魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第66話『迎撃作戦VI 誰のせい』

 ◇トーチカ

 

 ──目が覚めた時、最初に襲ってきたのは激痛だった。

 

「痛ッ……!?」

 

 大きな刺傷が自分の腹にあるのを認識する。縫合はされていた。フィルルゥの魔法の糸だろうか。いや、その前に、ここはどこだ。そもそも、トーチカは刺されて──。

 

「あぁあ! よかった……よかった……♡♡」

「アイさんっ、あっ、ちょ、痛っ! 痛いって!」

「おうじさまが、おうじさまではないのかと思いましたわ」

 

 その言葉の意味はよくわからないが、とにかくキュー・ピット・アイがここまで連れてきてくれたらしい。言われてみれば、ここはレジスタンスの本拠地の一室だ。見覚えのあるベッドに寝かされていて、周囲にも見知った魔法少女が療養中である。

 

「あの……リオネッタさんは」

「悪趣味人形ですか? 私が戻った時には、おうじさまを抱えて右往左往しておりましたわ」

「え……」

 

 あれは夢ではない。この腹の傷はリオネッタの刃が突き刺さった傷だ。死んでもおかしくはなかった。彼女がどういうつもりだったか知らないが、トーチカを死なせるわけにはいかないと思ってくれていただろうか。それともアイが来なければ、あのまま死んでいただろうか。

 

「おうじさまを取り返して、傷ついたおうじさまを私の魔法で止血。ふふ、褒めていただきたいなどとは言いませんが、私、頑張りましたでしょう」

「それは……」

 

 リオネッタには悪いが、トーチカだってまだ死ぬ訳にはいかない。リオネッタだけじゃない、もっと皆に、全てを聞かないと。そしてレジスタンスとしての活動だって、まだ終わっていない。始まったばかりなのだ。傷がまだ傷んでも、立ち上がるしかない。

 

「……うん。ありがとう、アイさん」

 

 礼を言いながら、辺りのベッドを見回した。四つ並んだベッドに寝かされているのは、またボロボロになるまでやられた四人娘たちだ。エンタープリーズ、いんく、イロハ……と見回して、気がつくのはすぐだった。サッキューがいない。彼女は療養するほどの怪我をしていないということかと解釈して安心し、立ち上がろうとして、腹筋に力が入って激痛に呻いた。

 

「痛っ!? っててて……」

「おうじさま! 動かないでくださいまし」

「う、うん……」

 

 まだしばらく休まなければならなそうだと思い、大人しくすることに決める。アイは隣から離れようとする気配がない。こうなったらもう一度寝てしまえと目を閉じ、多少の時間が経って、そのまま眠りかけた頃、部屋の扉が開く。マッド=ルナだ。無邪気に手を振り彼女が現れるなり、トーチカは真っ先に尋ねた。

 

「リップルさんたちと……ロゼットさん、それにサッキューは?」

「そうそう。トーチカちゃんとは、状況の共有、しとかないとね」

 

 ふいに隣のベッドのエンタープリーズが目に入る。彼女は目を逸らし、拳に力を込めた。それがどういう反応なのか理解出来ず、マッド=ルナの言葉を待った。まず、そもそもの作戦は成功だよ、と伝えられ、安堵が真っ先に来る。

 

「じゃあ、ロゼットさんは」

「うん。ちゃんと腰の部分を切り取って回収したよ」

「……は?」

 

 切り取っ、て? 

 

「それってつまり」

「殺したよ。だって、どうせそうするでしょ?」

「っ……そんな」

「まあ、向こうの抵抗も激しかったからね。フィルルゥちゃんとトットちゃんは休憩。リップルちゃんも負傷して休んでる。華刃御前ちゃんはやられて逮捕。死んじゃったのは、マル万理ちゃんと──」

 

 浴びせられる言葉に理解が追いつかない。ルナは脱獄囚魔法少女たちを捨て駒として扱っている。華刃御前、マル万理、どちらも知っている名とは言い難い。それでも死んだと言われるのはショッキングなことだ。いずれ出るものだと覚悟していたって、それが誰かもわからぬ魔法少女だったとしたって、誰かの死は辛い。ブラック・ロゼットに至っては、トーチカが巻き込もうとしなければ、死ななくて済んだだろう。

 

 それだけでも、忘れられないような心の傷。なのに、ルナの口から告げられた名前はもうひとつ続いた。

 

「──サッキューちゃん。あの子は残念だったねー。死体回収する暇もなかったわけだし」

 

 息を呑む。

 

「……死ん、だ?」

「うん。ね、エンプリちゃん?」

 

 反応を求められ、エンタープリーズは震えながら、枕を殴りつけた。枕の布が破裂して、中の羽毛が周囲を舞う。急な破裂音に驚かされ、同時にあの大人しいエンタープリーズがこんな行動をすることにも驚いていた。

 

「わ、私の……私のせいだ」

「アンタは……ちゃうって。あんなんどうしようもないって。悪いんは殺したオルカだけや」

 

 いんくは前と同じ調子でぶつぶつ呟き出した。イロハはそんな彼女を慰め、左手でその背中を撫でる。右腕は、動かない。

 

「私なんだ。私が……間違えたんだ。そもそも、私がこんなことに誘わなければ」

「うるさい……」

「私が今回こそ、止めていられれば」

「うるさいッ!!」

 

 エンタープリーズがベッドからいきなり立ち上がって、いんくに掴みかかった。慌ててイロハが間に入ろうとするが、身体能力で劣るはずの彼女を引き剥がせもせず、むしろ突き飛ばされてしまった。無理やり縫合された右腕から床に叩きつけられたせいで、イロハが痛みに顔を歪ませる。

 

「っ、おい、エンプリ、いんくはなぁ!」

「……取らないでよ。咲楽ちゃんはあなたのために死んだんじゃない。あなたのせいじゃないっ、私のために死んだんだ! 私を庇ったから! 私だけのせいだ! 咲楽ちゃんは……渡さない……ッ!!」

 

 鬼気迫る言葉にいんくはもはや呟く元気もなくなり、ただ目線を落とした。ようやく手が離れ、ベッドの上に倒れ込む。あれほど和気藹々としていたはずのレジスタンスが、こんなことになるなんて。トーチカは仲裁に手を伸ばしかけて、何も言えないままだった。

 

「話は終わったかな? じゃあ、トーチカちゃんには次のターゲットを聞こうと思って」

「……なっ、も、もう!? こんなボロボロで、またオルカに出くわしたら今度こそ全滅やで!?」

「どうやって前回情報が抜かれたかわかんないけど、掴まれる前に動くべきじゃない? 完成は早い方がいいよ。ぼくだってはやくマリアちゃんに会いたいし〜」

「んなこと言ったって!」

「悲しんでる暇があるなら、計画を進めなきゃ。大事なお友達を無駄死ににはしたくないでしょ?」

 

 イロハが言葉を失う。エンタープリーズが彼女を睨む。いんくが目を伏せたまま震える。彼女らが何も言えなくなったのを見届けて、ルナはこちらを振り向き、張り付いたような笑顔で問う。

 

「で、トーチカちゃん。次の獲物は?」

「……次は」

 

 もはや巻き込むという次元ではない。殺す相手を選ばなければならない。そして、あと何人も殺さなければ、誰の死も無為になる。再びリストを表示させ、候補者を探し出す。

 ブラック・ロゼットにも人生があった。それは誰のことでも変わらない。変わらないのなら……誰を殺したとしても、結果は同じだ。歯を食いしばって、そう自分に言い聞かせる。何度も躊躇って、出かけた名前を飲み込んで、笑顔のまま返答を待つルナの顔を見て、ようやく名前を告げる。わかった、という返事の後、用意のためと言ってルナが退室し、部屋には傷ついた者と、寄り添う者だけが残されていた。

 

「……あのさ」

 

 不意に、隣にいたアイに話しかけなくてはいけない気になった。

 

「アイさんは……どうして、封印刑に?」

「あら。おうじさまは、知りたいのですね。『乙女の秘密』」

「……そう言われると、聞きづらいんだけど」

「ほんの冗談ですわ。私の罪状は単純。人殺しです。それも1人ではありません」

 

 そういう過去があるんだろうなとは思っていたが、本人の口から突きつけられると、あぁ、そうなのか、と思う。トーチカに危害を加えないのはただ、今の彼女がトーチカを想ってくれているだけ。信用するなと言っていたのはこういうことで。

 

「安心してくださいまし。ひとり巻き込んで死なせたくらいじゃあ、封印刑にはなりません。あら、でも、体制への反逆でとっくに封印刑ものでしたわね」

 

 気遣ってくれているのかいないのか、笑えない冗談だった。

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