ソードアート・オンライン ~双角の鬼人~   作:句読仮名丸

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第1話 これより、チュートリアルを開始する

 そっと目を開ける。

 視界に広がるのは、ファンタジー物の代名詞とも言える西洋風の街並みと、その中を闊歩する多種多様な人々。

 

 男女の割合は半々くらい。髪の色は黒から茶色………赤に青に黄色に紫に、実に多種多様である。

そして、皆、革製の胸当てを付けている。

 

 

「………ついに帰ってきたんだな。───この世界に!」

 

 

 ソードアート・オンラインの舞台、鋼鉄の城《アインクラッド》。全100層にもなる鋼鉄の城。

その第1層、《はじまりの街》にオレは再び降り立った。

 

「初期リスは噴水前、ここも変わってないな。じゃあアイツが来るのを待つか……」

「あー!いたー!」

 

 声がした方に顔を向けると、1人の女性プレイヤーがこちらに向かって走ってきているところだった。

青みがかった肩にかからない程の短めの黒髪で、人好きしそうな朗らかな笑みをしている女の子。

そして、頭上のプレイヤーネームには、《Mikoto》。

 

……うん、何もかも現実(リアル)の尊そのものですね。

 

「ってそうじゃねえよ!?なんで何から何まで変わってねえんだよ!!」

「設定とかキャラクリとか他のゲームより細かくて飽きちった♪」

「『飽きちった♪』じゃねえから、身バレとか危ないんだぞ、ったく……。つーか何でオレって分かったんだよ」

「フッ……愛さ」

「真面目に言うと?」

「最初の、『帰ってきたんだな、この世界に!』ってとこ聞いてて声で分かった」

「恥ずっ!?」

 

 あれ聞かれてたん?結構遠くから走ってきてたよねキミ?もしかして他の人にも聞かれてた感じ?いや恥っず!

興奮しっ放しだったミコトの事をとやかく言えないほど興奮してた事に顔を熱くしながら、自分の姿を観察してみる。

長袖長ズボンに、胸当てを付けている、周りと変わらぬレベル1プレイヤー。

顔はリアルよりも若干大人っぽくして、髪もうなじが隠れるくらいには長め。

あのβテストの時と同じだ。

 

「む~……」

「ん?どうした?」

「顔の、なんかコレジャナイ感」

「ゲームなんだし当たり前だろ?誰かさんと違ってキャラクリは丁寧にやるタイプなんだよ」

「リアルの天音の顔の方が良い」

「そりゃドーモ。あと、こっちじゃリアルネームはご法度な」

「あ、そっか」

 

 慌てて口を隠すミコト。

SAOに限らず、MMOゲームにおいてリアルのなまえは勿論、現実に関する話題はマナー違反だ。

まあ、ミコトはMMOゲームはSAOが初めてだし、無理もないだろう。

 

「えーと、名前は……《Nagi》、ナギ?何で?」

「まあそれは後でな。とりあえず、チュートリアルだ」

「おっけー。まずどこ行くの?」

「とりあえずは、こいつ」

 

 俺がストレージを開いて取り出したのは、1本の片手剣。初期装備だ。

 

「こいつを売る」

「売っちゃうの?」

「まあミコトはどっちでもいいけど。オレはこれより使い慣れてるのがあるからそっちにする。初期武器なら、どこの鍛冶屋でも無料で各種初期武器と交換してくれるからな」

「んー、じゃあワタシも最初はナギと同じのにするよ」

「んじゃ、鍛冶屋まで走るぞ!」

「あ!待ってよ!初心者に優しくないな、も〜!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 武器を交換してオレたちが来たのは、はじまりの街の東側のフィールド。だだっ広い草原エリアだ。

 

「やぁぁぁぁ!」

 

 現在、ミコトのチュートリアル中だ。

ここら辺に出現する猪型モンスター、《フレンジーボア》でソードスキルを練習中である。

一体の猪を倒したミコトは、一息ついて地面に座った。

 

「ナギー?今何体目ー?」

「これで10体目。うん、ちゃんとエフェクトが出るようになってきたな。

感覚掴めそうか?」

「んー、今使ったのはいけそうだけど、まだまだあるんでしょコレ?」

「まあな、スキルレベルが上がってく毎に、使える物も増えてくからな。戦闘だと咄嗟に使えなきゃいけないから、ひたすら反復練習だな」

「うへー」

「まあまあ、慣れればこんな感じで………」

 

 そう言って、慣れた動きで剣を中段に構え、こちらに向かってくる猪目掛けて振り抜く。

 

「ふっ!」

 

プギッ!?

 

 水平に一閃。曲刀単発ソードスキル《カーム》。

モロに食らったフレンジーボアのHPバーは0になり、ポリゴンとなって消滅した。

 

「どーよ?」

「おぉ、ドヤ顔がウザイ」

「やかましい。ま、こんな具合だな。多少型がズレてても、システムが認識さえしてくれればスキルは発動する。そこまで持ってくのはやっぱ慣れだな。サクサク狩れるようになると楽しいぞ?」

「確かにねー。ズバァって斬れたら気持ちよさそうだし、よし!ドンドン練習して猪絶滅させちゃおう!」

「リスポーンするから絶滅はしねえぞ」

 

 そうして、目につく猪を狩り続けてしばらく。

割と上達が速かったミコトは、フレンジーボアの相手をしながら話す余裕も出来てきた。

 

「ねえ、何で武器コレにしたの?最初に持ってたやつの方が長くない? ふっ!」

「それはそうだけど、ちゃんと理由はあるよ。はっ!」

 

 お互い一体ずつ倒し、ミコトに向き直った。

 

「確かにこの曲刀は片手剣に比べてリーチが短いし、両手剣と比べたら攻撃力も低い。しかしな、このスキルにはその2つにはないものがあるのだよ」

「ほうほう、それは?」

「───『進化』だ」

「進化?」

 

 ミコトはオレの言葉に首を傾げる。

「ああ、この《曲刀スキル》は、レベルを上げてくとどっかのタイミングで化けるんだよ」

「何になるの?」

「聞いて驚け。こいつは、《刀》になる……!」

「………ふむ?」

 

 刀。ジャパニーズソウル、サムライ魂。

軽く反りが入った流線型の剣。折れにくく、切れ味抜群。

まさに日本の魂とも言える。

このゲームの名は、ソードアート・オンライン。

ソードアート………つまり剣ならば何でもあるのが必然。

 

 βテストの時、鍛冶屋に刀の名前が無く、軽く絶望していたオレ。仕方なく名前に『刀』と付いてる曲刀を使っていたが、それがなんとあら不思議!いつの間にか《刀》スキルに変わっているではありませんか!

これはオレに刀を使えという神の宣告だろう、きっと、いや絶対。

 

「そういう訳で、オレは曲刀を選んだわけだ」

「つまり要約すると?」

「刀カッケェって事です」

 

 詰まる所この1点である。性能とか正直カッコ良さに比べれば二の次だ。

それを抜きにしても、βテスト時に使い込み過ぎて体が覚えてしまったからというのもあるが。

 

「だから、別にミコトも使う必要ないぞ?色んな武器持ってみるのもまた楽しいだろうし」

「まあ、ナギの理由はアホっぽいけど「はあっ!?」ワタシもコレ使いたいから、しばらくは曲刀でいっかなー」

「ようこそ、こちら側へ」

「うっわ全然嬉しくない」

 

 ミコトの酷い罵倒に傷つきながらも、俺たちは練習兼レベリングを続けた。

 

 そして、5時半を回ろうという頃。

この世界の太陽も傾き、オレンジに色付いていた。

 

「うっわー、キレー……」

「そうだな、ここがゲームって事を忘れそうになるのは、もう何度目かな」

「本当に、現実世界よりキレイなんじゃないの?」

「かもしれないな」

「ねー、βテストの時はどこまでいったの?」

「2ヶ月で8層まで。けど、今回は人数も10倍いるし、同じ所まで行くのに半分もいらないだろうさ」

「ハマってんねー」

 

 そう言われ、視線を夕日に移す。

この世界はポリゴンの集合体。データの産物。にも関わらず、オレが今見ている景色は、現実のそれよりも輝いて見える。

何となく、この剣の世界の方が、現実よりも生きてるって実感が湧く。そんな気がするは、オレがもうこの世界にドップリはまってるからかもしれないが。

 

「さ、もうちょい狩り続けるか?」

「あったり前!って言いたいけど、ゴメンね。お母さんが半には一旦帰ってきなさいって言ってたから………」

「リョーカイ。んじゃ、今日はここまでにしとくか。どうせ明日も休みだからな」

「うん!また明日もやろ!」

「おう」

「えーっとログアウトボタンは………アレ?」

「どうした?」

「ログアウトボタン、なくない?」

 

 ミコトはそう言ってウィンドウを可視化させ、こちらに向けてきた。

そこには確かに、絶対ある筈のボタンがなかった。

 

「バグかな?」

「いや、流石にないだろう。そうだったら大問題過ぎる。今後の運営に関わるぞ」

「だったら何で………」

 

 ミコトが言葉を続けようとした瞬間。

 

ゴーン ゴーン ゴーン ・・・

「ん?」

「これ、鐘の音?」

 

 これは、はじまりの街にある大鐘の音だ。

しかし、これが鳴るのを聞いたのはβテストの時にもなかった。

 

(何だ?何が起こってるんだ? っ!?)

 

 オレが何か不吉なものを感じていると、突如オレとミコトが青い陽炎のような光、転移のエフェクトに包まれた。

咄嗟に目を閉じ、再び開けるとそこは、

 

「ここは、はじまりの街?」

 街の中央の広場。そこに、オレたちと同じように次々とプレイヤーが転移されてくる。

強制テレポートされたプレイヤーたちは、皆一様に困惑の声を上げている。

一先ずミコトの側にいながら、周りを眺める。

すると、ミコトがある物に気が付いた

 

「ナギ、あれって………?」

 

 怯えるように指を指す先には、空に浮かんだ真っ赤なタイルのようなものだった。

そしてそれは、瞬く間に空一面に広がった。

 

(Warning……System Announcement………?)

 

 その六角形のタイルの隙間から、血のような液体が滴り落ちる。

やがてそれは固まり、人のような形を作っていく。

出来上がったのは、血色のローブを被った無貌の巨人。

 

『………プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。

私は茅場晶彦。今やこのゲームをコントロールできる唯一の人間だ』

 

 茅場晶彦………SAOを開発した張本人だ。

それがなぜこんな事をしている?

続けて言葉を紡ぐ茅場は、ログアウトボタンがないことはSAO本来の仕様だと言った。

更に、外部からのナーヴギアの解除がなされようとした場合、ナーヴギアの高出力マイクロ波により、脳を破壊すると。

 

「天音、できるの?そんな事………」

「………ああ、ナーヴギアの仕組みは電子レンジと同じだ。出力さえ上げれば脳みそを焼く事も不可能じゃない」

 

 そう言うと、ミコトはオレの服の裾を強く掴んだ。 

努めて不安にさせないようにしたが、オレも声が震えていたんだろう。

そんなオレたちに、茅場は最悪の事実を突きつけた。

 

『今後、あらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に………

 

 諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

「………っ!?」

 

 ゲーム内での死が、現実世界での死となる。

そう宣告され、否が応でも体が強ばる。

 

『諸君らが解放される為の手段はただ1つ。このゲームをクリアする事。アインクラッド第100層にいる最終ボスを倒しさえすれば、このゲームはクリアされる』

 

 第100層まで。βテストをやった者ほど、その無理難題さがよく分かる。

βテスト時には、2ヶ月で8層。しかもそれは、()()()()()()死に戻りがあってのだ。

死んだら終わりだと言うのが本当ならば、一体どれほどの年月がかかるというのか。

 

『最後に、諸君らのアイテムストレージにプレゼントを用意した。確認してくれたまえ』

 

 ミコトと頷き、アイテムストレージの中身を見る。

 

(『手鏡』?)

 

 それをストレージから具現化させると、手に持つ手鏡に自分のアバターの顔が映る。

 

「わっ!?」

「ミコト? っ!?」

 

 まるで、ここに転移してきた時のような光に包まれ、思わず目を瞑る。

そして目を開けると、

 

「………天音?」

「ミコト?何が……、コレは!?」

 

 手鏡に映る顔。灰色がかった黒髪に、少し線の細い顔。

紛れもない、現実世界でのオレ、右京天音の顔だ。

 

 周りを見渡すと、同じようにアバターの顔や体が現実世界のものになっているようだった。

混乱鳴り止まぬ広場に、少しの間沈黙していた茅場が再び無い口を開いた。

 

『諸君らは何故、私茅場晶彦がこんな事をするのだろうと、疑問に思っているだろう。しかし、私の目的は既に達成されている。この世界を創り出し、鑑賞する為にのみ、私はソードアート・オンラインを作ったのだから』

 

 その言葉に、オレの奥歯が軋んだ。

 

(茅場………!)

 

 

 

『以上をもって、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する

 

     プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

 

 

 その言葉が、ひどく頭に響いた。




アドバイス、ご意見等ございましたら、ドシドシ送ってください。

~プレイヤーネーム~

ミコ「結局なんでナギって名前にしたの?」
ナギ「中々良いのが思いつかなくて、気分転換に某海賊系漫画読んでたら、ちょうどそんな名前の能力が出てきたから、そこから取った」
ミコ「本名一切関係なかったの!?勿体ぶった意味!」
ナギ「ゲームの名前なんてそんなもんだよ。なんか響きがよく馴染んだから、くらいで丁度いい」
ミコ「これから長いこと使うんだから、もっと真面目に考えようよ」
ナギ「おまいう」
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