2023年 3月6日
第56層 バニの村
その洞窟で、ボスの攻略会議が行われていた。
オレとミコト、キリトは勿論、クライン率いるギルド《風林火山》や、《聖龍連合》、その他攻略組の面々が連ねていた。
その中央、この会議の取りまとめを行っているのは、《血盟騎士団》副団長、《閃光》のアスナである。
アスナは険しい面持ちで、テーブルに置いたマップをバンと叩いた。
「フィールドボスを、村の中に誘い込みます」
その言葉に、オレ含めざわめきが走る。
アスナの作戦に、ミコトが異議を唱えた。
「待ってよアスナ!そんな事したら、村の人達が……」
「それが狙いです。ボスがNPCを殺している間にボスを攻撃、殲滅します」
「この世界のNPCは、岩や木みたいなオブジェクトとは違う。彼らは……」
「生きている、と?」
ミコトに続いて反論するキリトに、アスナは鋭い視線を向ける。
「あれらは唯のオブジェクトです。たとえ殺されようとも、またリポップするのだから。作戦に組み込もうと、何も問題は無いはずです」
「……わたしはその作戦には賛成できない」
「俺もだ。アンタの考えには従えない」
「今回の作戦は、私、血盟騎士団のアスナが指揮を取る事になっています。私の作戦には従ってもらいます」
断固として意見を変える気はない、というミコト、キリト、アスナの様子に、オレはため息をつく。
(何で、こんな関係になっちゃったのかね……)
見かねたオレは、沈黙を破り3人に提案した。
「3人とも、意見が食い違うなら、別の方法で決めないか?」
「……一応聞きます。あなたはどちらに賛成ですか?」
「オレか?……正直、ミコト達側だな。生きてる云々は置いといて、単純に気分が悪い」
「………」
怖い、怖いよアスナさん。そんな睨まないでおくれよ。
一層険しくなったアスナの視線から逃れるように、オレは言葉を続けた。
「とにかく、その別の方法だ。デュエルして勝った方の言う事を聞く。恨みっこなしだ」
「……分かりました」
「問題ない。俺が出る」
「待ってキリト。……今回はわたしにやらせて」
そう言ってミコトが前に出る。
2人は洞窟内の開けた場所に行き、剣を構える。
ルールは《初撃決着モード》。鋭い目付きで互いを見ている。
この2人、普段は割と仲良しで攻略以外でも顔を合わせる程だったはずなんだけど、いつからこんなになったのか。
最近じゃ、会う機会も減って疎遠になってる。アスナの方が忙しくなって、今や喧嘩してるみたいになってるのだ。
カウントが0となり、2人が距離を詰める。
その結果は───
「よう、また揉めたな」
「あ、エギルさん。こんにちは」
「おう、ミコトもお疲れさん。ま、一瞬だったけどな」
「……まあね」
会議が終わり、エギルに声を掛けられた。
結局、結果はミコトの圧勝。アスナの突きを全て躱した上で、カウンターを叩き込み終了。
作戦は考え直されることとなり、今日の会議はお開きとなったわけだ。
「にしても、キリトとミコトは、どうして毎度副団長さんと意見がかち合うんだろうな」
「きっと気が合わないんだろうな、俺は」
「ボス戦の度に『勝手なことするな』って怒られるのも、もう定番になってきたしな」
「それはナギもだろう?」
「キリトとミコトの回数には負けるよ」
からかうエギルをよそに、オレは浮かない顔をしてるミコトへ向いた。
「どうしたミコト?」
「……最近のアスナ、大丈夫かな?なんか、色々溜め込んでる気がしてさ。デュエルの時も思った。前までのアスナなら、あそこで突進なんてしてこなかった」
「それは確かにな……。なんか、焦ってるみたいなんだよな、あの人」
キリトの言葉にミコトが頷く。
確かにアスナは何か余裕がない。予兆自体はもっと前から出てたけど、最近はより顕著だ。
今や閃光とは別に、《攻略の鬼》なんて呼ばれる始末だ。
友達の心配をするミコトをどう慰めるか考えながら、オレ達は帰路についた。
◇◇◇
第59層 主街区ダナク
この世界の季節や気候の話をしよう。
迷宮区以外のフィールドは、その階層ごとのギミックや仕様にも寄るが、基本気候はランダムだ。
晴れ、曇り、雨、雷雨……バリエーションは大体リアルの日本と変わらない。
季節も、日本と同じような周期で訪れる。勿論、季節毎になりやすい天気とかも反映されている。
そして今日、4月11日。春もど真ん中、それも運良く雲ひとつない快晴ときた。
何を言いたいか、分かるだろう。
「……あ"──……瞼が落ちるー」
「お前まで寝るなよ?見張りがついてないと睡眠PKとかの危険があるからな」
「キリトがいるじゃんー……」
「俺も寝たい」
「ふざけんな、お前だけ寝させるかよ」
絶好の昼寝日和なのである。
キリトが言うには『今日はアインクラッドで最高の季節の、さらに気象設定』らしい。
てことで、オレ達のパーティは今日はお休み。のどかな木陰でお昼寝してるというわけだ。
キリトが寝っ転がってる木の方に、新たな影ができた。
いつも通り険しい目付きで、キリトを見下ろすアスナだ。
「何してんの?」
「何だ、アンタか……」
「攻略組の皆が必死に迷宮に潜ってるのに、何でアンタは、のんびり昼寝なんてしてるのよ」
「今日は、アインクラッドで最高の季節で最高の気象設定だ。こんな日に陽の見えない迷宮に行くなんて勿体ない。それに、昼寝は俺だけじゃないぞ」
そう言ってオレ達の方を指さすキリト。
キリトの隣の木にもたれかかってるオレを見て、アスナはさらにその表情を強ばらせる。
「あなた達、分かってるの?こうして1日無駄にした分、現実せかいでの私達の時間は失われているのよ?」
「でも今、俺達が生きてるのはこの世界だ」
「だからって……!」
「あー、すまんアスナ。なるべく声は抑えてな」
口を挟んだオレに怪訝な表情を浮かべつつ、アスナはオレの肩に寄りかかってるものに気が付いた。
涎を垂らしながらだらしない表情で寝ているミコトだ。
「み、ミコトまで……」
「ここに来て数秒で寝たよ。気絶したんじゃねえかってくらいにな。まあ、日差しも風もこんなに気持ち良いんだから無理ないか」
「天気なんて、いつも同じでしょ?」
「アンタも寝転がってみれば分かるよ」
そう言うキリトに、アスナは少し逡巡しながらも、キリトの横に寝転がった。
そして、寝た。
「えっ、寝るの速くないか?」
「ミコトのを超えるスピードだったな。……今のうちに写真でも撮って弱み握っとくか」
「後でボコボコにされるのはお前だぞ?」
「そうでもしねえと、お前ら3人和解しねえじゃん」
「俺は別にいいよ」
そんなに速く寝られると、普段どんだけ忙しいんだって思う。ミコト?コイツはどんだけ暇でも横になれば一瞬だから例外。
ま、2人とも、喧嘩別れみたいになってた事気にしてたのかもな。別にキリトほど険悪って訳じゃないにせよ、アスナも数少ない同性の友達のミコトとこうなって気に病んでたんだろ。夜も眠れないほどって事でもないと思うが。
にしても、お守りしなきゃいけない奴が増えた。これでオレも寝られる確率がグンと減った。
「はあ……キリト、しりとりでもしようぜ。暇だし」
「………」
「ん?キリト?」
「……グゥ……」
寝やがったぞコイツ。
畜生、先に寝たもん勝ちな事に気が付きやがったか。叩き起したいが、生憎ミコトが腕にしがみついてて動けない。
(起きたら覚えとけよマジで……)
観念したオレは、誰かが起きるまで眠るのを我慢する拷問じみた真似を受け入れた。
そうして、数時間後。
「……うにゅ」
「お、起きたか。おはようさん、ミコト」
「んぅ……今何時……?」
「大体2時くらいだな。よし、オレも寝るから見張り交代して……」
「スヤァ……」
「………」
見張り、続行。
それからさらに1時間経ったあたり。
キリトが体を起こして大きく伸びをした。
「よう起きたか、クソ寝坊助。アイアンクローを受ける覚悟はできたか?」
「……ミコトが捕まえてくれてるから無理だろ」
「ピック投げるくらいはできるよぉ!?(小声)」
「お前ノーコンじゃん……にしても、まだ寝てるのか、この人」
「相当疲れてたんだろ」
キリトの隣には、依然穏やかな表情を浮かべて寝息をたてるアスナがいた。
普段からこうしてればただの美少女なんだけどなぁ……。
本人に言ったらぶっ飛ばされるけど。
「とにかく、今度はオレが寝るから。見張りよろ」
「分かったよ。おやすみ」
「うむ…………」
………………
「……寝れねえ」
「もう諦めろよ」
畜生めぇぇえ!!
その後、必死になって目を閉じて精神統一したが、寝ることはなかった。
そういやオレ、眠くても昼寝とかできない人種だったな。こんなに自分の体質を恨んだことないぞ。
目を瞑るだけ瞑って数時間、すっかり夕方になっていた。
「……くしゅん」
可愛らしいくしゃみと共に、アスナの目が覚めたようだ。
眠そうな呆けた顔で起き上がり、周囲を確認する。
そして、すぐ近くの塀に座っていたキリトと目が合って、一気にハッとした顔になった。それでも涎垂れてるから十分アホっぽいけどね。
「おはよ、よく眠れた?」
そう声をかけたキリトに、アスナはガバッと起き上がって、腰の細剣に手をかけた。
驚いたキリトは塀に身を隠し、今にも剣を抜きそうなアスナを注視した。
オレもそうしたかったけど、まだミコトが起きてない。どんだけ寝るんだコイツは。
ワナワナと震えたアスナは、剣から手を離した。
「……ごはん1回……」
「は……?」
「ご飯!何でもいくらでも1回奢る。それでチャラ!どう?」
「お、やったー。タダ飯だー。起きろミコト。アスナが飯奢ってくれるってよ」
「ん"〜、アスナ……?」
アスナというワードに反応したミコトが、目を擦りながら体を起こした。
そしてまだ寝ぼけてるのか、眠そうな声でアスナに話しかけた。
「アスナ、ご飯奢ってくれるの……?」
「え、ええ……」
「そっかぁ……良かった。嫌われてる訳じゃなかったんだね」
アスナはそれを聞いて、一瞬目を見開いたが、すぐに目を細めてミコトに微笑みかけた。
「……嫌いになるわけないじゃない。最近は忙しくて会えなかっただけ」
「それでも冷たくする事はなかったんじゃない?」
「……そうね。ごめんなさい、ミコト」
「ふっふーん!分かればよろしい!」
コイツ、さてはあんまり寝ぼけてないな?
アスナと仲直りするために一芝居打ったか。相変わらず、普段の態度よりも、実際色々考えてるミコトらしい。
女性陣2人が仲直りし、オレ達はそこそこ明るい雰囲気で飯屋に向かった。
第57層 主街区マーテンにあるレストランにオレ達は来ていた。
「……」
「……」
「ほうひたのふはひほも?(どうしたの2人とも?)」
「はへないほは(食べないのか?)」
「食べながら喋らないの」
「2人とも、こういうのであんまり遠慮しないんだな……」
「んっぐ……奢ると言ったのはアスナだしな」
「わたしは正直何で奢ってくれるか分かんないから、自腹のつもりだった」
「ミコトはいいわよ、奢るから。……ナギはどうしようかしらね」
「アスナさん?」
不穏な事を言うアスナに、食指が止まった。
キリトは、何やらバツの悪そうな顔を浮かべている。
気持ちは分からなくもない。一応この層は前線。つまり必然攻略組の事を知ってる連中は多い。
攻略組の中でも、オレ達4人は結構有名人だ。それが一緒にご飯を食べてるんだから、目立つ事この上ない。
そんなキリトに、アスナはそっぽを向きながら言った。
「……今日はありがとう、ガードしてくれて」
「ああ、いや。一応睡眠PKとかあるしな……」
「眠っている相手にデュエルを申し込んで、勝手に指を操作。そして一方的に相手に攻撃を、なんて事件が実際起きたし……だから、その……ありがとう」
「ま、まぁその……どういたしまして」
弱いところを見られたからか、ミコトと仲直りしたからか、しおらしい態度のアスナに困惑しながら、キリトは頭を下げた。
一応、コイツが寝てる間見張ってたのはオレなんだけど、言わなくていいか。
この2人も、少しは距離を縮めた方が……
『きゃああ──────!!!』
大きな悲鳴が、外から響いた。
オレ達はすぐに外に出て、悲鳴の主を探した。
そして、レストランを出てすぐの宿に見つけた。
建物の窓から縄で吊り下げられ、胸に剣を突き刺された、鎧の男を。
「早く抜けっ!!」
キリトが男に叫ぶが、男は首を吊ってる状態が苦しいのか、剣を抜こうとはしない。
「くっそ!ミコトとアスナは中からあの縄を切ってくれ!オレ達は下で受け止める!」
「分かったわ!」
そう言って2人が宿の中に入っていき、オレとキリトは男の下へ走った。
「待ってろ!」
「今助ける!」
男はオレ達を一瞬見て、すぐにその顔をより苦痛に歪めた。
そして足をダランと下げる。
その後、男の体は砕け、消滅した。
男に刺さっていた剣のみが、その下に落ちた。
小話休載、代わりに関係性の説明
アスナ→ミコト
親友。問題児その2(その1はキリト)。
普段から無茶な行動をとるのでハラハラしてる。その点で言えばキリトよりも危なっかしいと思ってる。
相談するし、相談される仲。ミコトからの相談の内容は大体ナギかキリト。
アスナ→ナギ
問題児その3。
普段の態度はキリト以上に舐め腐ってるので、叱られる頻度で言えば3人で1番。
戦闘時は頭も回るし勘も良いし、かなり頼りになるのだが、ミコトやキリトと一緒に無茶をやることも多いので、やっぱり手放しにはできない。
ミコト→アスナ
親友。ハグ魔の対象の1人。
肉体的にも精神的にも距離が近い。会ったら絶対ハグしてる。
最近叱られるのが心地よくなってきた。ナギに言ったらドン引きされた。
ナギ→アスナ
怖がってるしあまり会うことはないけど、割と仲は良い。呼び捨てだし。
ミコトの親友としても、ボス戦の指揮者としても信頼してるし信用してる。
叱られる時は『オレ悪くなくない?』って顔してるので、さらに叱られる。自業自得。