魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第70話『魔法少女殺人考察』

 ◇ディティック・ベル

 

「なっ、なぜここにフレイム・フレイミィが……ぐはぁっ!!」

 

 一帯を囲む炎にその赤い姿が消え、再び現れ、炎を纏った拳が魔法少女を叩く。衝撃もさることながら、コスチュームに引火、火達磨になって転がっている。そんな相手を踏みつけて止め、さらにもう一撃。悲鳴が響き、目標は再起不能となる。

 

「……技を……使うまでも、ない……」

 

 目の前で起きた戦闘が終わったことを確認し、ディティック・ベルは恐る恐る物陰から顔を出す。間もなくスノーホワイトが涼しい顔で帰還、フレイミィの戦った跡の炎上した家屋を消火してくれる。フレイミィは慌ててその場から退避しており、炎の始末といい、皆の無事といい、安心に深いため息を吐きながら胸を撫で下ろした。

 

 探偵というものは、得てして後手に回らなければならないものである。事が起きてからでなければ出番はやって来ない。新メンバーが加入したとて、その原則は変わらない。

 そして、しっぽを出すどころか派手に振り乱して現れるような者は、大抵追いかけている相手とは違う相手だった。

 

「どうでした、スノーホワイトさん」

 

 スノーホワイトは首を振り、今回撃破した相手の襟首を掴み、腰に提げた小さな袋から魔法少女を引きずり出し、転がした。

 今回の相手はレジスタンスの名を出して強盗行為をしようとしていた連中だ。他のメンバーも圧倒的質量の一撃で壁にめり込み動けない者、単純にボコボコにされた者に、先程フレイミィに焦がされた者も合わせて散々な有様になっている。正直同情する。

 彼女らはプフレから貰った脱獄囚及び目撃情報のリストにない魔法少女たちだった。無論、トーチカの姿もない。

 

「今回もハズレか……」

 

 この所、ただの模倣犯が現れ始めている。今回で何件目か。レジスタンスを騙り、予告状やら何やらで魔法の国の関連施設を襲う。以前からないとは言いきれなかったが、ホンモノが暴れている以上、そのフォロワーが現れたことには監査部門も手を焼いていることだろう。道理でフレイミィを引き取ってくれなかったわけだ。

 フレイミィに関しては、今はもう、事情聴取やら重要参考人やらという扱いを申請し、特例措置で同行が許可されている。すっかり仲間として戦ってくれている、というのは心強い。対処がスノーホワイトに頼り切りなのは不安が残るが、実際先程の戦闘を見る限り、生半可な魔法少女ではそもそも対処が不可能だとわかった。

 

「いぇーい! フレっち! いぇーい!」

 

 ハイタッチを求めたラズリーヌに、フッと鼻を鳴らし、気取りつつも応えたあたり、なんか意外と、ブレーキがあるならなんとかなるのかもと思わされる。封印刑レベルの凶悪犯罪者なのに。

 

「いぇーい! チェルっちもいぇーい!」

「このくらい当然なんだよ」

 

 自身の大きさを変える魔法によって巨大化、一撃で目標を鎮圧し、今は元の大きさに戻ったチェルナー。そして荒事が得意そうな相手を真っ先に引き受け、格闘戦を難なく制したラズリーヌ。勝利のハイタッチをしつつ、仲睦まじくしている。互いのコスチュームについた尻尾がぴこぴこ動いて、さっきまで暴漢を返り討ちにしていたとは思えない可愛らしい光景だ。ラズリーヌの方は視線に気がつくと、大きく手を振り駆け寄ってくる。チェルナーも後からぽてぽて着いてきた。

 

「あ、ベルっち! 今回もすごかったっすね。予告状ドンピシャ正解じゃないっすか。悪は許さない! さすが名探偵っす!」

「戦ってくれたみんなのお陰だって」

「またまたぁ〜」

 

 口では謙遜しても、ディティック・ベルの中にこの状況を楽しんでいる自分がいるのは確かだった。それは否定できない。一刻も早くレジスタンスの凶行を止めなくてはいけない、というのに。ラズリーヌが頬をつついてくるこの女子高生ノリについていければよかったのだが、うまく答えられず目を逸らし、その様をスノーホワイトに気づかれた。彼女には、心の声が漏れている。

 

『ディティック・ベル! 別件で、エンタープリーズが目撃されたぽん。レジスタンスは別に動いてたみたいぽん』

「エンタープリーズ……あの、鍵の魔法少女?」

『そうだぽん。今、事件関係の画像送るぽん』

 

 スノーホワイトの端末からファルが情報をくれる。そもそもこの模倣犯というのも、レジスタンスによって仕組まれたものだったとしたら……なるほど。予告状を出すのもごっこ遊びではなく、止め得る可能性を出すことで、そちらに目が行くようにさせたかった、と。

 自らの端末を開き、踊らされている間にまた犠牲者が出てしまったことを知らされる。覗き込んでくるラズリーヌとチェルナーには、見ないように遠ざけた。

 

「? どしたっすか」

「いや……その、仏様の写真だから」

「んー、まあ、あたしは平気っすけど。チェルっちはどうすかね。ショッキング画像っすけど」

「チェルナーに怖いものはないよ」

「らしいっす」

 

 本人がそう言って後悔しないなら……と、画面が見えてもいいように持った。

 

「またレジスタンスっすか」

「レジスタンス? ってことは、トモキ……」

「……これで4件目か」

 

 被害者の共通点はわかっている。7753との面談が予定されていた魔法少女だ。その予定リストが人事部門襲撃の際に奪われたことで、奴らはそこから魔法少女を探している。だが、それだけでは絞り込めない。殺害方法もバラバラで、襲撃者も毎度異なる。監獄や人事部門の時からいた魔法少女か、脱獄囚の中にメンバーがいる、ということしかわかっていない。

 ここは一度、整理する必要がある、か。

 

「一旦、事務所に戻ろう。殺人事件について、本気で会議しなきゃ」

「おお! なんか、名探偵っぽいっすね」

「賛成です。早く……止めないと」

 

 珍しくスノーホワイトから率先して賛同を得て、よくわからないけど行くというチェルナーと強制連行のフレイミィを加え、全員が出発しようとする。そして、足元で呻き声がして、そういえばこの人達どうしよう、と思ったのだった。

 

「ようこそっす、あたしとベルっちの城に」

「そう言うと愛の巣みたいに聞こえちゃうから」

「愛の巣? どういうことっすか?」

「……えー、こほん、こちらがラズベリー探偵事務所です」

 

 ──引渡しの方は遅れてやってきた監査部門の職員に丸投げし、軽い挨拶をしてさっさと事務所に帰ってきた。ディティック・ベルがホワイトボードを引っ張りだそうと事務所の奥に行っている間にラズリーヌ式のもてなしとしてお菓子が出され、チェルナーが喜んで食べ始め、それを見たフレイミィが控えめながら手を付け始めたところでホワイトボードが到着した。

 

「まず……被害者と状況についてまとめなくちゃね」

 

 ホワイトボード用のペンをキュッキュッと鳴らしてボードに走らせ、被害者の情報を書いていこうとして、ファルに話しかけられる。

 

『ホログラム投影できるけど、どうするぽん?』

 

 ……確かに、こちらで把握していない情報もあるわけだし。最新とか何も知らないし。恥ずかしくなって慌ててペン文字を消し、ファルに頼んだ。

 

「まず、第一の被害者。ブラック・ロゼット。元魔王塾生の魔法少女」

「……ロゼット……鬱陶しい奴、だった」

「フレっちお知り合いっすか? あ、フレっちも魔王塾だったっすね」

 

 フレイミィが頷く。その後、被害に遭い、亡くなってしまった魔法少女たちとその写真が並べられる。7753の面接リスト以外に共通点はなく、現状、トーチカをはじめとしたレジスタンス魔法少女や脱獄囚との関係もほぼない。フレイミィとロゼットが精々だ。

 

「……無差別、に見える」

 

 言われた通り、被害者だけ見れば本当にそうだ。ただリストの中ならなんでもいい、皆殺し、というには今回囮を使ってきた件が不自然だ。メンバーとの面識もなし、死因と実行犯も様々、遺体の損壊は酷い、これでは理由が見えてこない。

 魔法少女のような超常の存在においては「どうやって(ハウダニット)」より「どうして(ホワイダニット)」だ。まじまじと見つめるべきものじゃないと思いつつも、遺体の写真を見比べ、切断や損壊が多い中、どれも人体が揃っていないと気がついた。

 

「……まさかね」

 

 ブラック・ロゼットでは下腹部、腰のあたりが無くなっている。これは……彼女の「スカートを履き替える魔法」が関係しているのか。魔法のキックを放つ魔法少女は脚が、腹部に第二の口を持つ魔法少女はその腹が。ハートから光線を放つ魔法少女は胸部が持ち去られているのではないだろうか。

 面接予定者のリストを開く。魔法の説明が簡素ながら書かれている、これをレジスタンスも使っているのか。魔法の行使に使う部位を狙っている? なんの為に? まさかとは思うが、人体を揃えようとしているのではないか。

 脚、腰、腹、胸。残るは、腕と首。

 いや、違う。首は──マッド=ルナの信奉していたマリア・ユーテラス。彼女は首を断たれて討伐されたとなっていたはずだ。

 

 魔法の解説を見て照らし合わせ、探す。だがこの簡素な説明文では限界がある。腕を使いそうな魔法少女、意外にもそれを目当てに探すと見つからない。

 

「ベルっち……何かわかりそうっすか?」

「……ラズリーヌ、そうだ、このリストの中に知り合いって、いるかな。その子の魔法を知りたいんだけど」

「はいっす。えーっと……あっ。この子はあたしの妹弟子っすね」

「魔法は!?」

「思い出を見せる魔法っすね! 両手の指で枠を作って、そこに記憶を映すっていう感じっす」

 

 つまり、両手を使う魔法少女だ。レジスタンスが次に狙う魔法少女は彼女に違いない。目を見開き、思わず大きな声で質問を重ねた。

 

「……! その子って、どの……!?」

「え? ここっす。ほら」

 

 ラズリーヌが指した名。そこに書かれていた文字は『ノゾカセル・リアン』だった。

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