魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第82話『最終決戦Ⅳ 青い魔法少女と共に在る』

 ◇ディティック・ベル

 

 必死でステッキを振り回し、飛来する攻撃の数々からどうにか逃げ回る。ラズリーヌが殴って吹っ飛ばした相手が起き上がろうとするのに出くわして、殴りつけてトドメを刺した。気絶した相手はふわりと消えてしまい、驚いたものの構ってはいられない。高速で飛んできたシャトルを叩き落として、伸びてきた腕を打ち払って、近くにいた魔法少女の側頭部をぶん殴った。これで2人、たった2人。相手が多すぎる。減るどころかまだまだ増えている。

 よろめくディティック・ベルの背を、ラズリーヌがその背中で受け止めてくれた。彼女は拳を構え、まだまだ目に光が宿っている。

 

「ベルっち、平気っすか」

「……なんとか」

 

 自分がラズリーヌの助けになれているとは思えなかった。むしろ助けられてばっかりだ。彼女の縦横無尽に宝石で飛び回るスタイルは、ディティック・ベルを守ろうと動けば行動範囲が制限され、活かしきれていない。

 

「ほらほら! まだまだ終わらないのね!」

 

 司令塔であるらしいトットポップは、翼を持つ魔法少女に抱えられながらギターを掻き鳴らし、上空から不規則に音符を飛来させる。先程避けきれずに一発貰ったが、あの衝撃はなかなかのものだ。意識が飛びかけた。油断すれば命取りになる。

 

「くっ……!」

 

 探偵が前線に出て戦うものではないというのは当たり前のことだが、そういった作品には時折、暴れだした犯人を鎮圧するようなシーンもある。事務所設立以来、魔法少女式の杖術を習おうとしたこともあった。もっと続けていればどんなによかったか。

 絶えず仕掛けてくる魔法少女たちを相手に、繰り出したステッキが弾かれる。体勢が崩れたところに刃が差し出され、なんとか踏みとどまる。しかしそこを殴られ、思いっきり転がった。けどただやられるだけじゃダメだ。転がる瞬間、咄嗟に地面──建物の天井にキスをして、口を開けて即席の落とし穴とした。追ってくる数名が落ちていったのを確認しながら立ち上がり、また構える。

 数名では足りないのはわかっている。たま達が元栓、つまりマリア・ユーテラスを止めるまで、これが終わらないことも。それまでディティック・ベルは立っていられるだろうか。皆は今無事なのか──思考が余計なことに回ってきりがない。無理やりにでも戻そうと、無我夢中で繰り出した回し蹴りの勢いのまま振り返り、丁度眼前に着地したラズリーヌのウインクを見た。頼れる助手の存在はやはり安心感をくれる──。

 

「──あれ」

 

 しかしその時同時に、どこからともなく縫い針が放たれているのを見た。ディティック・ベルは認識すると同時にラズリーヌに駆け寄り、間に割り込む。不思議と針による痛みはないが、他の飛び道具は変わらず効力を持ち、トットポップの音符が激突して衝撃が走った。

 

「っ、痛ぁっ……!」

「ベルっち!? っこの、なんすかこの糸!」

 

 糸が体を地面に縫い付け、動けない。どいつだと見回して、上空から降り立ったトットポップと、彼女に駆け寄る魔法少女が見えた。確か情報によれば……監獄に所属していた魔法少女、フィルルゥだ。看守が行方不明になっているとは聞いていたが、協力していたとは思わなかった。

 

「フィルルゥちゃんも来たし、一旦攻撃やめね。はい、整列。フィルルゥちゃんも糸は解いたげて」

「……いいんですか?」

「一旦ね」

 

 トットポップの指示により、魔法少女たちははたと攻撃をやめた。しかし構えは解かず、トットポップ及びフィルルゥの周囲で、武器の切っ先や銃口を向けながらこちらを見ている。

 

「さすがのトットだってコメットちゃんをやっちゃいたくはないのね。チャンスはやるのね」

「……」

「ベルちゃん? なのね? あなたも。トットの音符2発も食らって、へろへろでしょ」

「すみませんが、降伏していただければ悪いようには……ほら、捕虜の私もこのように無事です。働かされてはいますが」

「ッ、私は……」

 

 ラズリーヌは強がってこそいたが、その目にまだ闘志があっても、よく見れば擦り傷や切り傷が少なくない。このマリアが生み出す魔法少女たちの物量は圧倒的だ。しかもそれらが、普通の魔法少女と同じように固有の魔法を少なからず所持しているのが性質が悪い。孤軍奮闘のままではいずれ力尽きる。

 

「……ベルっち」

 

 少なくとも、ラズリーヌには死んで欲しくなかった。もちろん自分が死ぬつもりはない。せっかく手にした夢を手放すディティック・ベルじゃない。それでも。諦めるのは、探偵だからじゃなく、ディティック・ベルじゃないような気がして。

 

「……ごめんラズリーヌ。まだ、やれる?」

「へへっ、あたしは倒れねーっすよ」

「あはは……さすが、自慢の助手だよ!」

 

 ステッキを構えて突きつける。トットポップはきょとんとしたが、理解すると仕方なさそうにした。

 

「交渉決裂なのね。向かってくるなら、容赦はしないのね!」

 

 トットポップのギターが音符の奔流を吐き出したのを合図として、一斉に攻撃が始まる。避けるどころか、いっそ突っ込んでやろうかと身構え、その瞬間だった。降り注ぐ全てを阻んだのは──青い、橋。一瞬にして現れたそれは宝石によって作られたアーチ。その上を駆け、こちらへ来る影。現れた彼女、青いコスチュームの魔法少女はその途中に連撃を見舞って数名の敵を昏倒させ、その最後にポーズを決めた。

 

「──間に合い、ました!!!」

「この橋は……まさか!」

 

 ラズリーヌが歓声をあげると共に、ディティック・ベルの魔法の端末が鳴る。この状況でか、と訝しがりながらも、目の前の橋で攻撃が止められたこととその発信者を見て通話に出る。

 

『やあ、ディティック・ベル。無事かな。休暇中の人事部門職員たちが、どうしてもと聞かなくてね。君のいそうな場所を教えてしまった』

「……っ、はは、は。誰かと思ったら……依頼主様の粋な計らいとは」

『そういうわけだ。いい報告を待っているよ』

 

 通話が切れると共に、ディティック・ベルの前に異常事態が起こる。ラピスラズリの橋を乗り越えて襲ってきていた魔法少女たちが、スポンジの壁に阻まれ、さらに突如電撃を受けたかのように動きを止めたのだ。助っ人は、あの青い橋を架けた少女だけじゃない。

 

「貴女たちは……!」

「魔法の国に牙を剥き、あまつさえ真実を知った者を消そうとするなど……言・語・道・断!! 安心してくれたまえ探偵さん、我々人事部門が貴女を守ってみせる!!!」

「付き添いのお姉さんもいるわよ〜。本庁襲撃事件の時はお世話になったし、助けに来ちゃったわ」

「えっと……心強いけど、知らない人達……!」

 

 確か、人事部門で警備員をしていた魔法少女と、フレイミィと戦って食い止めてくれていた清掃員の魔法少女だったか。背中は任せろと言わんばかりで、実際、その持ち込んだラジカセから流れるミュージックと、突如現れるスポンジの壁は有象無象の魔法少女たちを押し止めている。

 

「ミルっち……助けに来てくれたんすね」

「はい!! レジスタンスの事件を追っているおふたりの力になりたくて……!」

「今度は助けられちゃったっすね」

「いえ、あの時、私の心まで助けていただいたのには及びません!!!」

 

 一方、前方の青い宝石の橋はさすがの耐久力にも限界を迎え、ヒビが入り始めていた。ふたりは互いに頷きあって、青い魔法少女がポーズを決める。

 ラズリーヌは両腕をクロスさせ、右足は伸ばして床に這わせて。

 もうひとりは右手でピース、左手は前に伸ばして前傾姿勢で。

 

「……ベルっちも!」

「え、私も!?」

 

 急に言われて慌てて間に立つと、帽子の鍔を摘みステッキを構えるポーズにした。ラズリーヌから「よし」という合図が来て、その時が来る。宝石の橋が砕け散り、キラキラと青い雨が降る中で、高らかに。

 

「夢と希望、未来を繋ぐ天ツ橋! 彗星の如く、今! 推・参!! 魔法少女、ミルキーウェイ!!」

 

「戦場に舞う青い煌めき! ラピス・ラズリーヌ!!」

 

 2連続の派手な名乗り口上に、またちらりと視線が向いた。そういえばゲームの中でもこんなことがあったような気がする。その時は違う面子だったけれど、とにかくもうやるしかない。

 

「──し、真実は大抵一つ! 魔法探偵、ディティック・ベル!!」

 

 トットポップが歓声とともに拍手をあげ、フィルルゥはぽかんとし、律儀に待っていた量産魔法少女たちはじっと見つめていた。大丈夫、滑ってない、はず。両隣のラズリーヌとミルキーウェイは満足そうで、ならいいかと自分を納得させた。

 

「っし! トットっち、フィルっち! こっからのあたしたちはひと味もふた味も違うっす! 覚悟してもらうっすよ!!」

「ふふふ、やってみろ! なのね! いくよフィルルゥちゃん、これは全力出さなきゃ失礼なのね!」

「えっ、そ、そうなんですか……!?」

 

 砕けたラピスラズリの欠片が舞い、かき鳴らされたギターから乱反射する音符を蹴り、ラズリーヌが飛び回る。ミルキーウェイが続き、彼女の架ける橋がそのゆく道を繋ぐ。迫り来る魔法少女軍団何のその、目にも止まらぬ連撃に次ぐ連撃、迫る刃や銃弾をものともせずに跳ね除け、時に架け橋が盾となり武器となり、形成は一気に逆転する。その様はあまりにも鮮やかな情景であった。輝きが躍動し、その様はまるで夜空を駆ける流れ星(ブルーコメット)。青の流星群が、希望を見せてくれる。

 

 魔法少女たちの狙いがラズリーヌたちへと向いたことで、ディティック・ベルに向く攻撃は殆どない。無差別な音符くらいだ。そんな中でも冷静に、制圧へと乗り出してくるのがフィルルゥだった。彼女の放った縫い針は肉体を傷つけないが、縫われたら動けなくなる。回避に専念しつつ、しかし相手は早い、しかも荒事に慣れている。さすがは看守と言うべきか、踏み込もうとして右足が、そして防御しようとして腕をやられ、さらに数秒後、気がつけばその場に引き倒される直前だ。踏みとどまってどうにか引きちぎろうにもディティック・ベルの膂力では足りない。誰かを頼るしかないかと歯を食いしばり、そこへ炎が飛来し糸を焼き尽くす。

 

「……私を、忘れてもらっては……困る」

 

 まだ、心強い助っ人がいた。現れた炎は人の形となり、ディティック・ベルの前に立つ。ラズベリー探偵事務所の臨時捜査員兼、炎の四天王──。彼女は全身を炎で燃え上がらせると、何かのポーズを決め、名乗りを上げた。

 

「……炎の湖、フレイム・フレイミィ……!!」

 

 もしかして、先程のラズリーヌとミルキーウェイの共鳴を見て、自分もやりたくなったのか。案外そうかもしれない。とにかく、糸を破壊できるフレイミィはありがたい存在だ。

 

「あの糸の方、フィルルゥさんは」

「……知っている。元看守、本来は……ただの捕虜……」

「なのであまり手荒にならないように、お願い」

 

 フレイミィは頷き、構えた。構えたかと思うと、その言葉足らずの口をまた開く。

 

「……あそこまではしないように、か……?」

 

 彼女が指した先には、さっきまで彼女が戦場としていただろう炎の海がある。人影はなく、量産魔法少女との戦いの末、敵は跡形もなく燃やし尽くしたらしい。慌てて頷いた。針を構えていたフィルルゥも、さすがのフレイミィを前にすると冷や汗が頬に滲んでいた。

 

「……ここは……私に任せろ……」

「っ、でも、私も戦わないと」

「……探偵の出番は。戦場ではない……」

 

 そうとだけ告げると、彼女はフィルルゥに向かっていく。周囲に炎を激しく放ちながら戦う彼女の熱を感じ、思わず後ずさった。人事部門から来てくれた助っ人たちが後方を完全に押さえており、ふと目を向けた前方でも、ラズリーヌがまたひとり魔法少女をノックアウトしたところだった。ステッキを強く握りしめ、飛び出そうとする。

 

「ラズリーヌ、私も──」

「ベルさん」

「……! ミルキーウェイ……さん」

 

 ミルキーウェイに引き止められ、踏みとどまった。彼女に引き止められる理由がわからなかった。

 

「戦うのは私達の役目です! 皆、ベルさんを守りたいって思ってます。どうか、応援を」

「……でも、それじゃ私は」

「いいんです。きっとラズリーヌさんは……貴女だから、戦っているんです。私達に、彼女の特別を守らせてください」

 

 潜入役もできず、戦える魔法少女でもない。説得ができたわけじゃない。ただ、足跡を追いかけてきただけだ。戦場では置いていかれるばかり。何度もディティック・ベルのせいで追い詰められた。

 それでいい、のか。危険に飛び込むくらいなら、守られる者であれ、と。戦わない魔法少女であれ、と。

 

 顔を、上げた。

 出かかっていた心のもやを溜息で吐き捨てて、思いっきり叫ぶ。

 

「頑張れ! ラズリーヌ!!」

 

 彼女の真剣な横顔がにっと笑顔に変わり、やってくるのはとびきりの返事だった。

 

「はいっす!!」

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