この場を借りてお礼申し上げます。ミルキーウェイ、好きです。
◇トーチカ
現在時刻は午前9時。人事部門襲撃作戦の開始は約1時間後の予定だ。ルナの指揮のもと、魔法少女たち複数名が集まり、これより作戦の説明が行われる。今回の襲撃は最小限のメンバーでのものとし、戦力は温存するようだ。脱獄させた魔法少女たちは、レジスタンス4人娘の活躍により8名がいるが、ここにいるのはそのうち2人だけだった。
トットポップはフィルルゥの監視、及びその他脱獄囚魔法少女とともに待機だと聞いている。今はフィルルゥの部屋にいるそうだ。フィルルゥとは知り合いの様子だったが、なにを話しているのだろう。トットポップは顔がやたらと広く、彼女に言わせれば「昔、ちょっとね」なんだろう。
これから作戦開始だというのに、なんてことを考えているのは、トーチカの現実逃避のためである。
「おうじさま……昨夜はあんなに激しく……♡」
「っ!? 違う違う違う! ない、ないから! 何も無かった!」
キュー・ピット・アイ。昨日、初めて出会った魔法少女。他の脱獄囚魔法少女なんかからは、あいつやらかしたな、という目で見られる。ものすごく恥ずかしい。抱きしめてくると柔らかい感触がして、それも思考がおかしくなりそうだ。
「はぇえっ!? な、なにをトーチカにベッタベタくっついとるんやあんたは!?」
キュー・ピット・アイを初めて見たイロハの反応はこうだった。
「私、おうじさまの姫です♡」
「なんて?」
「運命が私とおうじさまを引き合わせたのです♡」
「せやからなんてぇ!?」
イロハからお前はそれでええんかという顔を向けられ、よくないと首を振った。よくないが、どうしようもない。離れてくれと最初のうちは言っていたが、彼女は一切の話を聞いてくれない。
「まあまあ。キュピちゃんも参加するってことでいいんじゃないかなぁ」
「キュピ……?」
「キューちゃんじゃあ
「……私、あだ名なんて初めて……はぁっ♡ あなた様も私の運命の方なのですね♡」
「え? えー、これどういうこと? トーチカくん」
「僕に聞かれても……」
そのぐりぐり動く眼球はサッキューに対してもハートを浮かべていた。困ったサッキューが眉間に皺を寄せるなんて初めて見た光景だった。
「はーい! みんな、揃ってるかーい!」
マイクを通した声が響いたその瞬間、各々話していたレジスタンス魔法少女たちは一斉に声の方を向き直る。マッド=ルナだ。彼女は全員に手を振って、アイドルのパフォーマンスかのように堂々と登場した。
「人事部門襲撃大作戦、はっじまるよー。準備はオッケー?」
「──」
突然の問い掛けに、咄嗟に反応できず周囲を見る。比較的テンションの高い面子もタイミングを逃したらしく、即座にルナのコールがもう一度響く。
「聞こえないなぁ、みんな! 準備はオッケー!?」
「お、おーっ!」
「うむ!」
「はーい!」
「できてまっせ!」
「……は、はいっ!」
「はぁ〜い♡」
トーチカに4人娘とキュー・ピット・アイを加えた6人分のレスポンス。そこに参加しなかったのは、ずっと黙ったままでいる魔法少女だ。挨拶回りに行った時には顔を出してくれなかった脱獄囚魔法少女だった。見るからに炎っぽい見た目で、声をかけようにも、なんとなく他のみんなには無いようなオーラがあって近寄り難い。
「それじゃあチーム分けを……あれ? キュー・ピット・アイは呼んでないはずだけど」
「私はおうじさまのお傍にいなければなりません」
「んー、まあいっか!」
……いいんだ。当たり前のようにここにいたが、そもそもルナの作戦に含まれていないというキュー・ピット・アイ。そうまでしてトーチカにくっついて回りたい理由はわからない。聞いても理解できないので、もうそういうものなんだと思う。もしかして、ルナがあっさり認めたのもそういうことなのか。
「気を取り直して! チーム分けね。正面玄関は──」
──というわけで。トーチカは正面玄関側から突入し、オフィスを目指す係となった。
魔法少女たちの名簿や、トーチカの目的となる例の事件の情報が含まれるデータベース。それが今回の狙いで、本命だ。
キュー・ピット・アイはその護衛役ということで、要望通り『おうじさま』とずっと一緒に行動する。頼りになるかどうかは知らないが、当事者としては、作戦中でもこの調子なんじゃないかと心配であった。
そしてそのトーチカの潜入を成功させるため、警備を惹き付け、騒ぎを起こして撹乱する役がいる。これが残る1名、『炎の湖フレイム・フレイミィ』だった。
時刻は午前10時少し前。この日は警備が最も薄いらしい。別のテロリストが見ても今日を選ぶだろう。なんなら襲撃がダブルブッキングする可能性すらあるという話だ。途中で、トーチカとは別行動となるルナ及び4人娘と分かれたら、正面玄関に突入する。正面玄関組には一切の会話はないが、作戦行動に支障はない。
人事部門正面玄関にある受付では、通常業務はまだ始まったばかりながら、数名の魔法少女が並んでいたり、受付でも魔法少女が作業していたり、意外と人がいた。彼女らを巻き込むことになる。心を痛めている暇はない。
「スタンプラリーの方はこちらですよ」
受付の魔法少女が案内してくれようとしているが、トーチカは大丈夫ですと無視して先へ進もうとした。さすがに不審に思われたのか追いかけられそうになるが、それより先に、待合室に残った彼女が作戦を開始し、魔法を解き放つ。
「『
フレイミィを中心として炎が放たれ、貼られたポスターやら置いてある書類に次々と引火。一瞬にして周囲は火の海と化す。それは待合の椅子や受付の機器も例外ではなく、巻き込まれた彼女らは慌てて正面玄関から出ていこうとする。それを、フレイミィの炎が阻んだ。先頭を走っていた魔法少女が火傷を負い、転がる。炎の壁が入口を塞ぎ、さらに爆発的燃焼は家具類を破壊し、ガラガラと棚の上に置かれていたものが落下していた。
「死人は出さないで!」
トーチカの言葉に、フレイミィは答えたのだろうか。何も聞こえず、頷いたのすら見えなかった。ただし、作戦行動は迅速に行わなければならない。トーチカはキュー・ピット・アイと並んで、さらに奥へと駆けていく。
「『古巣に帰ってきてやったというのに挨拶もなしか』『スタンプラリーは今日で中止だ』……ですって。フレイミィさん……カッコいい♡ 運命感じてしまいます♡」
彼女が言う啖呵はトーチカには全く聞こえなかったが、その中に少し気になる言葉があったので、走りながら聞いてみる。
「古巣?」
「フレイミィさんは元々この部門の所属ですわ。凄く悪いことをして、魔法少女狩りさんに捕まったそうですけれど……あら」
そして丁度話が一区切り着いたところで、開けた場所に出る。そこには様々な材質で作られた橋のような物体が乱立し、バリケードとなって道を塞いでいる。先に進むのは難しい。
そして、魔法少女が立ち塞がっている。青くキラキラしたコスチュームの彼女は右手でピース、左手を突き出すというポーズを決め、名乗りをあげる。
「夢と希望、未来をつなぐ天ツ橋。彗星の如く、今、推・参ッ!! 魔法少女、ミルキーウェイ! 聞いていた予定よりなんだか早いですが、ここから先は、絶対に通しません!!」
あの先の部屋が目当てのオフィスになるはず。そして、ミルキーウェイの瞳に宿る強い意志は曲がらないだろう。ここは押し通るしかない、つまり、戦うことになる。魔法少女同士の戦闘なんて初めてだ。身構えるが震えてしまうトーチカの手を、キュー・ピット・アイが手を握った。
「ご安心を、おうじさま。私は護衛役、兼、あなた様の武器ですから♡」
こんな時になって、彼女に落ち着かせられるとは。トーチカは深呼吸をして、目の前に立ちはだかる青に向かい合った。