魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第60話『材料』

 ◇トーチカ

 

 気がつけばそこはレジスタンス拠点の廊下だった。隣にはトットポップ。キークがいるとされていた部屋の扉を背に立っており、扉は固く閉ざされている。2人して、強制的にあの世界から弾き出されたらしい。トットポップと顔を見合わせ、手を掴まれる。

 

「いやぁまさか! キークちゃんのことぶん殴るとは思ってなかったのね! キークちゃん殴られ慣れてないからすっごい顔になってたよ」

「トットポップさんだってギターで派手にぶっ叩いてましたよね」

「あっはっは! そうだった!」

 

 朗らかに笑うトットポップ。那子とクランテイルはどうなったのか、確認する術もない。ただ、無事だと信じ、トーチカはトーチカのことをするしかない。

 

「おうじさま……♡」

「わっ!? アイさん!? ご、ごめん……すごく待たせちゃって」

「いえ。待つのも姫の役目。離れて初めて知ることもあります。例えばおうじさまの、ベッドの匂……こほん。失礼。なんでもありませんわ」

「絶対匂いって言ったよね?」

 

 曲がり角からぬるりと現れたアイはやたらと顔を近づけてきて、トットポップとトーチカの間に割り込むと、指を絡ませてくる。この距離の詰め方、全く慣れない。絡ませた指で手を引いて、アイはトーチカをどこかに連れていこうとする。

 

「あの?」

「早速休憩を……と言いたいところですが。トットポップさんにお伝えした通り、事態が変わっておりまして」

「あ……」

 

 那子とクランテイルを置いてまで先に進もうとした理由を思い出した。トットポップを振り返ると、そういえばそんなのあったのね、という顔をしていた。彼女も後からついてきて、進んだ先はトーチカの部屋ではない。これまで使ったことのない部屋だ。中に入ると、四つ並べられたベッドに寝かされている魔法少女たちと、その傍らにはフィルルゥ。彼女らはこちらに気がつくと、フィルルゥだけが会釈をし、他の魔法少女たち──いつものレジスタンス四人娘は、いつもの雰囲気とは違う、暗い顔で目を背けた。

 

「先日の外出でひどく怪我をして以降、この調子ですわ。落ち込むどころか」

「わあ、みんなボロボロ。こっぴどくやられてるのね」

 

 キークの世界をさまよっている間に、一体なにが。まずは一番近く、包帯を巻かれているいんくのベッドに歩み寄る。

 

「トーチカ……」

「ど、どうしたんですか?」

「すまない、トーチカ。私のせいなんだ。私が悪いんだ」

 

 いんくが縋りついてくる。何があったのか訊ねる前に、彼女の手から魔法の端末が渡された。忘れていったトーチカのものだ。礼を言い受け取るが、何が起きたのかはわからない。そしてふと端末を立ち上げると、名簿リストの、いくつかの項目にチェックが入った状態のものが表示された。

 

「トーチカがいない間に、シャドウゲールを攫おうとしたんだ。できなかった、皆をただ傷つけただけだった」

「……とんでもないのが私たちのこと追いかけてたみたいでさ。返り討ちだよ」

「ほんまに話が違うっちゅーてな。ほら、見てやこれ」

 

 コスチュームである上着を脱ぎ、イロハは右腕を見せた。ちぎれた腕を糸で縫い合わせたような状態で、動かしてみせようとすると顔を歪める。

 

「えっと……イロハさんの腕なんですけど、なんとか繋げはしましたが。私のは医療用の魔法ではないので、あまり動かさないようにお願いします」

 

 この縫い目はフィルルゥの魔法の糸であるようだ。そしてその縫い目が必要になったのは、サッキューが呟いた通り、レジスタンスをむしろ襲撃してきた魔法少女の仕業だという。レジスタンス、反体制派、なんてことをしているんだから、当然敵は多い。むしろ、大抵の魔法少女にとって敵であるのが自分たちだ。何せ、テロリストと脱獄囚しかいない。

 

「っ……」

 

 だが何よりも言い出せなかったのは、シャドウゲールの襲撃はトーチカの予定にもなかった、ということだった。トーチカが魔法の端末を忘れたりしなければ、勘違いからの単独行動は生まれなかった。キークから聞き出したのだって、信じられないようなことばかりで、これならトーチカはなにもすべきではなかったのではないか。

 

「……ど、どう、するの、これから」

 

 エンタープリーズがぽつりとこぼす。その声は震えている。

 

「どうしたら、いいの」

「それは……」

「ぼくも聞きたいな。トーチカちゃん」

「っ……!」

 

 開かれていた扉をくぐり、現れたのはマッド=ルナだった。

 

「どう? レシピはできてる?」

「その……」

「次は何をすればいいのかな? 早くしないと、またこんなふうにやられちゃうんじゃないかな」

 

 レジスタンスが『魔法少女のレシピ』を完遂させるため、これ以上余計な時間はかけていられない。トーチカは一年前の事件に関わるリストを閉じ、もう一方を開いた。その中にある目星から、巻き込む魔法少女を決める。深呼吸して、この場で、ターゲットを告げる。

 

「次に狙うのは──」

 

 

 

 ◇たま

 

「……」

 

 キューティーオルカによって呼び出され、集合の時以来、全員が会議室に揃った。魔法少女が5人いて、会話はない。引っ込み思案か、話す気がないかのどちらかだ。気まずい。同じく気まずそうにしているポスタリィに話しかけようか何度も考え、その隣のレイン・ポゥに睨まれているのに気づいて断念し、オルカが来るまで縮こまっていた。いつも通り何もないところを見つめているノゾカはともかく、リオネッタもなんだかピリピリしていて、やはり居心地は悪い。

 そんな中に響いたのは、着信音。たまのではない。隣、ノゾカの方からした音だ。彼女が通話に出ると、本当に最低限の返答だけがぽつぽつりといくつか発され、それで終わった。

 

「……面談、受ける予定だったやつ。中止になったみたい」

「あ、そ、そうなんだ」

「未定、再セッティングの時期はわからない。しばらくは任務に集中」

 

 ノゾカからの報告に頷いて、会話が終わり、沈黙が戻っていた。さっきの話、なんの面談だったのかとか広げた方がよかっただろうか。まだ間に合うか。さっきの会話を再開すべく息を吸い、そして同時に。

 

「っえーい!」

「ふにゃあっ!?」

「やーやー、みんな揃ってるね」

 

 ノックもなく、蹴り破るような勢いで扉が開かれる。顔を出したオルカは手を振りながらお誕生日席に座り、上機嫌で話し始める。

 

「実はね。やっと、やっとだよ。あの女のおかげっていうのが気に食わないけど、掴んだんだよ、尻尾」

「! ということは」

「恐らくは、尻尾の尻尾でしかない。奴らにとっては複数のターゲットのひとつでしかないだろうけど……そこで、叩く。集中させることにするよ」

 

 オルカは回転椅子でくるりと回って、たまの方を指してくる。

 

「たまちゃん。そしてノゾカちゃん。あとオルカちゃん。こっちで主な陽動、護衛を担当する。リオネッタちゃんと公務執行妨害ちゃんたちは暗殺ね。得意でしょ? 暗殺」

「手を汚すのには慣れていますもの」

 

 リオネッタがそう答え、残る2人は答えなかった。2人して俯いているばかり。そして暗殺だと聞いて、たまも冷や汗をかいた。実力を行使しなければ対処出来ない犯罪者だとすれば、殺害もやむを得ないこともある、と。慣れているとは言うが、これ以上誰かが手を汚すのは、気分のいい話じゃない。

 いや、たまはとにかく、次にやってくる護衛の任務に集中しなければ。思いっきり首を振って余計な思考を止めた。

 

「配置的には、私が敵を引き受けて、公務執行妨害ちゃん……あぁもういいか。レイン・ポゥとポスタリィで不意討ち。もう一方はたまとノゾカで引き受けて、リオネッタが不意討ち……っていう感じ。脱獄囚のデータ、あとこないだちょっとやりあったぶんだと、個人の性能で負けることは無いかな。不安要素はマッド=ルナみたいな不確定部分で……だからこのくらいシンプルな方がいい」

 

 オルカが机の上、マグネットを使って説明してくれたおかげで、たまでもどう動くのかは理解できた。はずだ。

 

「じゃあそういうことで。護衛組の出発は明日からでよろしく」

 

 やっと、師匠に任された任務につける。ノゾカと目線が合い、彼女が頷いたのに続き、頷き返した。

 

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