魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第39話『革命の前に』

 ◇トーチカ

 

「監獄……だと? まさか、その話は立ち消えになったのでは……」

 

 驚愕するいんく。監獄、魔法少女刑務所……言葉の通りだとすれば、悪い事をした魔法少女が捕まる場所、という感じか。超常の力を持つ魔法少女を収監しているくらいだから、それはもう厳重なんだろう。

 そしてトットポップ曰く、その『監獄』には彼女の元師匠も収監されているらしい。何をやらかしたのかまでは教えてくれなかった。

 

「今回はアメリカに飛ぶのね」

「アメリカ!」

「えっ……」

「あぁ、トーチカちゃんは新人さんだからゲート使ったことない系だもんね」

「ワープゾーンみたいなのがあるのよ」

 

 日本から1歩出たこともないトーチカにとっては衝撃の話だ。魔法少女なんてものが存在する時点で何が起きてもおかしくないが、まさかどこぞの未来のロボットが持つドアが実在するとは思ってもみなかった。飛行機でも船でもなく魔法の力でこっそり入国して、またここに逃げ帰ってくるというプランになるらしい。もはや海外旅行ではなく、侵入である。

 

「アメリカ……アメリカか。まさか……第4か」

「第4? いんくちゃん、何か知ってるの?」

「いや……その、かつての上司というべきか、以前革命軍……我らレジスタンスの上層部にいた魔法少女がそこに収監されたと聞いたことがあってな」

 

 事情を知るらしいいんく以外は揃って首を傾げており、他のメンバーたちはそのかつての上司とは会ったことがないらしい。

 

「でも魔法少女監獄の警備ってすごいんでしょ? 封印も厳重だって」

「今は警備が手薄で、内通者がなんとかしてくれるみたい」

「エンプリちゃんなら開けられるんじゃない? 金庫の時みたいに!」

「えっ、で、でも、魔法の封印扉なんて、開いてくれるかどうか……」

「まあまあ、なんとかなるやろ。ほら、もうメンバーはうちらだけやないし?」

 

 イロハの言葉で、全員の目線がトーチカに向いた。意味がわからずきょとんとして、自分を指さし首を傾げてしまった。

 

「せや。なんでいんくがあんたをスカウトしようとしたかわかるか?」

「……ごめんなさい、わかんないです」

「そっか! ほな教えたって」

「押しつけか……いいだろう。君の魔法は、色々なもののレシピがわかるというものだそうじゃないか。それを、魔法でできたものに使ったらどうなる?」

「……やったことがないのでわからなくって」

「そこだ。例えば」

 

 いんくがポケットから取り出したのは釘のようななにかだ。魔法のアイテムなんだろうということは状況から察して、試しに魔法を使う。傍から見ればただの釘か杭かでしかないが、トーチカの水色の瞳を通せば──。

 

「っ……!」

 

 レシピを見ようとした途端に頭の中に流れ込んでくるのは、コロッケのように材質じゃない。トーチカが触れたことなどないはずの理論、儀礼、技法が、何語かもわからない詠唱が、記憶の中に紛れ込む。目の前に、魔法少女のそれとは違う『魔法』を使う映像が幻視され、気がついたのはトーチカを呼ぶトットポップの声がして、だった。

 

「杭自体はただの杭だ。だが……見えたか?」

「……はい。魔法がいくつも組み合わさって……魔法を養分にして植物が成長する、っていう術式になってます」

「ほう! ははっ、なるほど、できるのか、そうか」

 

 いんくは目を見開いた後、にやりと悪い笑顔になって、トーチカの手を取った。いんくの紫がかった黒の瞳と目が合って、輝きに満ちた視線に晒される。

 

「これでやる気のない上層部の手すら借りる必要はない。仕組みが解るということは解体も容易いということ。行こうトーチカ。魔法の国に、恐怖を解き放ってやろう」

 

 恐怖──その言葉に、トーチカは己が巻き込まれようとしているものの重大さに踏みとどまった。頷くのも返事をするのも止めて、いんくを見る。すっかり気分の良くなったいんくは笑顔のまま首を傾げる。そこへ声をかけてきたのはサッキューだった。

 

「どしたの、トーチカちゃん」

「いや……僕はその、革命をしたいんじゃなくて……姉のことを知りたいだけなんです」

「なに?」

「んー、そっか。じゃあ、こうしようか、いんくちゃん」

 

 サッキューがいんくに向かって、後は任せてと言わんばかりのウィンクを飛ばす。

 

「トーチカちゃんのお姉さんは、たぶん1年前の事件に巻き込まれてたんだよね」

「……はい」

「そういう情報は一般魔法少女には公開もなにもされてないし……むしろ、偉い人の不祥事なら隠されちゃってるかも。つまり、情報を握ってるところを革命しちゃおうって感じでどうかな?」

「っ……」

「あ、あの、実は……」

 

 小さく手を挙げたエンタープリーズは、控えめそうながらわざわざサッキューのすぐ隣へ来て、後出しで付け足してくる。

 

「さ、サッキューちゃんの言う通り……で」

「隠蔽されてるってやつ?」

「う、うん、調べようとしてたんだけど、うまくいかなかった……よ? 誰が死んじゃったのかもわからなくって……その、伝えようとは思ったんだけど、タイミングがなくて」

 

 疑うのは簡単だが、会話の苦手そうなエンタープリーズなら、本当にタイミングを失っているということだって有り得た。トーチカは口ごもり、次に口を挟んできたのはイロハだった。

 

「……とまあ、そういうことやな。うちらと来るしかないやろ?」

 

 この先に行けば後戻りはできない。少なくとも、チェルナーの手を取ることはできないだろう。トーチカのこの先は、これからずっと追いかけられるか、その刑務所に一緒に捕まるかだ。

 それでも。姉のことは、突き止めなくちゃ。生まれた躊躇を、建原智香の頼りない笑顔でかき消して、頷いた。

 

「……その情報だけは必ず手に入れさせてください」

「もちろんだ。革命は全てをひらく。情報も開かれるべきだ」

「なんでも開くって、エンプリちゃんだね」

「ふぇ? ど、どういうこと?」

「適当言っとるだけやないかい」

 

 胸を張って持論を述べるいんく、何も考えずにとりあえず口を開くサッキューに困惑するエンタープリーズ、そしてため息混じりに苦笑するイロハ。バラバラの皆が一様にガスマスクを手に取り、その様を眺めるトーチカに、トットポップから同じマスクが手渡された。

 

「これ、トーチカちゃんの分」

「……ありがとう、ございます」

「お姉さんのこと、わかるといいのね」

 

 トットポップの人懐っこい笑顔が、ガスマスクの奥に隠れた。トーチカもそれに倣って、ガスマスクを装着する。確かにちょっと息苦しいし、視界が狭くただ不便だ。ただ、レジスタンス活動において顔を隠さなければならないのはなんとなくわかる。トーチカはその息苦しさに、覚悟を決める。

 

「それでは作戦会議を始めるのね!」

「おー……お? あれ?」

 

 どうやらまだ出発は先らしい。じゃあなんでガスマスクしたんだろう。トーチカにはわからなかった。

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