SAOプレイヤーの皆様、並びにこの作品を読んで頂いてる読者の皆様にアナウンスです。
アインクラッド第74層の、大幅な改造をお知らせします。プレイヤー皆様のご健闘の程、期待しております。
2024年 10月18日
第74層 主街区カームデット
アスナがうちのパーティに入り、早速迷宮に潜ろうと約束して夜が明けて。
オレとキリトは、第74層主街区の転移門広場に座っていた。
「……来ない」
「昨日夜更かししてミコトが寝坊したと予想」
「アスナがいるしそれはないだろ。……ふあぁぁ〜、眠い」
「んなボーッとしてたらアスナにドヤされるぞ」
「暇なんだよ」
少し朝早くなので欠伸をするキリト。
まあ気持ちは分かる。もう待ち合わせの時刻から15分くらい過ぎてるし……。
と、ちょうど考えていると、転移門が開いた。やっと来たか。
「うわあぁぁ避けてえぇ!!」
「人いたらごめぇぇん!!」
悲鳴と共に飛び出して来たアスナとミコト。余程勢い付けて飛び込んだのかこっちまでスピードが落とせてない。
仕方ないからアスナはキリトに任せる事にして、オレはミコトを受け止めるために立ち上がろうとし……普通に間に合わなかったので、時代劇の階段の如くミコトと一緒に転がった。咄嗟にミコトの後頭部は死守したが、代わりにオレの頭はひどく揺れた。
なんか、ミコトだけスピードおかしくない?アスナの方はキリトを押し倒すだけで済んでるぞ?
「イッテ……ミコトー?だいじょ……」
ムニュ
「ヒャアッ!?」
オレにうつ伏せになって倒れてるミコトを起こそうと手を押したところ、ミコトが変な声を出した。
オレの気のせいではあるまいな。何やら柔らかい物に触れたぞ。
…………念の為もう一回確認しとくか。
「ンッ?!」
「ふむ、皆目見当が付かん」
「嘘つけ分かってるでしょ何度も揉むなぁ!?」
「グェッ!?」
起き上がったミコトの正拳突きがオレの鳩尾へ刺さる。痛みはなくても、やっぱり苦しいわコレ。
ホーントこいつは。ハグやら手繋ぎとかは自分からしてくるのに、こういう事に関してはやたらと恥じらいを見せるというか。今のも半分は不可抗力だろう。半分は。
「1回目はまだ分かるよ!?2、3回目はわざとでしょ!?」
「失敬な、確認だよ。何を揉んだのかをな」
「やっぱ分かってんじゃん!尚悪いわ!」
仕方なかろう。オレだって今年で齢17の男子だぞ。そういうのもあるんだよ。今のもミコトに嫌われないギリギリをいったつもりだし。
セクハラは基本しない主義のオレであるが、先月アスナから凄い笑顔で、
『今度ミコトを泣かせたら承知しないからね?』
とオレの顔面真横に《ランベントライト》を突き刺しながら言われたので。色々心当たりはあるが、何の事か察したオレは、たまにこういう事(セクハラ)をはたらくようになった。本当にたまにな?幻滅しないでほしい。
すっごく気持ち悪い事を言うようだが、ミコトは今の所本気で嫌がった事はない、と思う。オレの主観だけど。ホントに幻滅しないでほしい。……オレは誰に弁解してるんだろうか。
顔を真っ赤にしたミコトが口を尖らせている。セクハラした後は大体こんな反応になる。
「まったく、いつからこんなスケベになったのかな……」
「そんな満更でもない反応してる人に言われましてもね」
「ワー!!ワー!!聞こえなーい!!」
「あ、キリトが吹っ飛んだ」
「え、ホントだ。……あれはキリトもやりおったな」
「アイツのはオレと違って完全な不可抗力だろうな」
「おお、自分のはわざとだと認めたな?」
口が滑っちった☆
まあそれは置いといて。アスナが胸元を抑えて涙目で吹っ飛んだキリトを睨んでる。更にはキリトは顔を少し赤くして右手をニギニギしている。やったなアレは。
さてさてどうなるかと展開継続を待っていると、再び転移門が開いた。それに気づいたアスナがキリトに駆け寄ってその後ろに隠れた。ミコトも露骨に嫌そうな顔をしている。
「ゲ、ここまで来た」
「誰がだ?」
「すぐ分かるよ」
転移の光から出てきたのは、昨日アスナを引き止めてたロン毛の護衛、クラディールだった。何でこいつがここにいるんだろう。
クラディールはアスナを見つけると、至って真面目な雰囲気で話し出した。
「アスナ様、勝手な真似はお止めください。ギルド本部へ戻りましょう」
「嫌よ!今日は特に何もないでしょ!それに、何でアンタは朝から私の家の前で張り込んでるのよ!」
「えっ」
「こんな事もあろうかと、1ヶ月前からセルムブルグで、アスナ様の監視の任務に着いております」
おいコイツヤバいぞ。さも「任務ですが何か?」って感じで話してるが、やってる事ストーカーじゃねえか。まさか先週アスナと料理研究した時も張ってたのかコイツ。
なるほど、コイツから逃げててミコト達はあんなに慌てて飛び込んで来たのか。
しかも更に聞いてると、その監視は任務じゃなく独断との事だった。はいアウト。完全にアウト。鬼人ストップを入れるべくオレたちはアスナの元へと向かった。
クラディールがどの面下げてか、呆れたようにアスナを引き連れようと手を掴んだ。流石にこれは止めなきゃならんと思ったその時だった。
キリトがクラディールの手を掴んだ。
「悪いけど、お前さんとこの副団長は今日は俺たちの貸切なんだ。アスナの安全は俺が責任を持つよ。別に今日はボス戦をやろうなんて思ってないし、本部にはアンタ1人で行ってくれないか」
「ふざけるな!お前らのような雑魚プレイヤーに、アスナ様の護衛が務まるか!私は栄光ある血盟騎士団の……」
「色々言ってるとこ悪いけど、アンタなんかよりキリトの方がまともに護衛できるよ。それに、アンタよりもキリトの方が何倍も強いしね」
無理やりキリトの手を振り払い、反論するクラディールにミコトが口を挟んだ。それがかなり癪に障ったのか、ワナワナと体を震わせたクラディールは何やらウィンドウを操作した。
「……そこまで大口を叩いたのなら、それを証明する覚悟は出来ているのだろうな……!」
キリトの目の前に表示されたのは、デュエルの申し込みだった。手っ取り早く実力で示そうってか。
キリトは1度アスナに目配せし、アスナが団長に報告しておくと言ったので、キリトはデュエルを承諾した。
当然、選ぶのは《初撃決着モード》。一発良いのを当てれば勝ちのルールだ。
デュエルの文字が空中に表示され、キリト達を囲むように人集りができてきた。
クラディールが何かアスナに宣言してるが、オレは気にせずアスナに小声で話しかけた。
「アスナ、いいのか?後で面倒になったりしない?」
「随分前から迷惑してたし、アイツにも灸を据える良い機会だわ。団長には言っておくから大丈夫」
「優しいねアスナは。わたしなら一発ぶっ刺してるよ」
クラディールは両手剣を引き抜き、キリトは背から黒剣を抜き構えた。デュエル準備までの1分が経過するまでに、キリトは油断なく相手を見据える。
そして、カウントがゼロとなった。
それと同時、両者は突進した。
クラディールは両手剣単発ソードスキル《アバランシュ》を。キリトは片手剣単発ソードスキル《ソニックリープ》を発動した。構えの関係上、クラディールが上へ、キリトが下に来る。
《アバランシュ》は両手剣突進技の中でもあらゆる状況へ対応しやすい、とりあえず振っとけタイプのスキルだ。そもそも両手剣に対し、片手剣では防御が押し切られる。クラディールが余裕の笑みを浮かべているのもその考えのせいだろう。
しかし、そこら辺を考えないキリトじゃない。
緑色を帯びたキリトの剣は両手剣を横から叩き、閃光を散らして2人は交差した。
結果、クラディールの剣は半ばから折れ、その先は数秒遅れて地面に落下した。折れた剣がポリゴンとなって消滅し、クラディールは膝から崩れ落ちた。
「ば、バカな……」
アスナが目を見開いて驚いてるが、その気持ちも分かる。
今キリトがやったのは、システム外スキル《
本来耐久値が減ることでしか武器は破壊されないが、たまに武器に高負荷がかかると低確率で《武器破壊》という現象が起きる。
キリトのそれは、技の出始めか出終わりの攻撃判定がないごく僅かな時間の間に、武器の脆い部分に一定の角度で技を当てる事で、意図的に《武器破壊》を引き起こすものだ。
キリトは『それなりの知識と反射神経さえ揃えばナギでもできる』とか抜かしてたが、できるわけねえだろ。人力乱数調整みたいなもんだぞ。ミコトが出来た時はガチで引いたんだからな。
武器を失い呆然とするクラディールに、キリトは剣をしまって問いかけた。
「武器を変えて仕切り直すなら付き合うけど、もういいんじゃないか?」
「くっ、舐めるなよ……!」
クラディールは諦め悪くも別の武器を取り出し、キリトに切りかかろうとした。
が、その剣はキリトに届く前に、割って入ったアスナによって弾かれた。
「アスナ様……あ、アイツが小細工を!武器破壊など、何か狡い真似をしたに違いないんです!そうでもなければ、この私が薄汚いビーターなんかに……」
往生際悪く難癖をつけるクラディールに、アスナは冷ややかに、冷静に宣告した。
「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日をもってわたしの護衛役を解任。別命があるまで、本部にて待機。以上」
「なんだと……」
信じられないという様子のクラディールは、肩を震わせながらキリトを睨んだ。その後、諦めたように肩を落として転移門まで歩いて行った。
転移する直前、もう一度キリトと近くにいたオレとミコトを睨みつけていたのが、気がかりではある。出来れば突っかかって欲しくないが、もう関わる事も無いだろうからいいか。
緊張が解けたアスナは力が抜けたようで、キリトの方によろけた。
「……ごめんね。嫌な事に巻き込んじゃって」
「俺はいいけど、そっちは大丈夫なのか?」
「うん。今のギルドの息苦しさは、攻略を最優先にして団員に規律を押し付けた、私のせいだと思うから……」
「そんな事ないよ!今攻略で血盟騎士団がスゴイ強いのは、アスナのおかげだし!」
「ああ。元々ソロでダラダラやってた俺が言える事じゃないけど、アスナがいなかったら攻略はもっと遅れてたと思う。だから、たまに俺たちと息抜きするくらいじゃ、文句を言われる筋合いなんて無いさ」
良くも悪くも、アスナは真面目だ。クソがつく程に。
そしてオレらとそう変わらない歳の女の子だ。ギルドの実質的なトップを務める重圧など、オレには計り知れない。
だからこそ、思いつめないよう励ます2人の事が、アスナは嬉しいかったのだろう。
「……まあ、ありがとうって言っとくね」
「嬉しかったんなら素直に言えよそこは」
「じゃあお言葉に甘えて、前衛はナギとキリト君よろしくね!」
「ちょ、前衛は交代だろ!?」
「折角4人いるんだぞ!また絡繰屋敷みたいな事にする気か!?」
「よーし、それじゃあレッツゴー!」
◇◇◇
第74層 迷宮区
身長が2mはあろう巨漢の骸骨騎士の攻撃を、アスナは身軽な動きで避ける。
骸骨騎士《デモニッシュ・サーバント》のソードスキルを躱しきり、硬直に入ったモンスターへ細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》を放った。
「やあぁっ!」
骸骨系のモンスターはちゃんと当たり判定も透け透けなので、細剣とは相性が悪いはずなのだが、八連撃を全て当てたのは流石の技量と言えよう。
オレは横目でキリアスの様子をチラ見しながらそう考えていた。やはり2人より3人、3人より4人の方が安定度が上がるな。それも手練4人だから尚更だ。
「キリト君、スイッチいくよ!」
「お、おお!」
アスナの《リニアー》が盾に当たり怯んだところで、キリトが《バーチカル・スクエア》を入れ、ダメ押しの《メテオブレイク》を叩き込む。息ぴったりだな。
そこはオレらも負けてないけどな。
オレとミコトは骸骨騎士に超接近し、左右から怒涛の連撃を入れている。お互いが間合いの内だが、互いの刀が当たる事はない。もはやこの2年で、アイコンタクト無しでの連携もお茶の子さいさいになった。
ミコトがカタナソードスキル《
「フッ!」
そのタイミングドンピシャに、オレはカタナソードスキル《
刀を納め、ミコトとハイタッチするのを、何故かアスナは呆れたように見ていた。
「……キリト君て、いつもあの二人みたいな戦法してるの?私も出来た方がいいかな?」
「アレはあの二人だけだから絶対真似しない方がいいぞ。俺と連携する時はもっとちゃんとやってるし」
「まるでオレたちの連携がちゃんとしてないみたいな言い方だな」
「失礼しちゃうなー、もう」
「実際まともじゃないのよ……」
うん、言っといてなんだけど自覚はある。どこまで息が合ってても、フレンドリーファイアしまくる距離で超近接連携なんて普通はやらんだろう。
まあ、オレとミコトとでの信頼と実績と、あとは慣れとか色々あってこそのキチ連携だから。良い子は真似しちゃいけないやつだ。
その後、迷宮のマッピングをしながら迷宮区を歩き、いつもより順調に進んでいった。
そして長い廊下に出てきたところで、前方の突き当たりに巨大な扉が見えた。
「これってやっぱり……」
「多分、そうだろうな。ボスの部屋だ」
「……ねえ、少し覗いちゃわない?」
「そうだな。ボスモンスターは守護する部屋から絶対に出ないし、開けるだけなら問題ないだろ」
73回も経験してると分かってくるものだ。ボス部屋とそれ以外の部屋を。今回のこれは前者だ。
オレたちは念の為転移結晶を持ち、いつでも緊急離脱できる状態で扉に手をかけた。
「皆いいな?開けるぞ」
キリトがそう言うと、オレたちは扉を押した。石を削るような音を響かせながら、扉は重々しく開いていく。開いた先は、一見何もない真っ暗な空間だった。
「……何もないな」
「そうだな、つか暗くて見えん」
「ちょっと2人とも、あんまり進まないでよ」
「大丈夫だよ、奥には進まないから。それにボスの姿くらい見ておかないと、攻略方法も立てられないだろ?」
「うーん、全然見えない」
「ミコト、それ以上入ると危ない……」
前に入り過ぎそうになったミコトを止めようとした時だった。不意にフロアに異変が生じた。
円形のフロアの壁に囲うように設置されている灯篭。そこに手前から、右には紺青の炎が、左には暗緑色の炎が順々に灯っていく。
そこに佇む、向かい合った2つの異形。
右には、見上げる程の深い青色の巨体に、悪魔を象徴するような山羊の頭、蛇の尻尾。右手にはその体躯に見合った大剣を掲げている。
左には、緑色の肌に右のと同じく巨体。頭は山羊の目から角が生えたような異形。下半身は2つの蛇が螺旋状に絡み合っている。その両手にはそれぞれ片手斧を携えている。
その明らかに異様な様相にオレたちが息を飲んでいると、遅れて悪魔達の頭上にカーソルが現れる。
《The Dusky Eyes》 《The Gleem Eyes》
2体の悪魔はオレたちを認識するや否や、その双眸を輝かせ武器を振りかぶり、咆哮をあげた。
『ooOOOOOOOOOOOO!!!!』
「「うわあぁあぁああぁ!!!!」」
「「ぐえっ!?」」
そのあんまりな凶暴性に叫んだキリトとアスナは、少し前にいたオレとミコトの首根っこを掴んで、ダッシュでボス部屋から逃げた。オレたちが危なかったのは分かるけど、手を引っ張るとかあったろ。
ボス部屋から少し離れた《安全エリア》まで走り、オレたちは壁に寄りかかって座った。
「お、お前ら……もうちょっと優しくとかさ……」
「クラクラする〜……」
「ご、ごめんね。咄嗟の事だったから、つい……」
「にしても、あの感じだと苦労しそうだな。今までも二体ボスは何度かあったけど、あの感じだと二体両方が手強そうだ」
今まで二体一組のボスというと、どっちかが近接特化でもう一方が支援特化だの、実際一体はお飾りだの、そういうのだった。
が、今回のはあまりそれに期待出来そうにない。見た感じ緑の方が支援型ぽかったけど、斧持ってたしゴリゴリに近接してくるだろう。
「小隊を2グループに分けて、それぞれで指揮を執る人がいるね。……ナギお願いできる?」
「何でオレなんだよ。聖龍連合とかでもいいだろ」
「ナギ、前の二体ボスの時も結局指揮してたじゃん。ああいう変わったボスはナギ得意でしょ?」
「まあそうだけど……。攻略組を二個に分けるとしても、今回タンクが沢山必要になる。足りるか?」
「どうだろうな。見たところ、最低でも盾装備のやつが15人位は欲しいな……」
「……盾装備、ねえ……」
キリトの発言に、アスナが疑わしそうに目を細める。
それを見て、キリトとオレが露骨に目を逸らした。似たような視線を先月貰っているから。
「な、なんだ?」
「先月も言ったと思うけど、3人とも私に隠し事してるわよね?」
「ソンナコトナイヨ」
「ナギ、隠す気ならもう少しちゃんと演技しろ」
「隠し事してるのは認めるのね、キリト君」
「ギクッ……」
「お前の方が大概じゃねえか」
「2人ともまだ隠し通せると思ってたんだ……」
ミコトがジト目で見てくるが、こうなったのお前のせいだからな?アスナの泣き脅しに屈しおってからに。
「キリト君はリズに作らせた剣を使ってないし、ナギとミコトは2人で大型モンスターのいるダンジョンに何度も行ってるし、怪しいな〜」
「2人とももう言っちゃえば〜?」
「何でミコトはそっち側なんだよ……」
「だって、スキルの詮索はマナー違反だけど、今日は同じパーティなんだし教えちゃってもいいかなーって。説明するなら、4人の方がいいと思って、わたしはまだ言ってないけど」
ミコトの言い分にも説得力があるのが痛い。
実際、オレもアスナならいいんじゃね?とは思う。まだ公開する気はないけど、ほぼ身内のアスナなら他に漏らすこともないだろうし。
隣のキリトを見ると、オレと同じく唸っていた。コイツもコイツで、アスナに黙ってる理由が見つからないらしい。
オレは観念したようにため息をついた。
「はあ、分かったよ。これ以上隠しとくのも悪いし」
「……そうだな。隠しとく理由も、色々考えたけど思いつかないしな」
「やったあ!」
「ありがとね、2人共。早速、といきたいところだけど、時間も時間だからお昼にしましょう。食べてからゆっくり聞くわね」
笑顔になったアスナは、ストレージから4人分のサンドイッチが入ったバスケットを取り出した。いい匂いもする。
「て、手作りか?」
「そ。ちゃんと手袋外して食べてね」
「わたしも少し手伝ったんだよ!」
「おー、偉い偉い」
ムフフンと胸を張るミコトの頭を撫でつつ、アスナからサンドイッチを貰う。何か懐かしい匂いの漂う、照り焼き感のあるものだった。
キリトが受け取るや否や、大口を開けてかぶりつく。
「美味い!」
「フフ、それは良かったわ」
「にしても、この味どうやって……」
「ククク……知りたいか?キリト。ならば教えてやろう」
「食い気味だねナギ。そんなに話したかった?」
「うんすっごく」
「わー素直」
だってこういうの聞いてくれる人少ないんだもん。アスナ以外で料理するやつなんぞ、見た事ないし。
自信満々で解説モードに入ったオレは、アスナと練りに練ったレシピの数々を表示した。
「これが、私たちの1年の修行と研鑽、あとは色んな失敗の成果だね」
「アインクラッドで手に入るだいたい100種類の調味料が、味覚再生エンジンに作用するパラメータを、一から全部解析したんだ。オレは途中参加だから、半分くらいはアスナ1人の成果だな」
モンスターがドロップするアイテムには、料理に使えるアイテムが多数存在するが、その中でも調味料アイテムは数が少ない。しかも《塩》とかではなく、《○○の△》みたいな名前でドロップするので、1度食べてみなきゃ味は分からない。
オレたちはその今現在で入手できる調味料アイテムの組み合わせにより、本来想定されていない調味料を作り出したのだ。
2種類での組み合わせが終了し、望む味ができなかった時は軽く絶望したな。3種類巡回突入かと。まあその後は、2種類で取れたデータを参照したおかげで早く望む味に辿り着けたのだが。
アスナがバスケットの中に入った小瓶を取り出し、中身をミコトとキリトの手に乗せた。それを2人が舐めとると、驚きに目を丸くした。
「これが、《グログワの種》と《シュブルの葉》と《カリム水》。こっちが、《アビルパ豆》と《サグの葉》と《ウーラフィッシュの骨》ね」
「キリト……!これマヨネーズだ!」
「こ、この懐かしい味は……、醤油だ!」
「このサンドイッチのソースはこの二つで作ったのよ」
「ちなみに、コイツの副産物で出来たのが、その醤油な」
「あっ!こっちは味噌だ!」
《アビルパ豆》と《サクの葉》、そして《アガスマの樹皮》で出来たのが味噌である。緑色の。それが切っ掛けで念願の醤油を手に入れた。
このことを知ったら、前にラーメンもどきを食って静かにブチ切れてた某真っ赤団長はなんとしてでも手に入れようとするだろうな。
「これ、売りに出したらとんでもなく儲かるんじゃないか?」
「ダメだよキリト!そしたらわたし達の分が無くなっちゃう!これは秘匿にしとくべきだよ!」
「た、確かに……!」
「真面目に語り過ぎだろ」
「意地汚いなあ、二人とも。……気が向いたらまた作ってあげるわよ」
「あ、照れた。最近デレが多いなアスナは」
ベタ褒めする2人がむず痒かったのか、頬を赤くしてそっぽを向くアスナをオレが揶揄った。
するとアスナは徐ろにストレージから赤色の液体を取り出した。
「ナギのは《シクの実》と《カスパチ豆》と《マッドアントの目》で作った特製調味料をかけとくわね」
「アスナ!先程の発言は撤回するからどうかご勘弁を!それマジでHP減るから!下手なダメージよりダメージ食らうから!」
「アスナ?何それ」
「……激物、かな?」
「そんなものオレに食べさせようとするんじゃありません!」
「……アスナ、それ少し貰っていいか?」
その後、激物を食べたキリトは平然とした顔で「……いけるな」と呟いた。それに反応したミコトが1口舐めて悶絶していた。
オレとアスナは、もう一口舐めるキリトをドン引きした目で見つめていた。流石のアスナも想定していないギャップだったらしい。
~相談~
ミコ「……ねえアスナ、相談があるんだけど」
アス「なあに?」
ミコ「……ナギがその、最近さり気に色々触ってくるようになったんだけど、そういう事なのかな……?」
アス「もう押し倒しちゃえばいいんじゃないかしら」
ミコ「アスナ!?」
アス(いーつまで
ナギ「キリト、折り入って相談があるんだが」
キリ「? なんだ?」
ナギ「最近、さりげなくオレからボディタッチを増やしてるんだが、ミコトの方に全く動きがない。どうすればいいと思う?」
キリ「じゃ、オレはエギルのとこ行ってくるから」
ナギ「待てよ〜!相談乗ってくれよ〜!」
キリ「ええい離せ!お前たちレベルになると俺ではもう何も言いようがないんだよ!」
ナギ「もう押し倒せばいいのか!?でもそこまでしたら、流石に引かれるんじゃないか!?」
キリ「何でそこで弱気なんだよ!お前アイツに信じろとか言ったんじゃなかったのか!?」
ナギ「いざ自分の事になるとやっぱ不安なんだよ!分かれ!!」
キリ「逆ギレするな!」
次回、大晦日か元日に更新できるように頑張ります。
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