ようやくお披露目!
主人公ズの活躍をとくとご照覧あれ!
結局激(辛)物は摂取することなく昼食を食べ終え、少し休憩してからマッピングの続きでもしようと話した頃。
《安全エリア》内に数人のプレイヤーが入ってきた。一応警戒態勢に入ったオレたちであったが、プレイヤーの姿を見てそれはすぐに解けた。
入ってきたのは、朱色の鎧や着物を着た六人の男性プレイヤー達だったからだ。
そのグループの先頭に立っていた、無精髭を生やし赤いバンダナを巻いた男は、オレたちを見るなり疲れていた顔色を明るくした。
「おお、久しぶりだな!4人一緒で迷宮とは珍しいじゃねえの!」
「よぉーすクライン、久しぶり」
「お久しぶりでーす!」
「久しぶり。攻略以外だと、ミコトの誕生日以来かな?」
「お前らもここに来てたんだな、クライン。なんとか生きてるようで何よりだよ」
「そこは元気そうって言うとこだろーがよ」
攻略組のギルド《風林火山》のリーダー、クラインは朗らかな笑みを浮かべてキリトの脇腹を小突いた。
去年のクリスマスから交流があり、以前はミコトの誕生日にも呼んだ。そのクリスマスの一件でキリトが気まずそうにしてたから、それを解消する意味も込めて。
「というか、アスナさんは何でこいつらと?」
「私、今日からこの人たちとパーティ組むので、以後よろしくお願いしますね」
「まあ、そういうことだ」
「はえー。ただでさえお前さんら3人のパーティ強すぎだってのに、アスナさんまで入ったらマジで向かう所敵無しじゃねーか」
「んな事ねえよ。さっきボス部屋見てきたけど、アレは苦労するぞー?」
「まあ、わたし達が大活躍する事は変わんないけどね!」
ドヤ顔をキメるミコトにキリト達が苦笑いしていると、《安全エリア》にまた人が入ってくる気配がした。それもこの連中より大人数が。
見てみると、やたらと規則正しい足音をたてながら、同じデザインの鎧を着た一団が入ってきた。
「キリト君、《軍》よ」
「みたいだな」
《軍》とは《アインクラッド解放軍》の事であり、第1層を実質支配するSAO最大のギルドだ。第25層で壊滅的被害に遭って以降、前線で見る事はなかったのだが、何故ここにいるのだろうか。
二体縦隊で行進していた部隊は見た目ほど整然としておらず、足取りは重そうでヘルメットの下の顔からは疲弊の色が見て取れる。先頭にいた隊長らしき男が「休め」と言った途端、全員崩れ落ちるように座った。
その隊長らしき男は部下に目もくれず、つかつかとオレたちに向かってきた。
「私は《アインクラッド解放軍》、コーバッツ中佐だ」
「キリト、パーティでやってる」
硬い自己紹介をしたコーバッツというらしい男に、前に出たキリトが簡素に答えた。コーバッツは軽く頷き、重ねて言った。
「君達は、この先まで攻略しているのか?」
「ああ。ボス部屋までのマッピングは済んである」
「ふむ、ではそのデータを提供して貰いたい」
さも当然、と言わんばかりのコーバッツの言葉に、オレとクラインが噛み付いた。
「はあ?何でオレたちが、お前らにタダでデータをやらねえといけないんだよ」
「ナギの言う通りだぞ!手前ぇ、マッピングの苦労が分かって言ってんのか!」
未攻略階層のマップデータは貴重な情報アイテムだ。トレジャーハンターの間では高値で取引されていると聞く。完成品では無いと言っても、無料で提供などはありえない。
オレとクラインの言葉を完全に無視し、コーバッツは声を張り上げて言った。
「我々は一刻も早く、一般プレイヤーをこの世界から解放する為に戦っているのだ! 故に!諸君ら一般プレイヤーが我々に協力するのは、当然の義務である!」
傲岸不遜、傍若無人という言葉コイツみたいな奴の為にあるんだろうなと、心の中で吐き捨てた。
《軍》が一層で横暴な統治をしているというのは、噂でしか聞いたことが無いが、この様子だと本当かもしれないな。
流石にこの態度にはアスナとミコトも頭に来たらしい。ミコトは無言で刀に手を掛けており、アスナは何か声を上げようとした。
しかし、それをキリトは手で制した。
「……どうせ街に戻ったら公開するデータだ。別に構わないよ」
「おいおいキリト、そりゃ人が良すぎるんじゃねーのか?」
「マップデータで商売した事はないよ。ナギもいいか?」
「……お前が良いなら、別にいいけど……」
不承不承に了承したオレを確認し、キリトはトレードウィンドウを開いてマップデータをコーバッツに渡した。貰った当人は「協力感謝する」と全く気持ちの籠ってない声で言い、そそくさと部隊の方へ戻って行った。その後ろ姿にミコトが「キシャー!」と威嚇していた。
その背中に向かって、キリトは声を掛けた。
「ボスにちょっかい出す気なら、やめといた方がいいぜ」
「……それは私が判断する」
「おい、ヘルメットで目見えてねえだろアンタ。お仲間さんすごい疲れてるようにオレは見えるんだけど?そんなんで勝てるほど生半可なボスじゃなかったぞ、この階層のは」
「私の部下はこの程度で音を上げる軟弱者ではない!」
オレの指摘に苛立ったのか、コーバッツは声を少し荒らげた。その内容に部下は賛同してないようだけどな。
部下達を無理やり立たせたコーバッツは、こちらにはもう視線を向けずに、また隊列を組んで行ってしまった。
「……あんの中佐ロールプレイ根性論者め」
「ミコト、声漏れてるぞ」
「ちゃんと言おうと思って言ったもん!」
「お前の嫁は相変わらず強かだねぇ」
頬を膨らませて不満を零すミコトにクラインが苦笑いする。
「にしても大丈夫かよ、あの連中……」
「流石にぶっつけで挑みはしないと思うけど……」
ああまで言っといて心配するクラインもだし、アスナも心配そうな顔をしている。こいつらもこいつらで人が良いよな。
確かにコーバッツの発言は危なっかしいものがあったと思うが……キリトが何か言いたそうだな。
「キリト?どうした?」
「……一応様子だけでも見に行くか……?」
「……ったく、お人好しはお前もかよ」
「そ、そう言って、ナギも心配はしてたんだろ」
「……別に」
キリトの言葉に、クライン達は笑って首肯した。仕方ないが、オレも全く不本意ではあるけど、様子見くらいはしてやるかと決めたのだった。
ボス部屋に行く途中、運悪く《リザードマン・ロード》3体に出くわし、オレたちは《安全エリア》を出てから30分近く経ってしまっていた。しかし、道中で《軍》の奴らは見かけていない。
「ひょっとしてもうアイテムで帰ったんじゃねえ?」
クラインがおどけたように言ったが、どうにも引っかかりが拭えない。
ボス部屋までもう少しといった所で、その不安は的中した。
「うわぁぁぁぁ!」
微かにだが、聞こえたのは確かにプレイヤーの悲鳴だった。それを確認するやいなや、オレたちは一斉に駆け出した。俊敏値の関係上、クラインを除く《風林火山》のメンバーを置いてく形になったが、今はあちらが最優先だ。
ボス部屋へ疾駆しながら、オレはキリトに言った。
「……キリト。最悪の場合、
「! でも……」
「でももヘチマもねえだろ!人が死ぬよりかはマシだ!」
「……分かった。でも無茶はするなよ」
「ハッ、誰に言ってんだよ」
やがて大扉が見える。そしてその中の地獄絵図も。
大きくなる悲鳴を聞き、アスナとミコトがさらにスピードを上げる。オレはついて行くので精一杯だった。
ようやく扉まで辿り着き、その地獄を見た。
巨大な円形のフロアが透けた青緑の炎で真っ二つに区切られており、床には格子状に炎が吹き上がっている。
半円状になったフロアにそれぞれいる二体の巨影。
青い悪魔は、斬馬刀、大鉈とも言える大剣を振り回し、禍々しい山羊の口からは瘴気を噴き出している。
緑の悪魔は、紋様の着いた2本の
奥には分断された《軍》がおり、皆必死に逃げ惑っている。離脱しようにも、入口の方に陣取っているボスがいる限りそれもままならない。よく見れば、緑色の側のプレイヤーの数が少ない。まさか死んだって言うのかよ……。
「何してる!早く転移結晶を使え!」
「だ、駄目だ!結晶が使えない!」
「なっ……」
「今までそんなギミック無かったのに……」
そのギミックを聞いてオレが思い出すのは、《月夜の黒猫団》の一件だ。だがそれをボス部屋で見たことは1度たりともない。
しかしこれでは迂闊にフロアに入れない。その時、先程話したコーバッツが剣を揚げ怒号をあげた。
「我々解放軍に撤退の2文字はありえない!戦え!戦うんだ!!」
「馬鹿野郎!早く逃げ……」
「全員、突撃──!!」
コーバッツのいない緑のフロアには、もう戦う力も意思も残っていそうに無かった。しかし、青いフロアにいるコーバッツ含め8人のプレイヤーは、無謀にもボスへ切りかかった。一斉にかかっても、すぐにジリ貧になるだけだと言うのに。
すると緑の悪魔《The Dusky Eyes》が、両手の斧を高く掲げ、一気に地面に振り下ろした。それにより生じた衝撃波で、オレ達も含めて全員がたたらを踏んだ。そこにすかさず、青い悪魔の凶刃がプレイヤーを襲った。
そのうちの一人、コーバッツはオレたちの下まで吹っ飛び、そのHPバーは消滅していた。そこにキリトが駆け寄った。
「おい!しっかりしろ!」
コーバッツは砕けたヘルメットの下の目を見開き、涙目で言った。
「…………ありえない……」
その言葉を最期に、コーバッツの体は砕け散った。
すぐ側にいたアスナが小さい悲鳴をあげ、ミコトは拳を強く握り締めている。
コーバッツという隊長を失った《軍》の陣形は先程よりも酷くなった。このまま何もしなければ蹂躙されるのは必至だろう。
そう思ったその時、キリトが声をあげた。
「4人とも、聞いてくれ!」
そこからキリトの口から飛び出たのは、驚くべきことだった。
「俺が青い方を倒す!ナギとミコトは緑の方を倒してくれ!」
「なっ、はあ!?おいキリト、お前ら3人だけで倒そうってのかよ!?」
「アスナとクラインは、それぞれの援護に!《風林火山》の奴らも二手に分かれてくれ!」
「ちょっと!無謀過ぎるわよ!そんなの……!」
キリトの気でも触れたかと思う程の作戦に、クラインとアスナが反対した。当然だろう。そんなの死にに行くようなものだ。
だが、オレとミコトの意見は違った。
「アスナ、クライン、四の五の言ってる場合じゃないんだ!今は従ってくれ!」
「わたしからもお願い!もうこれ以上は時間がない!」
「っ……!!」
「……だあぁクソ!アスナ!今はコイツらを信じるぞ!」
アスナは承諾しかねるような態度であったが、クラインの言葉を聞いて絞り出すように言った。
「……死んだら、許さないんだから……!」
「……ああ、絶対に勝つ」
「任せろ!」「任せて!」
オレたちは一斉に、今にも命を散らそうとしている悪魔の元へと走り出した。
「……頼んだぞ、キリト!」
「ああ、そっちも任せたぞ、ナギ!」
◆◆◆◆
俺とアスナは青白い炎が囲むフロアへと足を踏み入れた。そして、巨剣を振りおろそうとする悪魔へと走った。
「ダメ───ッ!!」
絶叫と共に、アスナは細剣を抜いて光の如く駆け出した。空中で煌めいた閃光はグリームアイズの背を軽く抉る。
その一撃はボスのHPをほとんど減らす事は無かったが、グリームアイズの殺意はアスナへと向いた。
猛烈な勢いで振り下ろされた斬馬刀をアスナは紙一重で躱したが、体勢を崩した。
そこに無慈悲に降りかかろうとする一撃の間に俺は入り込み、ギリギリで大剣をズラす事に成功した。
そのままボスのヘイトが疲弊したプレイヤーに向かないよう攻撃を続ける。しかし、ボスの大剣はかすっただけでも俺のHPをジワジワと削る。いつまでもこうしていたら、先に死ぬのは俺だ。
脳裏に映されるのは、あの日。俺が1度全てを失った、あの時の出来事。最期にあの言葉を残して死んだ彼女の記憶。
もう、同じ事は起こさない。同じ結末にはしたくない。
意を決して、俺はアスナに叫んだ。
「アスナ!頼む!5秒だけ時間を稼いでくれ!」
「分かった!」
細剣装備のアスナは、大剣装備のボスとは相性が悪い。攻撃を避ける事は出来るが、受ける事はできない。少しでも早くしないと、アスナが危険だ。
俺は後ろに下がり、間髪入れずウィンドウを開いた。スキルの方の設定は済んである。あの二人と、何度も練習したから。あとは装備を呼び出すのみだ。少しの遅れも許されない操作である。
ストレージから装備を選択し、操作は完了した。
「よし、いいぞ!」
既にアスナのHPは、半分を切ってイエロー表示になっている。これ以上は継戦できない。
アスナは俺の声を背に受け、最後に突きを放ってボスを後退させた。
「スイッチ!!」
俺は叫ぶと再び青い悪魔の前へと飛び込んだ。敵を認識した悪魔が、俺へと剣を振りかぶる。
俺はその剣を右手の愛剣で弾き、すかさず左手で背に実体化したもう一つの剣の柄を握った。
抜きざまに一撃をボスの体へと打ち込み、HPが初めて目に見えて削られる。
『GUOOOOO!!!』
憤怒を見せたボスの上段の斬り下しを2本の剣で受け止め、逆に押し返した。
奴の体勢が崩れたと同時、俺はソードスキルを発動させた。
「《スターバースト・ストリーム》!!!」
エクストラスキル《二刀流》、その十六連撃ソードスキル《スターバースト・ストリーム》。
右の剣で中段を斬り払う。間を入れず左の剣でも斬る。そして右、左、同時。脳の処理速度を超えて剣を振り続ける。
猛攻の中でも、グリームアイズは俺へと拳を向ける。ソードスキル発動中、体を自分の意思で大きく動かす事はできない。それはこの十六連撃には当てはまり、発動中は大きく隙ができる。
「おおおっ!!」
が、俺はその拳を剣の動きを微調整して斬り払った。
何度も戦った。
更に攻撃を加速させる。さながら夜空を駆ける流星のように、剣を走らせる。
だが、まだだ。
(速く……もっと速く……!!)
限界まで加速された俺の脳内では、普段の倍の速度で振るう剣すらまだ遅い。システムアシストすら自分の速さで上回ろうという速度で剣を振り続ける。
グリームアイズの攻撃を避け、弾き、更に攻撃もする俺の頭は既に限界を超えていた。
最後の攻撃、左手の剣での渾身の一撃を、グリームアイズへと放った。
「………ぁぁぁああああ!!!」
───その瞬間ボスの体は硬直し、膨大な青い硝子片となって爆散した。青い炎が消える。
(終わったのか……いやまだだ。早くナギ達の、方へ……)
戦闘の熱が冷めやらない頭で、ナギ達がいる緑の炎の中へと向かおうとした。
が、1歩踏み出した時、限界を超えた俺の頭はスパークして、意識を失ってしまった……。
◆◆◆◆
緑色の毒々しい炎が舞い上がる部屋の中、オレは歯を噛み締めた。
プレイヤーの数がやはり少ない。丁度半分に分断されたのなら、3人は死んでいる。
緑色の異形は、オレたちが入ってきた途端、体をこちらに向けた。どうやら、高レベルのプレイヤーを狙うように設定されているらしい。やりやすくて助かる。
「クライン達はアイツらを避難させてやってくれ!このデカブツはオレらでやる!」
「おいナギよ!つってもどうやるんだよ!?」
「そこは大丈夫!速く行って!」
クラインは頭をグシャグシャ掻きむしりながらも、「死んだらぶん殴ってやるからな!」と言って救護に向かってくれた。その背中に心の中で感謝する。
ゆっくりとこちらに歩を進める緑の悪魔を見据える。
「……ミコト。多分コイツ、あっちのより手強いぞ」
「みたいだね。でも、関係ないでしょ」
油断は出来ないが、時間があるのを良いことに、オレたちはストレージから武器を呼び出す。キリトのように2本持てないので、《日光一文字》と《月光一文字》は仕舞った。
オレの左手とミコトの右手に現れる。刃渡り1m以上はある大太刀。そのうちミコトの剣が
下半身をしならせてスピードを上げるダスキーアイズを見ながらも、オレ達はいつものルーティンを行う。
「忘れないでよね」
「ああ、そうだな」
拳をコツンと合わせ、同時に刀の柄を握る。
ボスに肉薄する程近付いた瞬間、
「RRRRRRRR!?」
ボスの体が宙を舞った。それをやったのは、二つの剣閃。オレの持つ大太刀と、ミコトの持つ太刀だ。
エクストラスキル、その名を───《
このスキルは、設定したオレ達2人の武器の攻撃範囲、即ち剣の長さを、『合計約180cm』の範囲で自由に変える事が出来るようになる。
例えば、オレが刃長を1mと設定したら、ミコトの刀の刃長は80cmとなる。なんとも半端な数字に見えるが、案外これが扱い易い。
そしてこのスキルを十全に扱うのに、《一文字》シリーズよりも適した武器を、オレ達は55層のDLAで手に入れていた。
オレのカタナ《
この2本はデフォルトが大太刀であり、デュエルもする普段使いには使い勝手が悪いことこの上なかったのだが、《鬼神刀》があればそれを気にする事はない。
『RRRRRRRR!!』
仰け反ったダスキーアイズは姿勢を戻し、両手の斧をオレへと振りかぶるが、オレはそれを大太刀で受け止める。リーチが長くなったことで、2本同時に受け止める事が出来る。
「ハアッ!!」
オレが止めている間にボスの背後へ移動したミコトが斬り掛かろうとする。その瞬間、オレの刀を縮め、ミコトの刀が伸びた。ミコトの刃が背中を大きく斬り裂く。
このスキルは、部位欠損状態を引き起こす事が多い。腕や足ならば数打ちゃ斬り落とせるかもしれない。
「即行で決めるぞ!ミコト!」
「オッケー!ナギ!」
このボスは見たところ、動きで撹乱してくるタイプだ。
それならば、今動けないプレイヤーに危害が無いよう、動かすこと無く仕留めた方が良い。
オレとミコトの刀がそれぞれ赤、青に輝く。
《鬼神刀》ソードスキル───
赫と蒼の剣が踊る。
一つは燃え盛る業火のように、一つは荒れ狂う激浪のように。ボスを挟み、示し合わせずとも合う息のまま、それぞれ八連、合計十六連の斬撃が、緑の悪魔の体を斬り刻む。
ミコトが下半身の蛇が噛み付こうとしてきたのを、刀を伸ばして纏めて叩き斬る。オレが斧で刀を弾こうとしたのを、刀を縮めて力で押し切る。
ソードスキル発動中でも、《鬼神刀》はオレ達の意思で行使が可能だ。しかし、それはお互いの考えをお互いが分かっているからこそ出来る事である。
異体同心であるオレ達だからこそ、その性能を120%まで引き上げる事が出来るのだ。
『RRRRRRRR!!!?』
いつの間にか両の腕を斬り落とされ、耳障りな咆哮をあげる緑の悪魔。引導を渡すべく、オレ達は最後の一撃を叩き込む。
それぞれ半分の大きさ、90cm程の大太刀となった刀は、より一層強く煌めく。
「「はぁああああ!!!!!!」」
横薙ぎの一閃が走る。
赤と青が重なり、紫色となった光が悪魔と重なった。
───刹那、緑の異形は青い硝子となって破砕した。
ボスが一体倒された事を確認し、キリトの助けに入ろうとしたところ、フロアの炎が一斉に晴れた。
どうやら、助けは無用だったらしい。
『Congratulations!!』の表示が出てきて、体の力が抜けそうになるが、そこはグッと耐えた。
オレの視界の端で、キリトが倒れそうになってるのが見えたから。
「っ! キリト!」
「キリト君!」
倒れかけたキリトを走ってきたアスナが受け止めた。その数秒後、キリトは目覚めた。
目が覚めたキリトに、涙目になったアスナが抱きついた。
「馬鹿っ!また無茶して……!」
「……いててててて……えっと、どのくらい気を失ってた?」
「数秒だよ。スキル使って頭がオーバーヒートしたんだろ」
「始めて使った時もだけど、またやり過ぎちゃったんだね」
よく見るとキリトのHPはレッドゾーンに達している。二刀流の弱点を克服しようとはしたものの、やはりボスの片割れに一人で挑むものでは無いな。キリトの策に乗った口で言える事じゃないけど。
未だキリトを抱き締め続けるキリトに、クラインが深刻そうな顔をして歩み寄った。
「……コーバッツと、あと4人死んだ」
「……そうか。ボス攻略で犠牲者が出たのは67層以来だな」
「あんなもん攻略なんて呼べるかよ……。コーバッツの馬鹿野郎が。死んじまったら何の意味もねえじゃねえかよ!」
クラインが吐き出すように言った言葉に、《軍》の連中は嗚咽を漏らしていた。どうやら、あれでも慕われていたらしい。
クラインは頭をブンブン左右に振り、雰囲気を切り替えるように言った。
「それはそうと、お前らあの技は何だよ!?キリトのは薄っすらとしか見えてねえけど、あのボスをたった三人でなんてな……」
「……言わなきゃ、ダメか?」
「ったりめえだ!見た事ねえぞあんなの!」
「キリト、もう観念しよう。どうせ次のボス攻略までには公開しなきゃならないだろうしな」
気付けば、オレ達のパーティ四人を除く全員が説明を待つように沈黙している。腹を括るしかない。
キリトは重いため息を吐くように言った。
「……エクストラスキルだよ、《二刀流》」
キリトの台詞に、全員に驚き混じりのどよめきが流れる。当然の反応だろう。盾を除き武器を一つしか持てないこの世界で、武器二本持ちは絶大なアドバンテージだ。
続いての説明を求めるように、視線はオレとミコトに向いた。
「オレ達のは、《鬼神刀》。2人で1つのスキルだ」
「分かりやすく言うと、武器の長さを変えられるスキルだね」
これにも当然どよめきが流れたが、少しキリトの時とはニュアンスが違った。驚き、と言うよりは困惑だろうか。
まあ、それもやはり当然だろう。2人で1つのスキルなど、アインクラッド中を探し回ってもこれ以外存在しないと思う。
「情報屋のスキルリストにも載ってねえ。てことはお前ら専用、ユニークスキルってことじゃねえか」
エクストラスキルなら、《カタナ》とか《体術》とか他にも色々ある。取得してる人なら数えれば数百人は持ってると思う。
しかし、《二刀流》と《鬼神刀》はオレ達以外に見た事がない。隠してる人がいるのかもしれないが、多分クラインの言う通りユニークスキルだろう。
「ったく水臭えなあ、そんなスゴイ裏ワザ隠してたなんてよぉ」
「スキルの出し方が分かってれば、すぐにでも公開してたさ。でも、それがさっぱりなんだよ」
「半年くらい前に、オレ達のウィンドウに突然現れてな。何か特別な事した訳でも無いはずなんだが……」
「て事になると、あんまり無闇に広めちゃうと、ね?」
「ネットゲーマーは嫉妬深えからなぁ。俺ぁ人間ができてるからともかく、妬み嫉みは出てくるだろうなぁ……」
クラインの言ったように、そういう面倒事を嫌うキリトや、ミコトをそういう目に遭わせたくないオレが、言うのをずっと渋っていたのだ。
すると、顎に手を当てたクラインはまだ離れないアスナに気まずそうにしてるキリトを見遣り、ニヤニヤして言った。
「……まぁ、苦労も修行のうちと思って、頑張りたまえ若者よ」
「……勝手な事を」
「マジ頑張ってよキリト」
「ミコトも便乗するな」
キリトへサムズアップするミコトを窘め、転移門の
オレとミコトはキリト達の邪魔をしないよう、少し離れた壁際で様子を見ていた。
「今日は、キリトの方が無茶したね」
「……だな。あいつも、もう同じ結末にはしたく無かったのかもな」
ボス部屋にたどり着いた時、オレは迷った。すぐに間に入る事は可能だったが、その場合ミコトを危険に晒す事になるから。
キリトが言ってくれたから、少しでも多くを助ける事が出来たんだ。
「……嬉しかったな。キリトがああ言ってくれて」
「キリトも一歩前進だね」
ミコトがこちらに笑いかけてくるのを、こちらも微笑みを返した。こう笑えるだけで、オレの中では結果オーライと言っていいんじゃないかな。
するとミコトはキリト達に視線を戻した。心無しかニヤニヤしていた。
「何言ってると思う?あれ」
「『キリト君に会えなくなるんじゃないかって、怖かった』とかか?」
「それ中一の時のわたしの台詞!?」
「正っ解」
「ム〜」
「ちょっ、鞘でグリグリしてくんなって……そのまま伸ばすなって!?つか刀伸ばすと一緒に鞘も伸びんだな、今知ったわ!」
ぐぐぐ〜とオレの頬を徐々に圧迫していく鞘を抑えつけながらキリト達を待っていると、話が終わったらしい2人がこちらに来た。アスナはまだ弱ってるのか、キリトの手を離そうとしない。
気まずそうに言い渋るキリトに、オレから振ってやった。
「で、何が決まった?」
「そこは分かってるんだな……」
「……私、ギルド休むことにしたから。まだキリト君達とパーティ組むから」
「……うん。ごめんねアスナも。また無茶しちゃってさ」
「もう、そんな優しくしないでよ……!」
涙目のアスナの頭をミコトがヨシヨシと撫で、更にアスナの目尻に涙が溜まった。意外と涙脆いのかもしれない。
オレ達はアスナを慰めながら、帰路に着いた。
◇◇◇
「だぁから発表したくなかったんだよクソがああああああ!!!」
「引っ越してやる……どっかすげえ田舎の誰にも見つからないフロアに引っ越してやる……!」
「……ナギ達が発表したくなかった気持ち、今更分かった気がする……」
翌日19日、オレ達三人は朝っぱらからエギルの雑貨屋の二階にしけ込み、思い思いの呪詛を吐き出していた。
その理由は言うまでもない。既にアインクラッド中に広まったニュースのせいだ。フロア攻略、最後のクォーター・ポイントの到達というだけでも大ニュースのはずなのに、どうしてこっちの方が大きく取り上げられてるんだ……。
エギルが呑気に茶を啜りながら茶化すようにニュースを読み上げた。
「『軍の大部隊を壊滅させた二柱の魔神』『その一柱を倒した二刀流使いの五十連撃』『二柱目を倒した鬼神の伸縮自在の神威』……こりゃ随分大きく出たもんだな!ハッハッハッ!!」
「笑い事じゃねえんだよハゲェ……!」
「朝起きたら部屋の前に血走った目をした野郎どもがいた時の気持ちを考えた事があるのかよ……!」
「尾ヒレ付き過ぎてもうヒレが本体みたいになってるし……、部屋から出れなくて転移結晶まで使う派目になるし……、最悪だよぉ……」
何でアイツらはオレ達のねぐらを知ってたんだろうか。オレとキリトなら別にいいが、ミコトの身辺調査もしてたんなら、そいつらにお望み通り鬼神の神威ってのを見せなくてはならなくなる。そうならない事を願うばかりだ。
オレ達が項垂れてる間、エギルは上機嫌にオレ達が納品しに来たアイテムの鑑定をしている。そこに武器を売りに来たリズも入ってきた。
「それはアンタらの自業自得なんじゃないのー?わたし達の秘密だーって言ってたのをバラシちゃったんだから」
「リ〜ズ〜、助けてよ〜」
「え〜、どうしようかしらね〜」
「別にオレは『この伸びる武器、実はリズベット武具店って所で作って貰ったんですよぉ』って吹聴してもいいんだぞ? ん?」
「アンタマジでやめなさいよ!? 作成不可能の武器作れって依頼来たらどうすんのよ!」
「お前ら元気だな……」
キリトがぐったりしている。アスナを待って、もうかれこれ2時間だからな。今、アスナは休むってのを報告しにグランザムにあるKoB本部に行ってるのだが、あの騎士団は休暇届を出すのにもこんなに時間がかかるブラックギルドなんだろうか。労基守ってるのかな?
そんな事を考えていると、階段を勢いよく駆け上がってくる音が聞こえた。バン!と扉が弾け飛び、息を切らしたアスナが飛び出してきた。
「ハァ、ハァ……どうしよう皆……!大変な事になっちゃった!」
……どうやら、今週は連続で凶日らしい。
勝手にQ&Aコーナー
Q,キリト強くなってない?
A,キリトの強さは原作では一人で手に入れたものです。二刀流スキルも一人でこっそり練習して熟練度上げてたみたいですし。
しかしここには高め合えるうちの子達がいます。原作アニメでは途中で三発くらいグリームアイズ君から貰ってましたが、本作ではそれすら斬り伏せての勝利ですね。キリトには今後ともちゃんと主人公やらせる方針でいきます。
Q,ダスキーアイズって何よ
A,はい、ナギとミコトの活躍の場を作る為に私が創造したもう一体のボスです。詳しい攻撃手段は見せずにうちの子達に斬り刻まれましたが。
話の都合上、フロアに入ったプレイヤー達を分断し、各個撃破を強制するクソゲー仕様になりました。グリームアイズ君と強さはトントンですが、力こそパワーなグリーム君と違い、ダスキー君は技巧派です。見せてないですけど、本当ならアスナぐらいのアクロバットしますし、下半身の蛇はブレスしてきます。キリトなら負けてました。はめ殺し出来る二人だから勝てたんですね。
Q,《鬼神刀》とは何ぞ?
A,ユニークスキルって便利な設定ですよね。公式で7種しかし出されてないから、残り3つは自由に作れるんですよ。そりゃあ盛りもりしちゃいます。だから能力がややこしくなったのは許してくだちゃい。
『何で合計約180cmなんて中途半端な数字にしたんだよ』というのには理由がありまして。これ実際は『六尺』という設定です。刀は三尺(約90cm)を超えると大太刀という分類になるのですが、両方が丁度大太刀になる長さがこれだったので、ということですね。
ゲームバランスは壊してない、と思いたいです。正直この二人じゃないと使いこなせないスキルにしたかったので。多分キリトとアスナがこのスキルを持っても、ナギとミコト程扱えないです。
追加された二振りの新武器ですが、これからはこの二本が二人のデフォルト装備となります。《一文字》シリーズ、君たちの事は忘れない……。
設定はこちらに載せときます。
《
《エリュシデータ》同様、フロアボスのLAボーナス。赤黒い刀身に、炎を思わせる刃文がある大太刀。攻撃力は全装備の中でも随一であり、余裕で90層以降でも活躍出来る。かなり重いが、ナギは片手で振り回している。
《
DLAボーナスによりドロップするレア武器。《大嶽丸》とは夫婦剣。青白い刀身に、流水のような刃文がある。大きさに見合わず重さは普通の太刀程であり、ミコトでも片手で振るえる。鞘は誕生日にリズに貰った物。
次回更新遅れるかもです。お待ちください。
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