ソードアート・オンライン ~双角の鬼人~   作:句読仮名丸

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第18話 悩みは色々、体はボロボロ

 少し時は流れ、9月中旬。

 アインクラッドは現在第70層まで攻略された。

 ……攻略組の数は少しだけ減っていたが、あくまで順調と言っていいだろう。

 

 改装によっては紅葉が見え始めた頃、オレとキリトは見覚えのある森の中を歩きながら話していた。

 

 

「───とまあ、だいたいこんな事があってな」

「……色々言いたい事はあるが、それ今カミングアウトすることか?」

「ああ、細かいとこは流石に伏せてるぞ?ミコトが話せるようになってからだ」

「そういう事を言ってるんじゃなくてだな……」

 

 話の内容は、約2ヶ月前のミコトの誕生日の話だ。大雑把に事のあらましを話し終え、キリトが頭を抱えた。

 

 あの日以降、ミコトは変わっ……てない。うん、そんなに変わってない。

 ボス戦での無茶はオレやキリトレベルに収まったし、毎日簪と指輪を大切そうに付けてる事くらいしか変わってない。

 ただ、アスナ等のガールズに抱きつく頻度が多くなったり、オレへのスキンシップが多くなったり、更にはより過激になっていったり……それくらいだ。うん、そんなに変わってないな。

 

 まあ、1人で抱え込むことはもうないだろう。それはオレに確約してくれた。あの場で吐き出すことは吐き出したし、もう問題はほとんどないだろう。

 ただ、オレ以外に話すのはやはりまだ時間が欲しいとの事だった。メンタルはもう万全だと言っていたので、特に心配はない。

 

 今日、ミコトはアスナにその事を話してくるのだと言う。決心がついたそうだ。ついでに、オレはとある用件でキリトを連れ出している。

 

「何があったかは言っといた方がいいと思ってな。今日まで時間取れる日があんまりなかったから、話せてなかったんだよ。先月には色々あったしな」

「あの日から確かに無茶はしなくなったけど、そういう事なら言えよな……」

「先月はオレらの方がメンタルヤバかったじゃんか」

「……まあな」

 

 

 先月、殺人ギルド笑う棺桶(ラフィン・コフィン)が攻略組により討伐、半数以上が収監された。討伐隊が結成され、オレやキリトはそこに参加した。

 

 そしてその作戦に参加した者……特にキリトは心に傷を負った。恐らく、一生消えないものを。攻略組もそれなりに精神を消耗し、攻略が一時滞る程だった。

 

 キリトは、オレやミコト、特にアスナのメンタルケアがあってか、大分回復している。万全ではまだないかもしれないけど。

 

「なあ、ナギ。お前は大丈夫なのか?」

「……どれの事だ?」

「心当たりはあるんだな。先月の事だよ」

「あー……まあ、大丈夫。ミコトもいたからな」

「……そうか」

 

 そう返事を返し、キリトは少しだけ俯いた。自分も悩みに悩んでるだろうに、オレの心配をしてくれてありがたい限りだ。

 ……オレに限っては、本当に大丈夫なんだが、言うべきじゃないんだろうな。

 

「ま、何はともあれだ。今は前見ようぜ。振り返んのは、このゲームがクリアされてからでも遅かねえだろ?」

「……そうだな。ありがとう」

「あいあい」

「話は戻るけど、ミコトにそんな面があるなんて意外だったな。ったく、1人で溜め込むのも考えものだな」

「ソーダナー、コマッタモンダナー」

「ど、どうした?変な事言ったか?」

 

 オレはそっぽを向いて口を尖らせた。

 マジで言ってんのかと言いたかったが、これは本人に自覚させたい。まだ直ってないらしいからな。

 

(こういう所が、似てんだよなーこの2人)

 

 心の中でそうボヤいた。

 

 ……少し話は変わるが、実はあの日以降、なんかミコトの中で気づきがあったらしく、その内容が……

 

『……なんかわたし、キリトの事とやかく言えないくらい1人で溜め込んでたし、面倒臭い性格してるんじゃない?え、もしかして今までわたしがキリトに言ってきた事、全部ブーメラン?』

 

 というものだった。

 この2人が似てるとは前々から思ってた。そういう所もだし、2人ともよく問題を起こすし、──オレのことは棚に上げておく──スキルツリーもかなり似通ってる。

 

 キリトとミコトは似ているからこそライバルみたいなもんだ。どちらもスピードアタッカーだから、反応速度や剣撃の速さで競い合ってる。デュエルの頻度なんか、オレより多いんじゃないか。オレやアスナからして見れば微笑ましいんだが、2人は至って真面目にお互いをライバル視している。

 

 問題は、お互いがお互いを似てないと思ってる事だ。これにはオレもアスナも苦笑いだった。

 こうも似てると、その内ミコトはどこかで女の子を引っ掛けてくるんじゃないのかと心配したくらいだ。

 

(お互い『コイツ面倒臭い性格してんな』って思ってるのが知れたら、それはそれで面白そうではあるけど)

 

 この思惑も知れたらスゴイ事になるんだろうな。主にオレの体が。

 

「切り替えてくぞー。合わせんのは今日が初だからな」

「それなんだが、これ何処に向かってるんだ?この先に何かあったか?」

「んーと、もうすぐ見えてきて……あったあった、ほれ」

「どれどれ……」

 

 目的地が見えてきたので、キリトがその方向に目を凝らした。

 見えたのは、障子窓の特徴的な和風な武家屋敷。

 

「…………おい」

「いやー、丁度良く固くて丁度良い強さのモンスターがあそこにいるんだわなー。いやー、偶然見つけて良かったわー」

「帰るぞ」

「はい逃がしませーん」

「うおっ!?お前ナギ!計ったな!」

 

 そう、ミコトの簪を調達しに行った、例の第45層の絡繰屋敷(クソダンジョン)である。

 今回の用事と、色んな気晴らしには丁度良いって事でコイツを連れて来たのだ。

 2ヶ月前にオレが味わった数多のクソ罠をコイツにも食らわせてやろうとか、そんな邪な考えは一切ない。

 

 回れ右したキリトの首根っこを掴んで無理やり引きずってゆく。

 

「あそこアレだろ!?お前が酷い目にあったっていうダンジョンだろ!?」

「そうだったかなー、そうだったかもしれないなー」

「あそこでする必要はないだろ!もっと最適なところがあるって……力強いなお前!?」

 

 キリトが逃げようと藻掻くが、オレの手が外れることはない。

 オレ、ミコト、キリトは共に俊敏と筋力値が高いステ振りをしてるが、オレはキリトよりも筋力値が高い。装備の影響もあり腕っ節じゃオレに勝てるのはエギルくらいだ。オレのホールドを貴様が抜けられるはずなかろう。

 残酷かな、これがステータスを取り入れたMMOの理不尽さだよ。

 

「ボスは丁度良いんだよ、マジで。すこーし途中がクソなだけで」

「理由としては十分すぎる!」

「ハッハァ!諦めるんだなキリト!大丈夫、ちょっと臭くなってヌルヌルになってベチョベチョになるだけだから!……さあ、入口だ。腹括れよ親友っ!」

「お前もいいのかよ!そんな大変な事になるのは!」

「オレばっかりあんな目に遭うのは解せん!お前も食らっとけや!」

「本音出たなお前!ここ出たら覚えとけよ!?」

 

 ピシャリと入口が閉じられる。

 数分後、2人の悲鳴がそこから響いたという。

 

「「あああ"あ"───!!!」」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ……所は変わって、第60層、アスナ宅にて。

 

「えーっと、アスナ?まだダメ?」

「……ダメ」

「そろそろ10分経つよ?わたしも段々苦しくなってきたって言うか……」

「……(ギュウゥ)」

「ちょ、アスナ、締まってる締まってる。締まってるから!ねえアスナ!?」

 

 アスナが膨れっ面でミコトに抱きついていた。いや、締められていたと言う方が正しいか。

 

 ミコトはアスナに、自分の過去を話した。

 自分の整理やアスナの方の問題もあったりして、大分期間が空いてしまったが、今日ようやく時間が取れたのだ。

 そして、話を終え今に至る。ざっくりとはこんな流れである。

 

 話の途中、アスナは何度も中断しようとした。聞いていられなかった。普段はほとんど笑顔しか見せない親友が、その奥であんな辛い過去を持っていた事に、それを隠してきたミコトに対しても、気付けなかった自分に対しても、酷く怒りが湧いてきた。

 

 話している時のミコトは、普段からは考えられない程小さくて、寂しそうで、辛そうだった。きっと、今までずっとこの辛さに耐えて来たのかと思うと、勝手に体が動いた。今にも潰れそうなこの子を、抱きしめてあげたくなった。

 

 アスナは瞳に涙を浮かべながら言った。

 

「……バカ……!嘘なわけないじゃない!今までの笑顔も、言葉も、全部、嘘なんかじゃない!そんなの私が認めない!」

「……うん、ありがとね、アスナ」

「もう、そんなこと思わないで。自分が人を愛せないなんて、絶対に言わないで」

「分かってるよ、もう間違えないよ」

 

 その後も、アスナは泣いた。人知れずずっと傷ついていた親友の為に。

 ミコトはアスナを抱き返し、背中を摩っていた。申し訳なさと、感謝の意も込めて、途中で少し涙ぐみながらも、優しく摩った。

 

 10分程経過し、アスナはようやく落ち着いたようだった。未だ涙目ではあるけれど。

 

「落ち着いた?」

「……なんでミコトはそんなに落ち着いてるのよ」

「わたしはこれを2ヶ月前にナギにやってもらったからね。今度はわたしがする番かなって」

「本当なら、泣きたいのはミコトの方でしょ……?」

「それも含めて、もう大丈夫だよ。自分の気持ちは、もうちゃんと分かってるから」

 

 あの時、ナギは言ってくれた。自分を信じろ、皆を頼れと。それに気付いて、心が軽くなった。きっとこの話をしても、アスナや他の皆も受け入れてくれると思えた。

 ここまで泣かれるとは思ってなかったけれど、アスナも自分の事を大切に思ってくれてるのだと実感し、ミコトは改めてありがたさを感じた。

 

 アスナは大きく息を吐き、自分の両頬を叩いた。いつまでもクヨクヨしてたら、ミコトに申し訳ない。

 

「ふぅ、ありがとね。今日は話してくれて」

「こちらこそありがとう。受け入れてくれて」

「バカっ、当たり前でしょっ。もっと自信持ってよね!」

「アハハー、それはホントに面目ございません……」

「まったく…………こういう所が似てるのよね……」

「え、誰に?」

「なーんでも。さ、折角来てくれたんだし、今日はお昼ご飯食べてって」

「わーい!」

 

 ミコトの屈託のない笑顔に口を綻ばせ、アスナは腕によりをかけて料理を作った。

 その後アスナの料理を食べ、2人はまったりお茶を飲んでいた。

 

「ミコトがボス戦で無茶してたのは、そういう理由もあったのね」

「その節は大変ご迷惑を……」

「もういいわよ。もうしてないんだし。それにしても、ミコトにそんなに思われて、ナギは幸せ者だね」

「わたしがめちゃくちゃ愛されてるから、少しでも返したいんだよ。不公平になっちゃうから」

「十分過ぎるくらい返してると思うけど……」

 

 アスナはあの日以降のミコトのナギへのスキンシップを思い出した。元から距離感がバクり散らかしていた2人であったが、最近は輪をかけて激しい。街にいる間は基本手を繋いでいるし、ボス攻略中にチラッと見るとだいたいひっ付いている。何なら最近公然と頬にキスしているのまで見た。本人達は特に気にせず自然体でやってるのが末恐ろしい。

 

(本人たちが満足しないで自重しないからだよね……。こんなだから《最強のバカ夫婦》なんて呼ばれるようになっちゃったりもするし)

 

 ちなみにそのイチャイチャの横で、キリトは大体平然としている。気にしていない、と言うよりは諦めに似たような感情だ。半年以上もアレを間近で浴びれば、そうなるのも無理ないというのがアスナの感想であった。

 

「そういうアスナはどうなの?」

「? 何が?」

「キリトのこと」

「ブッ!」

 

 思わぬ所を突かれてお茶を盛大に吹き出すアスナ。それを見てニヤニヤするミコト。段々普段の2人に戻ってきていた。

 

「な、何で今キリトくんのこと!?」

「何か進捗あったのかなーって。たまに2人で会うんでしょー?先月キリトのメンタルがブレた時もケアしてあげてたし」

「と、特に何もないわよ……。それに先月のアレは仕方ないわよ」

「キリトとナギは特にね。アスナは大丈夫?」

「私はもう大丈夫。そう言うミコトこそ、さっきの話聞いた後なら行くべきじゃなかったんじゃないの?」

「決着は付けたかったの」

 

 ラフコフ討伐にはミコトやアスナも参加した。ミコトはナギの反対を押し切ってだ。

 2Pとは決着を付けたかった。ナギが行く事はほぼ確定していただけに、必ず奴もいると思っていた。

 

 しかし、確認されたメンバーの中に2P、並びにリーダーのPoHの姿はなかった。

 

 ラフコフが遺滅した今、あの2人の怪物が何処で何をしているか全く分からない。

 ただ、次会った時は前みたいな事にはならない。必ず2人で倒すと、ナギと2人で決めたのだ。

 

 とは言え、ここまで音沙汰がないと逆に不気味である。ミコトはお茶を口に入れ、一息ついた。

 

「……ま、今はアイツらの事はいっか」

「そうだね。来たとしても、もう徒党を組むのはそう簡単じゃないしね」

「よし!この話終わり!アスナの恋路に路線戻しまーす!さあ、この際恋愛の先輩に何でも言っちゃいなぁ?」

「う、そう言われると聞きたい事が少し……」

「ほうほう、聞こうじゃないか」

 

 女子は恋バナに花を咲かせていた。

 

 

 ……その頃一方男子たちはと言うと、

 

 

「うおおおぉぉおお!!!」

「おい!お前言ったよな!?命に関わる罠はそんなに無いって!アレなんだ!どう見ても命に関わるだろ!」

「オレだって聞きてえよ!前来た時はあんな罠無かったんだよ!」

 

 幅広な廊下を全力で後ろに突っ走る2人。

 そしてそれを豪速球で追いかける、廊下を埋める程の面積の巨大鉄球。

 追いつかれたら一撃死であろう、地獄の鬼ごっこを開催していた。

 

「来る度罠が変わるなんて聞いてねえっての!おいキリトあの鉄球ぶった斬れねえ!?」

「バカ言うなあんなのを受け止めたら剣が折れる!お前の方が適任だろ俺より筋力値高いんだろ!」

「ざけんなオレの刀もポッキリ逝くわ!だあぁいつまで続くんだよこの地獄レース!てかキリト速い!オレを置いてくな!」

「俊敏値の差だよ!」

「MMOの理不尽なとこ出たなクソ!」

 

 そんなバカな会話をしながら、この追いかけっこはあと3分程続いた。

 

 

 2人が逃げ惑っている間、女子に風景を戻すと、

 

「え、アスナそこまで行動してるの?それで気付かれてないの?何なのキリトあいつ」

「そうなのよ!キリトくんったら、全然気付いてくれないの!ちょっと目は向けるけど何も言わないで……いつもあんななの?」

「うーん……アスナ以外で一緒にいるって言うとリズとシリカとかだけど、確かに変化とかには敏感だけど、口には出さないね」

 

 恋バナからキリトへの文句へと移行していた。曰く、アスナからのアプローチが全然功を奏していないと。

 

「キリト自己評価低いからね。特に人間性の面について。人から好かれた経験ないのかな」

「現実でもあんな感じなら、色んな人から好かれてそうなのにね。この世界じゃ一体何人落としたんだか」

「う、うーん。どうだろね……」

 

 今現在知ってる限りでは3人です、とミコトは心の中でこぼした。具体的には竜使いの女の子と鍛冶屋の女の子と目の前の女の子を。

 

 リズがキリトを好きになったと聞いた時、ミコトは動揺した。それはもう動揺した。2人の親友が同じ人を好きになったのだ。あの時は本当に頭が真っ白になった。

 

(リズがアスナに譲るって言ってなきゃ、今頃どうしてんだろうなわたし。……リズを泣かせたんだから、キリトには何かしら制裁を加えるべきか。いやリズはアスナを応援するって言ってたから今のままでいいか。ならばキリトはアスナとくっつかなきゃ処す)

 

 親友を既に1人泣かせた男である。もう1人の親友まで泣かしたら今度こそ容赦はしないとミコトは決意を新たにした。

 

 その女泣かせは鉄球地獄競走から解放され、今度は段々狭くなる壁に襲われていた。南無三。

 

「多分、今は好意を恋愛じゃなくて親愛って受け取ってるんだと思う。別にアスナの事は嫌ってないし、何なら好ましく思ってるから」

「そうなの?ここまで来ると自信が無くなってくるよ……」

「クヨクヨしない!自分の可愛さに自信を持って!キリトが自分が愛されてないって思ってるのが悪いの!わたしが言えた事じゃないけど!」

「最後のセリフが無ければ説得力あったのになぁ……」

 

 こういう普段は今いち最後までカッコつけられない所も2人は似ている。アスナは何だか自分の嗜好が分かってきたような気がした。

 茶をすすりながらキリトを落とす策を考えるミコトを見ながら、アスナはふと気になる事があった。

 

「……ねえミコト」

「ん?なーに?」

「ミコトは、その……ナギとは、もうシたの?」

「ぶっ!!」

 

 今度はミコトがお茶を吹き出す番であった。『何』をシたかは敢えて聞くまい。ミコトはともかくアスナもそこまで箱入り娘ではない。所謂、『そういうこと』だ。

 2人ともこの2年程は戦場にいるとは言え、今年で17歳の女子だ。話題が突如淡い桃色(恋バナ)から真っピンク(ど下ネタ)になる事もあろう。

 

 しかし、まさかアスナからそういう話が来るとは思わなかったミコトは、簪を弄りながらモジモジしていた。

 

「えーっと……言わなきゃダメ?」

「無理強いはしないけど、私の時の参考にしたいなと」

「…………………………してない

「え?」

「してない!!まだしてないの!!」

 

 茹でダコのようになったミコトから叫ぶように言われ、アスナは目をパチクリさせた。というかその返答や態度自体、最初から予想外だった。

 

「そ、そうなんだ。2人の距離感的に、もっと進んでるのかと……」

「う……別にしたくない訳じゃないんだけど、やっぱりまだ自分に自信が無いっていうか……」

「あなたさっき『自分の可愛さに自信持って!』とか言ってたわよね!?そっくりそのまま返すわよ!」

「うぅ、返す言葉がない……」

 

 いつも積極的にナギにくっつくミコトが、こういう事となると弱々になるのを見るのは、実はアスナは初めてではない。

 前に頬にキスするのを見たが、それはナギからだ。されたミコトは顔を今のように真っ赤にしていた。アウトラインがキスからなのだこの子は。何故それで普段はくっついていられるか不思議で仕方ない。

 

「もう付き合って結構長いんでしょ? ナギからそういうのはないの?」

「……ナギはわたしが嫌がる事しないから……」

「無いのね」

「はい……」

 

 アスナはナギにも問題があるんじゃないのかと思い始めた。キリトもかなり鈍感だと思うが、ナギもナギだ。受け身でい続けるのもどうかと思う。そこはリードしてこそだろう。

 

(ミコトの件に気付かなかった事といい、次会ったら一言……いやもっと言ってやらないと。さすがにこの話は出来ないけど、これ以上ヘタレるなら何発か刺しとこうかしら……)

 

 彼女の言っていない事に気付けなかった前科がある男である。またミコトから行かせるようならキツイ制裁を食らわしてやるとアスナは決めた。

 

 そのヘタレ呼ばわりされた男は、発酵臭がするネバネバに絡まれて悶絶していた。南無三。

 

 

 お互い、好いた男への文句と悩みを吐き出し、お茶は既に無くなっていた。いつの間にか話に色んな意味で熱が入っていた。

 一通り話し終え、アスナはため息をついた。

 

「はあ……キリトくん今頃どうしてるのかな?」

「あー、今日は確かナギと一緒に連携の確認をしに行くって言ってたよ」

「連携? あの2人ならもう十分過ぎるくらい連携取れてるじゃない?」

 

 キリトとナギとミコトのパーティは、どのコンビになっても強い。1番強いのはナギとミコトが揃った時だが、次に強いのがナギとキリトのペアだ。ボス戦でもあの2人は凄まじい活躍を見せる。今更連携の確認なんてする必要はないはずだと、アスナは疑問を口にした。

 それに対しミコトは……やらかしたという顔で口を覆った。

 

「……何か隠してるでしょ」

「……ナニモ?」

「また泣くよ」

「ごめんなさい!ナギとキリトに口止めされてるんです!アスナにも言うなって言われてるんです!」

 

 泣き落としならぬ泣き脅しをされ、ミコトは秒で陥落した。手を頭の上に合わせ、「ご勘弁を……」とアスナに許しを乞うた。

 

「私にも言えないの?」

「いや、わたしは言っていいと思うんだけどね?2人がダメだって……」

「はぁ〜……詳しい事はまた2人に聞かないとね。言ってくれたミコトは不問とします」

「わたしが2人から怒られるんじゃないかな……」

 

 ミコトはそうは言ったが、実際はアスナに今言っても良いんじゃないかと思っていた。アスナならもううちのパーティ同然だという認識だったからだ。

 

(気にしすぎだよねー、2人とも。何ならアスナだって持ってるかもしれないのに……反応的に無さそうだけど。わたしの言っちゃったらナギのも言うことになるし、早く公開したいなー)

 

 ミコトは頭の簪を弄りながら、今頃どこかのダンジョンのいるであろう2人の顔を思い浮かべていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「はー、はー、はぁーー……やっとここまで来た」

「何で2回目のはずのお前の方が疲れてるんだよ……」

「1回目と仕様が変わるとは思ってなかったんだよ……!今回やけに殺意高いし!」

「まあ、自業自得だな」

 

 幾つもの罠を潜り抜け(ほぼ全て食らったが)、ナギとキリトは巨大落とし穴の底にいた。今回は来ると分かっていたので、2人はここだけ見るなら大した消耗はない。ここまでの消耗の方が大きい。

 

 息を整えた後、壁にあるレバーを引いた。前回と違い今回は2個だった。そういうとこは良心的なダンジョンである。絡繰が作動し、フロア全体が90度傾く。

 そして、巨大な回廊のような空間となり、周りのオブジェクトが前方の天井へと吸い込まれていく。

 

「相変わらず、大掛かりな演出だな」

「そこまで強くない、でいいんだよな」

「前と変わってなきゃな。今までの事からして、入ったプレイヤーに応じて難易度が変化するタイプのダンジョンの可能性もある」

「ならあんまり期待しない方がいいな。アスナとリズがいたなら、難易度はそれなりに高いだろ」

「ま、前と同じ戦い方はしないけどな」

「ああ。今日はその為に来たんだからな」

 

 ステータスウィンドウを開き準備を整えているうちに、ボスの方もお出ましだ。前と違わず、球体関節の女郎蜘蛛が逆さ吊りで現れる。

 

 それと同時、2人はストレージを開き、アイテムを喚び出した。

 キリトは今も背に掛けている黒剣《エリュシデータ》に加え、水晶のような輝きを放つもう一振の長剣を。

 ナギは左腰に提げていた太刀《日光一文字》を仕舞い、別のものを取り出した。

 刃長だけで1mをゆうに超え、柄まで合わせればキリトの身長に届きうる程の大太刀。人が振る事を考えているのかと文句が出そうな刀を、ナギは左の片手で持った。

 

 蜘蛛姫が咆哮をあげる中、2人は同時に刃を抜き、切っ先を向けた。

 

「ミコトとも連携は何度もしたが、モンスターとの戦闘はこれが初めてなんだよ。見られたら危ねえし」

「あんまり弱いやつだと、一瞬で片がつくからな。だから……」

 

「「───もってくれよ? 木偶人形のお姫様」」

 

 絡繰屋敷の主は目を爛々と輝かせ、対する剣士2人は口元に微笑を浮かべ、火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

 

 ───そして、決着はすぐに付いた。

 ……………具体的に言うと、1分程で。

 

『ギャァァァァ!?!?』

「「…………」」

 

 断末魔を上げながら砕け散った屋敷の主を見届けながら、2人はなんとも言えない気持ちになっていた。

 別にこの蜘蛛女が弱かった訳じゃない。安全マージン取り過ぎの範囲とは言え、このくらいの層なら、どれだけ効率を突き詰めても攻略に3分はかかる。

 

 理由は明白である。

 ナギは大きく息を吐いて宙を仰いだ。

 

「…………これ、チートじゃね?」

「モンスターに対しては、お前のは特にな。俺のも大概ではあるけど、ここまでとは思ってなかった」

「攻略は楽になりそうだけど……顰蹙買いまくりそ〜、こんなだと」

「やっぱり公開はまだ先だな」

「だな」

 

 このゲームはプレイヤーに対して平等だ。どの武器が優遇されたりとか、どのスキルが強いとかは基本ない。

 その例外。それに2人は頭を悩ませていた。

 

(コレ、ミコトとの連携も益々凶悪無比になりそうだな)

 

 もう1人、同じ状況のはずながらも少しも悩んでいない人の顔を思い浮かべながら、ナギは武器をしまった。

 

「まあ、目的は達成したんだし、今日は帰ろうぜ」

「そうだな。……ところで、どうやって帰るんだ?あの落とし穴の入口まで戻るのか?」

「えーっと、確かここら辺に……ここかな?」

「…………おい待て」

 

 一見何もない床をナギは指さした。それにキリトは得も言われぬ不安に襲われた。

 ナギはキリトを一瞥し、ニコッと微笑みかけた。

 

 

「ショートカット、したいだろ?」

 

──────カコン

 

「あああ"あ"──!!!本当に帰ったら覚えてろよナギイィ──!!!」

「帰るまでが遠足ってなあ!!……あっ、やっぱ怖いわこれえええ───!!」

 

 

 もう二度と来てやるもんか、と固く決心した2人であった。その話をしてミコトが興味を持ったのはその日の夜の事である。南無三。




小話のネタがないのでお休み

ミコトは中途半端に奥手です。前回の件で愛情表現には事欠かなくなりましたが、まだハグまでです。キスやその先は自分から行く勇気がないです。

ナギは愛情表現モンスターです。キスまでならミコトが嫌がらないのは知ってるので、たまに不意打ちします。その先は流石にミコトがしたくなさそうなのを察して動いていません。クソッ、じれったいな。ちょっとイヤらしい雰囲気にするか。

そう考えるとキリトとアスナってスゴイ進展速い。うちの子達にも見習って欲しい。

多分次回!3人のお披露目回!多分!
……青眼のあの子はどうしようか考え中です。


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