魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第67話『迎撃作戦Ⅶ 作戦失敗のこと』

 ◇レイン・ポゥ

 

 ──逃げ、られた。

 既に切り刻んでいるはずだったエンタープリーズは、死体を投げつけて囮にしてまで仲間を引っ張って逃げていき、目の前から敵の姿がなくなった。この場に残ったのは血溜まりが2つ。レイン・ポゥが急襲をかけて殺せたのはストローの魔法少女、サッキュー・ラッキューのただ1人だけ。オルカが反撃で殺した魔法少女と共に、この場に転がっている。殺しに慣れたレイン・ポゥにとっては見慣れたような光景で、動転する理由は無い。荒くなった呼吸を整え、頬に貰った返り血を拭い、死体を見下ろす。目障りな笑みのまま、少女は動かない。その笑みを見ていたくなく、レイン・ポゥは目を逸らす。

 

「かっ、香織……ちゃん」

 

 茂みからポスタリィが駆け寄ってくる。心配した様子だ。心配する必要はないはずだ。レイン・ポゥはただ不意討ちで1人殺しただけ。こんなのはまともな戦闘でもない。彼女は安全圏で見ていただけで、心配するならオルカの方だ。

 

「大丈夫……?」

「……まだ敵が帰ってくるかもしれないでしょ」

 

 まずありえないと思いながら、最初に吐いたのはそんな言葉だった。この作戦でも、彼女を連れてくることには反対しようとした。だがオルカは監視下に置き続けるよう告げ、最も安全な場所はレイン・ポゥの隣だと判断し、そうなるようにした。現にポスタリィは巻き込まれておらず、ただ、レイン・ポゥの判断が鈍っただけだ。

 

「それに、オルカがいるのに名前で呼ばないでよ」

「……そ、そうだよね。で、でも、香織ちゃんは……香織ちゃんだから……」

 

 意味がわからない。自分で言っていて、そんなことより、目の前で起きたこと、奴らを逃がしたこと、その方が重要だろう。わかっていても、目の前の彼女から離れるくらいなら、ここにいようとしていた。一方のポスタリィは怯えているくせに、こうして逃げ出そうとはしない。萎縮している、とは違うように見える。

 

「……なんとも思わない? 私……見るからに、人殺し、でしょ」

 

 ポスタリィが目を伏せる。香織ちゃんは香織ちゃんだと、もう一度同じ言葉を吐くかもしれないとほんの少しだけ思っていたが、答えはない。……やはり、こいつの考えていることはわからない。泣きわめくでも、糾弾するでもない。

 

「あはっ、ごめーん、手ぇ……貸してくれない?」

 

 そこに聞こえてきた声。絞り出したような声は、もう一方の血溜まりから聞こえてきたものだ。振り向くと、オルカは寝転がったまま。焦げ跡や擦り傷まみれで、傍らには食いちぎった肉片が落ちている。彼女のことだ、魔法で泳げばいいだろうとも思ったが、そうもいかないらしい。ポスタリィは見つめるだけで動かず、レイン・ポゥが仕方なく手を貸した。掴む手の力は彼女の印象にしては弱く、力を込めようとして呻いており、どうやら骨が折れているらしい。

 

「あーよかった、立てばなんとかなるかも。いったたた……あれの直撃は痛すぎるって。そっちは? 無事? だよね?」

「……」

 

 オルカは笑う。笑って、わざとレイン・ポゥではなく、ポスタリィの肩に手を置いた。思わずやめろと言いそうになり、何の関係があるんだと自分を押さえ込む。この頃のレイン・ポゥは、何かがおかしい。

 

「あは、オルカちゃん、腕くらいは持ってかれるかなと思ってたんだけど。やらなかったね? あのお仕置でわかってくれるような子じゃないと思ってたけど」

 

 オルカの言う通りだ。殺せるタイミングはあった。オルカに怯えた、そうかもしれない。

 目立たない妹、無垢な新人、都合のいい人質。それに……友達。レイン・ポゥはいつも何かを演じてきた。今だって同じだ。無理やり脅されて、人殺しをしてしまい、その状況に立ち尽くす少女。

 そのうえで、本当に、理解のできないものは残っていた。そこに転がっている女、サッキュー・ラッキューが、エンタープリーズを守ろうと身を呈したわけ。普段なら馬鹿のやる事だと切り捨てていたろうに、頭から離れていかなかった。

 

 ◇たま

 

 ──結局、誰かが死んでいた。

 森の中に放置されたブラック・ロゼットの遺体からは、彼女の特徴的なスカートが、腰部ごと奪われていた。離れたところに切り取られた脚が無造作に放り投げられ、辺りには切断の際に流れたであろう血が飛び散り、凄惨としか言いようがなかった。それを見つけた時、たまは吐きそうになるのをなんとか堪えた。堪えられたのは吐き気だけで、罪悪感はそうはいかなかった。その場に崩れ落ちて、勝手に溢れてくる涙にどうしようもないまま、ごめんなさい、と何度も呟いた。

 

「……生きて、いましたのね」

 

 その場に現れたのはリオネッタだ。彼女の人形の体は大きく破損し、ヒビが入っている。返り血だろうか、衣装の一部が赤く染まっており、彼女らしからぬよろよろとした歩き方でこちらへ来ようとして、ノゾカに受け止められた。

 

「リオネッタさん……」

「……私も個人の感情を優先した。責任の一端は……私にも……」

 

 らしくないのは、言葉もそうだった。ぽつりとこぼして、途切れた言葉の後、目線が不安定になり、それから何も言わなかった。ノゾカの手から離れ、やっぱり1人にしてほしいと、ふらりいなくなる。オルカからの連絡が入り、撤収と伝えられて、初めてたまも立ち上がる。そして、伝えられた集合地点に戻り、状況の報告と共有だ。

 華刃御前を倒したこと。ロゼットを守れなかったこと。リップルが確実に敵だとわかったこと。

 あちらはあちらで、構成員を殺害したこと、オルカがダメージを受けたこと、痛かったこと、オルカが活躍したこと、すごく痛かったこと、なんて延々と語られそうになり、それなら早く治療した方がいいなんてこちらから提案する羽目になった。

 

「護衛作戦は失敗だねぇ。迎撃作戦でいうと、まずまず……いやぁ、駄目寄りだ。見通しが甘かったっていうか……脅しが足りなかったかなぁ」

 

 オルカはストライプが恋しいやとこぼし、魔法少女たちは目を逸らす。そうして林を抜け、当初ロゼットと寄っていたはずの服屋まで戻る。ここには巻き込まれた魔法少女がもう1人いた。この店の店主だ。彼女はこちらを見るなり、もしかして、なんて顔をして、全てを察してしまったらしかった。

 

「ごめん、なさい」

 

 たまには謝るしかできない。続き、ノゾカが頭を下げ、店主は手を振った。

 

「……私に謝るくらいならさ。預かってた服、代わりに貰ってくれないかな?」

 

 最後にロゼットが購入しようとした衣服、それが入った紙袋を受け取った。他の魔法少女への贈り物だったのか、宛名が添えられていた。

 

「ロゼットちゃんが届けたかったもの、届けてほしいんだ」

「……はい」

 

 店主の言葉に頷いた。せめてもの罪滅ぼしだ。

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