魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第4話『お姫様エリア』

 ◇マジカルデイジー

 

 マジカルデイジーが出会った魔法少女2名、@娘々及び夢の島ジェノサイ子と3人パーティを結成してから数時間。デイジーたちが最初のエリアやショップで何やかんややっていたところ、いつの間にか新たなエリアが開放されていたらしい。早速次に行こうというジェノサイ子の意見により2番目の『お姫様エリア』へ向かう。その途中で、他のパーティとすれ違った。

 

「え、その子なんで縛られてんの?」

 

 ジェノサイ子から出た単純な疑問。そちらの4人パーティは、人形、巫女、ケンタウロスの魔法少女と、その馬体の背中に無理やり糸で縛られたコック帽の魔法少女の4人だった。こうでもしないと逃げるらしい。

 

「えっと、あの……頑張って!」

 

 縛られて虚空を見つめていた彼女に声をかけるだけかけて、別れた。単独でいてくれればパーティに縛らず招き入れたのだが、残念だ。他は4人パーティでこちらだけ3人というのは不利になる。その分まで、頑張らなくては。マジカルデイジーは密かに気合いを入れた。

 

「みんな! 次は必殺技大盤振る舞いでいくよっ!」

「おおっ! ついに生デイジービームが!」

 

 

 ◇ディティック・ベル

 

 ディティック・ベルは探偵の魔法少女だ。ゲームを攻略するようにはできていない。出会った順に成り行きで結成されたパーティは、まず宝石を用いた瞬間移動と持ち前の勇敢さを武器とするラピス・ラズリーヌ。次に、透明化の魔法を使い銛を撃ち込む名手であるメルヴィル。そして2人に負けず劣らず勇猛果敢で肉体派のカプ・チーノ。皆『戦う魔法少女』だった。

 

「ゲームだから謎解きとかもありそうっすよね! そうなったらベルっちにお願いするっすよ!」

 

 ラズリーヌはそう言っていた。あるかどうかもわからないものに期待されても、今は役に立たないと言われているようなものだ。最低限の支援はできるつもりでも、精々今出来ることといえば、コスチュームに付属した虫眼鏡で思いっきり雲のモンスター『ねむりんソルジャー』を殴ることだった。……意外とダメージが出たらしく、ねむりんソルジャーは目がバツ印になりながら吹っ飛び、地面にバウンドすると、丁度その近くに着地してきたカプ・チーノについでのように倒された。

 

「ふぅ。これで終わり?」

「キャンディも稼げたっすね」

「狩場としてはなかなかなんじゃない。夜が明けると復活だったっけ」

 

 ねむりんソルジャー及びその亜種の群れを潰した結果、皆のキャンディの平均は100を超えている。ただし、ディティック・ベルを除いてだが、これだけあれば躊躇いなくアイテムを買えるだろう。

 

「ディティック・ベルに盾でも買っておかないとね」

 

 カプ・チーノの言葉に耳が痛い。ベルっちに何かあったら大変っすからね、と続くラズリーヌの言葉も刺さる。だからわざわざ、自分は別行動でイベントのヒントを探そうと提案したのに、蹴ったのは他でもないカプ・チーノだ。探偵なんだから洞察力で指示とか出してよ、との理屈だった。無茶振りがすぎる。

 その後も攻略のためにねむりんソルジャーを倒しながら進むが、その先には何やら荘厳な門と、明らかに雰囲気の違うお城がそびえ立っていた。建物の中に建物があるという変な光景だが、ここから違う領域になるのだろう。

 

「これは……」

「いかにもって感じ」

 

 鎧と槍で武装したねむりんソルジャーたちが門番となり、入口を守っている。中央にある立て看板には文章が書かれているが、暗号なのか象形文字なのか、人型の絵文字のようなものが書かれている。旗を持っていたり不思議なポーズを取ったり、個性的な人型でいっぱいだ。

 一方、城門の奥にはどうやらこの武装したモンスターがひしめいているらしく、突っ込むのは得策ではないのが明らかだった。4人揃って立て看板の前に並び、首をひねる。

 

「なんのポーズなんすかね。この通りにしたら入れてくれるとか?」

 

 ラズリーヌはいくつかの人型の形を真似してポーズを取った。よく見ると、人型の中には同じ形が多い気がする。そしてこの人型がずらりと並ぶ感じ、見覚えがあるような……?

 

「……あれ? メルっちは?」

 

 ラズリーヌが首を傾げる。そういえば、メルヴィルの姿がなくなっている。立て看板に集中しているうちに、休憩に移動したのか。周囲を見るが彼女の姿はない。代わりに、こちらに歩いてくる人影が2つ。

 

「あっ! もしかしてプレイヤーさんっすか?」

 

 ラズリーヌに声をかけられ、その犬耳の魔法少女は縮こまり、ナース服の魔法少女は素直に頷いた。それから、互いの情報を交換する。ラズリーヌはいつもの名乗りをあげ、犬耳の魔法少女は目を輝かせて肉球で拍手をしていた。彼女の名はたま、ナース服の方はシャドウゲールと言うらしい。ディティック・ベル及びカプ・チーノも、主にラズリーヌから紹介を受け、会釈で自己紹介の代わりとする。シャドウゲールからも会釈が返ってきた。

 

「で、この看板を解読中なわけ。見るからに何かあるでしょ、こんな城に門番までいてさ」

 

 状況はカプ・チーノから説明され、たまとシャドウゲールも並んで看板を見る。2人揃って、首を傾げた。革命的なアイデアには期待できなさそうだ。

 

「なんのことだかさっぱりですね」

「いやぁ、ほんと。楽しそうに踊ってるようにしか見えないっすよ」

 

 ラズリーヌの何気ない言葉に引っかかった。踊る……あぁ、そうか、ディティック・ベルともあろう者が忘れてはいけないものじゃないか。

 

「そうだ、踊る人形」

 

 シャーロック・ホームズの1篇、その作中に登場する暗号そのものなのだ。恐らくは形とアルファベットが対応している。そうと決まれば、真っ先に取り掛かるのは頻度の分析だ。踊る絵文字たちと睨めっこをして、ディティック・ベルは一種類ずつ抜いていく。まずは最も頻度が高い「E」。続いて「T」や「N」を仮定し、「EEN」で終わる5文字の単語を発見、恐らくは「QUEEN」だとして解読を進めていく。

 その間、ラピス・ラズリーヌはカプ・チーノと共に、たま、シャドウゲール両名としばし雑談タイムに入っていた。口下手そうな2人組だがさすがはラズリーヌ、早速心を開かせ始めているようで、ふと見るとたまの緊張が解れてきている。

 

「……The queen will not have an audience……」

 

 やがて魔法の端末にしていたメモ書きが埋まり、英文が出来上がった。幸いにも前提を間違えることはなかったらしい。出来上がったものが指すのは恐らく「女王陛下には5人組でなければ謁見できない」という内容だ。メルヴィルは姿を隠してしまったが、丁度たまとシャドウゲールがいる。ディティック・ベルは雑談中のメンバーに話しかけ、暗号が解けたことと、5人組の件を伝える。

 

「えっ! ベルっちもうあれ読めたんすか!」

「……恐らく、この女王っていうのが、そのバーチャルねむりん?の言っていたエリアボスで、元々普通のパーティじゃ挑めない設定になっているみたい」

「丁度メンバーは運良く5人ってことね。メルヴィルはどうするの?」

「メールで先に攻略してるって伝えておけばいい、と思う。後から追いついて来るならそれはそれで」

 

 皆の視線はたまとシャドウゲールに向く。

 

「この先エリアボスになると思うけど、来るよね」

「一応こちらのメンバーからの連絡が……」

 

 着信音がシャドウゲールの言葉を遮った。機を窺ったかのようなタイミングでのメールだ。添付された画像には自撮り風にして、眼帯の魔法少女と、先の暗号と同じ踊る人形が描かれた看板が写っている。解読済みらしく、文章の方はその内容が書いてあった。

 

「『女王のブローチは女王の城に』……ってことは、結局対策アイテムも乗り込まないといけないってことですかね」

「い、行くんだよ、ね? 女王様のお城」

「そうと決まれば、っすね!」

 

 答えは決まったようだ。ラズリーヌがぱんと手を叩いたのを皮切りに、皆で城門に歩き出す。門番の反応はない。意外と通して貰えるのだろうか。様子を窺いながら、最初に皆を制止してカプ・チーノが踏み込む。その長い三つ編みがふわりと靡き、門の横を通る──その瞬間、門番が高く槍を掲げ、何語かわからない声をあげた。敵襲の合図だ。奥から続々と兵士が現れ、襲いかかってくる。

 

「カプっち!」

「あたしが囮になるから先行って! すぐ追いつく! ……って! 言ってみたかったんだよね!」

 

 構えた彼女は鮮やかなローキックで兵士の第1陣を吹っ飛ばし、奥から来る連中に飛び込み拳、からのコンビネーションキックが炸裂。一瞬、入口が開けた。

 

「ベルっち、掴まるっす!」

 

 ディティック・ベルの手をラズリーヌが強引に掴み、その一瞬に向けて踏み出した。そこへ追ってくる兵士の槍を拳で逸らし、肘の一撃で雲散させ、より先へ。ディティック・ベルが狙われそうになるのはラズリーヌが的確に対処。そしてその間にたまが前に出て、爪の一撃で数体の兵士が爆散、4人は扉に突っ込んで転がり込む。追っ手は少なからずいる、が最後尾にいたシャドウゲールが大きなハサミで殴り飛ばし最初の個体を倒すのに合わせてラズリーヌが青い宝石を投げ瞬間移動、追っ手の勢いを回し蹴りで殺し、ディティック・ベルの手を引いていたのを今度は抱き抱える方に切り替える。わけもわからずお姫様抱っこの形になるが、構っていられない。

 

「二手に分かれるっすよ!」

 

 たまとシャドウゲールに向かう雑兵に、落ちていた槍を投げつけ挑発。多めに追っ手を引き受けながら、ラズリーヌが駆ける。やたらと長い廊下を風を切って走り、一切の減速なく角を曲がる。見回り中らしき兵士は声を出される前に潰し、急な下り階段を思いっきり飛び降り、下へ下へ。そうして逃げ込んだ先は、あろうことか行き止まりだった。

 

「あー、ちょっとまずったっすね。今から戻って適当な部屋に」

「ラズリーヌ! こっち!」

 

 ディティック・ベルは行き止まりの横壁に口付けをする。荘厳な城の壁に、カートゥーン調の老年の男性の顔が浮かび上がり、2人を見下ろした。『たてものとお話できるよ』、それがディティック・ベルの魔法だ。本来ならば建物の記憶を探り、密室を破ったりするのに使う。だが今回は違う。

 

「おやおやお嬢さん……ここは女王の城。女王陛下の許可なく私に話せることはないよ」

「なんすかこれ」

「口の中、隠れさせて」

「そのくらいなら構わないが」

「え! 入れるんすか!」

 

 壁の顔は口を開いた。壁のくせに唾液があるせいでねばつくが、この際贅沢は言えない。ラズリーヌを連れて舌の上に立ち、狭い中を詰めて2人押し入って、口を閉じてもらう。口の外ではギャーギャーと兵士たちがディティック・ベルとラズリーヌを探す音がするが、しばらく待てばその音も過ぎ去った。頃合いを見て出しての合図に口内をとんとんと叩き、外に出る。コスチュームはベタベタになってしまったが、撒いたようだ。

 

「危なかったっす! 助かったっすよ」

「こっちこそ」

 

 たまとシャドウゲールは無事だろうか。無事だといいのだが。撒いた追っ手があちらに合流しないことを祈り、来た道を戻る。行き止まりの反対側には大きく重そうな扉が見つかった。2人がかりで押すまでもなくあっさりと開いたので、内部に踏み入る。

 

「おおー! お宝まみれっす!」

 

 中には宝箱が点在し、その外にも金貨のぎっしり詰まった箱が複数あった。試しに手に取ってみたが、魔法の端末にインストールできないあたり、そちらはゲーム内アイテムではないらしい。代わりに宝箱の方を開いてみる。鍵はかかっておらず、中に何かが入っているというわけでもなかった。ただし開いた瞬間、ファンファーレが鳴って、端末の方にメッセージウィンドウが出現する。マジカルキャンディを百七十四獲得しましたと言われ、なぜそんな中途半端な数値なのかと思った。確かにキャンディの数はそのくらい増えている。

 他の宝箱からは武器や防具が出現する。この武器や防具にはプラス補正がついており、このエリアのショップで扱っているものよりもその数値が大きい。ひとつ先のエリアで手に入るものだろうか。買うタイミングを逃していたわけで、あるに越したことはない。

 

「お! ベルっちこれ!」

 

 開封タイムの中、ラズリーヌが声を上げてこちらを呼んだ。言われるがまま駆け寄り、隣に屈む。するとラズリーヌの手の中に、淡く青い輝きがある。宝石があしらわれたバレッタだ。

 

「『ロイヤルバレッタ』っていうらしいっす。レアアイテムに違いないっすよ! 装備すると、幸運値に補正をかけて、魔法耐性も上がるらしいっす。それにこれ、すごく綺麗っす」

 

 確かに、嵌め込まれた宝石は中に星空を閉じ込めたようにきらきら輝いている。2人並んでそれを照明の方に透かし、はっとして気付いた。ここは敵地。戦利品を手に入れたら、すぐに移動しないと。幸運値や耐性はどこまで役に立つのだろう。試しにアイテム図鑑を見ると、ゲーム内に存在するロイヤルバレッタの流通量は1分の1となっており、レアアイテムであることに間違いはなさそうだが、具体的な補正倍率に関しては書いてない。それでも前衛のラズリーヌにとっては嬉しい装備品だ。悪くない収穫だった、と宝物庫を後にしようとして、引き止められた。

 

「はい、ベルっち。これ、ベルっちが使って欲しいっす」

「……え、なんで?」

「似合うからっすよ。それに幸運ならしっかり備わってるんで!」

 

 そう言うのなら、受け取るしかない、か。ディティック・ベルは素直に彼女の手からロイヤルバレッタを受け取ると、自らのコスチュームに装備させてみる。珊瑚色の髪には意外と馴染んだ。

 

「うんうん、あたしの見立て通りっすね」

 

 ラズリーヌの方が鼻が高そうだった。

 あとはもう、宝物庫に用事はない。たまとシャドウゲール、あるいはカプ・チーノの下へ急がなければ。ディティック・ベルはラズリーヌと顔を合わせ、途端に笑ってみせた彼女に調子を狂わされつつも、宝物庫から再び出発した。

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