魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第57話『オルカキック』

 ◇キューティーオルカ

 

 白と黒の長い前髪、白と黒のパーカー、白と黒のマスク。その前髪の奥には不平を睨む眼、そしてそのマスクの奥からは不満そのものが漏れ出る。キューティーオルカは急に呼び出され、不機嫌だった。

 

「まったくあの女、何考えてるのかわかんなすぎるって」

 

 やたらと大きな屋敷の外周、鉄道『人小路駅』周辺の路地裏。いくら巨大だといってもここは人家だ、家主に関わる者しか付近にはいない。よって人通りは少なく、アニメ化魔法少女ゆえに顔の知られたキューティーオルカだとしても、軽く潜伏すればいいかなレベルだった。それでも建物の裏側に隠れなければならないのは、有名がゆえの弊害である。

 いや、なんてことはいい。慣れている。それよりも、オルカが嘆いているのはどうしてこんなところにいるか、だ。

 

「まったくさぁ。オルカちゃんが影から護衛とか、贅沢すぎだし。ストライプのこと便利な傭兵だと思ってる? いやま、それは否定出来ないけど」

 

 オルカとしては、アニメ化できない仕事はしたくない派だ。それはそれとして従う。広報部門の刺客として、密かに手を組んでいる人事部門から名指しの要請とあらば、受けざるを得ない。しかもそのトップから直々に、だ。

 にしたってなぜわざわざオルカだったのか。ゼブラ……は最近部門長の関係で忙しいらしいし、パンダ……はまあ魔法少女アスリート大会に向けて調整中、ペンギン……は後輩のキューティーヒーラーの映画に客演するスケジュールの打ち合わせがあって、ああ、結局オルカかも。というかペンギン、客演の話が来たなら全員呼んで欲しかったんだけど。確かにペンギンは女児人気高めだったから納得できなくもない、でもさ? やっぱストライプは4人揃ってこそだし、ペンギンだけじゃあ持ち味たるストライプ・ナンセンスが生きないというか。オルカも出せと言うより、作品の顔というならゼブラが出るべきで──。

 

「……おっと」

 

 魔法の端末が震え、脳内ストライプ談義を中断した。

 

「はいはーい、オルカちゃんですよっ」

『魔法少女が4名、こちらへ向かっているのを確認した。人事部門襲撃に参加していた魔法少女たちだ』

「うっわ、ホントに来るの? 部門長サンさぁ、自分を釣り餌にでもしたわけ?」

『似たようなものだね。対処は頼んだよ』

「そうなるよねぇ。ま、レジスタンスだってんなら、オルカちゃんの獲物に違いないってことでー……あ。ごめ、切るよ」

 

 ばたばた通り過ぎる気配。通話を一方的に切り、端末をポケットに放り込み、軽く地面を蹴った。オルカの魔法により、その後は空中を泳ぎ、魔法少女の走力をゆうに超えた速度で迫る。ドルフィンキックならぬオルカキックから体をうねらせ加速、入口を探して彷徨く派手な格好の集団に向かって突っ込み、その目の前に着地。ポーズを決めた。決めなきゃやっていられない。

 

「な、なんやアンタ!?」

「お、聞いちゃう? いいよ、やったげる! 大海原をゆく白と黒のアバンチュール! キューティーオルカ!」

「ッ、キューティーヒーラー! 広報部門の犬か……!」

「犬じゃなくてシャチだってば。もっかいやる? 大海原をゆく白と黒の……」

 

 大サービスとして2度目のキューティーオルカポーズをとり、その顔面に白い物体が飛来、破裂する。オルカからすれば衝撃自体に大したことはない。頬についた煤を拭い、口に入った布片を吐き出した。問題はそれよりも、あの冬服の魔法少女が禁忌を犯したことだ。

 

「……あは。それ、意味、わかってる?」

「なんや、反体制派にルールも美学もあらへん──」

「そっか」

「──で?」

 

 名乗りの間に攻撃してくるような輩が悠長に話している暇などない。オルカは食いちぎった腕を投げ捨て、状況を理解して悲鳴をあげる相手を振り返る。皆が一斉に戦闘体勢となり、ストローやら絵筆やらを構えている。魔法少女らしい白黒した光景だ。普段のオルカなら笑って認めてやっている、が、もはや目の前にいるのは獲物。ヒーローと悪役の関係ですらない。

 飛来した絵の具を躱し、ストローで思いっきり何かを吸い上げてきた魔法少女には腹部に一発。筆を振り回す魔法少女は闇雲に振り回すだけで脅威にもならず、ドルフィンキックからの上空を通過する瞬間に肩を掴み、一回転して地面に叩きつけてやる。頭からアスファルトに突き刺さって痙攣する少女は放置し、ひとりだけ立っている鍵の魔法少女を見た。

 

「っ……わ、わ、私は……っ」

「逃げる? 逃げてもいいよ。シャチは獲物を泳がせるんだ」

 

 彼女は震え、逡巡する。迷いが長い。相手がオルカじゃなかったらもう首が飛んでいる。おかしな魔法を使う気配もない。本当にただ迷い、誰を助けるべきかと見回し、地面に突き刺さってしまった画家に駆け寄り、引き抜こうとし始めた。

 

「……はぁ」

 

 これで人事部門を襲ったと言うのだから呆れたものだ。他の連中、例えばあの場で捕まったフレイム・フレイミィなんかが手を貸して、ようやくだったんだろう。オルカは思わずため息をつき、苦戦している少女に歩み寄ると、仕方なく引っこ抜いてやった。

 

「ぶはぁっ!? っ、き、貴様、どういうつもりだ! よくもイロハの腕を」

「しゃ、喋らないで、いんくちゃん」

「そーそー。こんなんでレジスタンス? 反体制派でルール無用? せめてもうちょっとアウトローらしくなりなよ」

 

 まだ一発も与えていなかったことを思い出し、不意に鍵の魔法少女を蹴りつけた。ぎゃん、と短い悲鳴を上げて倒れ、欠けた歯が転がった。痛みで涙目になり、頬を押さえ、少女はこちらを睨み返す。

 

「っ……こ、この……ぉ!」

「あはっ、いいじゃん、白黒してるよ、キミ」

 

 向かってきた彼女がじゃれついてくるのに付き合ってやるかと思って、しかし、またしても軽く構えたオルカに向かって爆発物が飛んでくる。失った片腕を、自分の爆弾……いや、カイロか? 高熱で焼き塞ぎ、なんとか食らいつこうとしているらしい。こちらもなかなか白黒じゃあないか。アウトロー気取りの雑魚からそれなりの気概のある連中に脳内評価を修正し、さらに飛来した爆弾を避け、受け止め、爆発する前に上空に捨てた。だがやる気なのは彼女だけじゃない。ストローはオルカからまた何かを吸い取ろうとし始め、絵の具はオルカの精神に干渉しようとしてくる。宙を泳ぎ目線を逸らし、双方から逃れながら投げられたカイロを蹴りつけて破壊。その衝撃で、ふと思いついた。

 

「『単独で秘密組織を追うオルカだったが、悪のエージェントたち4人によって襲撃されてしまう。窮地に陥ったオルカの運命は』……ってところかな。あは、いいね! それなりに苦戦させてよ。アニメ化してストライプの歴史に混ぜてあげるからさ」

 

 着地するや否や、口角が上がる。むしろ一対多に追い込まれるキューティーヒーラー、悪くない構図だ。アニメ化されたらどう脚色されるだろう? やはりみんなが助けに来る王道展開か。オルカなら、仲間の想いを胸に単独で覚醒しても絵になりそうだ。

 オルカの頭の中はいまだにキューティーヒーラーストライプでいっぱいだ。目の前にいる獲物を、少しだけ認めていたことも、もう思考の中に混じっていない。

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