魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

50 / 88
第49話『人事部門襲撃Ⅲ 人事部門、炎上!』

 ◇炎の湖フレイム・フレイミィ

 

 『炎の湖』。その二つ名の存在は、フレイミィが魔王塾を卒業した証であると共に、周囲に及ぼす影響を表した二つ名だ。フレイミィの暴れた場所は文字通り、炎の湖となる。それを──不幸にも人事部門を訪れていた魔法少女たちは思い知らされた。

 

 襲撃開始から10分も経たないうちにエントランスは燃え盛り、その場にあったはずの観葉植物や紙製品は軒並み炭化、のみならず本来ならば燃えにくいようなものまで炎をあげている。例えば受付に使われていたパソコンや──魔法少女の体。

 大火傷を負い、魔法少女たちが倒れ伏している。勇敢にも、そして無謀にも、フレイミィに立ち向かってきた魔法少女たちである。人事部門は人事部門でも、かつてのフレイミィやあのクラムベリーとは違い、こうして本部で役所仕事をしている連中は歯ごたえがない。なくて当然だが、物足りないと思うのはフレイミィの性だ。

 さあ次は誰が焼かれたい、誰かいないのかと、部屋の隅に避難し怯え固まっている魔法少女たちに向け、挑発の手招きをしてやる。

 

 元よりマッド=ルナに言われたのは、好き勝手暴れろ、だけだった。言われた通り、好きに暴れてやっている。炎上したエントランスには、正義感に燃えた勘違い魔法少女でもなかなか入ってはこられないだろう。入口を封鎖する炎の壁は、応援も脱出も拒んでいる。無理やり出ていこうとした魔法少女が焼かれて、全身火だるまの黒焦げになりながら外で力尽きていたのを見ていた者らは、無理やりの突破など考えない。

 

 では他にフレイミィに挑んでくる者がいるとすれば。怯えている連中の中からではなく、もっと別、例えば、戦う気でやってきた──清掃員。

 突如炎の湖の一部分が、泡と放水によって鎮火される。現れたのはピンクと白のふわふわとしたコスチュームの魔法少女。

 

「あなたねぇ……ここをこんなにしたのは!」

 

 再び噴出された泡が炎を覆う。消火活動のつもりか、魔法の消化剤でもないのに。負けじと炎の勢いを強めて相殺してやろうとし、さらに後方から差し出されたスポンジが泡ごと炎を吸い上げていった。なるほど、それがお前の魔法か。

 スポンジは泡を産みながら滑り、ピンクと白の彼女がこちらへ向かってくる。繰り出される蹴りに合わせて炎と同化、瞬時に背後に回ってこちらが踵を落とす。それを差し出されたスポンジが受け止め、衝撃が吸収された。物理攻撃は無意味、だが炎はどうか。脚は受け止められたままで思いっきり炎を吹き付け、その姿が赤の中に見えなくなる。

 

「っ、あっ、つい、じゃないっ!」

 

 ──消し炭にするつもりの火力だったが、咄嗟に泡でも纏ったか。スポンジの魔法少女が負ったのは多少の火傷程度で、反撃に泡の塊をぶつけてくる。炎の中に潜り回避してやった。まだまだ炎なら大量にある。多少消された所で、再び発火するだけの話だ。指を鳴らしたのに呼応して炎がゆらめき、対峙する彼女を炎が囲む。

 

 フレイミィはいつも対策される側だった。消火剤などに頼る下郎どもに何度叫ばされたことか。だがフレイミィが地獄から舞い戻ったことを知る者はいない。多少の相性差など、フレイミィの前には無いも同然だ。

 

 そろそろこの空間の酸素も薄くなってきた頃か。

 フレイミィは余裕の笑みを浮かべ、決着してやるべく襲撃にかかる。体勢を崩すローキック。ぽよんと弾むスポンジがまた受け止めた。続けて炎の拳、これもスポンジ。火力を強めて焼いてやろうと連打し、受け止められ続け、スポンジに焦げ跡が刻まれゆく。そして最後の一発で貫くため振りかぶった時、衝撃波がスポンジから発生し、フレイミィは炎ごと後方に飛ばされた。吸収したものを返す力もあったらしい。

 両手から膨張する空気を打ち出して吹っ飛ばされる力を相殺してその場に着地すると、息を吸い込み、吐き出す。人間大の炎のブレスが泡の魔法少女に向かっていくが、足元の床がスポンジになり、トランポリンのように彼女を飛ばし脱出させた。そして上空から泡を吹き付けてこようとしているのを認識し、地面を蹴った。圧縮した炎の噴出でさらに加速し、高速で迫り回し蹴りを見舞う。狙うは胴だ。当たった、が浅い。いや、誘い込まれたか。今度は受け止めるのではなく、フレイミィを捕まえるためにスポンジを使おうとしている。

 膨れ上がった細かな繊維の壁が包み込み、フレイミィを閉じ込めた。それならとこちらは全身から炎を噴き出し、包み込んでくる繊維を燃やしてやる。燃焼により繊維が融け、少しでも光が見えた途端、爆発的な出力に切り替え己を包む壁を吹き飛ばした。

 どうした、掃除の手が止まっているぞ。そんな意味を込めて、フレイミィは深く息を吐く。吐息は細く長く赤く燃えた。スポンジ使いは上手い、がここは既にフレイミィの火事場(ホーム)。炎を全部消されでもしなければ、よく燃えるウレタンは敵にならない──と、笑ったはずだった。吹き飛ばしたはずのスポンジの破片が泡を含んで炎を吸い込み、炸裂しようとしている、のか。

 

 フレイミィは咄嗟に跳んだ。炎に潜っても炎ごと掻き消されるだけだと悟り、上空に飛び出した。その飛び出した先に差し出されたスポンジ。進路を狂わされ、さらに迫り来る魔法少女。落下し、着地するその瞬間まで、何十手という拳を交わす。殴ったのを流され返され、受け止めてきたのを焼き焦がし、また物理同士に戻る。繰り返しだ。

 フレイミィを相手によく立ち回るものだ。人事部門にこれほどの使い手がいたとは、認めてやらなくもない。しかし時間は酸素と希望を奪っていくだろう。千日手のままであれば、フレイミィに分がある。意識を失い炎に沈むのはお前の方──の、はずだった。

 

 噴出音とともに、打ち払われる炎の壁。入口を封鎖していたはずの炎が消されている。そしてこの白い粉塵、その向こうから現れる白い学生服。フレイミィはその姿を知っている。腹の底から縮み上がるような感覚とともに、思い出した。

 あの女、いまだ消火器など持っていたのか。

 

「『魔法少女狩り』……!」

 

 ◇ディティック・ベル

 

 ──時を少し遡り、午前10時半。緊急の連絡が届き、氷岡忍は睨めっこしていた魔法の端末を取り落とした。

 

『ディティック・ベル! 大変だぽん! 人事部門の本部が襲われてるぽん!』

「ファ、ファル? なんで」

『説明はいいから! 急ぐぽん! スノーホワイトとは現地で合流ぽん!』

 

 なぜここで、あのゲームのマスコットキャラクターであるファルから連絡が来るのか。その疑問は抱えたまま、大慌てで外出の準備をする。瑠璃──変身前の姿で日向ぼっこに勤しんでいたラズリーヌの肩を叩いて気づかせ、こちらもディティック・ベルへ変身。魔法少女であればメイクもコーディネートも必要ない。人事部門本部へ通じる先まで急ぐ。

 

「人事部門……プフレ様とななっち、無事っすかね」

 

 そうだ、依頼主の身に非常事態とあっては、探偵が急がないわけにはいかない。事務所を飛び出し、戸締りはしっかりしておいて、並んで駆け出した。人事部門へと通じる、前回も使用したゲートを用いて現場に急行。するや否や、ラズリーヌが飛び出していく。

 

「あっ……! 誰か倒れてるっす! 大丈夫っすか!?」

 

 ラズリーヌが飛び出した理由は大火傷を負って倒れていた魔法少女だった。辛うじて生きてはいるようだが意識がない。助け起こしても何もできず、気道の確保だけはして、本部の建物を見た。彼女の倒れていた先の人事部門正面玄関は、炎の壁で塞がれ、来る者を阻み逃れる者を閉じ込めるかのようであった。

 

「一体何が起きて……」

「ディティック・ベルさん」

 

 ふいに声をかけられ、振り向いた。スノーホワイトだ。相変わらずの無表情のようで、今はどこか、怒りのようなものが感じられる。

 

「私がこの炎の出処を断ちます。その間に、お2人は先に」

「そんなのどうやって──」

 

 スノーホワイトの手にはいつの間にか、消火器が握られていた。普通だったらこんな消火器でこの大火事はどうにもならない。だが魔法少女の前にそんな常識は通用しない。噴射される魔法の消火剤は炎の壁を消し去り、出入り口を開いた。その先で、スノーホワイトに向けて驚愕の顔を見せる赤い魔法少女の姿が目に入る。その他にも複数名の魔法少女がおり、炎の赤に照らされていた。弱っているところを見るに、十中八九巻き込まれた被害者だ。

 

「皆さん! こっちへ!」

 

 スノーホワイトがあの赤い魔法少女へと向かっていく。相手は驚愕を憤怒に変え、獣の形相で飛びかかってくる。戦闘開始のその横で、ディティック・ベルは皆の避難を誘導し、それが終わるや否や、追いついたラズリーヌと顔を見合わせた。

 

「あれ……フレイム・フレイミィじゃないっすか? あたし、魔王塾のイベントで見たことあるっすよ。あれ、でも、悪いことして……それこそ、スノっちに捕まったはずっす」

 

 フレイム・フレイミィ、名前からして明らかに炎の魔法少女だ。この火災の原因は彼女とみていい。それでいて、スノーホワイトの口振りでは、襲撃者はフレイミィだけではない。彼女が捕まったはずの存在で、つまり脱獄犯であることも加味して、可能性が最も高いのは──レジスタンス。今、まさに追っている相手!

 

「急ごうラズリーヌ。もしかしたら依頼達成かもしれない」

「まじっすか」

 

 フレイミィの攻撃をことごとく躱し、炎をかき消し、打撃をいなすスノーホワイト。彼女が消火器のトリガーに指をかけ、フレイミィの「待っ」が言い終わらないうちにその声が悲鳴に変わるのを聞きながら、長い人事部門の廊下を駆けていく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。