◇たま
たまは今、オールド・ブルーの下に弟子入りして、彼女の指導を受けている。たまより少し先に弟子入りしたという魔法少女と、二人一組での行動をするようにと言われ、今はその通りにしている。
ついでに最近犬吠埼家から家出して、ラズリーヌ門下生たちの寮にもお世話になっていたり。このバディは相部屋になるとのことで、ここ1ヶ月は彼女と一緒だ。二段ベッドで同年代の子と生活なんて、憧れの一端にあった生活だ。
だけど。
「あ、あの、ね、ノゾカちゃん」
彼女──『ノゾカセル・リアン』と交わした言葉は自己紹介くらいなもので、彼女はほとんど喋ってはくれなかった。振り向いてはくれるが、無表情のまま。それがなんだか、スイムスイムのあの発言しにくい感じを思い出して、何も言えずに首を傾げられた。この所の毎日は、勇気を出しては折れる繰り返しだった。
だが今日は確かな用事がある。せめてそれは伝えないと。
「そ、その、おばあちゃん……じゃなくて、師匠に……呼ばれてる、みたいで、私たち」
絞り出した声に、ノゾカは無言で頷くと、先に行ってしまう。ちょっと待ってと言おうにも言えず、師匠の待つ部屋まで早歩きだ。歩調の早いノゾカに置いていかれないようにして、彼女に続いて部屋に入る。呼んできてと言われたのはたまの方なのに、これでは連れてこられている。
中には、上品、としか形容できない魔法少女がゆったりした椅子に腰掛けている。
「き、来ました……!」
彼女、オールド・ブルーはくすっと笑い、たまとノゾカにも座るよう促した。言われるがまま、おもむろに座るノゾカに続き、その隣に腰掛ける。差し出された椅子も良いクッションだった。
「ノゾカとは仲良くできていますか?」
たまは答えを淀ませた。ノゾカはそう思ってくれているのだろうか。ノゾカの方を見ると、ゆっくり頷いていた。それを見てから、慌てて頷く。自分は仲良くしてもらえているらしい。
「それはよかった。共同生活にも慣れてきたころでしょう。貴女方に、任務を与えようと思いまして」
「任務……」
「先日、魔法少女刑務所からの脱獄事件がありました」
たまと同じく修行をしている者たちの間でも話題になっていた。収監されていた魔法少女が多数解放され、逃亡中だ。怯える者もいたが、返り討ちにしてやると意気込む者もいた。まさかとは、思うが。
「任務の内容は、脱獄事件の犯人であるレジスタンス魔法少女部隊の捕獲。広報部門と協力して事にあたることになります」
「……師匠。それは、監査部門の仕事では。なぜ広報と我々が?」
ノゾカの声を久しぶりに聞いた。言われてみて確かに、魔法少女のアニメ化をはじめとした事業を行う広報部門が、しかも監獄の襲撃犯という大捕り物を狙うのは不自然だ。
「そうですね。ただ捕まえるには勿体ない者がいる、といったところでしょうか」
事情はぼかして伝えてくれない。たまもノゾカも、考えるのはそれほど得意ではない。特にたまは。悪い人を捕まえる、ただそれだけ考えていればいい……の、だろうか。こう言っただけで納得されるとは思っていなかったのか、視線を泳がせていたたまの方にオールド・ブルーは歩み寄り、たまとノゾカの頭を撫でた。
「えぇ、そうです。これは修行の一端でしかありませんから。健闘と、無事を祈っていますよ」
そうやって柔らかく微笑む師匠を前にすると、何も言えなくなる。ノゾカと顔を合わせ、たまはうんうんと頷き、ノゾカも頷いてくれたのだった。
「合流の予定はこの後、午後からです。用意をしてきてくださいね」
「えっ?」
「しばらく寮から離れ、広報部門の方が活動していただくことになりますから」
「えぇっ!?」
いきなりの話だった。ようやく枕に慣れてきた頃だったのに、いきなり遠征なんて。枕も持って行ってしまおうか。師匠の無茶ぶりに、何気なく手を握り、その肩をぽんと叩かれる。ノゾカだ。驚いていると、急にふっと笑った。
「任務、がんばろう。がんばる」
「……うん!」
少なくとも、ノゾカに悪く思われている風ではなく、安心して出立の用意に取り掛かった。
──のだが、主に枕のせいで余計に荷物が大きくなり、なかなか用意してもらったリュックに入らず、手伝ってもらったり取捨選択を相談したりして、荷造りはふたりですることになった。
そして、予定より少し遅れ、日が暮れる頃になって広報部門へと到着。たまとノゾカは想像していたより質素な建物に入り、よくわからない薬品の匂いでいっぱいの中、出迎えられる。長い前髪で目元の隠れた白黒の魔法少女だった。
「やあ。ラズリーヌの門下生の2人っていうのが君たちかな」
「は、はい」
「自分は、見ての通りキューティーオルカ。そう、みんながテレビで見たことのあるあのキューティーオルカ」
ノゾカがおお、という感じの反応をしたので、たまの反応の前に、キューティーオルカはご満悦の顔になっていた。そしてノゾカが一言も発しないのをいいことに、名乗りやらなんやらの話を始めてしまい、たまが「あの、」と発さなければ終わらなかった。
「おっとと、ごめんごめん。これで揃ったってことで、改めて顔合わせしとこうかね」
彼女が案内役になり、道中『公務執行妨害ちゃんたち』と『お人形さん』を呼び、会議室に通される。虹の魔法少女、おどおどした配達員の魔法少女と続いて入ってきて、最後にゴシックでロリータな格好の人形の魔法少女が入ってきて、互いに目が合った。
「リオネッタ……さん!?」
「……そう耳を立てないでくださいまし。仕事ですもの、こうなることもありますわ」
予想外の再会だった。ゲームの終わりには戦う羽目にもなったけれど、それは事情が重なってのこと。彼女の魔法やその戦いぶりは知っている。味方にいてくれるというのは、頼もしい限りだ。取り繕って笑顔にして、リオネッタには苦々しい表情をされた。
「まあまあ。今回の仕事について、もっかい確認ね」
目標は『トーチカ』という魔法少女。軍服めいたコスチュームにコック帽という調理兵スタイルで、金髪、鶏のような尾羽が特徴だ。最後に目撃されたのは魔法少女監獄の襲撃時で、他の反体制派の魔法少女とともに多数の凶悪犯を脱獄させた後、看守1名を拉致して逃走中、とのこと。
行いはテロリストそのもので、この反体制派及び脱獄囚の確保も任務の一環だ。ただ、トーチカだけは他部門に渡さぬよう、と強調される。
続いて、トーチカの写真が見せられる。監獄にあったカメラのデータだそうで、その姿を見る限り──たまにも見覚えがあった。『魔法少女育成計画』のゲームにおいて、自らの命と引き換えにゲームを終わらせたあの子だ。彼女の味方であり続けようとしていたリオネッタは、きゅっと机の上に置いた手を強く握っていた。
「情報が入り次第、こちらから指示をさせてもらうね。あ、いいよね? ストライプ本編でだって、オルカちゃんが司令塔になることもあったし、一番自然だよね。そうそう、第21話の時なんて〜」
オルカは何か言っていたが、そこから始まった話を聞いていたのは、恐らくノゾカだけだったと思われる。虹の少女はこちらをなぜかじっと見ていたし、郵便屋さんの少女はそんな虹の少女とたまを交互に見ていた。