寝ぼけてるミコトをそのままに、装備に着替えさせて、集合場所である、ステージのような場所に来た。
集まってるのは見える範囲で30人程度。大体予想してたら通りだ。
オレたちはステージの1番上の席に座り時間を待った。
やがて定刻となり、中央の青髪のイケメンが声を張り上げた。
「はーい!それじゃあそろそろ、始めさせてもらいます!みんな!今日は呼びかけに応じてくれてありがとう!俺の名前はディアベル!職業は、気持ち的に、
よく通る声に、場を和ませる発言も相まって、張り詰めていた雰囲気が弛緩し、笑いが起こる。
優男な外見に反して、ディアベルはリーダースキルが高いようだ。
「今日、俺たちのパーティが迷宮区でボス部屋を発見した。このボスを倒して第2層に進み、はじまりの街にいる人たちに、このゲームはクリアできるんだってことを伝える。それが、今ここにいる俺たちの義務だ!」
その演説に、至る所で拍手が起こる。
その時、拍手の中から1人の男の声が上がった。
「ちょお待ってんか!ナイトはん!」
コテコテの関西弁でトゲトゲ頭の男が、最前列からステージに出た。
「すっごい髪型だね」
そう零すミコトの気持ちも分かる。現在全プレイヤーはリアルと同じ姿形のはずなのだが、あの男の髪は元からあんなんなんだろうか。重力無視してないか?
「ワイはキバオウっちゅうもんや。会議を始める前に、1つ言いたい事があるんや」
「何かな?どんなのにせよ、積極的な意見は大歓迎だ」
「ふん………意見ちゅうのは、こん中に詫び入れなならん奴がおるはずや!」
「詫び?それは誰にだい?」
「決まっとるやろ。この1ヶ月で死んでった2000人にや!この場にいるβ上がりの奴に、頭下げてもらわんと、ワイはスッキリして攻略に参加できん!」
そのキバオウの発言に、会場にいる何人かが反応した。もちろんオレも。
キバオウが言うには、βテスター達が美味いクエストや狩場を独占し、ビギナー達にその情報を渡さなかった。そのせいで強くなれず、死んでいったプレイヤーに謝罪しろ、と。
また、溜め込んだコル──SAO内での通貨──とアイテムを寄越せ、と。
正直、半分以上はこいつの上位プレイヤーへの妬みだろうと思う。βテスターによって後続のプレイヤーへのリソースが減っているのは確かだが、それでも自らの戦力を削れと言うのは無茶苦茶だ。
ミコトも、オレがそのβテスターだからか、不機嫌そうな顔をしている。
そこに1人、キバオウに対し挙手した者がいた。
「発言いいか?」
ダンディーな声がした方を見ると、身長は190に届きそうで、スキンヘッドの黒人、といういかつさの塊のような人がいた。
その人がキバオウの前へと歩いていくと、その威圧感にキバオウが少したじろいだ。
「俺の名前はエギル。キバオウさん、リソースはともかく、情報ならあった。この道具屋で配布されてるガイドブック、アンタも貰っただろう?」
「そ、それがなんや!」
エギルさんが取り出したのは、手のひらサイズの手帳。
SAOにおける初動のテンプレを示した物だ。
「コレを配布したのは、元βテスターだ。情報は誰にでも手に入れられたんだ。キバオウさん、アンタの気持ちもよく分かるが、俺は元βテスターが味方になってくれるのを、とても心強く思う。今この場で話し合うべきなのは、如何にしてこの場にいるプレイヤーで協力してボスに挑むのかだと、俺は考えている」
「その通りだ、キバオウさん。今は前を向く方が先決だ。強い人たちが仲間にいる事ほど、心強い事はないだろう?」
「………フンっ!今回はナイトはんに従うといたる。けど、ボス戦終わったら、白黒ハッキリ付けさせるからしっかり覚えとき!」
キバオウは不承不承ながらも席に戻り、エギルさんもそれに続いた。隣でミコトがサムズアップしてた。
そして、ディアベルが中断されていた説明を再開させた。
「それじゃあ、先ずは各々5、6人のパーティを作ってくれ。そこから各パーティに役割を振り分ける」
(え!?)
会議に来ていた面子は、知り合い同士で固まっていたらしく、どんどんパーティが出来上がっていく。
オレらはと言うと、
「……コンビってあんま居ないんだね」
「基本はディアベルの言った通り、6人くらいが普通だからな。こうなるのも仕方ねえよ」
物の見事に余った。
何とか入れるパーティを探そうと当たりを見回すと、ちょうどオレたちと同じように余ってる2人組を見つけた。
もうあそこしかないと思い、声を掛けに行った。
すると、向こうも同じような状況だったのか、余ってるオレたちを見つけたようだ。
「「あー、良かったらパーティを……」」
キレイにハモったので、気まずさから乾いた笑いが零れた。
声を掛けたのは、真っ黒な髪をした、少し中性的な顔をした青年──少年の方が正しいか──と……フード付きの朱色のケープを目深に被った人だ。座り方的に女性かな?
ちなみに、ミコトも同じようにフードで顔を隠してる。女性プレイヤーってだけで、近づいてくる奴がごまんといるからな。この人ほど深く被ってないけど。
互いのパートナーも近くに来たので、まず自己紹介から始めた。
「オレはナギ、使うのは曲刀。よろしく」
「ナギ……?もしかしてお前、ナギか!?」
オレが自己紹介すると、黒髪の少年は驚きの声を上げる。
すると自分のプレイヤーネームをこちらに見せた。
「《Kirito》……ってお前、キリトか!?」
「ああ!久しぶりだな、ナギ!」
「お前こそ!元気そうで何よりだよ」
「ナギ、知り合い?」
首を傾げて聞いてくるミコトに、キリトが応えた。
「俺はキリト。βテストの時に、ナギと組んだことがあるんだ。使うのは片手剣。君は?」
「わたしはミコト。ナギの相棒兼パートナー。ナギと同じで曲刀を使う。ヨロシク!キリト」
「ああ、よろしく」
なんか、心做しかミコトの笑顔が普段より硬い気がする。キリトとコンビ組んでたってんで対抗心でも燃やしたのだろうか。
キリトとは、βテストのラスト2週間あたりで知り合った。
それまで2人ともソロでやっており、実力が拮抗した相方というのを探していたこともあって、組んでた期間はとても充実した攻略ができた。
2人の紹介が済んだところで、もう1人残ってる人に話しかけた。
「えっと……君は?」
「……アスナ」
「アスナさんかぁ、同じ女の子だよね?仲良くしようね!」
「…………」
ぶ、無愛想……。これは少し苦労しそうだ。
見ると、キリトも少し困ったような顔をしている。この人キミの連れなんじゃないの?
(キリト、アスナ……さんって、お前にもこんな感じなのか?つかお前とコンビ組んでたんじゃねえの?)
(いや、アスナとは昨日の夜に知り合ったばかりだ。細剣を使うことくらいしか知らないよ)
(まあ、会話はしてくれるっぽいからいいけどさ……)
(……お前の相棒は全く気にしてないみたいだぞ?)
(こいつは相手との距離があることを分かった上で、ズカズカそいつの領域に入っていく奴だ。性格が終わってない限りどんな動物とでも仲良くなるぞ)
(人間限定じゃないのか!?)
引くほどの勢いでアスナとの距離を詰めてくミコト。同性のプレイヤーに飢えていたらしい。もう既にさん付けから呼び捨てに移行している。
オレたちがパーティを組み終わったところで、ディアベルが招集をかける。
オレたちは、ボスモンスターの取り巻きである、《ルインコボルト・センチネル》を引き付けて倒す役だ。
アイテム分配の確認も終え、攻略会議はそこでお開きとなった。
「さてと、じゃあフィールド出て、明日の連携の確認でもするか」
「そうだな。スイッチの確認もしときたい」
「……スイッチ……?」
「え、アスナ、もしかしてスイッチ知らない?」
ミコトの問に、アスナは頷いた。
マジですか、アスナさん、今までずっとソロでやってきてたんですかい。キリトもソロだったと聞いたけど、ビギナーでソロって、中々することじゃないぞ。
「……じゃ、そこも教えながらだな。んで少し早めに終わって明日に備えよう」
「ああ、それじゃあ行くか」
◇◇◇
「アスナ!スイッチ!」
「……っ!」
「はあぁぁぁ!」
アスナの《リニアー》からスイッチしたミコトが、《サーブ》によってモンスターを斜めに両断する。
絶叫を上げながらモンスターは消滅した。
「うん、連携は上々、スイッチにも慣れてきたな。そろそろ日も落ちるし、街に戻るとするか」
「はいよー」
キリトの言葉で剣を納めるミコトとアスナ。
少し見ただけで分かったことだが、アスナはとてつもなく強い。ソードスキルを使っているとは言え、剣先が見えない程の速度で突きを放っているのだ。しかも全ての突きを。
その動きは、元のフィジカルというよりかは、ゲーム内での体の動かし方が上手い、という印象だ。ミコトと同タイプだな。
「ねえねえ、せっかくだし今日ご飯一緒に食べない?親睦を深める意味でもさ」
「お、良いな。アスナはどうだ?」
「……私は、友達を作りにここに来たわけじゃないから」
「……さいですか」
もはや慣れたが、やはりアスナは心を開いてくれそうにない。まるで野良猫である。仕方ないが、夕飯はキリトと3人でだな。
去っていくアスナの方を見ながらオレがそう考えていると、話していたミコトとキリトの声が聞こえた。
「え、キリトとわたし達同じ宿だったんだ。今まで気付かなかった」
「そうなのか?」
「ああ、俺は普段狩りかクエストで、帰ってくるのはいつも夜遅くだったからな」
「良いよねー、あの宿。ご飯美味しいし、何よりお風呂があるし!」
そのミコトの言葉に、離れていたアスナの体がビクッと揺れた。
すると、轟速でこちらに走ってきて、ミコトの手を掴んだ。
「お風呂!あるの!?」
「え?あ、あるよ?足は伸ばせないけd」
「貸して!!」
「は、はい……」
……やはり、野良猫と言うのは正しいかもしれない。
ほら、
◇◇◇
オレとミコトが泊まってるのは、街の端の方にあり、設備の割に値段が安い穴場である。
オレたちは2階の2人部屋、キリトは1階の1人部屋だそうだ。なんで今まで会わなかったんだろう。
現在、アスナが1ヶ月ぶりの入浴を堪能中である。余程嬉しかったのか、風呂場から鼻歌まで聞こえてくる。
あ、
なので現在ベッドスペースには男2人である。
「にしても驚いたよ。まさかお前がコンビ組んでるなんてな。しかも女の子となんて」
「リアルで知り合いなんだよ。ほっとけないから一緒に行動してる」
「ビギナーなんだよな?それにしては、武器の扱いや足捌きが妙に手慣れてたけど」
「あいつはゲームなら、何でもすぐ習得するんだよ。教え甲斐はあるけど、いつか抜かされそうで怖い」
「それは負けてられないな」
そう他愛もない話をしていると、ミコトがこちらにやってきた。
「あれ、アスナはどうした?」
「お風呂から上がったらすぐ帰っちゃった。もっとお話したかったのにな」
「まあ、仕方ないさ。来てくれただけでも前進と思おう」
「だな」
なんかオレたちの中で、アスナが取り扱い難易度が高い子みたいになってるが、本人が聞いたら余計塞ぎ込みそうである。
ミコトはつかつかと歩いてくると、ベッドに座ってるオレの横に座った。いつもの定位置なんだが、キリトもいるし少しは自重してほしい。
すると思った通り、訝しんだようにキリトは尋ねてきた。
「……なあ、気になってたんだが、2人ってどんな関係なんだ?男女で2人部屋って、色々問題があると思うんだが……」
「あ〜、それはだな……」
「恋人だし普通じゃない?」
「そうだな、ふつ……ミコっさん!!?」
ちょっと濁そうとしたオレを完璧に無視して、ミコトはありのまま純度100%でキリトに伝えた。
するとミコトは、あんぐり口を開けて固まっているキリトをほっぽって、オレの方を向いた。
……とても、怖い笑顔でした。
「ナギ?何で知り合いなんて言ったのかな?隠すような事かな?ん?」
「い、いや、リアルのことですし、あ〜んまり言うべきじゃないと判断したと言いますkイタタタタ!痛い!いや痛くないけどなんかミシミシいってる!怖い!」
「恋人なんてゲームの中でもフツーに言える関係だよね?隠す必要ないよね?ん?」
「はい!その通りであります!誠に申し訳ございませんでしたのでアイアンクロー解いてんギャァァァァ!」
頭が軋む音に悲鳴を上げるオレを、呆れたような目で見ながらキリトは立ち上がった。
「……何となく納得したよ。それじゃあ、明日のボス戦頑張ろうな、ナギ、ミコト」
「うん!頑張ろうねキリト!」
「ちょっと待て!何帰ろうとしてんだ助けて!」
「お前が悪いだろ。ま、ミコトも程々にな。それじゃおやすみ」
「おやすみー」
「明日覚えてろよお前!?あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」
~女顔~
ミコ「じ〜〜」
キリ「……どうした?ミコト?俺の顔に、何か付いてるのか?」
ミコ「……線ほっそいなって」
キリ「ぐっは!?」
ナギ「あ、それオレも思った。カツラ付ければ女子で通るんじゃね?」
キリ「げはっ!?」
ミコ「まあ顔面の女子度ならナギも負けてないけど」
ナギ「流れ弾っ!?」
ミコ「2人とも肌ツルツルだからね〜。普段スキンケアとかしてるの?」
キリナギ「「いや、特に何も」」
ミコ「死んでしまえ」
ちなみに、キリトとナギの女顔レベルは僅差でキリトの勝利です。
ナギ「っしゃあ!」
キリ「勝利とか言うな!」