魔法少女育成計画DonutHole   作:皇緋那

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第8話『行方不明事件』

 ◇たま

 

 サイバーエリアの探索に乗り出し、プフレチームはこのエリアに出現する、どこかで見たことのあるロボット型モンスター『地獄の道化』たちの洗礼を受け、あれが群れで出てくることへの脅威を認識した。たまの活躍は1体を運良く倒せたのみで、あとはほぼマスクド・ワンダーがなんとかしてくれたに等しい。上空からミサイルを撃ってくる敵に対して、こちらから攻撃する手段が少ない。

 対してマジカルキャンディは、1体をようやく倒したたまの獲得分だけでも、ねむりんソルジャー5体ぶんはある。ハイリスクハイリターンだと評するマスクド・ワンダーに、バランス調整極端すぎですって、とシャドウゲールがこぼしていた。

 さらにキャンディは先のお姫様エリアのクリア報酬がある。よってまずは銃撃対策をとってから進もうと、人数分の盾の購入が検討され、その他アイテムとの配分や調整をプフレ主導で話し合い、やがてファルからのイベントの召集が発生した。

 ログアウト時と同じシステム音声が通知され、一定時間後に視界が一瞬で歪む。まだ再ログインから1日も経っていないのだが、突然荒野エリアの街に転送された。集められた魔法少女の中には、たまを殺そうとしたあの薔薇の魔法少女がいた。彼女の存在に警戒をするが、あちらはたまの方を一瞥することもなく、代わりに見ていることに気づいたラズリーヌに手を振られ、振り返した。

 そうして、皆の前に現れたファルから告げられたのは。

 

「えー、まずは訂正がありますぽん。ゲーム内ダメージのフィードバックに関して、例外がひとつ」

「例外?」

「ゲーム内で死亡した場合、現実世界でも死亡しますぽん。これは死を仮装体験してしまうことによる弊害で、心臓に強い負荷がかかる結果になりますぽん。ある種仕方ないことですぽん」

 

 空気が凍りついた。ゲーム内での死が現実の死……と、言うことは。これまでも、1歩踏み間違れば、本当に死んでいたということになる。

 

「ふざけないで」

 

 まず真っ先に啖呵を切ったのはカプ・チーノだった。ファルに掴みかかる勢いで前に出ていき、ホログラムゆえにすり抜けてしまうが、それでもほぼ眼前で怒りを露わにする。

 

「お気持ちはわかりますぽん。でもクリアしていただければ問題ナシ、無傷で帰れますぽん。あ、こちらはトップシークレットなゲームですので、公表はお控えくださいぽん。その場合は、ゲーム内での死亡という形で罰則を与えさせていただきますぽん」

「つまり現実でも死ぬじゃないっすか」

「……正しい魔法少女であればゲームをクリアできますぽん。これは試験と同じですぽん。ゲームのクリアを目指してくださいぽん」

 

 試験──。ファルの言葉に混じっていたその単語で、たまは最悪の連想をした。あのクラムベリーを彷彿とさせる魔法少女──今はディティック・ベルの隣で黙って話を聞いているが、彼女の存在も合わせれば、それが再演であることは想像がついた。

 魔法少女たちの中からは怒号が飛び出す。こんなことを受け入れろなどという方がおかしい。そして何より、後に退けなくしてから明かすやり口は、あの時と一緒だ。クラムベリーの試験でねむりんが脱落し、チャットルームで静かに、それが死を意味することを告げられた時。既にプレイヤーは全員、このゲームに引きずり込んだマスターの手のひらの上にある。

 

「そ、そんな事っ……」

 

 誰かが泣き崩れるように呟いた。コック帽の魔法少女だった。たまはふいに視線をやる。コック帽、人形、巫女服のパーティだ。……3人? 3人パーティはここではなく、もう1つのところだったはず。それに気がついた時、助け舟を出してくれるようにプフレが呟いた。

 

「あの半人半獣の魔法少女、クランテイルが見当たらないね」

 

 そうだ。下半身が四足の動物だという、目立つ姿のあの魔法少女。また薔薇の魔法少女のように、姿を消す手段だろうか。それとも。

 

「いくつか質問いいでしょうか。この召集の形式で、呼ばれないことはあるのですか?」

「生存しているプレイヤーに関しては、ありませんぽん」

 

 人形の魔法少女からの質問に、ファルは即答する。暗に、クランテイルは脱落した、つまり死亡したと言うが如くだった。

 

「ありえまセン、それは流石に嘘デス」

 

 3人とも信じられないという様子であり、それを傍から眺めるたまからしても、戦慄せざるを得ない。もう死人が出ているとしたら……。そこへプフレが続く。

 

「クランテイルは前回のねむりんスロットの時には確かにいたわけだ。再ログインしていないということは?」

「それもありえませんぽん」

「再度ログインをして、その直後に行方がわからなくなったと」

「……彼女がこれまでのモンスターにやられるとは思えませんわ。彼女を襲撃できるとしたら」

 

 人形の魔法少女の言葉に、プフレはちらりとこちらに目配せをする。不安が漂い、それは的中した。

 

「この話は今のうちに解決しておくべきだ。皆に共有しておこう。再ログイン時、うちのパーティのたまとマスクド・ワンダーが襲撃を受けていてね。ディティック・ベルのチームの彼女……メルヴィルがその犯人だというんだが」

「なっ……」

 

 急に名を出され、ディティック・ベルは声をあげた。

 

「なに言ってるっすか!? なわけねーっすよ! メルっちがそんなことするわけねーっすよ!」

 

 ラズリーヌの反論を、他ならぬ薔薇の魔法少女メルヴィル自身がその手で遮った。

 

「んだばなんだって?」

「……メルっち? たまちゃんと同志ワンダーを攻撃したって、マジなんすか」

 

 ラズリーヌには答えない。あくまで、見ているのはプフレと、その後ろにいたたまの方だ。冷たい目線に、背筋が凍る。

 

「いや。現に彼女らは無事だ。エリアクリア報酬が該当パーティや達成者にしか与えられないんだ、プレイヤーキルも以前は戦略の1つだったろう。だが、ゲーム内での死が現実での死とリンクした。それを知らずに行ったのであれば事故だが、これ以降は違う。殺人になる。そうだろう」

 

 この先のプレイヤーキル行為を牽制する目的か。メルヴィルは黙ってプフレの言葉を聞き、そのまま静かに見つめ返している。この時間が妙に不気味だった。特にカプ・チーノなんかは身構えており、いつこのパーティメンバーが銛を抜き放つか、警戒しているようにしか見えない。

 

「単刀直入に尋ねよう。クランテイルの件に君は関与しているかな」

「知らね」

 

 迷いのない答えだった。ただ、このプフレの暴露と、それを認めたことにより、この先メルヴィルは警戒対象となる。動きにくくなることは間違いなく、そう仕向けることがわざわざ全員の前での発言だったんだろう。そしていち早くメルヴィルは街に背を向け、ラズリーヌの制止も聞かず、自らパーティを外れたらしかった。ディティック・ベルは帽子を目深に被り、何も言わない。カプ・チーノも見送るばかりで、むしろラズリーヌの方を宥めていた。

 

「警戒は続けてくれ。彼女には身を隠す魔法かなにかがあるんだろう。去ったふりをして、この場で私や君を攻撃する可能性は残る」

 

 プフレの言葉に、たまは頷こうにも頷けなかった。死が現実に及ぶと知ってなお、プレイヤーキルに走ってくるとは考えたくなかったからだ。薔薇の匂いが遠ざかっていることは確実だが、急な展開に、主に残った1つのパーティが混乱していた。

 

「えーっと、つまり? あのメルヴィルって魔法少女はPKに走って、やめてくれって言ったらどっか行っちゃった……ってことでFA?」

 

 特撮風のスーツに身を包んだ魔法少女は首を傾げつつも状況を噛み砕こうと声を出した。わざわざ肯定する者もいなければ、否定する者もいない。

 

「……あ、あの」

 

 そしてその隣にいた大きな菊を頭に着けた魔法少女が、言いにくそうに声を出す。

 

「私、ゲーム始まった時、あの子に襲われたことがあって」

 

 彼女が指したのは侍の魔法少女だ。彼女はただ虚空を見つめており、己に注目が向いたことに気がついてすらいない。そんな彼女へわざわざ話しかけに行くような人物はおらず、互いの顔を見合った後、仕方なさそうに特撮風の魔法少女が前に出る。

 

「ちょ、ジェノサイ子さん……」

「まーまー大丈夫だって。やあやあお嬢さん、うちのマジカルデイジーにちょっかいかけたってぇのはマジの話?」

 

 答えない。もしもーし、なんて呼び掛けが何度か行われ、それでようやく、その濁りきった瞳がジェノサイ子に向けられた。

 

「……音楽家か?」

「へ?」

「音楽家か?」

「音楽家って、いやまあ、実は──お?」

 

 その口から出た問いと、刹那に感じる鋭い気配。魔法少女が口にする音楽家といえば、ひとりしかいない。この魔法少女は、あの女を知っている。たまはその時点で、思わず飛び出した。咄嗟にジェノサイ子を突き飛ばして、肯定しようとしていた言葉を途切れさせた。そして、彼女が刀に手をかけたまま止まったのを見て、そこからの言葉を落ち着いて聞く。

 

「音楽家か?」

「音楽家はもういないよ」

 

 その眼に、わずかに生気が宿った気がした。

 

「なぜ分かる」

「私が、やっつけたから」

「殺したのか」

 

 頷いた。虚ろな眼は怖くて仕方なかったが、目を逸らさないように、心の中で己の頬を張り、耐えた。再び沈黙が走る。視界の端ではマジカルデイジーが状況を様子見しつつ、ジェノサイ子に駆け寄り、助け起こしているようだった。

 

「終わったのか。ではこれはなんだ。奴では無いのか」

「……わかんない。でも、音楽家じゃない。音楽家はここにはいない」

「そう、か」

 

 侍は刀から手を離し、あっさりと背を向けた。急に敵意が消えてなくなり、ふらり、ふらりと歩き去った。彼女は一体、なんだったのだろう。

 

「音楽家って、なんだったアルか?」

「わっかんねー……けどなんか助かったっぽい? 犬耳ちゃん、マジ感謝ってことで!」

「……ううん。それよりもあの人……」

 

 その背中は遠ざかっていく。ずっとパーティも組まずに放浪しているようだが、平気なのだろうか。

 

「お待ちくださいませ。では、クランテイルの行方不明はなんなんですの?」

「彼女の反応はどこへ行っている? 魔法の端末の場所なら表示されるんじゃないのか」

「それがどこにも……」

 

 話は振り出しに戻り、答えは出ない。

 

「ベルっち、何かわかんないっすかね。隠れてなきゃいけないってことなんすかね」

 

 ラズリーヌの言葉に探偵は目を逸らす。彼女にも見当がつかないのだろう。現実とリンクした死。死体も端末も消えている異常事態に、プレイヤーキラーの存在。協力ゲームだったはずが、既に立ち込めるのは暗雲ばかりで、既に前を向こうとする魔法少女は少なくなりつつあった。

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