◇レイン・ポゥ
──隣にいるポスタリィと一緒になって、目を疑った。
襲ってきた魔法少女は5人。うち4名はオルカが前回接敵したらしい者と特徴が一致しており、残るアルマジロ的な格好の魔法少女は脱獄囚『マル
だがいくらオルカが惹き付けると言っても、一度に全員を相手にするとは思わなかった。オルカは既に飛び出して、全員を前にポーズと名乗りを決めて挑発。名乗り終えるや否や始まった攻撃の中をすり抜け、強烈な一撃を見舞い、カラフルいんくはそのせいで木にめりこんで動けなくなっていた。
「なんなんや、アンタはァッ!」
叫ぶのは
空中を自在に動けるのは重力に従う者たちにとっては相当やりにくい。そのうえで、身体能力も高く、突如地面を割るほどの一撃が飛来する。今度はサッキューが喰らい、耐えようとしたがその場に倒れてしまう。
「アンタ……またうちらの邪魔を……!」
「あ、腕、繋がったんだ。もう1回食いちぎれるじゃん、ありがとう」
「ッ、アンタは、うちらで遊んでるつもりかなんかか!?」
「あははっ!」
イロハが両手を合わせ、数度の拍手。手の中でカイロが大きくなり、オルカに向かって投げつけられると激しい爆発を起こす。1度ではない、何度も連鎖して爆発が始まった。破裂音が次々に響き、それだけ炎と煙も大きくなる。だが煙の中から、平然とした足取りでオルカが現れる。それを認識したマル万理が再び球体化、回転しながら突っ込んでいく。拳で迎え撃ったオルカの腕はあまりの衝撃に皮膚が裂け血が迸るが、彼女の表情は変わらない。むしろ勢いを止められたマル万理が球体化を解き、慌てて逃げ出そうとして、オルカに捕まった。その牙が腕の甲羅に刺さり、硬度をものともせず食いちぎった。
マル万理は悲鳴を上げ、オルカは甲羅を投げ捨て、さらに食いつこうとして絵の具が飛来した。カラフルいんくだ。戦闘を遠巻きに見つめていたエンタープリーズが彼女を助けていた。
灰色の絵の具は見ているこちらの精神にも作用し、レイン・ポゥまで眠くなってくる。それが付着したオルカ自身は尚更で、さすがの彼女でもよろめき、マル万理の脱出を許し、さらにイロハの連鎖爆弾、サッキューのストローから飛び出す魔神の連続パンチと重なり、オルカが追い詰められ始める。立て直す暇もなく交互に魔法少女の攻撃が浴びせられている。マル万理の体当たりがクリーンヒットして血を吐いた。サッキューのドレインが立ち上がったオルカの脚の力を奪ってふらつかせ、イロハの爆弾が顔面に当たる。
オルカは咳き込んでいる。いつも被っているフードが脱げていて、前髪が血で張り付き普段隠れている目も露出している。
今優勢なのはレジスタンスだ。ここで──レイン・ポゥがオルカを攻撃すれば、彼女の殺害はできる。自由の身となって、行方不明のトコを探すこともできる。或いはレジスタンスについて、脱獄囚に混ざってしまえばいい。いざとなればレジスタンスをも後ろから刺せばいい。そうやって生きてきた。その選択肢が頭の中に浮かんで離れない中、オルカの視線がこちらに向いていることに気付く。目の前の敵ですらなく、さあどうする、という目を、レイン・ポゥに向けている、のか。
隣のポスタリィを振り向いた。彼女は目の前で繰り広げられる魔法少女同士の死闘を前に、動けないまま。オルカの目線の先はポスタリィだ。やってみろ、お前がオルカを殺しても、オルカはそいつを殺す──そう告げられているようで、動けなかった。
いや、どうした、動け、それでいいんじゃないのか。こいつは利用するために連れてきただけだ。ポスタリィが、酒己達子が死んだところで、レイン・ポゥには関係ない。
「ッ……たっちゃんはここにいて」
それでもどうしてか、戦闘の輪から外れて遠巻きにおどおどするエンタープリーズが目に入った時、彼女を狙おうと切り替えていた。あれなら殺せる。まずは手始めだ。茂みから木陰へと移動し、エンタープリーズへと接近、彼女以外の全員がオルカに向かっていっているその瞬間を狙った。
姿を現すと同時に、虹の橋を伸ばす。レイン・ポゥの下から真っ直ぐに突き進み、少女の肉を切り裂かんとする。マル万理、いんく、イロハ、皆オルカに夢中で気づいていない。エンタープリーズ本人が振り返り、状況を理解していない呆けた顔を向けてきて、レイン・ポゥは奥歯に力を込めた。そして、その顔を切り裂いてやろうと大きく手を振りかぶり、さらに虹に二方向に追加して包囲。獲ったと確信し、駆け寄ってくるもう1人の魔法少女が考慮から抜けていた。
彼女──サッキュー・ラッキューはエンタープリーズを引っ張り、迫る虹の軌道から突き飛ばして、自らは逃げることなく、防御も捨ててその身で受ける。脚、胸元、腹部と切り裂かれ、多量の赤色が
エンタープリーズを守れたことか。だったとしたら、どうして、あのまるで戦闘の役に立っていなかった魔法少女が、何よりも大事なものだったのか。周囲の魔法少女たちが状況を理解するまでの一瞬の空白に、レイン・ポゥは動けなかった。見るからに致命傷を喰らったはずのサッキューは、痛みに表情を歪めつつも、レイン・ポゥに向かって中指を立てた。
「ふぁっきゅー。無駄足、ご苦労さま」
安堵の笑みが、勝ち誇った笑みに変わる。そして最後に咥えたストローに思いっきり息を吹き込み、力を込めすぎたがゆえに傷口からさらに出血する。ここで我に返り、レイン・ポゥがもう1本虹の橋を突き刺し、心臓を破ってやった。ついでに肺も貫かれ、息が出せなくなった彼女の変身が解けて、血の海の中に少女が倒れ伏す。
◇エンタープリーズ
「──え」
いきなり飛び出してきた魔法少女が、何やら虹のようなもので襲撃してきた、というのはようやく理解できた。だが、目の前で起きた出来事は理解できずにいた。サッキューが、エンタープリーズを守ってくれた。守ってくれたから……死んだ。もはや変身が解け、そこにサッキュー・ラッキューはいない。
「やだ……そんな、やだっ、
叫んだ時、自分の中に何かが入り込んでくるのを感じた。サッキューが魔法のストローで操る『元気』だとはその温かさですぐにわかった。彼女の置き土産だ。あぁ、これで仇を討ってやる、お前だけは、お前だけは許さない。
自分が戦えないことすら忘れて身構え、飛びかかろうと息を吸い込んだ。その瞬間、背後から声にならない悲鳴があがり、べちゃ、とまた血が飛び散るような音。振り返って、そこには同行した脱獄囚のマル万理がオルカに喉を食いちぎられ、今まさに絶命しようとしている光景があった。
「……無理や。こんなん、死ぬしかない」
イロハが諦めに苦笑した。無理やり縫合した腕をだらりと下げ、木に寄りかかった。
「っ、はぁ、はぁ……はぁっ、わ、私が……私が悪いのか……私がリーダーだから……?」
いんくは呼吸が乱れている。目を泳がせ、およそ指示などできる精神状態にない。
そうか、向かっていっても、ダメなんだ。
「逃げ、なきゃ」
エンタープリーズにできることはない。私の魔法は、鍵や扉に開いてもらえるようお願いするだけの魔法だ。この祈りは、神様や運命、そんなものには届いてくれない。だけど、サッキューが残してくれた、渡してくれた湧き上がる力だけは、確かにある。
エンタープリーズは飛び出し、肩や頬を切り裂かれながらも虹を潜り、倒れているマル万理の遺骸を思いっきり投げつけて盾にして、いんくとイロハを助け出す。2人を担ぎ、後ろを振り向くことなく、ただ走った。