倒すことによって次のエリアが開放されることがあるとのこと。さらにそのボスキャラは厄介な特殊能力を持ち、対策アイテムが手に入るイベントがあるそうだ。さすがにその内容まではねむりんも触れなかったが、どうやら今まで戦ってきた雲とは別種のモンスターが関係する、とまでは話してくれた。それを踏まえ、ひとまずねむりんのおすすめ通りモンスター図鑑を購入。手分けして探索を行い、イベントを探してみることに。

 

「機動力のある私と、それからワンダーは単独で。たまとシャドウゲールは2人で行動してくれ」

「大丈夫なんですか?」

「あの雲程度に遅れは取らないとも」

「えっ、あ、あの」

「えぇ、手分けした方がいいと思うわ。少なくとも現状、レアモンスター以上の脅威はなさそうだもの」

 

 確かにレア枠の、物理も魔法も使ってくる雷雲でさえあっさり倒せたけど。しかし引き止める間もなく、プフレによる指揮で合意が形成された。言い出せないまま一行は「がんばってねぇ〜」の声を聞きながらショップを後にして、ここからは別行動になる。プフレは車椅子を走らせ、ワンダーは鮮やかに跳躍し、残されたたまとシャドウゲールは顔を見合わせる。

 

「え、えと……」

「……えーっと、とりあえず進みましょうか」

「う、うん」

 

 シャドウゲールはどんな人なんだろう。色々聞いてみたい……けど、なんとなく、横顔は話しかけにくい。魔法少女は皆端正な顔立ちだが、その中でもこの、凛としたクールビューティな雰囲気のせいで。やはりここでも悶々としたまま、たまは歩き出さなければいけなかった。

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