魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第83話『最終決戦Ⅴ 行き着く場所まで』

 ◇レイン・ポゥ

 

「……ちっ」

 

 屋内から溢れ出してくる魔法少女たち。軍隊のようでいて群体のような光景。これまでのレジスタンスの動きからは考えられない戦力差に、レイン・ポゥは思わず舌打ちをした。

 

 キューティーオルカの指示は後方での待機、最終的な残党の処理だった。言われた通り突入組とも外で抑える組とも離れ、隠れ続けている。状況は混乱の真っ只中だ。

 あの女はいったい自分たちをどうしたいのか。拘束したいのか、いいように使いたいのか、逃がしたいのか……あの指示に従ってやる必要ももはやない。

 

 傍らで震えるポスタリィと、錠で縛られたエンタープリーズを一瞥する。相変わらずエンタープリーズから向けられているのは憎悪一色。友達が殺されそうなその瞬間まで呆然としてしかいなかったくせに、一丁前に復讐に燃えているのはお笑い草だ。

 彼女は鍵開けの魔法で施設のどこに置いても逃げられる。確かにそうだろうが、だからといって、わざわざレイン・ポゥを監視役にさせるというのもおかしな話だった。

 ポスタリィは……もはや人質としては下の下。通用する相手もいなければ、その価値もない。始末する必要もない。

 この先のレイン・ポゥは、行方不明のままとなっている妖精・トコを探し出し、新しい人生に戻るだけだ。人事部門から追われようが、やることは変わらない。人殺しの才能で、自由の中を生き延びるだけだ。そのはず、なのに。

 

 戦況はどうなっている。仮にマリア・ユーテラスが逃亡を試みていたとしても、この軍勢相手では暗殺どころではない。そもそも、レジスタンスを壊滅させたところで、その後で自分たちがどうなるのかも不透明だ。どこまでも追いかけてくるキューティーオルカは容易に想像できてしまう。あの女がこの乱戦を生き残れたらの話だが──。

 

「見つけた」

 

 ──遅かったか。振り向けばそこには、初めて見る魔法少女数名を引き連れたカラフルいんくの姿。彼女の両隣の魔法少女はこちらに銃口を向けており、それを認識したらしいポスタリィが短く悲鳴をあげる。

 

「やっと会えたな虹の女……キューティーオルカの首をマリア様への手土産にするつもりだったが……貴様もサッキューの仇。生きては帰さない」

「それはどうも」

 

 敵は多数、後ろにはポスタリィ。相手に対話の余地はない。レイン・ポゥが人殺しであることは知られている。ひとまず手を挙げ、周囲の状況を確認する。いつ仕掛けるか。いんくはエンタープリーズに目を向けている。

 

「エンプリ、迎えに来たぞ。トーチカは?」

「……知らない」

「そうか……だが、我々にはもうマリア様がついている。革命は近い! 私も心を入れ替えた、トットポップに託されたリーダー代理として務めを果たす」

「……そう」

「……エンタープリーズはサッキューのぶんまで。私は、イロハのぶんまで。魔法の国の不届き者を潰す」

 

 いくら武器で脅しているからといって、敵の前で身内とゆっくり話しているなんて。その間に、レイン・ポゥはいんくの引き連れている魔法少女たちを観察していた。銃使いはこの2人で、帯刀している者がいる。剣士がレイン・ポゥに間合いで勝てることはない、対処しやすい。よくわからない機械パーツやデコレーションされた懐中電灯を持つ者にはもう少し警戒の目を向けた。そう考える余裕があって、ようやくいんくからの言葉がこちらに向く。

 

「まずは貴様からだ……私も鬼ではない、革命家だ。いくら復讐相手だとしても。遺言は聞いてやる。何かあるか?」

「……」

 

 いくら部下を連れていても、こいつらのそういう所は変わらないらしい。囲んでくる気配すらない、そんな銃口2つで油断するなんて。これだけで勝ったつもりになるのは、詰めが甘すぎる。

 冷静に刃を放つ。レイン・ポゥの凶器は何も無い所から放たれる、故に暗殺向きだ。それは対面していても同じ。両手を挙げたままの格好から突如として繰り出された虹をまず1つ、2つ、いんくの左右に立っていた魔法少女の顔面とその手の銃身を貫き、切り裂いた。魔法少女は死体を残さず消え、唖然とするいんくが残る。

 

「……は?」

「遺言なんていらないって」

「きっ……さまぁ……!! お前たち! やれぇっ!!」

 

 魔法少女軍団が取り囲もうとしてくるのを確認し、真っ先にポスタリィを蹴っ飛ばして遠ざけ、向かってくる相手に虹を飛ばす。

 

「どっか行って!」

 

 よろめきながら走り去っていくのを見て、向かってくる軍団に視線を戻した。生み出した虹を蹴って急旋回し、ハイキックで倒しながら、次の刃でまた1人。集団を正面から相手にするのは暗殺役ばかりのレイン・ポゥにはなかなか無い経験だが、オルカが傍若無人に暴れていた様子を思い返し、派手に動く。

 いんくが指示を飛ばしてくるが、彼女なら読みやすい。わざと作った隙に好機と飛びつき、出された指示で突っ込んできた剣士を潰し、アイテム持ちはまずアイテムごと腕を切り飛ばして対処。光弾を放つ攻撃も虹を盾にして防ぎ、盾にしている間に距離を詰めて打撃で意識を刈った。

 

「なっ……何をしているっ、やれ、いいから早くっ、なんで私の部下がっ、オルカでもない、こんな奴に」

「舐めてるからでしょ」

 

 いんくは無我夢中になったのか、突撃命令と同時にめちゃくちゃに絵の具を撒き散らしてくる。この絵の具は確か精神に影響してくる。見るだけでも干渉はあり不快だが、直接付着すれば効果はより大きくなり厄介だ。

 とはいえ虹で受け止めてしまえば大した問題はなく、その雨に乗じて襲ってきた変な機械の魔法少女の顎を蹴りつけ、首を踏み折り対処とする。いつの間にかいんくの雨が止み、一瞬だけふぅ、と息をつき、 咄嗟にエンタープリーズを振り返った。

 ほんの少し風を切った気がした。気のせいじゃない。そこには大きな鍵を振り上げるエンタープリーズと、彼女の後ろ姿に笑っているいんくの姿。虹での防御を強制させ、その隙に解錠したのか。大鍵には虹を当てて狙いを狂わせ、さらに虹を放ち肩や腿を切り裂いて、それでも自暴自棄に向かってくるエンタープリーズに後退しながらの対応を強いられる。

 

「っ、お前はっ! お前、だけはっ!!」

「……そんなに復讐がしたいんだ。そんなにあの子が大事だった?」

「大事に決まってる……! 咲楽ちゃんは私の……今の私の全部だ。咲楽ちゃんは私のもの、咲楽ちゃんの生から死まで、全部私のもの。逆もそう……私は咲楽ちゃんのもの」

 

 意味のわからない言い分だ。復讐のことばかり考えておかしくでもなったのか。ただ、死を恐れずに突っ込んでくる相手というのは相手にしたくない。痛みでは止まらず、カタログスペックを無理やり超えた力を出してくる。致命の一撃を入れて満足しようものなら、その最後っ屁にやられかねない。

 

 せめて虹を叩き込む隙でもあれば。そう思ったその時、不意に、物陰から飛び出す影。その正体に目を疑った。ポスタリィだ。ポスタリィはわざわざ飛び込んでくると、レイン・ポゥに向かって必死で攻撃を繰り返すエンタープリーズの体に、ぽんと触れた。

 どこかへ行けと行ったのに、それだけのためにここに飛び込んできたのか。意味がわからず歯を食いしばって、その時、エンタープリーズに羽が生えた。可愛らしい小さな羽で──突如として、レイン・ポゥとは真逆、後方へとエンタープリーズの体を引きずっていく。

 

「なっ、な、なに!? 何これ──っ」

 

 そうだ、ポスタリィにも魔法があった。『持ち主の元に送り返す』魔法だ。まさかとは、思うが。己をサッキュー・ラッキューのものだと自称したエンタープリーズを、その亡骸の下へと送り届けようとしているのか。

 何にせよ、魔法は起動した。無理やり引きずられていく力に抵抗しきれず、慌てふためくエンタープリーズ。足が地面から離れるその瞬間、彼女が辿ろうとする直線軌道に虹を出現させた。縦に伸びた虹は彼女の腹部を抉り、その場に多量の黒ずんだ血を吐き出させると、彼女は速達によって送られていった。

 

「い、嫌っ、私は! 仇を! 仇がっ、ぁああああっ!!!」

 

 声が遠ざかっていく。亡骸のある広報部門の施設まで、一直線だろう。

 

 

 ◇エンタープリーズ

 

 空を舞いながら、楽しかった日々が頭の中にずっとぐるぐると回っていた。4人でダラダラと話して、いんくが夢物語を語り、イロハが興奮を宥め、サッキューがそれに乗っかって笑って、いつも収拾がつかなくなって。誰かから金品を奪うなんて悪いこともしちゃったりして、でもだからそれが楽しくて。私たちは、友達で、仲間で、共犯者だった。

 

 衝撃が体に叩きつけられる。コンクリートにぶちあたり、突き破ったらしい。既に破れた腹からより血飛沫と腹の中身が溢れ、命がなくなっていく感触がする。

 

 いつからおかしくなったんだろう。いや、思えば、いんくとイロハに魔法少女へ誘われたその時から、もう駄目だったんだろうか。咲楽ちゃんと2人で学校を辞めて、世の中を変えようだなんて言い出したから、レールを踏み外したツケが回ってきたのだろうか。

 

 ──また、衝撃が走る。それから断続的に何度も壁に叩きつけられて、もう痛みすら鈍くなって、気がついたら、どこかの部屋に行き着いていた。真っ白で、寒い部屋。床に敷かれたシートの上に着地したらしい。天井を呆然として眺め、あの施設に戻されたのだと理解して、諦めながら横を見た。

 

「……あ」

 

 咲楽ちゃん。

 待ってて、くれたんだ。

 

 胴が大きく切り裂かれながらも、笑顔で事切れた、大好きな人の亡骸。

 

「咲楽ちゃんの……隣で、終われるなら……」

 

 咲楽ちゃんの、特別に、私、なれるよね。

 

 自分から力が抜けていくのを感じながら、手を伸ばした。咲楽ちゃんの手を探して、見つけられないまま、時間が来てしまう。それでもなんとか身をよじり、彼女の死に顔に頬を寄せた。

 

 これで、全部、私のものだ。革命なんてなくたって、全部、私の、私の──。

 

 

 ◇レイン・ポゥ

 

「っ……この、この、このぉっ……!! お前ぇっ、う、動くなぁっ!! こいつがどうなっても……いいのかぁっ!!」

 

 エンタープリーズの姿が完全に見えなくなったかと思えば、残されたいんくはポスタリィに向かって飛びかかり、彼女を押さえつけていた。首元に突きつけているのはパレットナイフだ。本来なら切れ味はないが、魔法少女の膂力であれば喉に突き刺すのは難しくない。

 だからって、道連れにするつもりなら、もう突き刺してしまえばよかったのに。レイン・ポゥは荒い息の中、ひとつ、長いため息を吐いた。

 

「あのさ」

「黙れ! 喋るな! 人質だぞ、人質……!」

「……うるさいな」

「こ、来い! 誰か! マリア様! トットポップ! 誰でもいい! 私が、リーダー代理がピンチだ、助けてくれ! 魔法少女を寄越してくれ!」

「うるさいって」

「っ、あ、い、嫌、助けっ──」

 

 虹を放ち、まずはパレットナイフを握る手を切断してやった。それから、これ以上は声を出せないよう、喉ごと頭部を破壊する。助けを呼ばれないよう、徹底的に潰す。これまで消してきた量産魔法少女とは異なり、しっかりとした血液が噴出し、その場に残りが崩れ落ちた。解放されたポスタリィは顔を青くしながらも振りほどき、返り血を拭い立ち上がる。いんくはもう間違いなく絶命している。もう彼女に用はない。用があるのは、立っている相手。蹴っ飛ばして逃がしてやったのに、わざわざ助けに戻ってきたのだ。周りが見えなくなっていたとはいえ、あの状態の相手、矛先が向けば躊躇なく殺されていただろうに。

 

 ポスタリィは何か言われるかと俯いている。手を振り上げる、ことはない。むしろ、彼女の手を引いた。

 

「……行くよ、たっちゃん」

「え……どこに?」

「ここじゃない、どこか。私たちのこと誰も知らない……どこかに」

 

 ポスタリィは、されるがままについてくる。

 ──サッキュー・ラッキューが、わざわざエンタープリーズを庇った理由はわからない。エンタープリーズも恐らくは死んだ。その行為に意味もなくなった。わからない。達子のことも、誰のことも。

 

 確かなことは──もう、家の中の悪魔にも、人事部門の悪魔にも、外交部門の悪魔にも、広報部門の悪魔にも、誰にも縛られないこと。

 なくした妖精を探して、戦場から何処かへ。

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