魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第76話『あなたを照らします』

 ◇カラフルいんく

 

 エンタープリーズもトーチカも、帰ってはこなかった。どころかマッド=ルナでさえも行方知れず。脱獄囚は当然確保されたっきりで、戻ってきたのはトットポップたったひとりだけ。

 残りはそもそもアジトに残されていたいんくと、捕虜のはずのフィルルゥ、それと引きこもりのキーク。キークはそもそも頭数には数えられず、レジスタンスはもう壊滅したも同然だった。

 

 サッキューは死んだ。イロハも、死んだ。脱獄囚たちは次々と捨て駒とされ捕まった。マッド=ルナはトットポップを逃がすために向かっていったらしい。

 

 そうして戻ってきたトットポップはというと、フィルルゥといんくを同じ部屋に呼び出した。アジトの奥にある倉庫のような研究室のような、誰も使っていなかった部屋だ。

 そしてその真ん中で、腕を2本、それぞれ違うコスチュームのアームカバーやグローブを身につけたものをごろんと、いんくとフィルルゥの前に転がした。さらに、他の魔法少女たちから剥ぎ取ったバラバラ死体を、無造作に詰め部屋の隅に置いてあった魔法の袋の中から引っ張り出し、並べていく。

 魔法の袋のお陰で腐敗はしていない、だが代わりに新鮮な血の匂いが撒き散らされる。部屋の中は噎せ返るほどの死の匂いで満たされてしまった。

 

「これで、トーチカちゃんが言ってたレシピの材料が揃ったのね。調理していかなきゃなのね」

「調理って……なんですかこれ、レシピって」

「魔法少女を組み立てるみたいなのね。調理ってか、プラモデルみたいな。フィルルゥちゃんの糸でくっつけるのね」

 

 フィルルゥは目を丸くしていた。まさか自分が、という顔だ。さらにトットポップからこれまでのレジスタンス活動の目的がこの材料集めだったと語られ、さらにフィルルゥは絶句していた。

 

「それ、私が協力的じゃなかったらどうするつもりだったんでしょうか……?」

「んー、接着剤とか?」

「そんなわけは……」

「じゃあ魔法の接着剤ね」

「そういう問題では……」

 

 トットポップは嫌な顔ひとつせず、血のついた人体の破片の数々を弄り始める。彼女によって最低限血を拭って並べられたものへ、やればいいんでしょうと開き直ったフィルルゥが魔法の縫い針を刺していく。もはや傷口を縫うという次元ではなく、フィルルゥの糸が神経代わりになるほどに何度も通していく。本領の針仕事とは勝手が違うだろうに、手際が良い。

 いんくがその作業に見入っているうちに、胴と腰、胴と腕、腰と脚がそれぞれ縫い付けられていった。

 

 数十分もしないうちに出来上がった魔法少女人形は、元々の持ち主の体格に差があるぶんアンバランスで、返り血を浴びたコスチュームがそのまま使われているためさらに継ぎ接ぎだ。いんくは我に返った途端、吐き気に襲われた。私たちが目指していたのはこんなおぞましいものだったのか、そんな感性が残っていたことに自分でもおかしくなってくる。

 

「さーて、フィルルゥちゃん集中してるし。いんくちゃん、一緒に首取ってこよっか」

 

 そうだ、首がない。最後の材料はまた取りに行かなければならないのか──と思った途端、トットポップに手を引かれる。

 

「ほら。いんくちゃんも」

「私は……」

 

 足が動かなかった。ずっと抱いている無力感と、この吐き気のせいだ。そうに違いない。

 

「関わって……いいのだろうか。私が……私が迂闊だから、みんなっ……」

 

 いんくのことを助けてくれていたイロハもサッキューもいない。2人がいたら、きっと慰めの言葉をかけて、心を救ってくれるはずなのに。全部、自分が不甲斐ないせいだ。涙が出てくる。

 

「まあまあ、泣かないで。奥で寝てるマリア・ユーテラスの首持ってくるだけだから。そう心配することもないのね。それに」

「……?」

「ルナちゃんもいないわけだし。今はいんくちゃんがリーダーね」

「……いいのか、私で」

「そりゃもちろん。はじめましての時はノリで貰っちゃったけど、トットはリーダー向きじゃないし。いんくちゃんこそレジスタンスのリーダーね」

「しかし……トーチカたちは」

「捕まった子は取り返せばいいだけなのね。大量脱獄ならさせたことあるじゃない」

 

 確かにそうだ。捕まっただけならまだ取り返せる。いんく達の成果次第では、まだまだだ。エンタープリーズはサッキューのためと突っ走って、積極的に動いていたという。いんくはそうはできなかったが、今からでもいい、元々いんくが始めたことだ。

 だからきっと。次はこう言えば、トットポップは笑ってくれる。

 

「……そうだ。私はレジスタンス魔法少女チームのリーダー……カラフルいんく! 私がやらなきゃ誰がやる! いなくなったみんなのぶんまで、私が革命を遂げてやる……!」

「その調子その調子! やっぱりいんくちゃんはそっちが一番ね」

 

 高らかな宣言のおかげか、トットポップの無邪気な笑顔のおかげか。どちらにしたって、いんくの足は動く。軽快に、アジトのより奥へと進んでいく。奥の部屋には倉庫に転がっているものよりもさらによくわからないガラクタでいっぱいだ。中央には棺のようにカプセルが設置されていて、その中で眠るように安置されている遺骸があった。想像と違い胴体もあるが、縫い合わされているわけではないらしい。そっと抱き上げるようにして、その頭部に触れた。当然の事ながら、柔らかな髪と人体の感触でありながら体温はない。その違和感を覚えつつ持ち上げる。そうして、大事に首を運び、フィルルゥが作業を続ける倉庫まで戻っていく。

 

「お待たせなのね〜、最後のピースのお届けね」

「分冊百科の付録じゃないんですから」

「これは……このあたりか?」

「そうですね。断面を合わせて……」

 

 首をあるべき場所に置き、転がらないように押さえ、フィルルゥが針を通すのを見守った。これで全身が縫い合わされる。首が繋げられてもやはり全体で見るとバラバラの継ぎ接ぎだ。それでもフィルルゥの職人芸と言うべきか、継ぎ目はぴったりで不自然さはない。衣類も無理なく繋がれており、パッチワークの魔法少女であると言われたら納得出来るかもしれない。

 

「……よし。できました。こんなサイコの連続殺人鬼みたいな……いや連続殺人はそうなんですけど、これでも達成感は出ちゃいますね」

 

 苦笑しつつ額の汗を拭うしぐさを見せたフィルルゥ。これで依代は出来あがりだ。だがこれで動き出してくれるわけではない。最後の仕上げには、彼女に血を通わせる必要がある。そんな血液などどこにあるかと言えば、ないわけでもない。いんくは絵筆ではなく、魔法に使う絵の具をチューブで取り出した。ここから任意の色が出せるようになっているが、今選ぶのは、鮮やかな赤。生命を象徴するヘモグロビンの赤だ。マリアの口を開かせると、チューブをそこに目掛けて絞り出していく。1本では足りない。何本も引っ張り出してあるだけを注ぎ、5本目を使い果たして、気がつけば土気色だった肌が赤みを帯びてきた、ような。

 ふとそれに意識を向けた途端、目の前のマリアから何かが溢れ出す。光が辺りに満ち、髪が見えない力の流れに靡き、ぶわっと広がった。かと思えばぴくりと指先が動いて、まさか本当にと思ったその時、瞼が開く。目が合った。

 

「……おや。これは……私は……?」

 

 上体を起こして呼吸を確かめ、手足を試しに動かし、その場にいる魔法少女たちの顔を見回す。動いている。生きている。有り得ないが、これがトーチカの魔法だ。儀礼の手順を踏めば、こんな魔法すら可能にする。まさか本当にできるとは思っていなかった結果を目の前にして、息を呑んだ。

 

「おはようなのね。マリア・ユーテラスさんなのね?」

「そのよう、ですね。皆さんは……」

「えっと、ルナちゃんと一緒に魔法の国ひっくり返そう! ってやってた反体制派のメンバーね」

 

 目を覚ましたマリアは皆の顔を見回し、首を傾げる。傾げても継ぎ合わせた首がズレるようなことはなかった。

 

「反体制派……よく、わかりませんが、わかりました。何となく……この頭が覚えています。革命、ですね。皆が幸せになるように。まずは、奪い取るところから」

 

 マリアの胸元から光が迸った。眩しさに思わず目を閉じ、ゆっくりと開くと、そこに広がっていた光景は信じ難い。マッド・ルナと()()()()()()見知らぬ魔法少女たちが、いんくたちを取り囲んでいたのだ。代わりにその辺に転がっていた金属片やら何やらが消えている。

 まさかとは思うが、なんでもない無機物を……魔法少女に、変身させたのか。これが、マリアの魔法か。

 

「え、だ、誰ですか、この人たちは」

「ご安心ください、私の子供たちですよ。そう怯えないで。マリアが、あなたを照らします」

 

 限界まで削られたはずの戦力の問題はどこかへ消えた。いんくは思わず口角が上がっていた。たった1人で、無限の魔法少女軍隊になれるなんて。

 もう負ける未来は見えていない。始まるのは復讐と報復と、革命だ。

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