魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第62話『迎撃作戦Ⅱ 許せない』

 ◇リオネッタ

 

 たまからの連絡を受け、リオネッタは待機地点から息を潜めて動いた。当初のプランは彼女らがリオネッタの地点まで誘き寄せる、という側だったが、こうなれば逆をやる。反体制派に狙われている魔法少女、黒いドレスのブラック・ロゼットの姿を確認し、物陰をいくつも経由して接近する。ある程度距離を保ちつつ、ブラック・ロゼットが誰か魔法少女と話しているのを認識し、まずはそちらに耳を傾ける。

 

「……一緒に来てほしいんです。魔法の国を変えるために、力を貸して欲しい」

 

 語りかけている魔法少女の方を覗き込む。傍らに、蛇とハートの散りばめられた魔法少女がいるのが先に見えた。知らない顔だ。だがもう一方、話している本人は、知っている顔だった。リオネッタにとって大事な、あの子と見間違う容姿。あれが、トーチカか。今すぐにでも飛び出していきたかったが、耐えて、じっと待つ。

 

「そういう感じですか。もっと、過激派武装魔法少女組織なのかと思ってました」

「……この目的が完遂されたら」

「ごめんなさい、知りません。私、戦う魔法少女ですので。唸らせるのは実力でどうぞ」

 

 さすがは魔王塾出身、拳で語り合おうとする脳筋っぷりだ。スカートの裾を掴みながらの臨戦態勢は魔法少女らしく、トーチカに向かって煌びやかに飛びかかっていく。だがロゼットのスカートを翻して繰り出された蹴りは、トーチカに届く前に止まる。トーチカは手で顔を覆い、恐る恐る周囲を見る。隣の蛇の魔法少女に礼を告げていた。あの女の魔法は動きを止める魔法ということだ。あの女から触れたりしていないあたり、条件は別にあるだろう。

 トーチカは『魔法などを分析する魔法』を持つと知らされている。であれば──仕掛けるなら今か。リオネッタは懐から小型の人形を取り出し、己より先に向かわせた。その手に装着された刃を振りかざし、死角から飛び出していく。

 

「おうじさま……っ!」

 

 ここで、トーチカを遮り蛇の女が飛び込んでくる。彼女の武器であろうナイフで人形が切り裂かれる。これが隙だ。今度はリオネッタ自身が動き、一直線に目標を狙った。手首から飛び出した仕込みナイフで襲いかかる。呆然とする彼女は防御姿勢も取れていない。

 そこへ彼女は保護対象である事実が頭を過ぎり、そしてその顔立ちがリオネッタの冷静さの邪魔をして、1秒の猶予が生まれてしまう。蛇の女がトーチカを引っ張り、己の身で盾とした。防御した腕に突き刺さるが、手応えは浅い。距離を取り直し、ロゼットの隣に着地する。ロゼットの硬直は解けていた。

 

「たまさんノゾカさんの同僚ですね。ありがとうございます」

「礼には及びませんわ……あの顔で好き勝手されるのは気分が悪いですもの」

 

 誰よりもまず、トーチカに目を向けた。彼女は己を庇った魔法少女の傷を心配し、傍らに屈んでいる。

 

「奴らの狙いは貴女。お逃げくださいな」

「あら。ヤワな魔法少女ではないつもりですが。ご忠告痛み入ります」

 

 リオネッタはロゼットが離れていくのを見送り、返り血を拭った。そして無防備すぎましてよ、の一言と共に再度切りかかっていく。2人は前転で間合いから抜け、今度は蛇女が反撃に来る。ナイフとナイフがぶつかり合い、金属音を響かせ、鍔迫り合いのような形となった。

 

「貴方、おうじさまのなんですの……!」

(わたくし)の邪魔、しないでくださいますこと?」

「それは……(わたくし)の台詞ですわ!」

「アイさん! 傷が!」

 

 力の込もった腕から血が滴っていて、それでも厭わず向かってくる。こういう手合いは厄介だ。トーチカの保護さえしてしまえば、このアイという魔法少女を捕まえる必要は無いが、そううまくいかない、そういうしつこさを感じてならない。リオネッタは人形の体に仕込まれた暗器を動員しようと構え、ほぼ同時にアイも腰から伸びた蛇尾での攻撃に出て、これも相殺。心配したトーチカが駆け寄り、アイは心配されながらなぜか勝ち誇った笑みを見せてきた。

 

「……はぁ。トーチカさん、でしたわね。貴方……ペチカさんの似姿で、テロリズムなどやめてくださるかしら」

「っ……貴方は……!」

「リオネッタ、ですわ」

「やっぱり、あの事件の」

 

 名を聞かせてやると同時に、トーチカは目を見開く。

 

「おうじさま。ブラック・ロゼットが」

「……ごめん。アイさんが追ってくれますか」

「ですがおうじさまでは」

 

 アイはたった数撃でも理解している。トーチカでは、リオネッタの相手をするには明らかに戦闘への経験値が足りていないと。トーチカ自身もそれはわかっていて、それでもリオネッタには自分1人で、と続け、アイはそれに従った。去り際にこちらを睨んで、ロゼットを追っていった。逃げ切れるかはロゼット次第だが、リオネッタにはこちらを優先する理由がある。そもそも、リオネッタの本来の目的はトーチカの保護なんだから。

 

 木々の中、トーチカとリオネッタは2人きり。間を風が吹き抜け、木の葉が擦れ、さらさら音を立てた。

 

「姉のこと、聞かせてもらいます」

「ただお話に応じてくれるとお思いで?」

「……それは」

 

 刃を出したままのリオネッタを前に、戦うつもりはないという意思はもう意味がないとようやくわかったらしい。今の今まで挙げていた両手で腰に提げていたフライパンを握り、武器として構え始める。調理器具を戦闘に用いようとするなんて、どうしても重なって見えて、眉を顰めずにはいられなかった。

 振り抜いてきたフライパンを受け止め、回し蹴りで彼女を吹っ飛ばす。さらに2体目、3体目の小型人形を投入し、刃がトーチカへと襲いかかる。必死に回避し防御し、叩き落とそうとフライパンを振り回している。

 

 その最中、彼女の眼が輝いたのが見えた気がした。僅かな肉体の変化、魔法の予兆に違いない。確かにその瞬間からトーチカの動きが多少は良くなり、握り直した武器で一方の人形の動きを読み、ヒットさせることに成功した。吹っ飛ばされた人形は砕け、それを見たトーチカは表情を明るくし、近づくもう1体を捉えていなかった。

 

「っ……!?」

 

 刃が頬を掠め、赤い線が走る。加減されたのだと悟り、嘲笑うように踊っている人形を殴りつけ、リオネッタを見た。歯を食いしばり、またあちらから仕掛けてくる。ぶつかり合う金属音は甲高く、火花が散った。

 

「ペチカさんは」

 

 名を口にした瞬間だけ、トーチカの力が緩み、簡単に押し返せそうであった。そうはしなかったのは、続く言葉を聞かせたかったからだ。

 

「貴女のように無謀で。貴女のように優しく、貴女のように身勝手で……」

 

 出かけた言葉を噛み潰して、ぎりりと奥歯に力をこめて、あの別れの時を思い出しながら。

 

「私には、許せない人ですわ」

「……っ! 嘘だ……嘘だっ、姉ちゃんは! 

 そんな人じゃない! 姉ちゃんは……人殺しなんか……!!」

「っ、く、この……っ!」

 

 額に血管が浮かぶトーチカに押され始め、リオネッタはフライパンを握る両腕を上方に弾き飛ばし、無防備になった懐に飛び込んだ。そしてこれを警告とすべく、峰打ちで怯ませ、背後に組み付き刃を突きつけようと動いた。計算から外れたのは、彼女が痛みから逃げようともせず、リオネッタに向かってきたことだった。首元に突きつけようとした刃が、半端に差し出される。高く振り上げたトーチカのフライパンが振り下ろされ、その衝撃は、リオネッタを前方によろめかせた。たった半歩、その間に──衣服の繊維ごと、突き刺す確かな手応えがする。

 

「え──」

 

 目の前の少女の肺から一気に空気が吐き出され、傷口からじわりとコスチュームが赤く染まっていく。体重が預けられ、引き抜くこともできない腕のナイフに、リオネッタは思考を止めるしかなかった。

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