魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第42話『歪む月の欲しいもの』

 ◇トーチカ

 

 魔法少女監獄への襲撃から引き上げ、レジスタンスは多数の脱獄囚を生み出した。当初の目的であった、元レジスタンス幹部『マッド=ルナ』のみに留まらず、手当り次第に解放し、連れ帰り、最後に看守を拉致して人質として撤退した。

 結果としてレジスタンス魔法少女たちはさすがに大所帯になり、あのボロアパートには詰められそうにない。そこで、かつてマッド=ルナが使用していたという別のアジトへと移動することとなった。監獄突入の時のように隠しゲートを使い、アジトへ到着。外見は廃墟だが、内部に入ると無機質で広い空間が広がっている。

 

「わお! こんなところがあったのね」

「あのボロアパートともおさらばだねー!」

 

 トットポップとサッキューが真っ先にはしゃぎ出した。確かに広い。マッド=ルナは何かの魔法──トーチカがレシピを覗き見たところ、結界だった──を起動し終えると、好きに使っていいと伝え、皆がわっと散っていった。トーチカも適当な部屋を確保して休もうと思って歩き出して、数歩目でルナに呼び止められる。

 

「おーい! トーチカちゃんはこっち。おいでー」

 

 ルナは奥へ奥へと案内してきて、さらに奥、魔法のシャッターで閉ざされている向こう側までトーチカたちを連れていく。一緒になって歩かされているのは、助っ人に寄越されたという忍者だけだ。彼女は全く喋らない。トーチカも黙って、るんるん歩くルナについていくしかない。

 

「あーそうだ。トーチカちゃんにはリップルちゃんのこと話してなかったね。この子、リップルちゃん」

「……」

「クラムベリー最後の試験の生き残りなんだよね。そうそう、『魔法少女狩り』の……トーチカちゃんのお姉さんが亡くなった事件? だっけ? を解決したあの人のお友達だって」

 

 忍者の魔法少女はリップルという名だそうだ。ルナの言うところまで間接的だと身近には思えないし、それで事件のことを知ってはいないだろう。単純に、レジスタンスの仲間、と思えばいいだろうか。リップルの横顔に目を向けても、彼女は何も言わない。互いに無言のまま、軽い会釈だけをした。

 

「リップルちゃんは誰に言われて来たんだっけ?」

「……知りませんし、言えません」

「あはは! そりゃそーだよね! まあ、大方レジスタンスってよりかは、もっと別の……口の上手い偉い人にひっかけられた、って感じだと思うけどー」

 

 ルナの言葉に、リップルは固く口を結んだ。

 

「着いたよ。ここ」

 

 ここでルナによって、奥の奥にあった部屋に通された。中は埃を被ったよくわからないガラクタでいっぱいで、レシピを盗み見する気も失せる雑多具合だった。その中央に、ちょうど人がひとり入る棺のようなカプセルが安置されている。マッド=ルナが蓋にかかった埃を払い、見えるようになった中には、この廃墟でありながら、安らかに目を閉じる黄金色の少女の姿があった。

 

「この子はとある魔法使いが生涯をかけた理想の結晶。そして、ぼくの友だちだった魔法少女」

 

 ルナが何かの機械を操作すると、ぎぎぎぎぎ、と軋む音を立てながら棺のガラスの蓋が開き、彼女は眠る少女に頬を寄せた。

 

「反体制派といってもいくつもあるけど。ぼくみたいな連中は、この子の名前を使って『マリア派』を名乗って、魔法の国を排斥しようとしてた。ま、ぼくが捕まるちょっと前に、マリアちゃんが死んじゃったんだけど」

「……死んで、るんですか」

「うん、死んでるよ。触ってみる?」

「い、いや……」

 

 即答で断る。知己だとしても、躊躇なく遺体を触れるルナに驚きだった。そして続く言葉に、トーチカはまた目を剥くことになる。

 

「初めましての時に言ってたやつだよ。この子のレシピを考えて欲しいんだ」

「……え? いや、僕の魔法を、その、亡くなった方に……?」

「できるんじゃない? 作り方がわかるんでしょ。やってみてよ」

 

 そんなことを言われても、人間の作り方、つまり受精の仕組みか、人間を魔法少女にする方法が見えて終わるだけなんじゃないか。そうは思っていても、やれと言われたらやるしかない。心の中でごめんなさいと遺体の少女に謝りつつも、その遺骸に魔法を使う。まず見えてきたのは、初めに思っていた通り、理科の授業みたいな人間の発生。次に、マスコットとの契約や特殊な薬品を用いたものなどの魔法少女のなり方。どちらも想像の域を出なかった。

 

「どうだったー?」

「……この人を甦らせるやり方はありません」

「そっか。でもそうじゃなくてさ」

「え……?」

「この子をもう1人作るやり方……っていうかな。見様見真似、でどう?」

 

 ルナにそう言われ、トーチカは意識しながら魔法を起動させた。

 ──人間の作り方、ではない。魔法少女にする方法ですらない。トーチカの頭の中で、いくつもの候補からレシピが絞り込まれていき、トーチカにもしかしたら可能かもしれない手法だけが残っていく。死者の蘇生そのものでなくとも、再現ならば──方法が、出来てしまう。必要なものは魔法のアイテムと、材料になる魔法の血肉、そして儀式。魔法少女の死体をもう一度魔法少女として動かす、禁忌の人形。

 

「っ……はぁ、はぁ……っ!?」

 

 これ以上は見たくないと無意識がリミッターをかけて、トーチカの魔法は途切れた。それを見たルナが、今度は満足そうに、見えたでしょ、と続けた。

 

「っ……はい。魔法少女の死体から……その魔法を再現する……」

「ぃよーし! 聞いた? リップルちゃん。みんなでそれを作ろう! そんなものができたら、魔法の国もひっくり返せるよね!」

 

 ルナは嬉しそうにくるくると回って、トーチカの手を取り、無理やり踊りに連れ出した。歯噛みしながら見ていたリップルにも、その手が伸ばされる。

 

「死者を再現する方法が本物だったなら。大切だった人も帰ってくる。きみにとっても、きみのお友達にとっても嬉しいことだよね。トーチカちゃんのお姉ちゃんもそう」

「……」

 

 リップルは手を取らない。ルナを無言で睨み返した。ルナはその反応にひとしきり笑って、トーチカのことを振り回すと、急に手を離した。トーチカはバランスを崩し、危うくガラクタの山に突っ込むところだった。

 

「はぁ。ふふっ、全くもう、支援者さんったら。せっかく寄越してくれた子、笑ってくれないんだけどー」

 

 リップルではなく、リップルの背後にいる権力に向けた独り言で、けらけら笑うルナ。棺の傍らをステージに見立てて踊る彼女は、壊れかけの照明が妙に美しく照らしている。

 

「さて。トーチカちゃん。材料リストをつくってほしいな。主に何が必要そうかな?」

「えっと……魔法のアイテム、ですね。魔法の国が作ったものというよりは、魔法少女が持っているような、固有アイテムというか」

 

 こうなったらとことん協力してやる。そんな決意のもと、トーチカはルナの求める答えを躊躇わずに吐く。ルナがそれを受け、んー、と頭を捻る。

 

「そっかー、じゃあ……まずは人事部門に行って魔法少女の名簿を貰っちゃおう。情報局に行くのは大変だしね。よぉーし、それじゃあ作戦考えなくっちゃー。あ、話終わったから、あとはふたりとも自由行動でいいよ! 解散!」

 

 既にルナの頭にはいんくたちのことすらない。トーチカの姿でさえ眼中に映ってはいないだろう。彼女が見ているのは最終目的ばかりだ。トーチカもそうあるべきなのか。リップルは何も言わずに部屋を後にする。それについて歩き、外に出た。

 

「あ、あの、リップルさん」

「……あの女は危険」

「えっ、いや、確かに……あの、いいんですか? それでレジスタンスにいて」

「……魔法の国を敵に回してもやりたいことがある。そっちも、そうでしょ」

 

 人事部門とやらに行けば、魔法少女の情報が手に入る。魔法少女の情報の中には、姉のことも含まれているだろう。その死の真実には、近づけるかもしれない。

 トーチカにはついていくだけの理由はある。ついていかないだけのリスクは承知して、無視している。リップルだってそうなのか。無表情な彼女からは何も読み取れず、その中にある複雑な心境のレシピも、トーチカは踏み込もうとはできなかった。

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