◇炎の湖フレイム・フレイミィ
脱獄囚魔法少女の合流を食い止めろという指令を受け、フレイミィはディティック・ベルたちから離れた。制圧は好きにしろ、と探偵からのお言葉をいただいている。よってフレイミィは、空気を燃やし、膨張させることによって飛翔。高速で移動中らしき魔法少女に接近、まずはその眼前に衝撃波を伴って着地する。驚き立ち止まった魔法少女が2名。ネオンサインの衣装でピカピカ光る魔法少女と、ゾンビ化した警官といった風貌の異形系魔法少女だ。アジトでは見覚えがある。
彼女らはフレイミィを見るなり、警戒を追っ手に対するそれよりも緩めてくる。
「ふ、フレイミィさん……でしたっけ? 捨て駒にされて捕まったって聞いたのに、戻ってこられたんですね」
ゾンビ魔法少女が話しかけてくる。彼女には悪いが、フレイミィはもうそちら側ではない。確かにここには魔法少女狩りもいない。裏切るのならばこの瞬間かもしれないが──。
己の理由を思い返す。
敵の狙いを推理したディティック・ベルは大急ぎで支度を始め、一行は皆それに続いたが、ファルの解析を待つその最中、彼女はラピス・ラズリーヌと共に、わざわざフレイミィに話しかけた。
『ええっと……フレイミィ、さん。フレイミィさんは『魔王塾六火仙』や『魔王塾七福神』などを兼任されていた……とか。その、肩書きを増やすことにはなってしまうんですが』
フレイミィもそれなりに名の売れた魔法少女だ。全てが露見し捕縛されても、その名は残っていたらしい。フレイミィはふっとクールに笑い、それに続く言葉を待つ。
『ラズベリー探偵事務所、臨時捜査員──』
『兼、炎の四天王に任命するっすよ!』
『ちょ、それは……まあいいか。四天王の1人として。頼りにしています』
ラズリーヌはキラキラした瞳で四天王とやらに勧誘し、ディティック・ベルはフレイム・フレイミィを頼りにした。四だと魔王塾四絶拳に被るが、頼まれたのならやるしかない。
意識を現在に戻した。ゆっくりと構え、目線が交わされた瞬間に炎が噴き上がる。周囲の草木に引火し、瞬く間に火の手が魔法少女たちを囲む。そして炎を纏った拳がゾンビ魔法少女に叩き込まれ、対応できないまま吹っ飛ばされた。
「おやおや……もしやとは思いますが、魔法少女狩りの飼い犬に成り下がったと? 誇り高き脱獄囚、地獄の試験官ともあろう貴方が」
「……そんな……肩書きは……ない」
ネオン魔法少女はへらへら笑い、両腕に装着された機械の拳を構えてくる。拳の先がスロットマシンになっているらしく、何かの絵柄が書いてある。それで何をしてくるのかと思いきや、まずは単純に殴りかかってくる。あの質量を真っ向から相手にするのは止め炎に溶け込み、拳をすり抜け懐に潜り込む。姿を現しながらの一撃がもろに入り、相手は呻きながら後ずさった。
しかしそれで止まる相手では当然ない。右、左、右と続いて交互に攻撃が繰り出され、透かすうちに殴る度にリールが1つずつ止まっていっているのに気がついた。右手の図柄はバラバラだが、左はリーチだ。そして今、ここで振るわれた拳が地面に激突してリールが停止。大きな効果音を鳴らして飴のイラストが揃う。相手がより口角を歪めたのを見て、フレイミィは仕掛けることを選ぶ。
「来ましたよぉ、ここらで一発当たっていただきます」
「……
殴りかかろうとしたその時、上方から炎の雨が迫った。相手はフレイミィから炎に標的を変え、揃っていない右手でパンチを繰り出し、リールを再始動させつつ炎の迎撃を図った。その程度の風圧で消せる炎ではない。被った火の粉を手で払い、仕方ないと歯ぎしりをしながら、絵柄のボーナスが乗ったパンチは炎に向かって放たれた。このボーナスは威力を高め、衝撃波が大きく炎を消すことに成功する。
だが、フレイミィの本領はそこじゃない。彼女が降り注ぐ方に気を取られている間、周囲に燃え広がったこの炎たちをフレイミィは一気に集めていた。振りかぶり、回転の勢いを乗せた拳。慌てて繰り出されたスロット回転中の拳と激突し、その余波で撒き散らされた炎が敵の本体を襲った。顔に浴びて悶え転がっている。
「あぁッ……熱ッ……熱いですよぉ……! ですがおかげで……こちらもアツくなって来ましたァ!」
ネオンサインが激しく明滅し、拳のリールの左右が同じ絵柄、『7』を示している。そういう趣味のないフレイミィでも知っている、それが一番の大当たりというやつだ。大振りな攻撃でまた襲ってくる相手に、炎に溶け込んで撹乱、背後から炎を吹き付ける。悲鳴があがるが、振り向きざまの拳がぶつけられ、咄嗟に両腕で受け止めた。なるほどこれはなかなかに重い一撃だ。だがそれよりも、目の前で揃う3つ目の『7』が意識に残る。
「私も……フレイミィさんには憧れがあったんですよぉ? 同じ魔法少女狩りにやられた身として」
彼女は何かを語り始める。お喋りをしてやる時間はないと炎を浴びせ、怯ませるが、それでも追ってくる。面倒な相手だ。
「ぁああっ、熱い、痛いぃっ……もう、話の途中ですよぉ?
いいじゃないですかぁ、
なのに、と続く言葉の最中、スリーセブンの拳が輝きを放つ。仕掛けてくるつもりだ。であればこちらだって、容赦はしない。
「裏切られた気分ですよぉ……!」
「『
繰り出されようとする拳を炎の壁が阻む。噴き上がる衝撃で相殺し、互いに余波で体制が崩れた。フレイミィは倒れ込みながらも、炎の中に潜る。そしてしぶとく立ち上がろうとする相手に急接近し、炎の柱を纏って振り下ろす。焼き焦がすだけでなく、叩きつける攻撃。これまでで一番の悲鳴があがり、炎が晴れると、ネオンの魔法少女は気を失っていた。これで再起不能だろう。
残るはあのゾンビ魔法少女か、と先程吹っ飛ばしていった方に急ぐと、そこにはスノーホワイトだけが立っている。ゾンビ魔法少女の方は立っておらず、しっかり気絶しているらしい。
「……魔法少女狩り」
「向こうから心の声がします。急がないと」
「……向こう……か……」
スノーホワイトよりも先行すべく、再び燃焼による飛行に移る。木々には燃え移るが、この際構わない。確かに魔法少女、戦いの気配がする地点まで飛翔した。
今度はふわりと勢いを潰しながら着地。まずは状況の確認からだ。
今まさに戦っているのは犬耳と忍者。即ち音楽家殺しと、スノーホワイトの探し人だと把握し、彼女らが共にクラムベリー最後の世代だと思い当たったところで、目の前の2人はフレイミィの存在に構う暇もなく、刃と爪を交わす。
「リップルは……何をそんなに憎んでいるの……?」
「ッ……それは……ッ!」
リップルの表情が歪む。その目は、音楽家殺しを見ていない。その奥に誰かの影を見て、切っ先のような殺意はそちらへ向いていた。
「……そんなの、決まってる……あいつを奪った……全部。あの子を苦しめる……全部」
「スイムちゃんも、クラムベリーも、もういないよ」
「わかってる……だから……あいつらを生み出した魔法の国に向けるしかない」
「そんなの間違って……」
「だったら! あなたがスイムスイムの代わりになってくれるの……!?」
盗み聞きだけのフレイミィにはわからない話だ。だが、リップルの激情に、たまが言葉を失い、目線を逸らしているのは見えた。むしろリップルの猛攻は激しさを増し、たまの爪が弾かれ、押されていく。
そして──もうすぐスノーホワイトが駆けつけるであろうと、フレイミィが振り向いた時だった。
遠方から、不意に響いた爆発音。恐らくは同じく反体制派と捜査班の激突か。フレイミィもディティック・ベル達を心配し、同様に音楽家殺しも気を取られた。だが息をつく間もなく、振り上げられた忍者刀は止まらない。気づいた時にはもう遅かった。右腕がその瞬間に切り落とされ、グローブごと宙を舞った。
血が迸り、痛みに呻くたま。そこへ、聞こえてくる足音。
「……ッ! 来るな、魔法少女狩り……!」
直感が叫んだ。この状況を彼女に見せてはならないのではないか、と。同じクラムベリーの試験を生き延びた者同士が殺し合う、この状況は、スノーホワイトには惨いのではないかと。
制止しようと飛び出して、そんな気遣いも虚しく、フレイミィは押しのけられた。
「え……? なんで、リップルが、たまちゃんを──」
そもそも彼女の魔法は読心だ、すべて聞こえていたのだろう。呆然と立ち止まり、フレイミィには見せたことのないような顔をして、彼女は呟いたのだった。