魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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エピローグ
第85話『エピローグⅠ あれはきっとストライプヒーロー』


 ◇キューティーオルカ

 

 キューティーヒーラーは忙しい。キューティーヒーラーとは、ただシリーズもののアニメであるというだけではないからだ。正義、愛、夢、希望、未来、その他諸々の体現者であり、広報部門きってのエリート集団である。当然回されてくる仕事も多く、中でもストライプには表立って言えないようなことも回ってくる。そしてそれはいつ舞い込んでくるかわからない。

 任務から戻ってきて、早いものでもう1ヶ月。オルカはこの日、広報部門に呼び出された。

 散々に食らった攻撃で傷ついた体はまだ少し重く、本調子ではないなと自分でも思う。施設の廊下を、脚が痛くないように魔法で泳いで移動し、途中で困り顔の少女に出会った。

 

「おっと、新人ちゃんかな? その様子、迷子とか」

「わっ……え!? きゅ、キューティーオルカさん……ですか!?」

「いかにも。大海原をゆく白と黒のアバンチュールですけども」

 

 そういえば再来年のキューティーヒーラーの企画が動き出す時期だ。初めて広報部門に訪れる子を見て、自分たちにもこんな時期があったなあと思い返す。この子も大事な仲間を得て、これからキューティーヒーラーになっていくのだ。

 

「第12会議室に行きたくて……」

「おっけー、12ね。だったらこっちから行って──」

 

 魔法の国の建物はだいたい、やたら広くて迷子が続出するような形をしている。簡単に攻略されないようにか、あるいは利便性というものに魔法使いたちが興味を持たないのか。たぶん後者だ。道順を説明しようとして、複雑になりすぎ、オルカは早々に諦めた。

 

「いいや。ついてきて」

「えっ! でもオルカさんもご用事が」

「いーのいーの。オルカちゃん速いから」

 

 こういう時は直接案内した方が早い。オルカが先導し、廊下を進み階段を昇り、すれ違う同胞や顔見知りに挨拶しつつ、彼女の目的地まで連れていく。

 

「ほい、到着」

「……! 本当に、ありがとうございます!」

「いいってことよ。じゃ、アニメ本編頑張ってよ?」

 

 到着すると彼女は何度も頭を下げていた。先輩としてこのくらいのことは当然だ。笑顔で見送り、一仕事終えて満足のため息をついた。

 

「こういう時は優しいよね、ほんと」

「えーそんなー、オルカちゃんは常に優しいよ?」

「どのへんがよ」

 

 軽く答えながら振り返る。この声と気配、間違いない。何年一緒に居ると思っている。そこに立っているのは同じく白黒の仲間、キューティーゼブラだ。ストライプの名前に違わぬ縦縞は彼女のある種の特権であり、オニキスの系譜を彷彿とさせるやや気の強そうな顔立ちは主人公に相応しい。

 

「だってこないだも生意気な虹色のガキ殺さなかったし。お仕置きで済ませたよ。あれは褒めてほしいね〜」

「へぇ。それは珍しいけど」

「……あれ? そういやあの子たちどこ行ったんだろ?」

「はい?」

「……ま、いっか! 脅しに使お〜と思ってたけど、あの女そんなタマじゃないしね。てかさぁ聞いてよゼブラちゃんさぁ〜」

「ちょっと? それ多分よくないと思うんだけど?」

 

 来るなら来るでまた相手をしてやるだけだ。これがゼブラならしっかり芽まで摘み取る。つまりそういうところで、オルカは優しいというのが証明された。ひとりで頷き、何事もなかったかのように歩き(泳ぎ)出す。

 

「何も無いのに泳いでるの変ね」

「まあね。脚痛いんだよ」

「オルカがそう言うなんて、相当の任務だったみたいじゃない。どんだけ死にかけてもけろっとしてるくせに」

「オルカちゃんでも痛いもんは痛いの! 脱獄囚に襲われた時なんてさぁ、反射的に死刑にしちゃったんだよねぇ。あ、部屋どこだっけ?」

「応接室」

 

 今日は外部からのお客様が来る。お客様といっても、オルカにとっては面倒な女だ。さらに、この頃始末屋なのに部門長代理としての活動まで担わされているゼブラがいるということは、広報部門を背負う話になる。部門長もこういうところにくらい顔を出してほしいものなのだが。

 まだ来訪までは時間がある。応接間に連れ立って、オルカは堂々と良いソファに座る。重力に任せると体は痛むが、ソファがいいお陰で低減される。なんならちょっと浮けばいい。そしてゼブラをからかって遊び続けること数十分、扉がノックされ、開かれたその向こうには数名の魔法少女。見慣れた白黒と白黒と、あまり見慣れない白系の魔法少女。眼帯に車椅子と病弱スタイルだ。

 

 車椅子に座った魔法少女はお迎え役であった白黒2人──身長差約2倍コンビことキューティーパンダとキューティーペンギンに案内されてソファに移る。

 人事部門長、プフレ。現在の広報部門とストライプにとってのお客様で、共犯者みたいなものだ。相変わらずの何を考えているか計り知れない穏やかな余裕の表情である。彼女のことは、オルカとしては苦手である。

 

「本日は御足労をおかけしまして」

「元はと言えば呼び出したのは私の方だ。そうかしこまる性質じゃないだろう」

「……ではお言葉に甘えて。例の件、ですね」

 

 パンダとペンギンに再会し、ストライプが久しぶりに集結したので、全員集合の名乗りをやりたいしストライプ流のボケをことあるごとに挟みたいところだが、耐えた。プフレは嫌味でさえも受け流す方だが、ゼブラに普通に怒られるからだ。

 

「オルカ、報告を」

「……あえ? あっ、あー、あれね。例のってレジスタンスね」

「他にないでしょ」

「それもそっか。レジスタンスね。壊滅したよ……うん、以上」

 

 適当な報告だが、事実なのでこう言うしかない。そういえば、どういう中身の任務だったっけ? 途中から暴れ散らかすのが楽しすぎて、最終目的がなんだったかを失念していた気がしてならない。思わず、目を逸らして頭を搔いた。

 

「申し訳ありません、うちのオルカがこんな感じで」

「構わないとも。レジスタンスの壊滅はしっかりこなしてくれているじゃないか」

 

 マッド=ルナ及びマリア・ユーテラス、双方ともにスノーホワイトから死んだと聞いている。どちらも死体がまともに残っていない点では不安は残るものの、マリアが倒された時点で、抵抗していた残りの構成員も降伏し、活動していたレジスタンスがいなくなったのは確かだ。レジスタンスとしては、あくまでもマリア派の残党が勝手にやったことだということにするだろうし、事実そうだろう。が、上層部は動きにくくなったことに間違いないはずだ。

 ついでに脱獄事件により、凶悪犯を汚れ仕事に使っていたという連中も摘発された。魔法少女刑務所も人事部門とは敵対していたわけで、一応の勢力が2つ、倒れたことになる。

 

「まだ除かなくてはならない壁はあるからね。例えば──魔王」

 

 魔王、その名は部門勤めの魔法少女なら知らぬ者はいないであろう存在。ストライプすら凌ぐ暴力として轟く通り名だ。いくら広報と人事、部門単位で組んだとして、武力を振りかざす外交部門なんてものとやり合うつもりか。蹴落とせるのなら落としたい、できないから現状に甘えているというのに。

 

「あはは、例え話だとしてもそれってさ……正気?」

「正気だとも」

 

 その目は本気だ。詐欺師の夢物語とは性質が違う。

 

「……して。貴方はそうまでして力を握って、何をなさるおつもりで?」

「そうだね。目的か。君たちのように夢と希望のため……じゃあ、駄目かな?」

「駄目ですが……」

 

 ゼブラは即答するが、オルカは思わず笑っていた。誰の夢か誰の希望か、それは全員にとって正義ではないだろう。だが、白か黒かだけなんてつまらない。白黒しているのが良い。それがストライプだ。

 

「いいじゃん、いいよ、いいよね? 夢と希望だってんだからさ」

「ちょっと、オルカ」

「いいや。部門長サマはやるよ。そういう目だろ。ここは乗せられてやんなきゃ」

 

 また始まったという顔のゼブラ。パンダは相変わらず無表情。ペンギンはこういう時は上の空で、前髪を気にしている。オルカの興が乗った時はなんだかんだ賛になる。そういう時はだいたい、濃い血の匂いがするからだ。

 

「わかっていただけたようで何よりだ。また何かあればよろしく頼むよ」

「……はい。ではまた」

「あぁ。もうすぐクリスマスだ。パーティー会場で、かな」

 

 プフレが去った後で、彼女の付き添いにパンダとペンギンも離れ、部屋にはゼブラと2人きりだ。彼女が深いため息を吐くのを聞き、始まるぞ、と思っているとしっかり掴みかかってきてくれた。

 

「ねえオルカ! あんたまた勝手に!」

「まあまあ。デイジーの弔い合戦、思いっきり天下取りに行くんでしょ。あんだけ引っ掻き回してくれる奴そうそういないよ」

「……まったく。血の気まみれね」

 

 彼女もそうは言っているが、腹の底では望んでいるに違いない。シマウマの臆病さと攻撃性を併せ持つ、そんな白黒したところにオルカは惚れ込んだ。

 あの人事部門長も同じだ。煩わしいレジスタンス(面皰)を潰した後は、目の上の魔王()ときた。いずれ、魔法の国の心臓すぐ近くの三賢人(腫瘍)にまで迫るのではないか。思いだけで火照り、何気なくパーカーのジッパーを開け、マスクを下げて己の唇を舐めた。

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