老デウスの旅路~老デウスと龍神が人神を倒すまで~ 作:考える僕
《ヒトガミ》
こいつと最後に会ったのは…
そうだロキシーが魔石病になる少し前だ。
俺が大変な時にお告げをくれないで、今更何しに来たんだ?
「何しにってそうだねぇ、僕は今気分が良いんだよ、とってもね」
「だからそろそろ君に本当の事を話してあげるよ」
本当の事?どういう事だ?
「君が大切な者を失ったのは君のせいさ」
「別に君が意図してやったわけじゃないよ、僕がそうするように仕向けたのさ」
「いやぁ、本当に君大変だったんだからね、中々僕のこと信じてくれなくてさ、でも結果的に僕の思い通りさ」
おい、ちょっと待てよ、仕向けたってどういうことだ?
まさか今までのお告げが全部それだったのか?
「まさかぁ、お告げは君に都合のいいことを教えて、警戒心の強い君に僕を信じてもらうためにやっだけさ」
「君と前回会った時、僕は君に地下室を確認して欲しいと言ったね、それだよ、あの時が地下室に行ったせいでロキシーは死んだんだよ。あの日地下室にはね魔石病に罹ったネズミがいたんだ、君が地下室に入ったのに驚いて外に出たけどね」
「君は覚えていないかもしれないけど、あの日は前日の夕食の残りがあったはずだよ、ネズミはそれを漁ったのさ、朝小腹がすいてロキシーがそれを食べたんだ、それで感染したってわけさ」
確かにあの日は前日の残りがあったが、それは俺も含め朝食で皆食べたはずだ、それなのにロキシーだけが感染するはずはないだろ?
「あれぇ?君知らなかったのかい?じゃあ教えてあげるよ」
「魔石病はね、妊婦しか感染しないんだよ」
妊婦しか感染しない…じゃあロキシーは俺の子を…
「ピーンポーン大正解!あの時ロキシーは君の子供を宿してたよ」
「僕はね前々からロキシーを殺したかったんだ、正確にはロキシーが産むはずだった君の子供をだけどね」
「君は運命力って知ってるかい?人の人生のだいたいは生まれた時から決まってるんだよ、それで運命力っていうのは強い弱いがあって、運命力の弱い人間は強い人間と関わることで元々決まっていたものが捻じ曲げられる、ロキシーもあれでいてかなり運命力が強かったから結構大変だったよ、運命力がとんでもなく強い君を使ってやっとってところさ」
「あ、言っておくけどシルフィエットは本当に君のせいだからね、そこのところ勘違いして僕を恨まないでくれよ」
「まあいいや、これで用は済んだし君はもう用済みさ」
「今まで お つ か れ さ ん」
おい、まてよ…なあ…おい!
俺が呼び止めようとするのと反対に、
人神の姿はヒラヒラと手をふってぼやけていった…
―――
視界が真っ黒な闇に変わって目覚めたかと思ったが、どうやら違うようだ。
「貴様が奴を殺す者か…龍族ではないのだな…」
後ろから声がして振り返るとそこには見覚えのある奴がいた。
銀色の髪、彫りの深い顔、金色の眼、そしてひどい三白眼
「オ…オルステッド!!!」
一度殺されかけた奴を前に俺の本能は逃げ出そうとしたが、どうも逃げられない。
俺が酷く怯え慌てふためいると、奴は不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「何をそんなに怯えているのだ…?まぁいい、何があったかは知らんが、俺はオルステッドではない」
「ふぇ?」
間抜けな声をだして、俺は正気に戻った。
よく見てみると顔はよく似ているが肌が銀色の鱗で覆われているのだ、それに翼が生えている。
オルステッドは鱗も翼もなかった。
「我は龍神、そしてオルステッドは我が息子だ」
龍神?オルステッドの父親?ダメだ理解が追いつかない。
そしてここはどこなんだ?夢を見ているにしては体の感覚がハッキリしている。
「貴様名はなんという?」
「ル、ルーデウス・グレイラットと申します」
一応貴族式の例をする、初対面の相手に無礼は良くない。
「人族の名だな…」
「貴様、『ヒトガミ』という単語に聞き覚えはあるか?」
これはどこかで聞いたことのある台詞だ、考え無しに、あります!なんて答えたらどうなるか…
知らないフリをしよう。
「えっと…その『ヒトガミ』というのはどんなモノなんですか?」
「『ヒトガミ』というのは名だ、そして貴様が人神《ジンジン》と呼ぶ存在だ」
「我はそいつを殺す者を待っていた、それが貴様だ。我はラプラスかオルステッドが来ると思っていたが…人族…しかも『ヒトガミ』を知らぬ者が来るとはな、驚くばかりだ。だが我ら龍族の術に選ばれたのは貴様だ、確実に奴を殺す為に龍神の秘術を貴様にかける…」
「ちょっと待ってください!」
「分からないことが多すぎます、もう少し説明してくれませんか?」
いきなり呼び出されて、『ヒトガミ』を殺すのは貴様だと言われても全く分からない。それに龍神の秘術…秘術ってなんだ?相手が龍神だろうが、説明を求む!
「それもそうだな…貴様が納得するまで質問に答えよう、何が聞きたい?」
「まず、なぜ龍神様は「ヒトガミ」を殺したいのですか…?」
その瞬間、龍神がとてつもない気を放った、凄まじい殺気だ、もしかして龍の逆鱗かなにかに触れる発言だったのか?だとしたらまずい…どうする…
「奴は!我々龍族を騙し、利用し、そして忠義を嘲笑った!!!!!!!」
龍神が怒鳴って一瞬焦ったが、龍神はそれだけ言って気を沈めると、ゆっくりと口を開いて話し始めた。
「少し昔の話をする、長くなるが聴け」
―――
「太古の昔世界は七つあった」
「天地の逆転した龍の世界
毒と瘴気の渦巻く魔の世界
鬱蒼した森と山の世界
岩塊が空に浮かぶ空の世界
生命の豊富な海の世界
豊かな平原の続く人の世界
それらを繋ぐ中間の無の世界」
「今我々が居るのは龍の世界だ、もっとも空間を保っているだけだがな」
龍神はそう言うと少し悲しげにハハっと懐かしそうに笑った。
「それぞれの世界には神の名を冠するものがいた、我もその一人だった。それぞれの世界にそれぞれの種族が適応して暮らしていて、互いに害することなく共存していた」
「だが、ある日から神隠しが起き魔物が現れるようになった、その頃から誰がやったやらないで、各世界が険悪になって行ったのだ。」
「このままでは戦争になってしまうと思っていた時、ラプラスが世界を飛び回り、各世界の仲を取り持ってくれたのだ。」
「ラプラスのおかげで各世界で特使を送り合い、学び合うことになった、あの時が一番平和だっと思っている、だが事件が起きた。」
「我妻が我が子を産んで少しした頃だったか、あの日はいつも通りの一日だと思っていた、だが我が妻は殺されてしまっていた」
「我が妻の名はルナリア、人神の娘で半神だった彼女との結婚は実験的な政略的な物が少なからずあったが、我の大切な妻だった」
「容疑者として挙がったのは全員、他の世界から招いた特使だった、人界以外の特使全員だ。あの時は我も怒りのあまりに急ぎすぎたと思っている、だが妻というのはいつからかそれだけ大切なものになっていたのだ」
今の俺にはその怒りが分かる、俺もシルフィが死んだあと、己の感情に任せて王都の関係の無い人間を殺してしまった。あとから考えれば個人的な怒りであそこまでしてしまったのは少々やりすぎたと思っている。
だが、仕方ないじゃないかと、そうも思う。
「五龍将と容疑者について会議をしていた時、人神が来て、僕にも手伝わせてくれと言ってきた、娘を殺されたのだから当然だろうと言うことだ。」
「まず、我は五龍将を連れて森と山の世界、獣界に向かった。そこには獣神が軍勢を引き連れて待ち構えていた、我は容疑者の引渡しを頼んだが知らぬ存ぜぬで獣神は通した。そのまま獣神と決闘が始まり、五龍将と共に戦った、こちらが圧倒的に少なかったが、世界最強の種族であった龍族、我々が勝った、その後は怒りに任せて徹底的に破壊をして回った、さすがに容疑者も生きてはいないだろうと思うまで、破壊し尽くした時、獣界の自壊が始まった。後処理をラプラスに任せ龍界へと戻った」
「獣界のあとも容疑者を探し出すため、海界、天界と回った、起きたことやったことは獣界でやった事と同じことだ、だが連勝したにしても、我も五龍将も度重なる戦いでボロボロになっていた」
「最後に残った魔界、魔族は龍族に次ぐ力を持つ種族だった、ボロボロの我々と無傷の魔族、戦いは長く続いたが、その過程で戦闘の技術が飛躍的に向上した。」
「最後の最後には魔神に我がトドメをさし、それで終わった。」
「全ての復讐を終えたと思っていたが、人神が滅んだ世界の種族を人界に退避させ住まわせており、平地だけだった人界がいつの間にか滅んだ世界の特徴を持つ地形やらが現れたそうだ。それを聞いた時、我は一つ事実に気づいた」
「七つあった世界は龍界、人界、それを繋ぐ無の世界だけになっていた。そして神も我と人神二人だけになっていた。要するにどちらかが死ねば、もう一方が世界でたった一人の神に成れるということだ。そして、人神は滅んだ世界と人界を融合させ、既に五つの世界を我がものにした」
「中間の通り道となっている無の世界を除いて残るは我の龍界」
「人神の真の目的に気づいた我は人界も滅ぼさなくてはならない、そう思った」
「五龍将に最後に人界に行くと言った、今まで我が命令に一度も異を唱えずに従ってきたものたちだ。だがこの時ばかりは誰一人として従わなかった。四つも世界を滅ぼして、逃げ惑う住人を見て、彼らも思うところがあったのだろう、我ももう少ししっかりと説明しておくべきだったと反省している。」
「だが、我の中で人神の企みは真実に違いないと確信していた。だから、着いてこないなら我一人でも行くと、彼らに告げた、すると五龍将は戦ってでも止めるから時間をくれと言ってきた。」
「別に五龍将を無視して行っても良かったが、時間を置けば気づくだろうと思ったのだ、人神の目的に」
「五人の内、ラプラスが我の元に残った、どうやら五龍将の中で決めたらしい、この時五龍将が本気であると、そうも思った。」
「それからラプラスが指揮をとって住民の避難を行った、五龍将と我が戦うと知ると、共に戦うと言ってくるものが多くいたが、必要ないと断った、本気の五龍将との戦いにただの龍士が混じっても意味が無いと思ったからだ」
「それから少しして準備が整ったと五龍将から連絡が来た」
「最後にラプラスに我が子、オルステッドの護衛を命じて、五龍将、正確には四人の龍将との戦いが始まった。」
「戦いは六日続いた、精霊や龍門、身体強化にカオスの武器、どれも入念に準備されたものだったが、我が勝った、倒れる龍将達を前に人神の目的について語ろうと思った時、後ろから俺を貫いた者が居た」
「『ヒトガミ』だ我はその時気づいた、こいつは人神ではないと」
「その時の奴はひどく愉快そうに笑って、我らを侮辱していた」
「どうやら五龍将の筆頭シラードが『ヒトガミ』に言葉巧みに騙されていたらしい、我への忠義を弄んで」
「それを知ったシラードはすぐに自死した、彼は龍族の中で最も忠義の厚い男だった、それが仇となってしまった」
「最後に『ヒトガミ』は龍界に閃光を放つと去っていった、その閃光によって龍界の自壊が始まった、龍界の自壊は今まで見てきた他の世界の崩壊よりも、とても早いスピードだった」
「五龍将の二人、カオスとマクスウェルに命を使って龍界の崩壊を遅らせることを命じラプラスと共に古老達の居る研究所へと向かった。そこで我が息子に色々な秘術をかけ、未来へと飛ばした、『ヒトガミ』を殺すために」
「そして残る力を使って人界へと乗り込み、『ヒトガミ』と戦い、奴を無の世界へと閉じ込めた」
「だが、それと同時に我も空間だけ残った龍界に閉じ込められる形になってしまった」
「そして今に至るわけだ」
―――
龍神は話終えるとフゥと息をついた。
「理由は今話した通りだ、他にあるか?」
龍神の身の上話のようなものだったが、自然と納得できるものがあった。これの他に理由の説明は要らない。あとは秘術について聞いておこう。
「俺も『ヒトガミ』に騙され、妻を失い、子も一人失いました。先程は知らないと言ってしまいましたが、俺も奴を殺したいと思っています。ですので秘術について教えてください」
そういうと龍神は少し驚いたような表情をしたが、すぐに何かを決意したような表情になった。
「よかろう、まず貴様をここに呼び出した秘術についてだが、俺もあまりよく分かっておらん、だから、この説明はできん」
「であるから、これから貴様にかける秘術について説明しよう」
「龍神の秘術をかけるには対象に龍族の血が流れている必要がある、だが貴様にはない、そこで我が命を使って貴様に多少ではあるが、龍族の血を流して、龍族となってもらう。安心しろ、多少変化はあると思うが、見た目は人族のままのはずだ、だが寿命がかなり伸びる、人族ならば親しいものが先に逝ってしまうだろから、そこは覚悟しておけ」
「命を使ってって、それじゃあ龍神様はどうなるのですか…?」
「無論、死ぬだろうな。だがもとより死にかけのこの体、最後に『ヒトガミ』に一矢報いて死ねるなら本望だ、貴様が気にする事はない」
「では、秘術の転生術について説明する。転生術と言っても、目的を達成するまで、何度も生まれ変わり続けるという術だ、力等は引き継げないが、記憶を引き継ぐことができる、オルステッドにも同じ術をかけてある」
「オルステッドの転生の開始時期は赤子の頃だが、貴様の開始時期は奴を倒すのに必要な者が生きている時、つまり赤子ではなく、一程度成長した時期に記憶を引き継ぐ」
「期限だがオルステッドと同じ時期に期限が来る、その期限までに『ヒトガミ』を倒せないか、貴様かオルステッドが死ぬことで開始時期に戻る、そういう仕組みだ」
「オルステッドには転生術以外にも色々と秘術をかけたが、そのせいで色々と面倒な代償を被っている、だから貴様にかけるのは転生術のみだ、何かしら代償はあるだろうが、そんなに大きなものにはならないだろう。だが、『ヒトガミ』から貴様を隠すことができない、それで色々と妨害されるだろう、そこに気をつけてくれ」
「術をかけたことで転生の開始時期に目覚めるだろう」
「龍族の術に間違いがなければ、貴様は奴を倒せる力を持っている」
「あとは貴様の努力次第だ」
「あとは頼んだ…」
そういうと龍神は託したぞと言わんばかりの表情を俺に向けた、微笑んでいる。
視界がボヤボヤとぶれて、俺は戻った。
―――
目覚めると俺はベットに寝転んでいた、窓から朝日が差し込んでいる。
隣に人の気配を感じた、俺は一人で寝ているからありえない、もしかしてアイシャが潜り込んだのか?そう思い隣を見る。
「っ…ロキシー…」
一瞬驚きのあまり息が詰まった
夢でも見ているのだろうか?
隣に青色の髪を持つ神がいた。