魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第46話『魔法少女集結IV 魔法少女に囲まれて』

 ◇トーチカ

 

 大所帯となったレジスタンスの拠点。丸一日もすれば各自で部屋を確保し、ほぼ所在が確定した。寮やアパートのような感覚だ。トーチカも自分専用の部屋を手に入れ、監獄襲撃でどっと疲れたぶんを、ベッドにひっくり返って癒そうとしていた。

 魔法少女でいる間は食事や睡眠に悩むこともない。それでも、精神的に休みたくはなる。いっそ変身を解いた方が、眠るにはいいか。寝転がると、今の体に女の子であることに違和感があって落ち着けない。

 トーチカは建原智樹に戻り、長いため息を吐きながら、仰向けに転がった。そして、ゆっくり休もうと目を閉じた。瞼の裏にあるのは、今日あった後戻りできないような出来事の数々。これでしばらく追われる身がゆえ、家にも帰れないだろう。学校も無断でサボっているし、親はどう思っているだろうか。なんて考えながらも目を閉じてしばらくして、微睡んできたその時、扉がノックされた……んだと思う。その後、声を掛けられていたのかもしれない。が、結局気づかなかった。

 

「こ、こっそり失礼しますね……えっ」

「ん……えっ?」

 

 入ってきていたのはエンタープリーズだった。鍵をかけていたはずなのに入られているのは、彼女の魔法ゆえか。さすがに他人の部屋を勝手に開けるのはやめてほしいんだが、なんて思いつつ起き上がって、今トーチカがトーチカではなく智樹である、という点だと気づくのが遅れた。慌てて変身しようとベッドから飛び出して、さらにタイミング悪く、飛び出してきた魔法少女が3名。

 

「いえーいトーチカちゃん! ここ広くて快適だねぇ!」

「同志トーチカ! 作戦会議だ作戦会議!」

「トーチカ! うちなぁ、せっかくやしお茶菓子買ぅてたんやけどな、休憩がてら食わへん?」

 

 ひとしきり言いたいことが、ほぼ同時に発せられ、聞き取る前に目が合った。

 

「……誰や?」

 

 イロハは首を傾げ、

 

「なっ、お、お、男!?」

 

 いんくは仰天し、

 

「え……めっっっちゃ可愛い〜!」

 

 サッキューは喜び出す。

 最初に目撃したエンタープリーズは完全に固まっており、その横をすり抜けサッキューが全身じろじろ見てくる。とにかく変身していつも見せたことのある姿になって、4人娘を部屋に招き入れ、ベッドや椅子を使って輪になった。

 

「……こ、こほん。まあ、トーチカの正体がなんであれ、関係あるまい。うん、そういうことにしよう。あ、トットポップはあの人質と話してくると言っていたぞ」

「えへへ、そっかぁ、トーチカちゃんじゃなくって……トーチカくんなんだぁ……」

「サッキュー? 戻ってこーい? な?」

「……」

 

 エンタープリーズが無言で睨んできている。スカウト担当の妖精は「男子でもまれになる人はいる」と言っていたが、数は少ない。中身が異性だと、警戒されるのもやむなしだと思う。むしろ、にこにこしたサッキューの目の方が怖い。

 

「とにかくだ。トーチカ、襲撃作戦ではご苦労だった。分析のおかげで、これだけ多くの同志を得ることができたからな」

「それは……僕だけのじゃないというか」

「まあ確かに頑張ったのは我々だが?」

「おい。いんくは1番楽やったやろ。大変やったのはエンプリやろ、なあ?」

「えっ? う、うん、それなりには」

「あたしも過呼吸になるかと思ったよ〜」

「サッキューは吸って吐いてやもんなあ。看守にも出会すし、散々やったわ。あんたら一撃でやられとったしな」

「あっ! あれはだな! 油断していたとかではなく!」

 

 皆わいわいと各々の話をするがゆえに、なかなかいんくのしたい話は進まない。煽られたいんくを宥め、ようやく次に進む。

 

「聞いたか? ルナ様によると、次の襲撃は人事部門だそうだ」

 

 マリアの遺体が安置されたあの部屋で、ルナ自身が言っていた話と同じだ。既に次の襲撃が予定に入っている。人事部門という名前で、魔法少女の名簿があるというと、人間の社会で言う役所のような場所なんだろうか。

 

「人事部門……他の部門に比べたら、暴力は苦手そう、かも」

「封印のこととか的確に指示してくれたトーチカくんなら、人事部門もなんとかなっちゃう?」

「そ、そんな無茶ぶりされても……そもそも人事部門なんて行ったこともないですし」

「あはは、だろうね〜」

「余程のことがないと用がないっちゅうしな。実際今回が初の用事やもん」

 

 わかるのはレシピ、つまり作り方だけだ。見たこともない場所の攻略方法なんてわかるはずも……と考えて、ルナから『材料リストが欲しい』と言われていたことを思い出した。にしたって紙に書いておく……ものなのだろうか。ちょっとアナログすぎやしないか。特定の人にしか見えない魔法の紙とかないんだろうか。紙側じゃなくても、インク側とか。

 ん、インク?

 

「なんだ、そんなに私の顔を見て」

「あ、いや……特定の人にしか見えない暗号インクとか使えないものかと」

「私の魔法にそういうのはないぞ。見る者がすごく眠くなる文字とかは書ける」

「それはそれで嫌な暗号になりそうですね」

 

 いんくのことは頼れないことがわかった。怖いが、挨拶回りついでに、それに類するものが使えないかと聞いて回ろうか。疲れた感覚は仮眠でマシになった。自分の頬をつねって目を覚まし、立ち上がる。

 

「ど、どこか行くんですか?」

「一応、挨拶に行こうかなと」

 

 そもそも成果には期待はしていないが、ルナほど、こう、目の前にいたくないような人物はそういないはずだ。少しくらい接しやすい人物がいないかと、トーチカはいつの間にかくつろぎモードでイロハの持ち込んだお菓子を開けていた4人娘を置いて、部屋を出た。

 

 ──まず立ち寄ったのは、人質のいる部屋。人質とされた看守のフィルルゥは、拘束されているわけでもなく、こちらを見るなり気まずそうにした。監視役なのか、近くには壁に寄りかかったリップルがいる。リップルには軽く会釈をして横を通り、ベッドに腰掛けているフィルルゥに目線が合うように屈んだ。

 

「その……失礼します。僕はトーチカ……っていいます」

「あっ、ご丁寧にどうも。フィルルゥと申します」

 

 監獄の看守だった彼女は、封印解除担当の4人娘を圧倒し全員拘束した後、リップルとの一騎打ちの末に確保された、らしい。人当たりから受ける印象は、武闘派っぽくはない、真面目で自己評価の低そうな、ちょっと姉っぽいタイプに思える。

 

「えっと、フィルルゥさんは看守……でしたよね」

「はい、ですが恐らく、今回のお陰で失職かな……と、はは……」

 

 諦め顔で遠くを見つめている。可哀想かなと思ってしまうが、これをやったのも自分だと言い聞かせる。反体制派、今あるものを壊すんだ、こうなる者が出るのも覚悟はしておかないと。それにしたってフィルルゥの纏う哀愁には耐えきれなかった。思わず手を取って、きっと貴女を必要な人がどこかにいます、といった具合に声をかけてしまう。フィルルゥは驚いた顔をして、だといいですけどね、なんて苦笑した。

 それからそれなりに気まずく、ちょっとした会話をぽつり、ぽつりとする程度で、自然と会話が途切れ、丁度誰かがこの部屋を訪ねてきたタイミングで、トーチカは入れ替わりに部屋を出た。出る時、ルナを含む数名とすれ違ったが、見なかったことにする。

 

 そして次の部屋へ。コンコンと扉を叩き、返事のない部屋、中で盛り上がりすぎて気づいてもらえない部屋、すぐに出てきて軽い挨拶で応対してくれた魔法少女の部屋、と続き、なんだ、脱獄囚でも話が通じる人がいるんじゃないかと思い始めた次の部屋だった。

 

「はいっ」

 

 魔法少女の例に漏れず可愛らしい、そして細く透き通った声だ。自分はレジスタンスのトーチカで、挨拶回りをしている、と伝えると、少しだけ扉が開かれ、顔を覗かせた。

 部屋の主は目隠しをした魔法少女だった。モチーフは蛇、だろうか? 髪飾りや各所に、ハート型にとぐろを巻いた蛇の意匠がみられる。背中にある小さな羽も蛇っぽい鱗で、むしろドラゴンっぽい。原色ピンクのふわっとした髪を指先でくるくると弄りながら、こちらを品定めしている、ような。

 

「失礼……(わたくし)、封印刑の前に目隠しをされてしまったもので……あなた様のお顔も見えませんから。蛇の魔法少女として……温度を感知して、なんとかしておりまして」

 

 彼女は口元に手をやって、控えめにくすりと笑ってごまかした。

 

「あぁ、よろしければ……この目隠し、取ってくださいませんこと……? 封印を解けたあなた様ならきっと……お願いできませんか……?」

 

 視覚に関わる魔法を持っていたのだろうか? 視覚を封じられているのは不便だろうと、トーチカは疑いは残しつつ、その目隠しのレシピを覗き見る。確かに魔法がかけられ、自分では外せないようになっているようだ。だったら、と目隠しに触れ、魔法による抵抗がトーチカの体に走るも、耐えて結び目を解いた。

 はらり、目隠しが外れ、蛇の魔法少女とトーチカの目が合った。目が合って、焼き付くようなビビッドピンクだなと思っていると、虹彩がトーチカ一色になり、そして縦長の瞳孔はぐりぐりとこちらを舐めまわすように動き回り、最後に視線を捉えてきた。否、()()()()きた。

 

「あっ……♡」

「ッ……!?」

 

 響いた嬌声に手が止まる。思春期に差し掛かったばかりの智樹には刺激が強すぎる声だった。

 

「この目隠しが外れたということは……あなた様が……♡ はぁっ♡ 見つけた♡ (わたくし)の……おうじさま♡ こんなお顔をしてらしたのですね♡」

 

 見られてはいけなかった。嫌でもわかる。既にトーチカは蛇に睨まれた蛙だ。逃げ出そうにも逃げ出せない、どころか体が動かない。魔法なのか。視線から逃れられないまま、その手が、足が、するりと組み付いてきて、荒い息のまま、耳元で囁かれた。

 

「『キュー・ピット・アイ』……それがあなた様の、姫の名です。刻みつけてくださいましね♡」

 

 撤回しよう。脱獄囚魔法少女たちに、話が通じると思っていた僕が間違いだった。

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