ソードアート・オンライン ~双角の鬼人~   作:句読仮名丸

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全然進まない、そしてまた長くなる



第2話  この世界で生きる意思

 茅場の赤ローブのアバターが崩れ落ち、空が元の夕焼けに戻る。

一時の沈黙のあと、広場を包んだのはプレイヤー達の怒りと恐怖の声だった。

 

「ふざけんなよ!ここから出せよ!」

「殺す気かよ! 」

「出してくれよ!」

「誰か!何とかできないのかよ!」

 

 一瞬にして阿鼻叫喚となった周囲を見て、オレはミコトの手を取った。

 

「ミコト!こっちだ!」

「ナギ?」

 

 ミコトの手を引っ張って、広場から離れ閑散とした路地に走った。

そして、息が落ち着いた所で話を切り出した。

 

「ミコト、状況の整理はできたか?」

「まだ、少しかかりそう。ねえ、ホントにこっちで死んだら、現実でも死ぬの?」

「……あれだけだけの事をして、実際は嘘、なんて事はないだろう。実際、あいつが見せたニュースの映像は偽造じゃないだろうからな」

「そっか……」

 

 暗く俯くミコトだったが、少ししたら再び顔を上げた。

 

「それで、これからどうするの?」

「……大きく選択肢は2つ。1つは、茅場の言葉通り、このゲームを攻略して脱出すること。あいつが本当のことしか言っていないのなら、これ以外に方法はない。

けど───」

 

「じゃ、それでいこっか」

 

「リスクが……………は?」

 

 余りにも速い決断に、思わず呆けた声を出してしまった。

見るとミコトは、さっきまでの不安がさっぱり消えたかのように、真っ直ぐこちらを向いている。

その目に、迷いは一切なかった。

 

「リスクなんて承知の上でしょ。ゲームなんて全部そんなもんだよ」

「これは他のゲームとは違うんだ!遊びの感覚でやってたら、本当に死ぬかもしれないんだぞ!」

「それも分かってる。だから、茅場さんはSAOを『これはゲームであっても、遊びではない』って言ったんだろうね」

 

 平然とそう言うミコトに、思わず頭を抱える。

何でコイツは、こういう時には男顔負けの度胸を見せるんだろうか。

 

「ねえ、ナギ。言おうとしてた2つ目ってさ、『外から助けが来るのをこの街で待つ』的なことでしょ?」

「ああ、少なくとも命の危険は───」

「それはダメ。だってそうしたら、ナギ1人だけ攻略行っちゃうでしょ?」

「……勘、か?」

「いや、確信。わたしが知ってるナギなら、そうするって絶対言える」

「たまに怖いぞ、お前」

「何年一緒にいると思ってんの」

 

 笑って答えるミコトに、オレは力が抜けてため息をついてしゃがみ込んでしまう。

すると彼女もしゃがみ込み、呆れたような顔でオレにデコピンを一発。

 

「いっつ……」

「ナギ、わたしが死ぬのが不安なんでしょ」

「……ああ」

「なぁに弱気になってんの。らしくないよ?いつもなら『ミコトはオレが守る!』って啖呵切って抱き着くくらいしてるよ?」

「最後の抱き着くっている?」

「ハグ魔じゃんナギ」

「ブーメラン突き刺さってるぞ」

「ほら、ツッコミにキレがない」

 

「……もう、怖くなくなったのか?」

「そういう訳じゃないけど、気持ちも状況も整理出来たから。それに、何かあってもナギが守ってくれるでしょ?」

「その言い方ズリィぞ。否定できないじゃんか」

「わたしが言いたいのは、もっとわたしを信じろって事。前にも何回か言ったはずだよ」

「信じろ、か……」

 

 少し、過保護になってたのかもな。

実際に死の恐怖に晒されることなんて、今までなかったから。ミコトを失う恐怖が、オレを弱気にさせていた。

 

(それで、その本人に勇気づけられてたら、世話ないよな……)

 

 頭をグシャグシャと掻きむしり、気持ちを整える。

勢いよく立ち上がり、ミコトの顔を見る。

その顔は、さっきと同じく、何の不安も恐怖もない。

 

「……よし!」

「お、戻ったかな?」

「おかげさまでな。ちょっと弱気になってたわ」

「そりゃ良かったね」

 

 改めて、ミコトに向き直り、宣言する。

 

「オレは、この世界を生きる。そんでこのゲームをクリアして、ミコトを解放する」

「わたしも、一緒に行く。ナギと一緒に、この世界で生きる」

「ああ、背中は任せた。命に変えても、お前はオレが守る」

「お、言うねぇ。なら、背中は預けたよ。けど、命には変えないでね。死なば諸共、だから」

「怖ぇよ」

「あ、『死がふたりを分かつまで』の方が良かった?」

「重いわ」

 

 いつもの漫才も調子を取り戻してきて、2人で笑う。

 

「よし、そうと決まったら、早速次の街行って経験値上げだ。MMOはリソースの奪い合いだからな。何事も早いもん勝ちだ」

「おっけー!そんじゃあ、レッツゴー!」

 

 軽やかな足取りで、オレたちは路地を駆けていった。

 

 

「……あ、ハグしてない!しよう!」

「やっぱお前の方がハグ魔だろ」

「したくないの?」

「ノーコメントで」

「えいやっ!」

「ばっ!?走ってる時に来るなよ、転ぶわ!」

「善は急げって言うじゃん?嫌だった?」

「……ホント、性格悪いぞ」

「その性悪女を選んだのはナギだよ?」

「ならオレも性悪か?」

「浮気するっちゃ!?浮気は許さないっちゃよ!」

「性悪=浮気ではなくない?」

 

 ……もうお気づきの方がほとんどかもしれないが。

一応、追記しておく。

聞いても叩かないで欲しいが……お察しの通り、オレたちは恋人同士である。

いや、むしろ付き合ってなくてこの会話してたら、どんな奇跡だよとは思うけど。

 

 まあそんなこんなあって、オレたちはデスゲーム攻略に進んだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 オレたちが出会ったのは、小学校5年生の時だ。

 

 友達ずてに知り合ったオレたちは、互いの苗字に『右・左』とあり、何となく親近感が湧いた。

 

 オレが初めて尊とあった時の第一印象は、『バカっぽそうな可愛い子』であった。

一目惚れかって?いや、そうじゃない。そうだとしたら、最初に『バカっぽそう』なんて言わない。

 

 ちなみに、尊に聞いたオレの第一印象は、『表情薄い女の子みたいな男の子』だそうだ。前半はともかく、後半は大変不名誉である。

顔は確かに女顔かもしれないが、声変わりはしてるし、身長も今じゃ平均以上はある。……まあ、尊の身長が女子高生にしては高めだから、抜かされるんじゃないかと中学の頃は冷や冷やしていたが。

 

 脱線したが、出会って初めの頃は、共通の友達がいる時に喋る位で、特段仲が良いという訳でもなかった。

転機は、その時の友達グループで格闘ゲームをした時だ。

 

 オレは当時から、ゲームやPCとかに興味があって、同年代ならば誰にも勝てる自信があった。

完全にアウトドア派かと思っていた尊に、完敗するまで。

 

『んなっ!?』

『ヤッター!大勝利〜!』

『も、もっかいだ!次は勝つ!』

『それさっきも言ってたね〜。負け猿の遠吠えって言うだっけそれ?』

『負け犬だ!猿は遠吠えしねえよ!って誰が負け犬だ!』

 

 初めてゲームでコテンパンにやられた。しかも完全に見縊っていた相手に。

そこから、尊が実はかなりのゲーマーである事を知り、互いに勝負を仕掛け、気づけば2人でゲームの為に集まる程になった。

 

 そこから、段々とゲーム以外でもよく連むようになり、中学1年まで同じクラスだった事もあり、ほぼ親友と言って良い程の仲になっていた。

 

 そう、親友である。当時中学1年だったオレたちには、『恋愛』などという浮いた事は、全くと言っていい程なかった。せいぜいが『親愛』レベルで、『友達としてなら最上位くらいに好き』って感じだ。

周りから見れば友達以上恋人未満、なんて甘酸っぱい関係のように見えたかもしれないが、当のオレたちはそんなことは一切頭になかった。

なぜなら……

 

『あ!今の当たってないって!絶対バグだって!』

『当たり判定デカイの使ってるのが災いしたな。今回はオレの勝ちだ』

『ビデオ判定頼みます!審判!』

『ジャッジ、ウィナーオレ』

『審判交代!』

『見苦しいぞ、負けを認めろ』

『ハーン!?わたし本気出してませんしー!?全然手ぇ抜いてましたしー!?』

『ハッハッハ!負け犬の遠吠えはよく響くな!』

『小5ん時の格ゲーでの負け犬が何か言ってんねぇ!』

『過去の栄光に縋るな負け犬が!今度こそ本物の吠え面かかせてやるよ!』

『やってみろし!!』

 

 とまあこんな感じで、ゲームの度に口汚く罵り合うような相手だ。恋心なんて、種が撒かれても、芽を出すことがなければ永遠に花開くことなんかないのだ。

 

 

 ……それが、芽生える事があるとすれば。

きっとそれは、当たり前だと思っていた種が、掘り返されるような時だろう。

 

 

 ───中学1年の冬、都内のある町で、通り魔事件が起こった。

実際には未遂で終わったが、それは、ただただ運が良かった結果に過ぎない。

 

 あの日、オレたちはいつものようにゲームをする為に、尊の家に下校していた。尊の家の方が、色んなジャンルのゲームがあったから。

帰り道、突如後ろから襲ってきた通り魔の男に、尊は捕まった。

 

『く、来るなあァ!?来るなぁぁ!!』

 

 男は薬でもやっていたのか、ひどく錯乱しており、言葉が通じる様子ではなかった。

男に抱えられ、首に包丁を突きつけられ、あまりに突然の出来事に尊は声を上げる事も出来なかった。

今思えば、あそこで声を出していたら、錯乱した男がどうしたものか分かったもんじゃないから、ある意味幸いだったかもしれない。

 

 声を出せないながらも、心の底から怯えた表情を見せる尊とその状況が、オレの頭に1つの事実を突きつけてきた。

 

 

《尊がいなくなるかもしれない》

 

 

 ───それを理解した瞬間、オレの動きは、あとから思えば、自分でも驚く程に迅速だった。

持っていた傘の先端を男の右目に突き刺し、それを庇おうと右手の包丁を離したところで、包丁を傘で払った。

 

 尊を抱き寄せ、出せる最大音量で助けを呼んだ。

近くにいた通行人に男はすぐに取り押さえられ、尊は助けることができた。

 

 オレに助けられた直後、尊はしばらく放心しており、ようやく反応があったと思えば、普段の笑顔からは想像もできないくらいに、大声を上げて泣いた。

 

 アドレナリンが出まくっていたオレは、その声で意識を尊の方に向けた。

泣きじゃくる尊に動揺してしまって、オレはただ抱きしめることしか出来なかった。

やがて、尊は泣き疲れたのか、いつ間にか眠ってしまっていた。

 

 その後、オレは尊の両親にこれでもかというほど感謝されたが、それと同じくらい警察と母親にブチギレられた。

なんでそんな無謀な事をしたのか、と。何かあったらどうするんだ、と。

 

 自分でも、なんであの時あそこまで感情任せに動いたのか、説明出来なかった。

説教の最中も、オレはそれの事ばかり考えていて、そのせいで説教タイムが1時間ほど延長された。

 

 落雷のごとく叱られて、最後の方でシラフに戻ってきたせいで半泣きだったオレに、父さんが話しかけてきた。

 

『災難だったな』

『どっちが?』

『どっちもだよ。後半はお前も大概悪いけどな』

『けど……』

『なんだ?』

『自分でも、なんであんな事したのか、分からないんだ』

『ふむ……』

 

 オレの問に、少し考えるポーズをとる父さんだったが、やがてそれに応えた。

 

『多分、お前は、怖かったんだな』

『怖かった?何が?』

『尊ちゃんを失うのがだ』

 

 その言葉で、ようやく気付いた。

『尊を失う』……確かにオレは、その可能性の存在を認識した。

それが、どうしようもなく、怖かったんだ。

 

 それが、親友的な意味でか、恋愛的な意味でかは、この際どうでもよかった。

ただ、オレの中で、オレ自身が自覚していなくとも、尊の存在は途方もなく大きくなっていた。

それが、どういう『好き』という感情なのか、分からなかった。

 

 次の日、一応学校を休んだ尊に会いに、学校をサボって会いに行った。

 

『あ……いらっしゃい……』

『お、おう……』

 

 お互いに、妙にたどたどしく挨拶をして、尊の部屋に行った。いつものように、ゲームをする気分にはなれなかった。

 

『『………………』』

 

 オレは何か言うタイミングを探って、中々切り出せないでいた。

1日くらいじゃ、人生で初めて経験する感情を整理するなど、できるわけもなかったのだ。

 

(どうする?何て切り出せばいい?『昨日は大変だったな』?いやいやノンデリが過ぎる!『怪我はなかったか?』コレならどうだ!自然で何も怪しまれない!よしこれで……っ!?)

 

 沈黙を打破しようと思考を巡らせていた途中、尊がいきなり抱きついてきた。

 

『み、尊?』

『……かった……』

『?』

『……怖、かった………天音が、助けて、くれた時、あのまま、わたしが死んじゃって………天音も、死んじゃうんじゃないかって………』

 

 零れてきたのは、涙で震えた声だった。

 

『もう………天音に、会えなくなるんじゃないかって………怖かった………』

 

 そう弱弱しく吐露する尊の姿を見て、自然と両手を広げて抱き返す。

 

『………安心しろ。オレはここにいる。どこにも行きやしない。だから、そう不安がるな』

『うん………どこにも、行かないで。ずっと、側にいて………』

『当たり前だ。絶対にお前を1人にはしない。だから、尊も、居なくならないでくれ』

『うん……うん………』

 

 子どもをあやす様に、優しく頭を撫でながら言葉を返す。

そこで、オレは自分の気持ちにようやく気が付いた。

 

(オレは、好きなんだな。尊のことが………)

 

 この感情を、『恋愛』と名付けていいのかは分からなかったが、それ以外の表現が浮かばないのも事実だ。

 

『尊』

 

 名前を呼ぶと、ゆっくりと、涙で腫れた目を向けてくる。

今がそのタイミングではないのかもしれないが、それでも言いたかった。

今言わなければ、伝えなければ、またどこかに行ってしまいそうだったから。

また、この手から離したくなかったから。

 

 

『………好きだ、尊』

 

 

 我ながら、ありふれ過ぎている告白だとも思うが、変に捻る発想はこの時なかった。

些か突然なオレの告白に、尊は一瞬驚いたように目を丸くする。しかしその後、また泣き出しそうに顔を歪め、言葉を紡いだ。

掠れていて、今にも消え入りそうで、けれどもその言葉はハッキリと聞こえた。

 

 

『……はい……わたしも、大好き………!』

 

 

 その返答を皮切りに、昨日のように大声で泣き出した尊を落ち着かせるのに苦労はしたが。

その泣き声は、昨日とは違った感情が含まれていた気がした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……夢、か……えらく回想チックだったな」

 

 ムクリと上体を起こし、軽く伸びをする。

ゲームの中だから凝りなど無いはずだが、何となくだ。

 

(そうか。オレは、また尊がいなくなるのが怖かった。だから、はじまりの街であんなに弱気になってたんだ。

………成長しないな。ミコトはもう心配なんかしてないってのに、まだ不安になるなんて)

 

 尊と恋人になった日から、何も変わってないことを反省しつつ、隣のベッドで穏やかな寝息がする方に顔を向ける。

だらしなく垂れている涎を拭い、その寝顔を見て少し和んだ。

 

 現在、SAOがデスゲームと化してから、約1ヶ月。

未だ、第1層は攻略されないでいた。

無理もない。自ら死地に飛び込もうとするものが多数集まらなければ、ボスに挑むことなどできまい。

なので、この1ヶ月オレたちは、ひたすら迷宮区で狩りをして、レベリングしていた。

 尊の成長は凄まじいもので、もう既に他のβテスターと比べても遜色ないほどだ。やっぱり才能という点で言うなら、ミコトはピカイチだ。

 

「ほら、ミコト。起きろ」

「んぅ〜〜……あと1時間くらいは……」 

「せめて5分とかにしろ。今日は遅れたらマズイんだから、早めに準備するって昨日言ったろ。ほら早く起きろっ!」

「あ゛ぁぁ〜!わたしの布団が〜!」

 

 ガバッ!とシーツを剥ぎ取り、叩き起す。

朝が弱いミコトは、こうまでしないと中々起きないのだ。

 

「う〜、まだ時間あるじゃ〜ん」

「遅れられないんだよ。やっと攻略が進むかもしれないんだからな」

 

 そう。第1層の迷宮区が近くにある街《トールバーナ》にて。

今日、第1層攻略会議が開かれるのだ。




尊が泣き止んでしばらく後

ミコ『……好きだ、尊……(声真似)』
ナギ『わーー!!!やめろぉぉぉ!!』
ミコ『絶対にお前を1人にしない……(イケボ)』
ナギ『だーーー!!!妙にネットリした声で言うんじゃねえ!つーか尊も、ずっと側にいてとか言ってたじゃねえか!』
ミコ『うん、言った。絶対だよ?』
ナギ『お、おう……』
ミコ『ふむ、不意打ちに弱いか。なるほどなるほど……』
ナギ『無敵かお前!?』
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