魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第53話『待機命令』

 ◇たま

 

 広報部門の施設で過ごしはじめて数日。持ってきたお気に入りの枕のおかげで慣れるのも早く、起き抜けはそれなりに気持ちいい。朝日を浴びて、朝の身支度と準備運動をしたら、朝から借りたスペースでノゾカと日課の組手だ。実験用の広く頑丈な部屋だから、施設へのダメージは考えなくていい。

 

「やぁっ!」

 

 飛びかかるたま、躱すノゾカ。ふわりと飛んで繰り出された蹴りをくぐり、こちらも飛び上がって爪を振り抜く。

 身を逸らしたノゾカには当たらず、体を回しながらの掌底をもろにくらいかけ、なんとか腕で流す。そこへ反撃に脚を使い、ノゾカの足元を狙う。当たりはしたが崩される瞬間に体を回し、上半身はすぐさま攻撃に転じている。ノゾカとたまの拳が交差し、押し合いになった末、互いに退いて仕切り直しだ。

 

 師匠の教えの中でも、ノゾカは剛より柔を得意とする。一撃も受けず、己の攻撃だけを当て続ける……なんてことが常に出来ればいいが、そううまくはいかずとも、そうしようと立ち回ることが大事だと、言われたことがある。その考えを実践し続けているのがノゾカだ。

 実際の戦闘においても、相手も魔法少女となるのなら、一撃でも貰えば死が見える。たまの魔法なんてその代表格だ。魔法じゃなくたって、単純な身体能力の差が即死に繋がることだってある。避け、逸らし、受け流し、生き残るための体術なのだ。ただ、たまにはちょっと、難しすぎてついていけていない。だからやることは単純だ。

 

「はぁっ……!」

 

 なんとしてでも当てる。逃げてばっかりじゃいられない。踏み込んで、爪を振り抜き、反撃を許さない。ノゾカは躱し続けるが構わない。打ち込み続けるのが今のやり方なのだから。

 

「っ……!」

 

 さすがのノゾカでも集中に限界が来る。無理やり何度も何度も繰り出された引っ掻きに、ついに肌がわずかに裂かれた。実戦なら、これで魔法が発動し、勝負がついている。

 単純な没頭であれば、まだできる方だと、たまは思っている。難しいことを考えなくていいなら、少しは食らいつける。

 

「完敗、やられた。一撃、貰っちゃいけないの辛い」

「で、でも、すごかったよ、全然届かなかったもん」

 

 その後も、練習の域を出ないようにしながらも、本格的な組手を続ける。ラズリーヌの修行施設だと、怪我をしても治してくれるレベルのものがあるが、ここではそうもいかない。昨日より少しでも強くなれるように、でもちょっとやり過ぎはしないように。互いの身のこなしを確認し、そこそこのところで切り上げた。

 

 組手の後は、日向ぼっこの時間だ。修行の場ではお昼寝というわけにもいかないので、休息のために陽だまりでゆっくりするのを日課にしている。ノゾカの方は、この時間は何をしているかよく知らないのだが──今日は、珍しく隣に座ってきた。2人で並び、互いに呼吸が乱れているのを感じる。ゆっくり、落ち着いて、整える。休息も強い魔法少女になるために必須ですよ、というのも師匠が言っていた。

 

「調子、良いと思う」

 

 ふいに、耳元でノゾカの声がした。

 

「にゃっ!? そ、そうかな?」

「……最近、自分の使い方……というか。板についてきたんじゃないかな」

 

 そもそも話しかけられると思っていなかったせいで、驚きの変な声が出る。これまでのノゾカなら、わざわざ隣に来たりもしなかった、と思うのに。いきなり距離が縮められて驚いていると、ノゾカはまた喋る。

 

「任務、過酷だと思う。だから……ちゃんと話しておかないとと思って」

「あ……うん、そ、そう、だね」

「今迄、ちょっと、話しかけ方、わからなくて」

 

 それは、たまの方だってわからない。彼女の中でどういう変化があったのやら、何かあったような気もしないのだが。

 

「……後悔、したくないし」

 

 ノゾカは首元のアクセサリーに触れる。彼女のそれは、宝石の外れてしまったネックレスのよう。銀色の外枠だけが残されて、中央にはなにもない。そこに窺い知れぬ思い出が見えて、たまは目を逸らした。

 

 ◇レイン・ポゥ

 

「待機ね、待機。全員まだ待機。何もしなくていいよ」

 

 人事部門がレジスタンスによって襲撃された、という話が耳に届き、これはレジスタンス対策チームとして動かざるを得ない状況だろうと思い立った。わざわざキューティーオルカのもとへ赴き、そして彼女に直談判しようとして、そう言い放たれてしまった。やる気のある下っ端の演技をしたはずが、通じていない。そもそもの暗殺犯の疑いを強くかけられている以上、オルカに演技は大して意味がない、か。

 部屋に戻っても、いるのはどうせ体育座りをしたポスタリィだけだ。

 

「……んー? まだなにかある感じ? あは、オルカちゃんもここで暇してるわけじゃないから、眺めてたいならマギシブで二次創作絵でも見てるといいよ?」

 

 キューティーオルカ、思えばほとんどはこの女のせいだ。この女による単独での早期突撃により、レイン・ポゥは相棒の妖精──トコと、用意した魔法少女戦力のほぼ全てを失った。魔法少女は魔法の国により保護、記憶削除処分。トコは行方不明だ。中には1名……亀が変身したらしい魔法少女は行き場もなくどこかに預けられたらしいが、接触できない時点で関係ない。

 とにかく、レイン・ポゥもポスタリィも、記憶を消されて放逐、そうなるはずだった。そうしなかったのは、キューティーオルカの独断だ。

 

 レイン・ポゥは暗殺稼業で生きてきた。あの日のB市でも、元々雇い主からの指示でトコと共に暗殺の仕事をするはずだった。そのはずが、仕事を全て失敗し、相棒はどこかにいなくなり、人質にされ、傍らに残ったのは……友達を演じていた相手(ポスタリィ)だけ。

 

「……」

 

 少なくとも、今キューティーオルカは無防備だ。レイン・ポゥを人質にとっておいて、背中を見せている。格上だとしても、その油断から切り裂かれてきた連中は何人もいた。仕掛ければ、あるいは──!

 

 レイン・ポゥの放つ『実体を持つ虹』が伸び、刃となってオルカに迫る。デスクの一部を切り裂きながら、その背中に至ろうとして、彼女はぎゅるんと振り向き、躊躇なく虹に──噛み付いた。虹の硬度は生半可じゃない、魔法少女が蹴っても走っても壊れない。歯で止めたとして、砕けることはない。ないが、横に放り投げられた。だがそれなら次の虹を出すだけだ。今度は何本もの虹を一気に発生させ、取り囲んで切り刻まんとする。その包囲を、床を蹴ると同時に全て潜り抜け、レイン・ポゥが盾の虹を展開するその瞬間、強烈な蹴りが叩きつけられた。盾ごと大きく押され、よろめき虹が消えてしまった瞬間、潜り込んだオルカから拳の1発。

 

「ぅぐっ……!?」

「さっすが謎の暗殺者。速いし正確。オルカちゃんじゃなきゃ見逃してるね」

「げほっ、げほっ……! そりゃ、どうも……」

「あはは。いいね、白黒してるよ、君」

 

 鳩尾に突き刺さった拳のおかげで呼吸困難になりつつ、なんとか気絶と嘔吐の手前で耐え、白と黒なのはオルカの方だろ、私は虹色だぞ、なんて睨み返した。その瞬間、オルカからさらにもう1発腹部への殴打を食らい、ついに胃液が逆流した。

 

「おぇえっ……!?」

「初回特別サービス、お仕置95パーセントオフね。裏切ってもいいけど、仕留め損ねたらこの20倍ってことで」

 

 さすがは広報部門の裏仕事を任される反社会魔法少女……か。胃酸の味が広がる口の中から、どうしようもない苦笑が漏れる。オルカを甘く見すぎた。裏切るのならもっと、確実な状況を用意しないといけないらしい。

 

「っ……! 香織ちゃんっ!!」

 

 扉を開いて飛び込んできたのは、どうしてかポスタリィだった。彼女はこちらへ飛びつき、心配した様子で見つめている。こいつは何も知らない。わけもわからぬままいきなり魔法少女にされて巻き込まれ、オルカに捕まって連れてこられた。レイン・ポゥの本当を知ったら、この態度も変わるだろうか。

 

「……大丈夫だから」

 

 嘘だった。オルカに貰った痛みは、レイン・ポゥにまだ立ち上がることすら許さなかった。

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