☆たま
「いろんなものにすばやく穴を開けられるよ」
☆リップル
「手裏剣を投げれば百発百中だよ」
☆スノーホワイト
「困っている人の心の声が聞こえるよ」
【Side T:Task force/Tama】
☆ノゾカセル・リアン
「思い出をフレームの中に映すよ」
☆キューティーオルカ
「空中を自由自在に泳げるよ」
☆レイン・ポゥ
「実体を持つ虹の橋を作り出せるよ」
☆ポスタリィ
「どんなものでも持ち主のもとに送り返せるよ」
☆リオネッタ
「人形を思い通りに操ることができるよ」
【Side R:Resistance/Ripple】
☆トーチカ
「なんでも作れる魔法のレシピを編み出すよ」
☆マッド=ルナ
「歌と踊りで誰も彼も振り向かせるよ」
☆トットポップ
「魔法のギターで実体のある音符を作り出すよ」
☆エンタープリーズ
「どんな扉も開いてくれるよ」
☆カラフルいんく
「カラフルな塗り絵で気分転換するよ」
☆サッキュー・ラッキュー
「魔法のストローで元気を吸い取っちゃうよ」
☆彩葉流歌(イロハルカ)
「魔法のカイロを貼って温めるよ」
☆キュー・ピット・アイ
「視線であなたを射止めるよ」
☆フィルルゥ
「魔法の針と糸でなんでも縫いつけるよ」
【Side S:Sleuth/Snow White】
☆ラピス・ラズリーヌ
「宝石を使ってテレポートできるよ」
☆ディティック・ベル
「たてものとお話できるよ」
◇リオネッタ
『例のゲームを生き残った者へ。君にはやるべき事がある』
そう書き出されたメールを受け取った時、最初は感情のままメールを消してやろうかと思った。
魔法少女の力を用いた裏稼業、汚れ仕事には何度も手を染めてきた。それでも、『広報部門』から話を寄越されるのは初めてのことだった。広報部門といえば、魔法少女のイメージアップのために、アニメなどのコンテンツを通じた発信を行う部門である。ただその仕事はそれだけでなく、知名度以上の野望を抱く者も少なくないと聞く。そんな広報部門からの話が舞い込んだ。その返事の期限は数日後とされていて、ギリギリになるまで考え続け、最後には受けることとした。
送り主はキークが起こした『魔法少女育成計画』事件のことを知っている。それを問い詰めてやる気になったのだ。あのゲームにリオネッタたちを引きずり込んだキークは表舞台から退場したというが、生還者であるところのリオネッタには見舞いも何も無いまま。せめて犠牲者の墓だけでも教えてくれたらよかったというのに。
広報部門が持つ、指定された施設──広報部門らしからぬ、医療機関めいた地味な建物へ到着したリオネッタは、その時点でいい気分ではなかった。そして、出迎えた者によって、微妙な気分が戦慄に変わる。
「初めまして。依頼の件でしょ。自分は見ての通りキューティーオルカ。広報部門所属の魔法少女さね」
「……っ」
「あっ、それともやった方がいい? 見たい? あーしょうがないなあ、ソロバージョンだけど名乗りやっちゃおうかなぁ」
キューティーオルカ。彼女の属する『キューティーヒーラーストライプ』の名は、裏社会においてはただのアニメタイトルではない。恐怖の名だ。広報部門における暴力装置のようなものであり、正義の味方にあるまじき『応対』を得意とする。構成メンバーはパンダ、ゼブラ、ペンギン、そしてオルカの4名だ。相手にしたくないとは以前から思っていたものの、まさかこんなところで。
「大海原をゆく白と黒のアバンチュール! キューティーオルカ! 白と黒、どちらも正しくどちらも美しい! どちらかだけなんて、このキューティーオルカが選ばせない!」
リオネッタの思考や反応を一切無視して、オルカはポーズとともに名乗り口上を高らかに述べていた。扱いに困り一瞬呆然としたが、長い前髪の奥ですごくドヤ顔をしているのはわかる。ここまで自己主張が強いと、やりにくいことこの上ない。
「傭兵を雇うような依頼に、オルカ1人だけを寄越すのですね」
「まあね。オルカちゃんが一番単独行動しがちだし。デイジーちゃんが事件中に残した手記がマジカルデイジーお別れ会で発表されてから、広報部門で覇権取りに行く機運が高まってるっていうか。まだ極秘だからオルカちゃんだけで動いてる、っていうか。本気でかかるとストライプどころか、キューティーヒーラーオールスターズ始まっちゃうっていうか」
切っ掛けはマジカルデイジーだった。彼女の手記とその死が広報部門を大きく動かしている……と。リオネッタはデイジーとはまともな面識がないままだったが、オルカの投入はありがた迷惑といったところだ。
「さぁて。なんで自分がここに呼ばれたか、気になる顔してんね」
「……えぇ、まあ」
「教えたげよっか」
オルカがギザギザの歯を剥き出しにして笑ってみせ、リオネッタを先導して歩き出す。その道中にあった部屋を開いたかと思うと、中に向かって一言。
「おーい、公務執行妨害ちゃんたち、出ておいで〜」
部屋から現れたのは、虹の魔法少女と郵便屋の魔法少女だった。明らかにオルカのことを警戒している、どころか郵便屋の方はかなり怯えている。
「この方たちは」
「元・獲物ってとこ?」
「どういうことですの」
「訳あって捕まえ、えー、いいように使って、じゃなくて、保護してるの」
2度も道徳的によろしくない表現になるところだったが、そもそもが裏稼業や半グレの魔法少女だ。脅して協力させている、といったところだろう。
「こっちがレイン・ポゥ。こっちがポスタリィ。まあまあ、後ろから刺されたら刺し返す感じで」
「はぁ……」
つまり信頼するなと言っているのか。金を貰っているならまだ信用できるし、オルカだって曲がりなりにもアニメ化された魔法少女だ。いつ裏切るかもわからない輩と一緒にいろと。依頼主には舐められているのか。レイン・ポゥとポスタリィ、両名に軽く頭を下げられ、スカートの裾を持ち上げ片足を引くお嬢様式のあいさつで応えたら、少々の苛立ちもありつつオルカに連れられていく。オルカが立ち止まったのは、病室らしき一室だった。カーテンに覆われ、ベッドが2つほど並んでいるらしい。オルカがカーテンを、勢いよくシャッと開いた。
「こっちこっち。これ見て、これ」
「なにを……っ」
リオネッタは目を疑った。ベッドに寝かされ、呼吸器を初めとした配線の群れに繋がれ、目を閉じたまま開かない魔法少女が、2人。ひとりはダブルサイズのベッドに、そのポニーの下半身を横たえている。もうひとりは巫女の衣装が乱れていて、その2人の顔、いや、何から何まで、ここではない場所で目にしたことのある姿だった。
「クランテイル。御世方那子。例の事件の被害者のうち──まだ、肉体が死んでいない魔法少女ね」
「は──」
クランテイルも御世方那子も、死が現実とリンクするあの悪夢のゲームの中で死んだはずだ。あの子の、ペチカの『料理を作る』魔法の材料にされたことによって、いなくなってしまったはず。それが、肉体は生きている、と。
いや、まさかとは思うが──ファルは『死の衝撃が心臓に負荷をかけて』死んでしまうと言っていた。それが本当のことだとしたら、ペチカに料理にされた彼女たちはその『死の衝撃』を受けていない、のか。答えはわからない。だが、クランテイルと那子に繋がる心電図は、ほんのわずかでありながら心音を示し続けていた。
「リオネッタ、だったね。この子達とは知り合いだって聞いてるよ」
「……えぇ。短い間、でしたが……目を覚まさない彼女らが、私への依頼となんの関係があるのでしょう」
「目覚めさせられるかもしれない方法がある。『魔法を解体する魔法少女』を確保し、彼女にキークの魔法を解体させる」
なるほど、そういうことか。クランテイルと那子をわざわざ連れてきて、目覚めさせたいのなら協力しろ、と。広報部門も随分とめちゃくちゃを言う。
ゲームの中でパーティメンバーだったとはいえ、クランテイルも那子も元は他人。金で汚れ仕事ばかり受けていたリオネッタを、そんな情を人質に協力させようというなど、ゲーム以前ならば全くの見当外れだっただろう。
「肉体がこうなっているってことは、行き場を失った中身が消えることさえできていないはず、というのがうちらの見解ね。うちらにとっても、その『魔法の解体』は欲しい存在になる。今回の依頼っていうのは、その子の確保だ」
「その子というのは、居所はわかっているんですの?」
「あぁ。ただちょっと、それが厄介で……ちょいちょい」
オルカの指示で、ポスタリィが慌てて写真を持ってきた。何やら監視カメラの映像から切り抜いたかのような画質の写真だ。そのおかげで、写真に映る魔法少女は、リオネッタの知る魔法少女と重なって思えてしまう。髪色、顔立ち、コック帽、鶏の尾羽、全部が彼女とペチカを結びつけてくる。
「『トーチカ』。先日の第4宿舎大量脱獄事件に関与しているとされる未登録魔法少女だ」
「……未登録、魔法少女」
「反体制派レジスタンスがバックにいるって話も出てる。実際、レジスタンス元幹部が脱獄してて」
そこから先の話はまともに頭に入ってこなかった。ただとにかく、ペチカに似た謎の魔法少女『トーチカ』の存在が、クランテイルと那子を現世に呼び戻すかもしれない。それが、私を許さないでと涙を溢して行ってしまったペチカが残した希望のようで、リオネッタは拳を握った。汗をかかない人形の中の奥で、小さなリオネッタ本体の手が汗を吹き出していた。ぐっと握りこんで、目を閉じる。
「えぇ、そうですわね、ペチカさん。私は貴方の人形ですもの。貴方が行ってしまった後でも……貴方の偶然が描いたように、踊ってみせます」
覚悟は初めから決まっていた。あとは、手繰る糸を見つけるだけ。
「ああ、それと。今回はラズリーヌ? だったかな。なんか流派とも協力してるみたいでさ。あと2人来るから、よろしくね」
リオネッタは何も言わず頷いた。誰が味方だろうと、もはや関係なく、頭の中にあるのは決して許すことのできないあの子のことばかりだった。