魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第65話『迎撃作戦Ⅴ 垣間見た刃』

 ◇ノゾカセル・リアン

 

 ノゾカセル・リアンの魔法は記憶の投影だ。両手で作った『枠』の中に、記憶の中の体験を映し出し、限定的に現実へと干渉させる。それこそがノゾカの武器だ。このために飛び道具持ちの魔法少女に片っ端から組手を頼んだこともある。こちらに向かってくる記憶でなければ現実に飛び出させることはできないからだ。強くなるために、弾丸、ビーム、斬撃、打撃、色々と食らってきた。だから──相手の魔法が百発百中でも、対応しきる。しなきゃ。

 

 飛来したクナイを破壊し、忍者刀を振り回すリップルと激突する。刀の攻撃はひたすら避けて、飛び道具は迎撃。そのうえでこちらから攻めに出なきゃいけない。リップルはノゾカより速く、攻撃的だ。身体能力で勝てない相手に技術で対応する師匠(ラズリーヌ)の教えのお陰でなんとかついていけているが、それもどこまで続けられるものか。

 彼女はたまの友人らしいことは先のやり取りでわかっている。そして、たまの魔法は人体に使えば即ち死に直結する。つまりたまに戦わせるわけにはいかない。飛び道具の全てとはいかないが、撃墜を続けてリップルの攻め手を凌ぐ。そして隙と見て、指で作った小さな枠から小型ミサイルを放ち、爆発させた。魔法のミサイルはリップルとノゾカを巻き込んで爆風を起こし、互いに肌が焦げつく。それでも刃と、思い出の中から現れる弾丸、その応酬は止まらない。

 

「チッ……!」

 

 舌打ちをしたいのはノゾカだってそうだ。ノゾカが映せるのは一瞬の記憶だけ、剣戟には向かない。必死になって防いでいるのはこっちだ。

 現に──ほら。落とせなかった1本が、ノゾカの左肩を抉ってくる。痛みと損傷で手元が狂い、合わせていた両手の親指と人差し指が離れ、魔法が途切れる。目の前には刃を振りかざすリップル。駆け寄ってくるたまが見え、避ければ彼女に当たると直感し、ノゾカは自ら左手で刃を掴み、刀を押し留め、もはや魔法を使えもしないままリップルの顎を蹴りつけた。いいところに入った手応えがある。

 枠を作る暇はない、無事な方の手を握り、思いっきり振り抜く。慣れない拳でも鳩尾にクリーンヒットすれば呼吸困難になる。咳き込む相手にまだ追撃をしようと構えて、その背後に、ありえないものを見た。

 

「ノゾカ」

 

 銀河色のドレスがふわりと靡く。コスチュームに着けられた鎖と、輝くプラチナの髪が揺れて、ノゾカは『彼女』を認識してしまう。決してここにいるはずのない、友達。かつて失った、その名が喉から出かかって、彼女の振りかざした大鎌がやっと目に入った。体が動くのが遅れ、たまが飛び込んできてくれ、その刃を受け止める。そのまま刃が弾き返された『彼女』は後方に退き、うずくまるリップルを一瞥したかと思うと、こちらに微笑みかけてくる。

 

「なにしてるの? ノゾカ。大丈夫だよ」

「っ、あいつの言葉を聞かないで!」

「一緒に行こう」

 

 わかっている。だってあの子は死んでいる。これは相手の魔法だ。そう見えているだけの幻覚。だけど、ノゾカには──。

 伸ばされた手、再び振り上げられた大鎌。後悔すらも立つ前に、ぎゅっと目を瞑ってしまった。

 

 ◇たま

 

 ノゾカの動きが止まった。リップルは怯んでいて、突如現れたスイムスイムがあの武器を振り回している。たまが寿命を対価に購入し、スイムスイムが『ルーラ』と名付けた薙刀状の武器だ。……この手で、スノーホワイトに託したものだ。ここにあるべきものじゃない。

 たまはもう、その幻惑では揺るがない。揺らいでいられない。ゲームの中でさんざん味わわされた、かつての友達の姿をした誰かという敵。スイムスイムにはもう、別れを告げている。そうじゃないとわかっているなら、たまにだって、戦える。

 

 振り下ろされる刃を両手の爪で受け止める。手がビリビリと痺れるが、衝撃は向こうにも同じこと。決して欠けないはずの刃の表面にほんの少し傷がつく。条件は満たした。たまの魔法がわずかな欠けから穴を穿ち、魔法の武器を破壊する。

 

「っ……!?」

 

 偽スイムスイムが驚き飛び退いた。逃がさない、追いかけて爪を振るい、歯を食いしばり身を躱す彼女が偽りだと確信しながら、攻撃を続ける。追い詰めて追い詰めて、腕で受け止めるしかなくなり、彼女はたまの腕を押さえつけて歯を鳴らした。魔法が解かれ、鎧武者のような姿をした魔法少女が現れる。プフレから渡された資料で知っている。相手の傷つけたくない存在に化ける魔法少女、『華刃御前』だ。反体制派の魔法少女としてかつてスノーホワイトに襲いかかり、返り討ちにあって収監されていた、らしい。

 

「お主にも誰かに見えていたはずだが」

「……そういうの、もう、やられたことあるから」

「そうか。ならば、いざ、尋常に」

 

 ぐっと押し返され、立て直す間に華刃御前は腰の刀を抜き放つ。刃がぎらりと鈍く光り、風を切る音と共にたまに向けられる。切りおろしを避け、突きを爪で逸らして躱し、3度目に対応しようとして、ノゾカが割り込み突き飛ばした。彼女の記憶から再現された刀が刀にぶつかって弾き合い、さらに散弾が続き不意の銃弾が華刃御前の鎧を激しく打つ。

 

「ぐっ……!」

「偽物、お前より、ロンドの方が……強い」

 

 華刃御前が体勢を崩し、それに組み付き、ノゾカが彼女を背負い投げで地面に叩きつける。肺から残った空気が吐き出され、ダメ押しの衝撃波で意識にとどめを刺す。体から力が抜けたのを確認し、残るはリップル。彼女の姿を探し、顔を上げた瞬間、クナイが1本飛来し、たまに当たるのではなく地面に突き立った。飛んできた方向を探す。誰もいない。リップルの姿はどこにも見当たらない。

 

「リップル……」

 

 彼女を止めることは叶わなかった。傷ついたノゾカが駆け寄ってきて、彼女の怪我を見た。痛々しいが、深すぎることはなく、修行中に貰っていた応急処置セットを思いついて引っ張り出すと、止血だけはしておこうと、魔法のガーゼを当てた。

 

「護衛、討伐、任務。対象を追う」

「うん……まだ近くにリップルがいるかもしれないし」

 

 ノゾカのだけではなく、この森の中には血の匂いが濃くなっている。他の皆も接敵、衝突、交戦している証拠だ。最悪、死人が出ているかも。そうでないことを願い、まずは匂いを辿っていく。

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